39草
前回のあらすじ「訓練中……」
―「エポメノの崩壊した塔・2階 初めの草原」―
「ほうほう……今度は犬の獣人だな」
犬耳にしっぱ。手足も犬に酷似した物になった3人。ゴールデンレトリバーに似たラージ・ドッグと戯れた3人は獣化で先ほどの状態まで戻った。
「で、その前に……ルチェ?周囲に他の人いるかしら?」
「チョット待っててね……」
ナビゲーションを発動させて、周囲の確認をするドルチェ。
「大丈夫みたい」
「そう。そうしたら……ヴィヨレ。さらにこの子とじゃれ合いなさい」
「はい!」
笑顔でじゃれつくヴィヨレ。ラージ・ドッグも楽しそうに、じゃれ合っている。
「これで……次は動物に変身しちゃうんですか?」
「いいえ。その前にもう一つあるのよ」
「もう一つ……うん?」
何かに気付き撫でるのを止めて、顔を触り出すヴィヨレ。その顔に犬や猫などの鼻から口元を差すノズルが出来ていく。
「わ、私の顔が……え!!」
さらに、体にも変化が起きて、手足が毛に覆われていく。そして顔もノズルの形成が終わった所で、顔も毛に覆われていって……。
「う、うん……!!」
すごく恥ずかしそうな顔と吐息をもらして……あ、ごちそうさまです。
「はあ……」
すると、ヴィヨレの変化が終わったようで、獣に近い獣人の姿になった。
「私……全身毛むくじゃらに……」
自分の体を確認するヴィヨレ。俺は収納から手鏡を出して上げる。
「うわー……私、犬になってます」
素直な感想を述べるヴィヨレ。この状態ならヴィヨレと気付く者も少ないだろう。
「これが獣化がより進行した状態ね。そして次は完全に動物になってしまうわ」
「そうなんですね……」
急にそわそわするヴィヨレ。何かあったのだろうか?
「この姿も体験……というより慣れてもらわないと、かなり違和感があるのよ」
「そうなのか?」
「毛が衣服がこすれて違和感があるんだよね。それに感覚も鋭くなって……」
「ああ……そうか、いつもは毛が無い場所も生えるんだもんな……それは……」
俺はここで何かを察して言葉を噤む。そして、それを確認するために、ヴィヨレを再度見て、すぐに視線を逸らした。
全身に毛が生える……それは、衣服で隠れている大切な場所も……。
「何か……こすれて……変な感じです……」
アウトーー!!そこ!下腹部を押さえない!どこが変なのか分かっちゃうから!!ああ!男だったら襲ってたのに!!
「それにここも……」
今度は胸元を触り出す。ああ……想像が……インスピレーションが……!!
「ウィード……あなたって子供でも……」
「え!?な訳が……!?」
「……さっきから荒い息声が漏れてるよ?」
「ノオーーーー!!!!恥ずかしーーーー!!!!」
いつの間にか声が駄々洩れしていたらしく、俺がバッチリ興奮してることがバレる。
「あなたって……女なら誰でもいいのかしら?」
「な訳無いから!」
「でも……怪しい……」
二人がこちらをジト目で見てくる……。怪しいか……けど、俺は紳士……YESロリータNOタッチの精神は忘れていない!とにかく!この状況を何とか……ん?もしかしたら!!俺は思いついたことを音魔法で何とか再現しようとする。
「何してるの?」
「チョット待て……もう少し……」
「わわ!?」
ワン!
ヴィヨレとラージ・ドッグが何かに気付く。
「どうしたの?」
「いえ……何か音が鳴って……」
「私達には聞こえなかったけど……ウィード?」
「すまん。驚かせたようだな……もしかしたらと思って、先ほどから練習していたんだが……犬笛みたいな音も聞けるようだな」
「犬笛?」
「犬の調教に使われる笛だ。人間には聞き取れず、犬には聞き取れる高音を鳴らしたんだ。これで、連絡を取ることは出来ないとは思うが……何かに役立つかもしれないな」
「それの練習してたの?」
「ああ……ちょっと話もしつつやってたからな……変な声を聞かれたのは恥ずかしい……」
「なーんだ。チョット勘違いしたわ」
「すまんすまん。犬って聞いてから、ふと疑問になってな」
「でも……使えるかも……事前にある合図として打ち合わせをしておけば……」
「ただ、犬限定だろうな……使い勝手は悪いかもしれん」
「ここで使える手が増えるのはいいことよ。その調子でインパクトボイスも覚えてちょうだい」
「ああ……任せろ」
よっしゃーー!!!!何とか誤魔化せた!!しかも、俺の印象も良くなったし!流石、俺!天才!!
「さて……となると出来れば俺は離れた場所に植えておいてもらえると助かる。きっと犬には大ダメージだろうしな」
「というと?」
「耳が良い……そこに大音量の爆音を流されたら……」
「やばいわね……」
「ということだ。二人もさらに獣化するんだろう?」
「ええ。だから、あなたを安全な場所に植えておくわ」
「分かった。それと訓練してる方向とは真逆方向に撃つとしよう」
俺は近くの岩場に植えられた後、ココリスに指定された方向に音魔法を放つ練習を開始する。この場所からでは聞こえないが、きっと今頃、二人も犬に近い獣化になって特訓をしてるのだろう……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―草の妄想タイム―
「ああ~ん……」
二人がヴィヨレと同じように獣化していく……。
「う~~ん……」
変化の際に敏感になる体。二人が服とこすれて感じる場所を抑え悶えつつ、その体を震わせている。そしてその顔も犬に近い物になっていく……。
「はあはあ……」
変化が終わって、息を整える二人……。そこには色っぽい雰囲気を醸し出す女性獣人の二人が……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―妄想タイム終了―
「見たかったーーーー!!!!」
クソ!これはこれでアリじゃないか!!ドキッとくる最高のシチュエーションじゃないか!!親友が話していた獣化シークエンスはいいぞ!ってこのことだったのか……!!それなのに……!!
「すまない親友!!お前が正しかった!!」
俺が人の姿だったらきっと号泣していただろう。きっと親友はこのシチュエーションを見ることなく人生を終えるはず……それなのに俺は……!!
「親友……俺は……お前の意思を告ぐからな!!」
そのためにも……その機会を奪いかねない愚かな奴らを始末するための魔法を……!!
「やってやる……殺ってやるからなーー!!」
そこから俺の集中力は凄かった。まず、手前にある草を揺らす事から始めて、そこからさらに奥の草も揺らすようにと徐々に距離を伸ばし、威力も強くさせていく、その際のイメージとしてはどこかのガキ大将やピンクの悪魔がマイクを握った時の姿を思い浮かべる……。
「ロりボイスだしな……やっぱり、ピンク色の悪魔の方に合わせるか……」
さらにさらに、これだけでは無理なので、衝撃波のイメージもする。これはテレビでやっていた隕石が爆発した時の瞬間を思い浮かべる……。
「いや……それだと、モンスターにダメージを与えられないから……」
ぶつくさと呟きつつ、考えをまとめていく俺。ここはゲームに似た世界だ。それなら生前のリアルイメージより、漫画やゲームをイメージした方が……。
「衝撃波……幾つもの円が前に出ていくようなイメージ……いや、ここは手から波動を撃ち出すように……そうか!あの怪獣をイメージすれば!!」
口から音を出す……ことは出来ないから、俺の場合は草同士をこすり合わせて……それを留めつつ、何度も何度も繰り返して音に威力を持たせていくイメージで……。
……何か凄く葉っぱが振動している!!と感じつつ、さらにさらに繰り返して……これ以上はヤバいと思った所で、ガキ大将が、ピンクの悪魔が……そして大怪獣が口を開けてその一瞬を放つように……!!
「インパクト……ボイスーーーー!!!!」
風魔法に似ているが、あちらは緑色の発光をするのに対して、こちらは無色透明の何かが前方に発射される。そして、標的にしていた遠方の岩に……。
ドォーーーーン!!!!ゴオオオオーーーー!!!!
もの凄い爆裂音と衝撃波が前方で発生。地面に生えていた草木を吹き飛ばし、さらには地面もめくりあげて粉塵を巻き起こす……。
「……あれ?」
あまりの威力に呆然とする俺。いや……これ多分違うよね?こんなものをモンスターに使ったら、その地面ごと消滅するよね?
今だに粉塵は舞い上がってて、ついには俺のいるところまで薄い粉塵がやって来る。
「成功……だよな?」
「ウィード!?」
俺は声を掛けられたので後ろを振り向くと、3人の犬の獣人が立っていた。そのどれもが犬よりの獣人だった。
「ああ。お前らか……一瞬、分からなかったぞ?」
「それはあれから私達もここまで獣化したからね……それより何をしたの!?」
「インパクト……ボイス?」
「きっと違うわよ!?あれでモンスターは討伐できても跡形もなく消滅するでしょ!」
茶色い毛を持つ犬獣人……ココリスが叫び、俺の意見を否定する。
「うーーん……チャージが長すぎたようだ……もっと、短くすれば問題無いはずだと思う」
「そうなの?」
「撃つ前の感覚なんだが……これ以上は無理って、何か体……草が反応したんだ。だから、これがインパクトボイスの最大出力での威力だろう」
「でも……」
紫色の犬獣人になっているヴィヨレが指を差している方向、そこにはそこそこの深さのクレーターが出来ていた。
「この魔法って……攻城が出来てしまうんじゃ……」
「それは……出来ちゃうね……」
「攻城砲か……ボイスキャノン……ドレッドノートボイスにするか」
俺はキャノンで思い出した、とあるカードゲームのモンスターに使われていた超弩級から名前を拝借して、この魔法に一応だが名前を付けとく。
「それはいいわね!……って言ってる場合だと思う?」
「……すいませんでした」
とりあえず、あまりにも危険な魔法を撃った俺に怒っている皆に謝るのであった。