43草
前回のあらすじ「ソウルチャージ=痛み分け」
―「エポメノの崩壊した塔・20層 セーフエリア」―
「痛み分けというところか……」
セーフエリアに入った俺達はひとまずぽっちゃり体型になった3人が元の姿になるまで待つことにして、ココリスの黒い靄の効果についてどんな物かを話している。
「痛み分け?」
「ああ。全てを肩代わりすることは出来ないみたいだからな。そう言った方がいいだろう」
「まあ……そんな都合よくいかないわよね。そんなのが可能ならソウルドレインとソウルチャージを連続で使えばいいってことになっちゃうものね」
「そうだね……うう。早く戻らないかな……」
自分の膨らんだお腹をムニムニと触るドルチェ。
「それでも、これって強力ですよね。最初に敵の熱を奪って凍死、後続はこの魔法で太らせて一気に行動阻害の状態にする……仲間と戦うなら凄い魔法ですよね。まあ……この姿をさらさないといけないのがネックですけど」
そう言って、ヴィヨレは立ち上がってその場でジャンプをする。すると、大きくなった胸とお腹が上下に揺れる。
「うう~……ココリスさんは何でそんなに平気なんですか?」
脂肪が揺れることの恥ずかしさで、頬を赤したヴィヨレがココリスに動じない理由を訊く。確かラテさんが慣れてるとは言ってたけど。それならドルチェも慣れてていいような気が……。
「うーーん……この姿に近い状態で過ごすことになったことがあるから……って所かしら。ドルチェと一緒に」
「その時にココリスは慣れたらしいけど……私は全然慣れなくて、むしろ恥ずかしさで一杯だったよ……」
「一体どんな事があったんだ……?」
「話さないからね?ココリスもダメだからね?」
「ええ。それだから話はここまでにしてちょうだい」
「ああ。嫌がるのに無理して訊くのもな……別にここの攻略に影響を及ぼす訳じゃないんだろう?」
「もちろんよ……あ」
すると3人が元の姿に戻った。
「うーーん……戻ったね」
「そうですね」
皆が背筋を伸ばしたりしつつ、元の姿に戻った体の感触を確認する3人。これで後は帰るだけなのだが……。
「ソウルチャージする際は、自身も黒い靄の中に入らないといけないから、そこも注意だな」
「そうね」
「で、話が変わるんだが……ドルチェかココリスのどちらかが分かればいいんだが」
「うーーん……どうしたのウィード?」
「このダンジョンって……こんなに人が来ないものなのか?」
「それは……」
「ないわよ……ここは現役のダンジョンよ。ルーキーからベテランまで多くの人が来るわよ。こんな風に私達で独占なんて普通は無いわね」
「だよな……」
俺達はこの20階まで上がる際に、他の冒険者に遭遇していない。さらに初心者であるヴィヨレもいるのだ。そこそこの経験があるパーティーなら追い抜かれてもおかしくない。
「それって……どういうことですか?」
「さあ……まあ、何か起こってるってことだろうな」
「面倒ね……」
「でも……そこまですることなのかな?」
「儲けが出るならやるだろうけどな……ココリスってそこら辺、分かるか?」
「出るとは思うわよ。ただ、ここまで露骨にやるとは思っていなかったけど」
「だよな……俺ならもっとコッソリやるな」
「例えば?」
「邪魔な奴を排除するなら、事故に見せかけりとかして他殺とは無縁の方法を取るだろうな。まあ、そんな面倒なことをするくらいなら、真面目にアピール材料を用意した方が早いだろうが」
「でも……ダメかもしれないと思ったら?」
「そこまで準備してダメならそもそも諦めろ。仮にチャンスをゲットできても活かせる可能性は低い。むしろ、そのしっかり用意したアピール材料を次に活かしてチャンスをゲットしろ」
身に余り過ぎる仕事は、逆に身を滅ばしかねない。俺は前世の仕事場でそんな奴をたくさん見た。無理に虚栄を張ったり、客との関係を崩したくないからNо!と言えずに仕事を受けたり……そして、会社を去っていく……。
「俺だったら全ては無理と思ったら、恩恵を受ける奴に媚びを売って、少しでも恩恵を受けようとするな……まあ、今回のような犯罪はお断りだがな」
「しっかりした答えね……」
ココリスが少し驚いた表情で俺を見る。
「何だよ?他に何を言うと思ったんだ?」
「毒魔法を使って上手く……」
「するか!!……で、それよりもどうする?誰も来ないならここで今後の相談をするか?それとも、もう夕方だから、仕事は明日にして帰って休むか?」
「私としては帰っていいと思うよ」
「ルチェと同じ意見よ。ヴィヨレも初めてのダンジョン探索で疲れたでしょ?」
「……はい」
「っていうことで、そこの転移魔法陣を使ってさっさと宿に帰りましょう」
「だね……じゃあ、帰ろうか」
皆が床に置いた荷物を手に取り、転移魔法陣の方へ歩いていく。転移魔法陣は床に魔法陣が描いてあり、その中央には台座とその台座の上に丸い水晶のような物が置かれている。それに手を当てるとステータス画面のような物が映し出される。その画面には1、10,20,30、40,50、60層と書かれていて、20層より上はグレーで表示されていた。その内の1層の欄をココリスが押すと魔法陣が光って、俺達は一瞬にして同じような部屋のようでであって、さっきまでいた部屋とは別の部屋に移動する。
「ここは?」
「1層まで戻ってきたの……ほら、階段が無くなって扉になってるでしょ?」
ココリスが指差す方向には20層では階段があった所に木で出来た大きな門があった。
「どこに繋がってるんだこれ?」
「見た方が早いわよ」
ココリスを先頭に、門の前に来た俺達。その木で出来た門には小さな扉も付いていたので、ココリスがそちらを開けると、そこにはたくさんの人が死んだモンスターの体を解体している。
「うぷ……!」
「これ飲め!少しは良くなる!」
俺は急いでアロマ薬という精神を落ち着かせる薬を取り出し、ヴィヨレに飲ませる。
「おい。素人にいきなりの解体場はヤバいって!この血生臭さはキツいって!」
「あ、ごめん……普通にモンスター倒して平気そうだったから……」
「いえ。大丈夫です……お気になさらず……それよりも、冒険者ギルドの解体場に出て来るんですね」
「そうよ。この方がギルドにとっては便利なのよ」
「なるほどな。新鮮が一番ってことか」
「そうだよ。それと、明日はここから出発するからね」
「わ、分かりました……」
「おう!嬢ちゃん達!」
俺達が扉の近くで話していると、解体作業中であろうガスマスクのような物を付けた男性がこちらに声を掛けて来る。
「あんたら変わった従魔を連れたパーティーだよな?」
「そうよ!」
「ギルマスが帰ってきたら来て欲しいって言ってたぞ!だから、会いに行ってくれ!」
「分かったわ!!」
「何でしょう?何かあったんでしょうか?」
「あったんだと思うよ」
「だな」
俺達は解体場を出て、隣接する冒険者ギルドの本館に入り、受付の案内でギルドマスターの執務室まで案内された。
「あらあら。待ってたわよ」
オシャレな眼鏡を掛けて、書類の確認作業中と思われるギルドマスター……ラズさんがこちらに顔を向ける。
「解体場の人から伝言を受けたのだけど……何かあったのかしら?」
「ええ……そこに腰かけてちょうだい。ダンジョン探索でお疲れだろうからすぐに話を終わらせるわ」
ラズさんのデスクワークの前に置かれているソファーとテーブル。俺は麻袋ごとテーブルの上に置かれて、三人はソファーに座る。そして対面にはラズさんが座った。
「単刀直入に言うと、私に圧力をかけて来たわ」
「え?」
ギルドマスターであるラズさんに直接圧力をかける?
「この建物の2階にこれが投げ込まれたのよ……ナイフと一緒にね」
話をしながら紙を広げるラズさん。そこには、俺達の事が書かれていて、ありもしない罪状とすぐに捕まえろさもないと冒険者ギルドに危害を加えるという趣旨の内容の文章。
「馬鹿だろう……こいつ」
「ええ……馬鹿ね」
「おバカさんだね……」
「ええ。どうしようもないくらいの馬鹿ね……」
この部屋にいる全員が呆れた表情を浮かべる。
「そんな事があったから、念のために新規のダンジョン探索の受付を取り止めて、この悪戯をした犯人の調査をしたのよ」
「捕まったんですか?」
「いいえ。見つけたけど死んでたそうよ」
それを聞いてさらに呆れる俺達。こんな物を投げ込んで、その投げ込んだ奴を、すぐに口封じをする……。
「本当に無茶苦茶な奴だな……それで、その手紙の内容を信じる気か?」
「な訳ないでしょ?ギルドマスターとして長年勤めたけど、ここまでのバカは初めてよ」
「でしょうね……」
「ということで、怪しい奴を見つけたら、即刻、捕まえてちょうだいね。それと、いつ襲ってくるか分からないから注意しなさい」
「分かりました!」
元気良く返事をするドルチェ。俺達も頷いたりして意を示す。話はそれだけだったみたいで、俺達は執務室を後にして、宿に向かう。
「ど、どうしましょう!?」
「大丈夫よ……私達には寝ずの番がいるのだから」
「だな……俺の配置場所を考えないとな。ということで、ヴィヨレは心配せずにしっかり休め。何せ最強のボディーガードであり、無敵の砲台の俺がいる。いざとなれば、犯人を消滅させる力があるしな」
「それって、昨日みたいな爆発を起こしますよね絶対!!?」
真面目に、俺の言葉にツッコむヴィヨレ。
「はは!冗談だって!……まあ、少しは落ち着いただろう?」
「そうですけど……」
「ごめんねウィード。一人だけ仕事させて」
「構わん。どうせ眠れないんだ。むしろ、昔やったお化け人形相手に寝ずの番をするゲームみたいで楽しそうだ……だから、気にするな」
「うん。変わりにしっかりとした肥料をあげるからね」
「ああ」
こうしてダンジョン攻略2日目が終わった。ただ、ここまで馬鹿をする奴にどう対処するべきか困る俺達なのであった。