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46草

前回のあらすじ「ちなみに臭いはしばらくすれば消える模様」

―「エポメノの崩壊した塔・一層 宿屋」―


「いよいよ、ダンジョンボスね……」


「ボスはツイン・ヘッド・ホーク。大空から自由に攻撃を仕掛けて来る2つの頭を持つ巨大なワシ……魔法は風魔法のみ。でも、それで屋上から落とされたりするから気を付けて戦わないといけないわ」


「60階からのダイブは勘弁して欲しいな……まあ、俺は草だから死なないと思うけど……」


 人間だったら確実に死ぬ高さだが、体が草である俺には無効だろう。


「まあ、それに誰かと一緒に落ちたら水魔法で無事に着地させられるからな……ここは、やっぱりヴィヨレと一緒の方がいいかもな」


 どこぞのゲームの水バケツみたいなやり方のように上手くやれば着地できるはず。それこそ俺達を水の詰まった球体で包み、さらに下に流水を発生させることで確実に着地できる。


「そうね……ルチェは風魔法が使えるから問題無いし、私が槍術のスキルで回避できるから問題無いわ」


「槍術にそんなスキルがあるんだな」


「自由に空を飛べるとかでは無いけど。まあ、それより心配なのは……」


「俺達を邪魔する奴らだな……どんな対策を打ってると思う?」


 俺達は宿に帰る前に、ギルドで情報収集をしたのだが、昨日のように変な事件は起きていないとの事だった。


「私としては色々あるけど……ウィードは?」


「俺もたくさんある」


「二人共、それってどんな方法なの?」


「うん?……まあ、俺達より先にダンジョンに入って待ち伏せとか……」


「昨日の事件後に、すばやくダンジョンを登って、後ろからこっそり付けているとか……」


「後は俺達が神緑の葉を手に入れてから始末して奪い取るとか……どれに賭ける?オススメは奪い取るだが?」


「何を言ってるのよ」


「ははは……」


 どうツッコめばいいか分からずに、それを誤魔化すために作り笑いをするヴィヨレ。ただ、呆れているというわけではなく、楽しそうにしている様子が見える。


 俺もこんなアホな事を言ってるが、ヴィヨレの心身を考えて、その位の相手だから余裕と思わせておきたいから言っている。ツッコんでいるココリスや、笑いながら聞いているドルチェも言葉には出さないが察しているようだ。


「まあ、それよりもここから出るのが難しいか?」


「そうね」


 恐らく、相手は俺達がここから出る際にも何かしらの邪魔をするのは間違いないだろう。それほどになんでもかんでもする馬鹿だと思うし。


「まあ、ここで俺が真剣に考察した内容を話すが……きっと、明日はダンジョン内で何かしらの接触を謀るだろう。そうじゃなければ、わざわざ昨日の事件を起こさないはずだしな。そして、恐らくそいつらは上層で待ち伏せている」


「そうね。今の段階でここを襲わない理由としたら、私達がまだ新緑の葉を手に入れて無いという事を知っているから……となると、それを見張る奴らがいるということでしょうね」


「いるんですか?」


「ああいるみたいだ。かれこれ4日程ダンジョンに潜り続ける奴らがな……」


「それじゃあ……」


「ボスの前後でそいつらとやり合うかもしれないな……後はそいつら次第だ」


 ギルドでそのグループについて訊いたのだが、悪い評判は聞かなかった。むしろ高ランクグループで数々の依頼を誠実にこなすという事で好印象である。


「評判は悪くないグループだからな……もしかしたら話し合いで済むかもしれないな」


「だといいわね……」


 そう言って、手に持っていたコップの飲み物を飲み干すココリス。そしてヴィヨレを見ると眠そうな表情を浮かべている。


「そろそろ休め。後は俺が見張っておく」


「ちょっと待って……ナビゲーション」


 寝る前にドルチェがナビゲーションを使って周囲の確認をする。


「怪しいところは無さそうだね」


「そうか。それじゃあ、俺を昨日と同じテーブルに置いてくれ。あそこなら窓も扉も見えるしな」


「分かった」


 俺はドルチェに運ばれて昨日と同じテーブルに置かれる。昨日はサウンド・サーチを練習していたが……今回は何を練習するか、いや、ここは……。


「すまない。俺をこっちに植えてくれ」


 俺は収納から高級肥料が混ぜ込まれた土が入ったプランターを取り出す。


「いろいろ、薬が入用になるかもしれないしな……損はしないだろう?


「そうね」


 そして、俺はそのままプランターに植え替えられる……これなら大量の薬を用意できる。


「……じゃあ後はよろしく」


「お休み」


「おやすみなさい」


「ああ、お休み……ゆっくり休めよ」


 お休みの挨拶をして、ドルチェが部屋の灯りを消した。窓からはダンジョンが照らし出す疑似星が輝き、それによって、部屋の中がぼんやりと見える。しばらくすると、皆の寝息が聞こえ始める。寝ている女性陣の中に男一人……俺に体があれば……いや、その前にこいつらにぶっ飛ばされるのがオチか……。


「さてと……夜なべ仕事でもしますかな」


 俺は寝息しか聞こえない静かな部屋の中で、一人で寂しく薬を作り始めるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌日の朝「エポメノの崩壊した塔・40層 セーフエリア」―


「さてと……ここから50層はここまでのモンスターがランダムで敵が出現。またフィールドもランダムよ。そして、それより上は雪原エリアになるわ」


「そうなのかー……」


「どうしたのよ?何か不満でも?」


「いや、気にするな」


 ゲームのダンジョンとかなら雑魚ラッシュが一番最後に来るものでは無いのかと思ってしまうが、ここではその前なのか……。


「極力戦闘はしないで上に行くわよ。ボスとの戦闘に集中よ」


「さて、そうしたら俺の出番だな」


「ええ。頼んだわよ」


 俺達はそのまま41層へ続く階段を登っていく。そこからはこれまで戦ってきたモンスター達が徒党を組んで襲ってきた。別種族なのにどうして徒党を組めるのか……そこはもうダンジョンだからという事で無理矢理納得してダンジョン攻略に集中する。サウンド・サーチのおかげで敵の居場所が分かるので極力戦闘は避けられるが、モンスターのグループの位置の関係で少しだけ戦闘をして進んでいく。


 そんな風に進んでいた為にピンチになることもなく、また特出した出来事も無いまま、50層のセーフエリアにあっという間に着いてしまった。


「うーーん……!!っと、ここまで何なく来れたね」


「獣化もしてないですね」


 ヴィヨレが自分の手を確認しながら話す。全員が遠距離からの攻撃を心掛けていたので、無傷でここまで来れた。


「さてと……ここから寒くなるわよ。しっかり防寒するわよ」


 昨日の帰りに用意した防寒具を俺は収納から取り出した。


「さてと、それに着替えてから上に行くわよ」


「はい!」


「ということで……」


 俺の上に何かの布が掛けられる。覗くなということだろう。


「はいはい……」


 俺は大人しく待って……。


「インビ……」


「そうそう……布を透過させたら、切るわよ?」


「……はい」


 変な事はせずに大人しく待つのが一番!服がこすれる音や3人の会話から着替えの様子を想像しつつしばらく待ってると、布が外される。そこにはコートを羽織り、手袋とブーツ、そしてズボンを履いた3人の姿があった。色合いは3人とも白を基調としたものになっている。


「雪原だから、白の方が目立たないのか」


「そうよ。そうしたら行くわよ……あなたはこれね」


 俺にも防寒具が用意されていて、根っこを覆う布袋は、その状態のままさらに厚地の布袋に入れられて、俺の草部分にはボンボン付きのニット帽が被せられた。


「おお!これで寒い場所でも安心!!でも、これだと魔法が使えなくないか?」


 俺は草の先端から魔法をいつも放っているのだが、これでは撃つことが出来ない。


「戦闘時になったら脱がせればいいでしょ?それにここから最上階まで同じようにサウンド・サーチで見張ってもらうのだから。ほら、話しながら行くわよ」


 ココリスのその言葉で、階段を登り始める俺達。そして話を続ける。


「ここも戦闘はしないのか」


「ボス討伐が目的だからね……」


「それで……この上のモンスターって何が出るんですか?」


「2種類よ。ホワイトベアーとスノータイガー」


「ベアーはパワータイプ。タイガーはスピードタイプってところか」


「そうよ。そして……2体とも氷魔法を使ってくるから注意よ。それと……この2体の素材は売れるから、倒したら回収はしっかりするわよ。それと……いざという時は肥満薬も飲むから」


「あの~……ここでは飲まないのですか?」


「うん。ここでは飲まなくてまだ大丈夫だよ。飲むのは緊急事態の時……吹雪の時だから」


「その瞬間、凍え死にそうになるから、その時は飲みましょう」


「分かりました」


「……って、お前らここを踏破してるんだよな?なら、その時の方法を使えばいいんじゃないのか?わざわざ太る必要も……」


「その前の階に戻るか階段で待つ。その二択よ」


「ああ……それは、めんどくさいな」


「そういうことよ」


 階段を上がりきると、そこに広がるのは一面の雪景色。ありがたいことに踏み固めて出来た道が見えるので、どっちに進めばいいのかが分かるのはありがたい。


「さあ……行くわよ!」


 こうして、俺達はボス部屋の前に立ちはだかる雪原エリアへと進むのであった。

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