38草
前回のあらすじ「獣人(仮)になる」
―「エポメノの崩壊した塔・2階 初めの草原」―
「なりました!」
「よし!」
獣化が進み、手足が獣化した3人。ラージ・キャットも撫でられて満足したのか、近くの岩場の上でくつろいでいる。ちなみに俺も草の部分で触ってみたのだが……。
「ウィードには効かなかったようね」
「そうだな。少しは……期待してたんだが……」
そう。期待していた。一時的でも、手足のある存在になって、また自由に歩けるようになるのではないかと……。
「残念だ……」
「そうね……でも、まだあなたがこの世界に来て半年くらいでしょう。きっと他にも方法があるわよ」
「だな。この世界には俺の知らない物がたくさんあるしな……そうしたら、人と似たような生活が出来るようにするという目標を掲げて、この世界を冒険するのもありだな」
「いいんじゃないかしら?」
「うんうん!私もいいと思うよ!!」
この世界を楽しむという目的を掲げていたが、もう一つ。動物でもいい。また、自分で歩いて、触って、美食を楽しむ。これをもう一つの目的にするとしよう。
「あの~……それなら、王都にいる魔女さんに会った方がいいかと」
2人と俺がそんな会話をしていると、ヴィヨレが魔女に会った方がいいと提案してきた。
「そんなに有名なの?」
「はい。それに植物、薬学においては国一番と言われてますしね」
「そうか……ん?それなら王都の研究所とかに勤めないのか?」
「そうですね……聞いた話だと、どこにも属せずに一人で行動しているそうですよ」
「へえー……」
ドルチェが不思議そうにしているが、その魔女の気持ちは会ったことが無いから真意は分からないが、恐らく、属することで縛られることが嫌なのだろう。属すれば嫌でも、何かしらのノルマが発生する。仮に、自由に研究してもいい。と言われても、一定の期間で成果を発表しなければならないだろうし、それに研究資金との兼ね合いとかも発生する。
「その魔女。大分、稼いでいるだろう?」
「ええ。かなり危険な依頼とかも平然と受けるそうですよ?」
決まりだ。自分で必要な研究資金を稼げるなら、わざわざ属する必要も無いだろう。もしかしたら、モンスター退治は研究の一環かもしれないな。何せインパクトボイスっていう攻撃魔法を自分のマンドレイク達に習得させてるくらいだしな。
「王都に行ったら、会ってみてもいいかもしれないわね」
「だな……それより、いいのか指導しなくて?」
「それもそうね」
「よし!頑張るぞ!」
「おおー!!」
3人は俺をラージ・キャットがくつろいでいる岩場の近くに植えた後、訓練を始めた。
「それじゃあ、始めましょうか」
「その前に質問してもいいですか?」
「ええ。どうぞ」
「どうして、この姿からなんですか?普通なら武器の扱い方とか……そもそも、私、手ぶらなんですが?」
「簡単な話が……その姿で戦った方がいいのよ。初心者の場合はね」
「え?」
「まず、その場で思いっきりジャンプしてちょうだい」
「は、はい……」
ヴィヨレは言われてジャンプをする。すると、普通の女の子がジャンプしたとは思えないくらいに高く……自分の身長の倍以上、その気になれば、そのまま近くの木の枝に着地出来るんじゃないかと思うくらいに高く飛んだ……が。
「きゃああああーー!!」
そのまま、落ちてきた。そこをドルチェが風魔法を使わなければ大ケガは必至だっただろう。
「こ、怖かった……」
「とういう事で……今の私達は獣人並みに飛んだり走ったり出来ます」
ココリスはその場で高くジャンプして、およそ4~5mの高さにある木の枝の上に手足を付けて着地。そして、今度はそのまま両足で地面に着地する。普通なら骨折しそうだが……普通に歩いているので、何とも無いのだろう。
「こんな風に本来ならケガするような事をしても、しっかりと着地すればケガすることがありません。そして……ルチェ!」
「うん!」
ココリスに呼ばれたドルチェが近くの木の前に立ち……そして。
「えい!!」
そのままビンタ……いや、引っ掻いたのだろうか?木に爪のような跡が残っている。
「え?」
それを見たヴィヨレが自分の獣化した手を見る。すると、指の先端から鋭い爪が出て来た。
「え、え!?」
「上手い上手い!戦闘時には爪を出して、それ以外は閉まっておく。そこ重要だからね!」
「は、はい?」
「驚いたでしょ?猫の獣化になると、こんな風にジャンプ力と走力の強化、そして爪の出し入れが出来るの。それに体も柔らかくなってるから、落下ダメージも軽減されるわよ」
「そうなんですね……私も試しにやってみてもいいですか?」
「ええ。そうしたら、私達のマネして色々やってみましょうか」
「はい!」
その後、3人はその獣人化したその体を俺の前で動かしていく。ココリス以外の装備はスカートなのだが、スカートの下にスパッツみたいな物を履いていて、パンチラが不可能なのは残念なのだが……。
「これは雑技団もビックリな光景だな……」
遠くの木々の枝に普通にジャンプして飛び移ったり、その木の枝を掴んで、一回転した後に別の木の枝に飛び移ったり……到底、ただの人間には不可能な事を平然とこなしていく。
「これはこれで面白いな……」
にゃあ~~!!
俺の独り言に岩の上で寛いでいたラージ・キャットが顔を洗いながら返事をする。そうか……お前も面白いと思ってるのか……。
「って、そんな訳が無いか……」
にゃああ……
顔を洗った後、大あくびをして再び眠り始めるラージ・キャット。これがモンスターとは到底思えないな……。
「ああ……平和だ」
にゃ……
俺は三人の特訓風景を見ながら、せっせとポーションや状態異常系の回復薬、後は念のために万能薬wwwも作っておくのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―お昼頃―
「ふう~……そうしたらお昼にしましょうか」
「はい」
皆が特訓を終えて戻ってくるので、俺はアイテムボックスからタオルにレジャーシート、それとお昼ご飯用に出店で買ったサンドイッチセットを出す。
「お疲れさん」
「ええ。お疲れ……あ、ウィード。あの薬も出してくれる?」
「ああ。あれだな」
俺はココリスに言われて獣化解除薬も取り出す。
「次回は買わなくていいぞ?調合のおかげで増産できるようにしたからな」
「それは助かるわね」
3人が薬を飲む。すると、変化した箇所が発光し、その光の粒子は空へと浮かんでいき、光が収まると3人は元の姿に戻った。
「さてと……これで一度休憩を取ったら、次は森の反対側にいきましょうか」
「そうだね……もぐもぐ」
「もぐもぐという擬音を立てながら、食べる奴はいないと思うのだが……?」
「ふふ!」
穏やかなお昼時……ここがダンジョン内部だと忘れてしまいそうだ。ちなみにラージ・キャットがお昼をねだるのでドルチェがサンドイッチを一つ上げて、それを美味しそうに食べている。って、本当に人懐っこいなこいつ!?モンスターとしての意地という物は無いのだろうか?
「さてと……午後は森を抜けて反対側に行くわよ」
「今度はどんな事をやるんだ?」
「同じよ?今度はラージ・ドッグと戯れて、同じように特訓するのよ……ただし今度は獣化の最終段階もやるけどね」
「ほうほう……って、何でここではしないんだ?」
「面倒なのよ……かなり」
「面倒?」
「それは見れば分かるわよ。それだからヴィヨレはしっかり休んでね?」
「はい!」
いい返事をしつつ、お昼ご飯を食べるヴィヨレ。その所作はどこか気品さを感じる……やっぱりお嬢様だな。
「そういえば、ウィードはどうするの?」
「ああ。まずはもっと、獣化解除薬を作って……それと、魔法の練習だな……とりあえず、インパクトボイスを覚える」
「ふーーん……え?」
その瞬間、皆の食事の手が止まる。
「あなた……今、何て言ったの?」
「うん?インパクトボイスを覚える。っと言っただけだぞ?」
「あのー……覚えられる物なのですか?そもそも私もどんな魔法なのか知らないのですが……」
「何となく名称で想像がつくからな……イケると思う。ちなみに分かればいいんだが、その魔女が持ってきたモンスターの状態ってかなりいい状態だろう?」
「ええ。そうも聞いてますね……でも、何か内部が酷いとか何とか……」
「ああ……十分だ。これで分かったから大丈夫だ」
インパクトと付いているから、何となく想像が付いていたが……。
「ちなみに……インパクトボイスの意味は分かるか?」
「意味?」
「インパクトとボイスでそれぞれ意味があるんだが」
「ボイスは分かるけど……インパクトは知らないわね」
「そういえばそうだね」
「そうか……」
ずっと気になっていたが、どうも俺とこの世界の住人の言語にズレがあるみたいだ。もしかしたら、俺の持っている言語理解のアビリティの影響があるのかもしれないな……。
「で、どういう意味なの?」
「インパクトは衝撃と言う意味だ。だから衝撃音という意味だな」
「衝撃音……って、どういう意味?」
「俺の世界の言葉でソニックブームと言われている。まあ……本来なら人体、つまり生きている生物への影響はあまり無いらしいんだが……とある国で隕石が空中で爆発。その際に遠くの窓が割れたり、玄関が吹き飛んだりと色々起きたそうだ」
「そうなの……あれ?でも、インパクトボイスは生物に影響を及ぼしているよね?」
「ああ。だから……これは衝撃音じゃなくて衝撃波といわれるやつになる。そうだな……」
俺はどう説明しようか悩む。確か、音波とか衝撃波とかそこら辺の定義って曖昧だって前にネットで見たことがあるんだよな……それにこっちの世界でも分かりやすくとなると……。
俺がそんな事を考えてると、先ほどの訓練風景を思い出す。
「さっきヴィヨレが落ちそうになったよな?」
「あ、はい。そうですけど、それが何か?」
「人が高い場所から落ちた際に、骨が折れたり、外傷は無くても亡くなったりするだろう?」
「そうですね……」
「それと似たような物だ。衝撃波は衝撃音と違って、より強い力を持っているんだ。だから、そのインパクトボイスを喰らってしまうと、全身を高所から落とされたのと同じような力を全身に受ける……って考えている。だから、音魔法で音を増幅して高エネルギー状態にしてから相手にぶつける魔法だと思うんだ。素人の説明だがな」
「む、難しいですね……」
「俺も思う」
ヴィヨレに説明してるが恐らく理解していないだろう。これを真に説明するとなると流体力学とか物理学に空気力学……文系の俺には頭が痛くなる内容だ。
「要は強い衝撃を相手に与える魔法の練習ってことでいいのよね?」
「その通り!ココリスの言う通りだ!ということで、さっきの説明は忘れていいからな?」
「は、はい」
そんな話をしつつ、お昼休憩を終えた俺達は、寛いでいるラージ・キャットにお別れをいって、この森の反対側……今度は犬と戯れにいくのであった。