40草
前回のあらすじ「草が新たな性癖に目覚める!」
―夕方「エポメノの崩壊した塔・2階 初めの草原」―
ファ~~フ……
「大きな欠伸だな」
ワン!
傍らにいるラージ・ドッグと話す俺。インパクトボイスの調整方法が何となく掴めたので、後は先ほどの犬笛も練習していると、ドルチェ達と一緒にいた奴とは別の奴がやって来たので、犬笛の練習に付き合ってもらった。
「しかし……これは思ったより便利だな」
俺が思ったより、この犬笛は高性能だった。というのも、普通の犬笛は訓練時に犬笛の音を合図にして覚えた行動をしてもらう物なのだが、俺の使う犬笛は何と発生する音に自身のメッセージを伝えることが出来るというちょっとしたチート能力だった。しかも範囲は念話より広いので、このダンジョンで仮に遠くに離れたとしてもこの音を頼りに集合することも可能だろう。
「それじゃあ……早速!」
この建物内の太陽?も黄昏を表しているので、そろそろ帰る時間だろう。ということで、一度集まってもらうために俺は恐らく皆がいるであろう方向に犬笛を使う。ちなみに円形状に広げたり、前方に放射状に放ったりと出来るのもこれの良い所である。
「~~!!」
聞こえない音を前方に放つ……しばらくすると、前から4匹の……うん?
「あれ?間違えたか?」
困惑している俺に4匹の犬が駆け足でこちらに寄って来た。
「どうしたの?」
珍しいピンク色の毛をした犬がドルチェの声を発している。そういえば、先ほどのドルチェの獣人姿の際もこんな色だったな。
「可愛らしい声で、しゅ~ごう~~!!って、何かあったんですか?」
今度は紫色の小型犬がヴィヨレの声を出している。って、さっきの音ってそんな風に聞こえてたのか……もしかして……。
「お前らか!?」
「何よそんなビックリして?」
「いや。まさかそこまで獣化するとは思ってなかったからな……というより、ココリス。お前がこの中で一番違和感が無い」
茶色の毛の大型犬になっているココリス。その普通の犬にもいそうな毛色なので、他の犬に紛れても違和感はないだろう。
ワン!
そして、最後に来たラージ・ドッグは俺と一緒にいたラージ・ドッグの顔を舐め始める。お返しと言わんばかりに、俺と一緒にいたラージ・ドッグも舐めている。どうやらこの二人は仲良しらしい。
「で、何で呼んだの?」
「そろそろ夜になる。そこまで訓練することは無いんだろう?それとも、夜間訓練もする予定だったのか?」
「いえ。そこまでしないわよ。ただ、夜になったところでやめるつもりだったの」
「夜?」
「ええ。この姿になると夜目が効くのよ。その感じも味わってもらいたいと思っていたの」
「ほほう……うん?となると……色はどうなんだ?俺の事はハッキリ見えているか?」
「見えてるわよ?ただ、視界がいつもと違うかしら」
「そうですね……特に正面が見づらいというか……とにかく変な感覚です」
「そうか……犬って立体的に物を見ることが人間より難しいからな……本来なら色とか分からないし、周囲の景色もぼやけて見えるはずなだけどな……」
俺の知っている犬……どうやら獣化は完璧に犬になるという訳では無いようだ。
「となると、後は日が暮れるまで待ったら、終わりってところか?」
「そうだね。ヴィヨレちゃんなかなか筋が良いから、明日からすぐにでも攻略に行けそうだね」
「そういえば……」
俺はここで気になる事を訊いてみる。
「ここって何階のダンジョンなんだ?かなり高い塔には見えたんだが……アルヒの洞窟は15階層だったよな」
「ここは60階よ。ちゃんと言うと、59層までで、後はボスのいる屋上ね」
「屋上……何だ?もしかしてボスって鳥か?」
「そうそう。ツイン・ヘッド・ホークっていうボスがいるの。それだからなかなか倒すのが大変なんだよね」
「そして中ボスが20階層ごとにいて20層がフォレスト・ウルフ、40層がオーガ・ベアー。で、10階層毎にセーフエリアと転移魔法陣があるわよ」
「優しいな。毎日10層ずつ攻略すれば、6日で攻略か」
「そうね。だから、私達も6日目で屋上まで行って、そこから毎日50層まで転移してボス部屋までを繰り返す……ってところかしら」
「ボス周回コースか……どれだけ時間を短く出来るか試したくなるな」
「出来るならドンドンしてもらっていいわよ。今回はさっさと攻略して神緑の葉を手に入れないといけないんだから」
「出来るなら……もっと、最短で……って、すいません!変な事を言ってしまって!」
ヴィヨレから本音が漏れる。
「もしかして、かなり酷いのか?お前の母親の症状は?」
「……はい。毎日咳込んでかなり辛そうでして」
「そうなんだ……」
「だから、出来ればなるべく早く……」
「分かったわ。無理はさせないけど、それでもなるべく早く行けるようにするわ」
「ありがとうございます!」
「それに……」
「それに?」
「ウィードが全てを破壊すれば問題無いわ」
「そうそう。俺が邪魔する奴を全て消し炭に……って、おい!出来るとはいえ、あまりしたくないからな!?」
「出来ちゃうんだよね……白い炎に爆音に猛毒にイケないお薬……」
「ドルチェ!手段を読み上げるな!?」
「ふ……ふふ!」
「そこ!笑うなよ?」
そこから笑いが止まらなくなるヴィヨレ。それに釣られて他の二人も笑っている。
「あのな……って、日が暮れたな……どうだ?」
そんな話をしていたら日が完全に暮れて夜になった。
「うわー!凄いです。ハッキリ見えます!」
「でしょ?こんな遅くまでダンジョン攻略するつもりは無いけど……一応ね」
「さてと……そろそろ戻らないとね」
「そうだな……あ、お前達!これお礼な!」
俺は収納から、練習中に狩ったウサギのようなモンスター達を取り出して、ラージ・ドッグの前に出す。
ワン!
それを口で加えたラージ・ドッグはそのままどこかへと走り去っていった。
「それじゃあ、私達も元に戻って帰りましょうか」
「だな……うん?そういえば……」
「どうしたの?」
「どうやって戻るんだ?」
「「「え?」」」
俺がどんな意味で言ってるのか分からない3人……ならぬ3匹。
「薬で普通に戻るだけよ?」
「そうそう。もう生成は済んでるんだよね?」
「もちろん出来ている……が、ここで戻るのか?」
「それはそうですよ……あれ?」
ヴィヨレが俺の言いたいことに気付いたみたいで、慌て始める。
「どうしたのヴィヨレ?」
「だって……つまり……!!」
「気付いたか……お前らここで戻るってことは俺に素っ裸を見せることになるぞ……男の俺に……」
「「あ!?」」
自分達のうっかりに気付いたドルチェとココリス。
「薬を持っていくにしても瓶を加えて持っていけるの大型犬のココリスなら何とかなりそうだが……二人は難しくないか?」
俺は瓶に入った獣化解除薬を取り出して近くに置く。瓶はフラスコみたいな形の物に入れておいたが、俺は草の為に栓をすることが出来ない。だから、くわえたらこぼす可能性がある。先端を口で加えて持っていくことは出来そうだが……。
「防具を加えて持ってくるっていうのも難しいよな?」
「そ、そうね……どうしようかしら」
「……簡単な方法があるよ」
「ドルチェさんどうぞ!」
「ウィードに布を被せて戻ればいいんだよ!」
「そうか……それが一番簡単だな」
俺はその意見に否定しない。それで俺に冤罪が掛からなければそれでいい……見たいと言われれば見たいが!
「そうね……そうしたら、それで戻りましょうか……」
「それじゃあ……」
俺は獣化解除薬を3つ置いて、さらに厚手の布を取り出して、皆に被せてもらう。
「それじゃあ、戻ったらすぐに先ほどのところまで戻るわよ」
「はい!」
ココリスの合図で一気に薬を使い戻ったであろう3人。そこからダッシュして衣服のところに走っていくのが聞こえる。
「生まれたままの姿の美女3人が外を走る……」
俺の頭の中の妄想力が働く。ココリスはそこまで恥ずかしがらないだろうが、ドルチェとヴィヨレが頬を赤らめながら大切なところを隠して走る姿が浮かぶ。恥じらいながら走る美女の姿か……いいな……。
「……あ」
そういえば、皆の替えの服を預かってるんだからそれを出せば良かったのでは……?
「……黙っておくか」
俺はそう心の中で決めるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―翌日「エポメノの崩壊した塔・2階 初めの草原」―
「ほうほう……この階段を上った先が本番か」
「そうよ。ここはお試し。登った先が本番だから気を付けなさい」
これといった特徴の無い場所にあった3階への階段。道なりに進んだ先にあったのだが、その周囲はただの草原が広がっている。あの訓練後、宿に戻ってしっかり休息をとった俺達。ついに攻略を本格的に始める。
「ヴィヨレはとりあえず防御と回避に専念。戦闘自体は私達に任せてちょうだい……基本的にその持っている武器を前に出せば問題無いから」
「分かりました!」
「確かにこの方が安全だな」
俺を両手に持つヴィヨレ。ヴィヨレの武器……昨日は明かされなかったが、まさか俺が武器とは……。
「ウィードが勝手にその場で必要な魔法を使ってくれるから安心して構えてちょうだい」
「分かりました!」
「これならドルチェも俺の事を気にせずに戦えるな」
「そうだね……まあ、後衛だから問題無かったけど」
「それでも、俺のために位置取りをしなくていいだろう?そう考えたら戦力強化だ。それとヴィヨレに訊きたいんだが、ヴィヨレは戦闘では何が使えるか?」
「一応、短剣術に光属性の魔法が使えますけど……戦闘には向いていない……」
「ドルチェさん!光魔法の見本をどうぞ!」
「プリズムレーザ!」
ドルチェが素早く杖を向けて魔法名を言うと、近くの草が突如燃え始める。
「え?」
「今の光属性なんだけど……次の階に上がりながら話すね」
「はい……」
何が起こったか分からず、ただただ驚いているヴィヨレ。そんなヴィヨレに階段を上らせつつ、プリズムレーザの指導をしていくのであった。