4草
前回のあらすじ「人間討伐」
―数時間後「ホルツ王国・国境に近い町 バリスリー付近」―
「やっと戻れたーー!!」
「やったね!!」
二人が遠くから見える城壁を見て、お互いに抱き合って無事を喜ぶ。
(おおーー!!アレが町か!!スゲー!城壁たけぇーー!!)
俺も俺で最初の町に辿り着けたことに喜ぶ。
「はあーー……とりあえず着いたら報告して、すぐに宿で休みましょうか」
「だね♪あーー!疲れたーー!!」
(いや?二人共、気を抜きすぎだって!着くまでが冒険ですよ?)
学校の先生風に二人を注意する。確かに町までは見晴らしが良い草原地帯なので、襲われる危険は無さそうなのだが、ここはゲームでいうならエンカウントありの地帯だ。油断は出来ない。
「分かってるわ。でも、少しだけ安心したのは本当だからさ」
「うんうん。戻れたらお風呂に入りたいね……」
お風呂か……こっちの生活水準ってどうなんだろう?宿にお風呂があるって事は上下水道がしっかりしてるのかな?うん?お風呂?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―草の妄想タイム―
「お風呂お風呂♪」
俺を窓辺に置いて楽しそうに衣服を脱ぐ、美少女エルフ達……。俺は草……性別不詳……そんな訳で二人も気にせずにその素晴らしい体を……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―妄想終了―
エクセレント!!やったぜ!!と、二人にバレないように、俺は心の中で思いっきり叫ぶ!
「よし!行こう!」
「おー!」
(おおーー!!)
待ってろ!俺の青春よーー!!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―そこから1時間後―
さらに1時間歩き続けてようやく城門近くまで辿り着く。城壁がかなり大きいために、近くだと思っていたが、予想よりも大分、時間がかかった気になる。
(お、おおーー!!)
しかし……遠くからでも大きいと思っていたが本当にデカい!これなら巨人も抑えられるだろうな……。
「あれ?ねえココリスちゃん……門の近く」
城門の近くに人が大勢集まっている。
「お二人共!?無事でしたか!」
すると、その中から受付嬢みたいな格好をした女性が走り寄ってくる。
「あ、ラテさん!」
そのまま、ラテさんはココリスの両手を掴み涙を流し始める。
「う、う~~良かったです~~。お二人がボルトロスの奴らに穢されたって!」
「何もされてません!!」
「いや……でも、ココリスちゃん。大ケガしたじゃない」
「ケガ!?どこを!?」
「すでにポーションで治療済みよ。それとボルトロスの兵は全員やっつけたわ」
「そうですか……色々、事情を聴きたいのでお疲れでしょうが冒険者ギルドに同行してもらってもいいでしょうか?それと……」
ラテさんが俺の方を見る。あれ?
(気付いている?)
「彼女は冒険者ギルドの職員で鑑定のアビリティ持ちなの。そのお陰で色々な人物に物の情報を知ることが出来て、素材の取引も担当してるの」
(なるほど……それだから分かるのか)
「この植物は?」
「カロンの森に生えていた植物です」
「この草のお陰で助かったのよ私達」
「で、お礼に町に行きたいってことで……」
ラテさんのこちらを見る表情が険しくなる。
「お二人共大丈夫ですか?これに洗脳されているとか……」
(してないから!親切心からの人助けだから!!)
「信用できません!だれか!だれかーー!」
その声に門の前にいた集まっていた方々が何事かと騒ぎ始めた。
「大丈夫ですから!ラテさん!ギルドマスター!ギルドマスターに取り継いでください!」
「私達のために集まってもらってすいませんでしたー!!」
二人がラテさんの暴走を何とかして止めるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―そこから1時間後「城壁都市バリスリー・冒険者ギルド」―
「ははは!!二人共大変だったね!!」
面白そうに大笑いする若い角の生えた男性。
「笑いごとじゃないですよギルドマスター……」
「まあ、心配する気も分かるけど。いくら何でもやり過ぎですよラテさん」
「すいません……でも、その草……」
(すいません。自分がどれだけヤバイのか分からないもんで)
「カロンの森だからね。あそこは見た目はかわいらいしくて、ついつい油断しちゃうんだが、高ランクのモンスターの巣窟だからね。そこから持ってきた意思のある植物となればね」
俺ってそんな危険な場所にいたのか……やっぱり難易度ルナティックじゃ?
「ただ、この草さんがいなければ今頃、私達二人共、死んでました」
そう言ってテーブルの上に出された紅茶の入ったカップを持つドルチェ。その手は少々震えていた。
「ルチェ……」
「怖い思いをしたんですね……」
ココリスとラテさんが心配そうな顔でドルチェを見る。確かにアレは危険だった。
(危なかったもんな。あんな男に襲われたら……)
「いいえ。危険な事には慣れてるんで、そこはまだ……助けてもらった際に相手がドロドロに溶けたことが……」
(俺かい!!いや、分かるけどさ!?確かに目の前で人がドロドロに溶けたらトラウマ級だと思うけどさ!?)
「やっぱりこの草を燃やした方が……」
(ちょっと!ラテさん!落ち着いて!!それに俺、火属性無効だから!)
「燃えない草なんて草じゃありません!ギルドマスター!排除の許可を!」
「まあまあ。話してる感じ悪い草じゃなさそうだ。それに二人と一緒にこれから行動するなら、二人の生存率もぐーんと上がるしね」
「え?それって……」
「どうかな?草君。君にとっても悪い話じゃないと思うんだけど?」
(それは助かるけど……訊いていいか?)
「ふふ。どうぞ」
(どうしてそこまで信用できる?普通はラテさんの反応が普通だと思うんだけど?この二人は出会った状況が状況だから信用してもらえた感じだけど……えーと……)
「僕の名前はギリム・サーペント。ギリムと呼んで下さい。それと、その質問の答えですが……僕の持つアビリティは看破とか鑑定では無くて、上級アビリティである神の目を持ってるんです。それの能力で相手の善悪を見定める事も出来るんです」
(おお!そんなアビリティもあるのか!?)
「ええ。でも、そちらも凄いアビリティを持ってますよ。あの伝説のイグニスを持ってるなんて」
「ええ!?」
その言葉にラテさんが盛大に驚く。まだ、話していなかったか?それよりも……。
(相手の能力も見れるんだな)
「そういう事です。それで……」
(イグニス・ドラゴンの事だよな。死骸なら収納してるぞ)
「ギルドの隣にある解体場で見ましょう」
(その前に聞きたいんだけど、イグニスって?)
「解体場で説明しますね」
(分かった。それと他にも色々討伐したからさ。それも見てくれないか?報酬はこの二人に)
「え?」
「草さんいいの?」
(俺は使えないからな。むしろ二人に使用してもらえると助かる。それと足として使ってる訳だからなそのお礼も兼ねてだ)
「あの森のモンスターならいい値段が付きますよ。では、行きましょうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―「城壁都市バリスリー・冒険者ギルド 解体場」―
「お疲れ様です!」
解体場に入ると、一人の男性がギリムに挨拶する。
「ああ。お疲れ。作業場の込み具合はどうかな?」
「今、作業が終わったので空いてますよ!何かお仕事でも?」
「ああ。ちょっとね」
「お疲れ様です。バルムさん」
「おー!二人共無事だったか!!よかったよかった!そこのラテが盛大に取り乱してたからな!ははは!」
「変な事を言わないの!」
ラテさんがバルムさんの頭を持っていたクリップボードでひっぱたく。
「いてて……それで、獲物は?」
「今出します……それじゃあここに」
(オッケー!じゃあいくぞ!)
俺はアイテムボックスからイグニス・ドラゴンを解体場に出す。
「うわ!?これって!?」
施設内にいた人々から驚きの声が聞こえる。
「本物ですね。すでに傷だらけ……ここは矢が刺さってますね」
(俺が出会った時にはすでにそんな状態だったぜ)
「どうやって討伐を?」
(毒だ。俺の能力を見たなら分かるだろう?)
「なるほど。精製した毒で倒したってことですね……」
(あ。それの解毒が必要なら用意するぞ?)
「お願いします。このままだと解体も難しいですから」
(分かった。すぐ作るよ……ってことで、どこかの庭を貸してくれないか?大量の解毒薬を作るとなるとこの土だけじゃ足りなくて)
「大丈夫なの草さん?」
(ハッキリ言うとヤバイ。そっちで言うとお腹が空いた状態だ)
森にいた時は全然そんな事を感じなかったが、今ははっきりとそれを感じる。この少量の土ではこんなものなのか。
「それでしたら。ここの外を使って下さい。それと今日はこれ以外の獲物の解体をするので出してもらっていいですか?」
(サンキュー!じゃあ、他の奴も出しとくな)
俺はアイテムボックスにため込んでいたモンスターをどんどん出す。
「うわ!?アビス・ワームにヘル・ウルフ……オメガ・ハガ・インセクト!!どこから?」
「ここですよ。このドルチェさんの腰にいる草からですよ」
「へ?」
バルムさんが俺を見つめる。まじまじと野郎に見つめられるなんて……背中ゾクッとする。草だから背中なんて無いけどさ!
「この草?どういう事だ?」
(コホン!俺、草!よろしくな!!)
「草が喋ったーー!!」
あ、このリアクション初めてかも……というより、これが普通のリアクションだよな……。
(じゃあよろしくな!)
「え?お、おう!!任せて……おけ?」
「心中をお察しします……バルム」
ラテさんがバルムさんの肩を叩いて、そう励ますのだった。