37草
前回のあらすじ「エポメノの崩壊した塔に到着!」
―「エポメノの崩壊した塔・一層 冒険者ギルド 通信室」―
「単刀直入に申しますと、私の妻が原因不明の病……もしくは毒を盛られました。そして、治すためにはそのダンジョンボスからドロップするレアアイテムの神緑の葉が必要なんです」
「なるほど……それで確認なんだけど、王都で手に入らないのかしら?」
「手に入らん。儂も事情を聞いて手を回してるのだが……どうも何者かが独占して、市場に下りて来ないようにしているようだ」
「なら、商会の人間がここに来て直接買い取りとかしないのかしら?」
「残念ですが……帰路に盗賊に襲われました」
「ああ……なるほど、これは面倒だな。俺達が倒した盗賊は雇われてた奴らか」
「恐らく……って、あれ?誰が話してるんだ?」
「お父様。この方です」
俺を探すオルトに、ヴィヨレが手で草である俺を示す。
「この方々の従魔だそうです」
「植物の従魔か……珍しいな。王都でも魔女が使役してるところしか見てないな……」
例のマンドレイク使いの魔女か。ニトリルも話していたが、その魔女は王都では結構な有名人なのだろうか?
「話が逸れてるが……どうなんだ?そんなバカな事をする奴に心当たりは無いのか?」
「え。ああ……恐らく、新しいダンジョンの管理権の争い……それが原因だと思う」
「新しいダンジョン!?」
「え。それって……」
ドルチェとココリスがかなり深刻そうな表情を浮かべる。どうしたのだろう?新しいダンジョンの発見なんて、冒険者にとっては最高のニュースのはずだ。
「あ、あの……それ……」
「どうしたんだ二人共?有益な情報じゃないのか?」
「この情報……あなたのオーナーであるニトリルも知らされていない、王家からの情報……ロイヤル・ギフトでしょ?」
「ああ。そうだな……」
「何だ?その……ロイヤル・ギフトって?」
「王家から与えられる極秘情報の事だよ。それを知っていいのは貴族の人達だけ……」
「へえ……うん?待て……今、この二人言ったよな?」
「ええ。言ったわ……はっきりとね」
「これって、マズいのか……?」
「首が飛ぶわね……」
おいおい……何でこんな情報を教えたんだよ?そんなバレたら困るような情報は勘弁なんだが!?
「安心しろ。これは王であるアレスター様には既に伝えている。そもそも、本当はお前さん達がそこに来た時点で指名依頼をかけるつもりだったしな」
「それだから、皆さんには神緑の葉の回収。それを私のところまで運んで欲しいのです……娘も一緒に……」
オルトから今回の依頼を告げられる。となると……。
「はあ~……どうやら、ここでしばらくダンジョン探索ってのはダメのようね。神緑の葉を見つけたらすぐにでも王都に向かわないといけないようだし」
「え?」
「ああ……なるほど、そうだよな……見つけたら、しっかり家に送っていかないといけないしな……」
「え?あの二人共……?」
「ルチェ……要は大仕事が舞い込んできたってことよ」
「そうそう……王家が情報の開示を認めたってことは、この件に関して王家も問題と扱っていて、その解決に俺達の力を借りたいってことだ」
「ということは……」
「ああ……これはランデル侯爵の依頼じゃない。これは王家からの指名依頼だ」
「ははは!それは違うぞ!あくまでこの儂からの依頼だ!」
「はあ……そういう事にしましょうか……」
ヴィヨレの依頼を引き受けた時点で厄介ごとに巻き込まれたと思っていたが……どうやら想像以上に面倒な事に巻き込まれたようだ。せっかく王様に謁見するのも3ヶ月後とアラルド男爵に話していたのに、これではこの依頼直後に謁見することになりそうだ。
「……すまんな。それだから依頼報酬は金貨で12枚。それとニトリル商会が扱っている商品を一人一つずつ、儂からプレゼントしよう……イグニスの査定中のお前さん達にとっては今は金よりそのような珍しい道具の方がいいだろう」
「珍しい道具?」
「スクロールも扱っている」
「なるほど……それは、いいわね。スクロールなんて超高級品。それを貰えるなんていい話だわ……ねえルチェ?」
「そうだね……でも、もう一声欲しいんじゃないの?」
「そこは大丈夫だろう。なあ?」
「ふははは!もちろんだ!今は思いつかないからな!後でもいいか?」
「ありがとうございます!」
「そこまで報酬を太っ腹に支払ってくれるなら」
「だな……特に俺はその珍しい道具というのを見てみたい」
「決まりだな!」
「皆さん。よろしくお願いします……」
こうして依頼を引き受けることになった俺達。そこで俺はある事を思い出して聞いてみる。
「それで……ヴィヨレもダンジョンに連れて行くがいいか?」
「……やっぱりそうなりますよね」
「ヴィヨレがその何者かに狙われている以上、置いておくわけにはいかないしな。それともこの街に知り合いがいるか?」
「います……が、その方々に危険が及ぶでしょうね」
「そうか……」
ドルチェとココリスもしょうがないとあきらめた表情をしている。盗賊団を雇い、目的のためなら殺しも許可するような奴だ。ここでも何かしらの妨害をしてくるだろう。
「ヴィヨレ……」
「お父様……覚悟してます。それだから皆さん。よろしくお願いいたします……!」
「ええ。少々大変なダンジョンだけど大船に乗ったつもりで、チョットした冒険を楽しんでちょうだい」
「チョットした冒険って……まあ、安心してね?」
「はい!」
「さてと……そうしたらヴィヨレの冒険者ギルドへの登録と装備を整えないと……それに明日はレクチャー……期限はどうかしら?私としてはそのレアアイテムをゲットするのに2~3週間程を見込んでいるんだけど?」
「今の所は症状が安定しているので、すぐには問題は無いかと……でも、なるべく早くは……」
「分かったわ。二人共?」
「スピードランか……RTAプレイヤーとしては燃えるぜ!」
「うん!皆、頑張ろうね!」
ドルチェの掛け声に、おおー!!と相槌を打つ俺達。その後、ココリスが話していたヴィヨレ自身の準備を整えてから、宿に戻って早めの休息を取るのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―翌日「エポメノの崩壊した塔・2階 初めの草原」―
朝、俺達は冒険者ギルドからもらった許可証を手に、1階の奥にある2階へと続く階段前まで来た。そこには強固な巨大な鉄門があり、さらにそこを警備する門番が大勢いた。その近くにある受付に許可証を見せることで、鉄門に付いた小さな扉を開けてくれたので、そこを通って2階へと上がってきた。
階段を上りきると、そこには外と見間違えるような日に照らされた草原、そして奥に森があった。そこから、冒険者達が通り続けたことによって踏み固められた道を道なり進み森の近くまでいく。すると、今度はその道から外れて森の外周を歩き続けて、先ほどの道が見えなくなるところまでやって来た。
「さてと……はやる気持ちがあると思うのだけど。ここのダンジョンについて何も知らずに進むと大変なことになるからヴィヨレ、そしてウィードの二人に指導していくわよ」
「はい!」
「イェッサー!!」
「いい返事ね……って、ウィードのそれは……?」
「すまん。あっちの軍隊が使う上官への返事だ。了解しました上官!と思ってくれればいい」
「そう。そうしたら、指導するのだけど……」
すると、ココリスがキョロキョロと何かを探し始める。さらに視線を上に向けると、ドルチェも何かを探していた。
「何を探してるんだ?」
「うーーん……モンスターなんだけど……あ、いた!」
ドルチェが見つけた何かに指を差した。その方向を見ると、家ネコより一回り大きなモンスターがいる。
「ラージ・キャットね……ちょうどいいわね」
すると、ラージ・キャットがこちらに気付いたようで、もうスピードで駆け寄って来る。
「あれで戦闘訓練か?」
「いえ。あれである状態異常に掛かるわよ」
ココリスが前に出て走ってくるラージ・キャットの正面に立つ。その背中に担いでいる槍を持って構える様子もない。
「え?あの……?」
そしてラージ・キャットが勢いよくジャンプして……そのままドルチェの胸元に飛び込んだ。そして、そのまま家ネコと同じように頭を撫でたり、首を触ったりする。ラージ・キャットも気持ちよさそうに鳴いている。
「「え?」」
俺とヴィヨレはその光景に唖然とする。まさか猫とはいえモンスターに分類される奴と遊び始めるとは……。
「かわいいね」
ドルチェも同じように撫で始める。え?どういうことだ?
「ヴィヨレも触って。猫と同じようにすればいいから」
「は、はい……」
ヴィヨレも戸惑いつつそのラージ・キャットを撫で始めた。
「か、かわいい……」
「でしょ?実はここの2階は凶暴なモンスターがいないのよ。こうやってじゃれてくるから、本来は無視して3階の部屋に行くのが普通なの」
「無視……ですか?」
「ええ。そうしないと……」
ココリスが言い切る前に、そのココリスの頭にピョコンと猫耳が生える。
「なるほど。獣化するのか」
「そうよ。ほら」
ココリスがその場に立ち上がると、猫耳以外に尻尾が生えている。
「こんな風になっちゃうの……あ、ドルチェ!」
「大丈夫……もう靴は脱いでるから……」
ココリスが説明している間も撫でていたドルチェ……先ほどの変化以外にその手足が毛に覆われ、指の先端と平に肉球が出来ていた。
「あっ」
声を上げるヴィヨレ。その頭にココリス同じ猫耳が出来ていた。
「これが一つ目のレクチャー。ここのモンスターに触れると獣化します。倒す際には極力触れない事、魔法が使えるならそれで倒す事。分かったかしら?」
「はい」
「それじゃあ……次のレクチャーに移る前に、今のドルチェぐらいに獣化して欲しいから、もっと撫でてちょうだい」
「分かりました!」
そのまま、寝転がったラージ・キャットのその柔らかそうなお腹を撫で始めるヴィヨレ。撫でられない俺は羨ましいと思いながら、その様子を見守るのであった。