47草
前回のあらすじ「あっという間に50層到着」
―「エポメノの崩壊した塔・51層 雪原エリア」―
「……寒いです」
俺を持ったまま息を吐いて、その手を温めようとするヴィヨレ。
「だな……俺が火魔法で火を出し続けるのもアリか?」
「止めておきなさい。あなたの魔力だって無限じゃないでしょ?」
「それに先はまだ長いんだから温存しないと」
「それは分かっている。ただ、寒さで急に動けないだろう?」
「まあ……そうね」
雪道をゆっくり進む……周囲は葉を落とした枯れ木数本と後は雪が広がっている。吹き付ける風と粉雪がさらに寒さを強く感じさせる。
「雪が降ってるのに道はハッキリしてるんだな……」
雪が降ってるのに、何故か道は踏みならされたようにハッキリしている。お陰で道に迷う事は無いのだが……。
「ここまでの層……どうして道がしっかりあるんだろうな」
「考えたら負けだと思うよ……それと、このような不可解な事がダンジョンは生き物という説の証明の一つになってるみたいだよ?」
「なるほどな……ダンジョンを作った本人の気まぐれってことか」
「そういうこと。それでモンスターの気配は無いの?」
「ああ、今の所は無い。タイガーにベアーって聞いていたから、すぐにでも襲ってくると思っていたんだがな」
「ここから上はモンスターの数は少ないわ。それよりもここから上の脅威は吹雪だから」
「何でダンジョンでモンスターより自然の方が脅威なんだよ?」
「だから……考えたら負けだよ」
「ああ……なるほど」
考え過ぎたら負けってことか。そう理解した俺はこれ以上は話を広げることは無く。黙って周囲の警戒をする。
「となると、ここから上ってほぼ登るだけなのですね」
「そうなんだけど……そうじゃないのよ」
「え?それって?」
「進めば分かるよ……進めばね。ほら階段を上るわよ」
それがどういうことなのか分からないまま、次の層へといける階段を見つけた俺達は上へと登っていく。次の層も同じような光景が広がっている……その次も、そして、その次も……。
「平和だな……寒いけど」
「ですね……」
56層の雪道を歩きながら、俺はヴィヨレと会話をする。ちなみにだが、警戒は怠ってはいない。
「それにしても……ウィードの探知魔法に何も引っかかっていないのですか?」
「引っかからない。二人の言った通りだな……」
「うーーん……これっておかしいよね」
「そうね……」
前にいた二人が何やら不安な会話をしている。
「おい……おかしいって、もしかしてモンスターって普通なら数回は遭遇している感じか?」
「ええ。だからここまでいないのは……あきらかに異常よ」
「戦わないですんで楽だと思ったのですが……」
「まあ、楽は楽で間違いないわよ。でも、そうなると何があったのか……って事になるんだけど」
「もしかして、またイグニスとかラーナとか、そんなバケモノモンスターが暴れてるのか?」
「それか……上にいるパーティーの仕業かも」
「なるほど。俺達を待っている間、暇つぶしに狩りをしている感じか」
「多分ね……うん?」
何かに気付くココリス。
「どうしたのですか?」
「さっきより風が強くなってるわね……」
「そういえば……そうですね」
「俺もそう感じるな……ドルチェは?」
「私も……となると来るね」
「ええ。吹雪が来るわ。早く階段を見つけ無いと……走るわよ」
ココリスがそう言って走り出すので、俺を持っているヴィヨレ、そして隣にいるドルチェも走り出す。
「走るほどのものなのか?」
「すぐに分かるわよ!」
そんなに慌てて何を……うん?
「サウンド・サーチに変な反応があるな?何だこれ?」
モンスターの反応とは少し違う何か……これは?
「どっちの方向?」
「走っている俺達から見て右後方だ」
「となると、見えるわよ」
「見える……吹雪が見えるなんて……?」
ヴィヨレも気になったのだろう。体を右後方に向ける。ヴィヨレの両手にいる俺も一緒に見ることになるのだが……。
「うわ!?」
「おい!アレは何だよ!?」
「だから吹雪よ」
「そうか!アレが吹雪か!ははは!……竜巻なんて聞いて無いぞ!!」
後方から迫りくる白い竜巻。しかも何か雷も発生している。すると、俺の視点がドルチェ達の方へと戻り、そしてヴィヨレの走るスピードが速くなった。
「ヴィヨレ!アレって吹雪の扱いなのか?」
「私もあんな吹雪は知りません!!」
「だよな!!やっぱり俺の認識の方があってるよな!」
「じゃあ、アレを吹雪と言わずに何て言うのよ!?」
「氷嵐とかアイスストームとか造語でもいいから言い方があるだろうって!」
「3人ともとりかく走って!文句は後で!!」
道をひたすら走り続ける俺達。階段を発見してそのままの勢いで階段を登っていく。すると後ろからもの凄い強風が来る。きっと先ほどの氷嵐が階段まで到着したのだろう。
「さ、寒い……!!」
「走って!ここで止まると凍え死ぬわよ!」
俺達はそのままの勢いで上へと登っていき、風が来なくなったところで一休みする。
「はあ…はあ……」
ヴィヨレの息づかいが荒い。ドルチェとココリスの二人も同様に荒い息を必死に抑えようとする。
「はあ……危なかった……」
「ちなみに訊くが……アレを喰らったらどうなる?」
「凍死よ……一応、走って逃げれる速度……なんだけど、そこに……モンスターが襲ってきたら……」
息を整えながら、説明してくれるココリス。
「……寒い」
ヴィヨレがボソッと呟く。これだけ走って寒い……って。
「低体温症だな……ココリス」
「ええ。ここで休憩しましょう。ウィード。飲み物を出して、それと一番軽い肥満薬も」
「なるほどな……今ならこれを使う意味が分かるな……えーと、飲み物と後はそれを温める道具だよな……」
収納から、魔石内臓のシングルバーナーを取り出し、それの横に飲み物と鍋を用意する。
「それじゃあ、私が飲み物を温めるね」
「それとブランケットに……後、そのまま座るのもアレだからな下に引くレジャーシートとクッションも……」
「至れり尽くせりね」
「収納のスキルを持つ俺に感謝するんだな」
「はいはい……」
そう言って、俺の出したレジャーシートを敷くドルチェ。
「ヴィヨレ。瓶を出すのも面倒だから……口を開けてくれ」
「は、はい……」
「それじゃあ、いくぞ……」
ヴィヨレが口を開けたところで、肥満薬を口に目掛けて放つ。その瞬間、顔が少しだけふっくらした気がする。
「見た目はそんなに変わらないね……」
「まあ、一番軽度だからな……」
「でも……服がきついです」
そう言ってお腹をさするヴィヨレ。厚手の服で分からないが増えているのだろう。そしてココリスからブランケットを受け取って、それを肩にかけてクッションの上に座る。
「もう少しで温かい飲み物が出来るよ」
「はい……すいません。足を引っ張って……」
「いいのよ。むしろ、つい先日冒険者になったあなたがここまで来れたのは凄いことなのよ?むしろ、予想していたより早かったわ」
「そう……ですか?」
「ええ。だから安心して……」
ココリスも一休みしようとして座ろうとした瞬間、槍を手に取り上の階へと注意を向ける。俺も素早くサウンド・サーチで確認をする。
「……4人だ。ヴィヨレ。俺をレジャーシートより少し前の位置に置いてくれ」
「は、はい」
ヴィヨレに頼んで上から来る敵に向かって魔法を撃ちやすい位置に置いてもらう。
「ヴィヨレは休んでていいからね……」
ドルチェも立ち上がり杖を構える。こちらの戦闘準備は完全とは言えないが整った。
「まさか相手から来るとはな……」
「そうだね……」
「油断しないで……それと、ウィード。即死魔法は禁止よ」
「いや。分かってるって……それに……」
「さ、寒い……!!」
俺の言葉を遮る女性の声。それはここにいる誰の声でも無い。
「早く下へ……」
「死ぬかと思った……」
「それは分かってる!!」
声からして女性4人か……。
「ってアレ?もしかして誰かいる?」
「気を付けて……恐らく依頼人が言っていた相手……」
どうやらあちらさんも気付いたらしく、カシャカシャと金属のこすれる音などが聞こえる。武器を手に取った所か……。徐々にこちらへと下りてくる音を聞いて、俺達も気を引き締める。階段は薄暗いため、まだその姿を見ることは出来ない。そして、ついに相手の顔が見える。
「覚悟!!って、アレ?ドルチェさんにココリスさん?」
「ああ……あなた達だったのね」
「え?知り合いですか?」
「うん。4年前に王都で仕事をしてた時に半年くらいだっけ?」
「そうですそうです!覚えていてくれたんですね!!」
剣を右手に持ち、もう一方の手には盾を持つ赤い髪が特徴的な女性。その武器は既に下ろされている。
「えーーと……もしかして、変な従魔を連れているパーティーってお二人だったんですね」
錫杖を持った金髪のエルフも錫杖を下ろして、戦闘の意思が無い事を示す。
「何だよ~……どんな悪い奴が出て来るかって思ってたけど?」
「この二人に悪事は無い。そもそも依頼人怪しい」
その後ろにいた、ナイフを腰のホルダーにしまうケモ耳が特徴的な女性、そして杖を持ったこのパーティーでは最年少だと思われる女の子。
「それで……戦闘の意思は無い?」
「もちろんです!!お二人がそんな事をしないと思ってますから!それと……そちらの女の子は?」
「それより……それ。私達も欲しい」
「待って。これだと足りないから、ウィード。追加で出してもらっていい?」
「りょーかい。追加のココアを出すぞ」
「え?今の声。何?」
「どこに?」
いきなり、声だけが聞こえて慌てる女性パーティー4人。
「ここだ。ここ。お前さんたちの下にいるだろう?」
「え。まさか……この草?」
「そうだ」
「どうしたんですか。これ?」
「説明してあげるから……ほら、そこに座って」
ココリスに薦められるまま、レジャーシートに座る女性パーティー4人。どうやら戦闘を回避出来て良かった……それに。
「(エルフの子……黒か……剣士の赤も……)」
「どうしたのウィード?」
「何でもないぞドルチェ。それより、何か座るのに使えそうな物って収納にあったかな……」
俺はそう言って、自分の身に起きた幸運を隠すのであった。