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42草

前回のあらすじ「マッチョ化+獣化……誰得だろう……」

―さらに数時間後「エポメノの崩壊した塔・20層 中ボスの部屋前」―


「ここが今日の目的地か」


「ええ」


 あれからさらに進んで、20階毎にいる中ボスがいる部屋の前までやって来た。大きな鉄製の扉をくぐった瞬間、戦闘になるはずなのでその前でしっかり準備をする俺達。


「それで……元に戻って良かったのか?」


 獣化していた3人は獣化解除薬を飲んで元の姿に戻っているのだが、高速で移動出来る牛の獣人の方がいいのではと思ってしまう。


「ここのボスの名前を憶えているかしら?」


「ああ。フォレストウルフだろう?」


「そう。そしてその名前の通り、森の狼なのよ」


「なるほどな……ボスの部屋は森なのか」


「そういうこと。牛の獣化は平たい土地なら、その高速移動を有効に活用できるけど、森の中では意味が無いわ」


 確かに。直線的に動くには牛は速かった。しかし、方向転換するために曲がろうとすると一旦止まらないといけないので、今回の木々が生い茂っている場所ではそれを活かすのは難しいだろう。


「そしてフォレストウルフは器用に木を駆け上っていくの。足が蹄の牛の獣人姿では、木を登って追いかけるということも出来ないわ」


「つまり、獣化するならフォレストウルフの攻撃でオオカミになった方が良いって事ですね!」


「その通りよヴィヨレ。ただし……今から戦うモンスターは中ボス。一撃が致命傷に繋がるわ。だから、喰らって強くなるより、避ける事を専念して頂戴」


「分かりました」


「さてと……やるわよ。いつも通りだけど前衛は私がやるから、皆は後衛ね」


「私達のパーティにはタンク役がいないから、自分の身は自分で守ってね」


「はい」


「タンクか……俺が人だったら盾を構えて引き付け役とか出来たのかな……」


 男として女性を守るのは紳士としての嗜み……。美女達を守れるなら、この命!惜しくはない!!


「でも……あなたっておじさんなのよね?髪が薄い……」


「言わないで!!今はふさふさだから!!」


「髪じゃないでしょ?それに草だから本数が減ってるような……」


「ノオーーーー!!って!ボス戦前に俺のSAN値を減らしてどうするんだよ!!」


 俺がそう言うと、3人が笑い出す。


「たく……で、ココリスは槍での攻撃、ヴィヨレはプリズムレーザ、ドルチェと俺はどんな魔法で攻撃をすればいい?」


「私は手数の多い風魔法かな。プリズムレーザは強力だけど単発だからね」


「それでウィードはどの魔法でもいいわよ。でも……同士討ちにならないような魔法をお願いね」


「よし!それじゃあドレッドノートボイスで景気よく!!」


「私の話……聞いてたかしら……?」


「冗談だ。だから落ち着け」


 背後から、ドドド……!!というマンガ文字が見えそうなくらいに怒っているココリスを宥める。


「さっきの水魔法をメインに戦うさ。それに秘策もあるしな」


「秘策って……」


「初っ端に使ってみるさ。上手くいけばボスがその場に立ちすくむはずだから、そこを一気に叩き込め」


「どんな攻撃をするの?」


「気にしなくていい。あくまで実験だ……で、いくぞ?」


「……分かったわ。二人もいいかしら?」


「もちろん!」


「はい!」


 皆の準備が終わった所で、鉄製の扉を開けて中に入る。中は森になっていて、どこからか獣の唸り声

が聞こえる。


「ボスの姿が見えない……?」


「不意打ちを喰らわせてくるわよ……気を緩めないで……」


「はい……」


 獣の唸り声だけが響く森の中。すでに入って来た扉は閉まっていて、この部屋から出られなくなっている。


「よし……そうしたらやってみるか」


 今回の相手はファレストウルフ……つまり狼である。ということは……。


「いくぞ……インサニティ・サウンド!!」


 俺は音魔法を発動させる。この魔法は喰らった相手を不快にさせる音を発生させる魔法。今回はラージ・ドッグが嫌がっていた音をフォレストウルフだけに聞こえるように超音波で流している。これなら味方に迷惑を掛ける事は無いだろう。


キャイ~ン……


 変な悲鳴が森の中に響く。あれ?今の声……って。


「上よ!」


 ココリスの声に反応して、即座にその場から離れる。その直後に何かが上の木々を揺らしながら下りてくる……いや。落ちてきた。


「グル~ル~~……」


「「「「……」」」」


 落ちてきたそいつがふらふらと立ち上がる。車程の大きさに迷彩色柄の毛並みを持つ狼のようなモンスター……。


「これって……フォレストウルフか?」


「……ええ」


 ふらついてはこけるフォレストウルフ。その姿は酔っ払いのサラリーマンを彷彿させる。


「よし……やるか!」


「そ、そうだね!さっさと終わらせようか!ということで……ウィンド・カッター!!」


「プリズムレーザ!!」


 ドルチェとヴィヨレの魔法攻撃が放たれる。フォレストウルフはそれを避けることが出来ずにまともに喰らい深手を負う。


「よし!後はまかせろ!!」


 ここで俺がトドメの一撃を……!


「ちょっと待って……ここは私がやるわ。さっき話したアレも試すんでしょ?」


「あ、そうか……」


 ソウルドレインによる肥満化のデメリットを別の人に移せるか試すんだったな……


「じゃあ……やるわよ」


 その場から動けず、反撃する気力も無くなってしまったフォレストウルフ。ココリスはそいつの前に立ちソウルドレインを唱え、黒い靄を発生させる。靄はフォレストウルフを包み……靄が消えるとそこには息絶えたフォレストウルフの姿があった。


「あっさりだったね」


「だな……こんな弱い奴なのか?」


「な訳が無いでしょ……っと!」


 ソウルドレインのデメリットである肥満化が発動。先ほどより一回り太っているだろうか。


「うわー……凄い……」


 物珍しそうにココリスの柔らかいお腹を触るヴィヨレ。ポヨンとお腹が弾んでいる。


「うーーん……弱ったフォレストウルフの方が太るのか」


「そうみたいね……」


 少しくぐもった声で返事をするココリス。その顔も少し贅肉がついて丸くなっている。


「ねえ。これで体力万全のフォレストウルフだったらどうなってたのかな?」


「下手するとこの前のように移動不可の状態まで太るかもしれないな……ただ、これを使ったのはクラリルとウルフ……そしてここの中ボスの3回だ。検証するなら個数を統一して体力万全の状態で試すのが一番かな……しかも、時間もバラバラだしな」


 ソウルドレインの効果を検証するにも、クラリルは体力万全だったが数は5匹。ここに来るまでに遭遇したウルフも体力万全だったがこちらは2匹。中ボスはボロボロの状態で単体で統一性が無い。


「とりあえず……今はヴィヨレが言った疑問をさっそく解決するか」


「え?ここでするの?」


「ああ。そうしないと……さっきみたいにあっという間に戻ってしまうかもしれないしな」


 ウルフ2匹の時はあっという間だった。時間で言えば2~3分というところか。


「どうする?やっぱり止めとくか?別に後で検証してもいいしな……ココリスはどうだ?」


「別に後でいいかしら。わざわざ仲間に試さなくていいと思ってるし」


「そうか……二人はどうだ?」


「私は大丈夫ですよ。それにこれも、今回のダンジョン攻略の際に使えるかもしれないですし」


「ああ……確かにあるかな……うん」


「あるのか?」


「ここの上層になると雪原もあるの。そこは防寒必須のエリアだから……」


「それを脂肪でカバーするって……セイウチとかトドが寒さを防ぐために皮下脂肪を溜める感じか……」


「セイウチ?トド?」


「寒い所に生息する動物だから気にするな。とにかく……いいんだな二人共?」


「はい!」


「……うん」


 元気良く返事するヴィヨレに対して、微妙な反応なドルチェ。そういえば太るの怖いとか前に言ってた気が……。


「それじゃあ……やってみるわよ……与えるだからチャージかしら?」


「それでいいんじゃないか?」


 ヴィヨレが実験前に俺を近くの木の下に置いてから、ドルチェの横に並びココリスの方を見る。


「じゃあ……いくわよ……ソウルチャージ……」


 ココリスが手を前に出すと黒い靄が発生して二人を包んだ……果たして……。


「何とも無いかな……?」


「ですね。お腹が膨らんだとかなさそうですし……」


「ダメみたいね」


 黒い靄で何が起きてるか、こちらからは分からないが……どうやら不発らしい……うん?


「その黒い靄に自分も入ったらどうなんだ?」


「ちょっと待って……」


 ココリスが二人を包んでいるその黒い靄の中に歩いて入る。


「え、え!?」


「うわわ……!」


 黒い靄の中から聞こえる反応からして、どうやら魔法の効果が発動したらしいな……。ドルチェとヴィヨレの驚いた声がしてから、たったの数秒で靄が消えて、3人の姿が見えるようになった。


「おお……痩せたな」


 そこには先ほどより痩せたココリスがいた。そして、二人の方を見ると……。


「うわ……何か新鮮ですね」


「うーーん……複雑……」


 自分のぽよぽよになったお腹を触るヴィヨレと、自分の変わり果てた姿を確認するドルチェ。二人共ぽっちゃり体型というところかな。ドルチェはココリスと同じくらい太っただろうか?ヴィヨレは……体型的には二人と同じくらいか?しかし、身長は二人より大分低いから、もし脂肪が均等に分かれたなら、もっと丸くなってると思うが……。


「どうやら身長とかで与える量も変わってくるのかしら?」


「そうみたいだな……得た量を均等に与えるのではなく、なるべく同じような状態にするように与える感じだな」


「ふう……暑いですね。今なら寒い場所にいても大丈夫そうです」


「そうだね……あ!!」


 すると、ドルチェの胸のボタンが突如弾け飛ぶ。ココリスはそれを危惧して特殊な防具を購入していたようで、ボタンが弾けるとか、スカートのホックが飛ぶとか無かったのだが……()()()()()()()()()()


「あ!」


 プチン!とヴィヨレの腹部を守る防具の紐が弾けて、押さえつけられていたお腹の肉が前に突き出る。


「は、恥ずかしいですね……これ」


「そうね……」


 皆が何と言えば良いのか分からない雰囲気になり黙り込んでしまった。


「とりあえず、この奥にあるセーフエリアに向かいましょうか。それとウィード。倒したフォレストウルフを回収してね」


「あいよ!」


 俺は微妙な雰囲気を何とかするために元気よく返事してから、フォレストウルフを収納する。それと……。


「はあーーーい!!」


 何とか頑張って、草を曲げて地面にくっつけて、そこから今回の経験値を手に入れておく。昨日、気付いたのだが、俺は根っこじゃなくても草を地面に付けるだけで吸収できるらしい。


「え?どうしたのですか?」


「気にしないで。ウィードはアレで強くなるっていう変な体質なのよ」


「へえーー……」


「よし!それじゃあ……」


「あ、はい!」


 一通りここでやる事が終わった。後はセーフエリアに行って転移魔法陣で帰るだけか……。


「あ、あれ?」


 そんな事を考えてるとヴィヨレが困ったような声を上げているので、意識を集中してそちらを見る。


「ああ……お腹が邪魔で俺を回収できないのか……」


「す、すいません!」


 ヴィヨレのお腹の脂肪が体を曲げるのを阻害して、地面に置いた俺に手が届いていない。というかこのまま力を入れ続けると……。


「はう!?」


 ああ。スカートのホックがお亡くなりに……。この後、頬を真っ赤にしたヴィヨレが俺を何とか回収して、このボス部屋の奥のセーフエリアに進むのであった。

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