35草
前回のあらすじ「盗賊退治!」
―「南の街道」―
「これで最後だな」
俺は収納でヴィヨレと一緒に行動していた冒険者達の亡骸を回収し終わる。破損が酷い者もいたが……この時ばかりは精神耐性がMAXで、良かったと思ってしまう。
「そうしたら、後はこいつらの処理だね」
「だな……」
奇跡的に生きていた盗賊の奴らは呼吸できるように上半身だけを出して、イケないお薬を飲ませといた。後は盗賊共の遺体……ここは炎魔法が使える俺がやるか。
「じゃあ、俺が燃やすぞ」
「うん。お願い」
「さて……」
イグニスから手に入れた火魔法。燃やすと臭いとか気になるよな……人の焼けた臭いなんて、俺が嗅ぎたくないし……って、何故か草なのに匂いとかは分かるんだよな……。
「ウィード?」
「ああ。すまない……いくぞ」
高温の炎で一瞬で燃やす……そうなると、青い炎だっけか一番の高温の炎の色って……でも、この魔法の世界ならそんな色じゃなくてもいいんだよな……そうなるとあの色だな。
「全てを穢れ無き白に塗りつぶせ……白炎」
跡形もなく、ノートに書いた字を消しゴムで消すかのように……そんなイメージで火魔法を使う。すると、白い炎がしっかりと発生して盗賊共を一瞬にして消失させた。
「……ウィード?」
「……すまん。俺の中二病がまた変な魔法を作ってしまった」
ドルチェが、白い炎で一瞬にして死体を焼失させた俺に対して笑顔を浮かべて訊いてくるが、どこか怖ったのですぐに謝る。まさか、こんな風に一瞬にして燃やしてしまうとは……。
「あ、あの……一体、何を……?」
「ああ。ごめんなさいね……私達の従魔がしでかしただけだから気にしないで」
「従魔……?どこに?」
「ドルチェのベルトに括り付けられてる麻袋に入った草があるでしょ?」
「はい……」
「あれが従魔よ」
「ああ。なるほど…………へ?」
壊れた馬車に付近いたココリスがヴィヨレに俺を紹介しつつ、何が起きているかを説明している。先ほどまで、襲われたこともあって落ち込んでいた様子だったが、少しは良くなったようだ。
「片づけ終わったよ!」
「ごくろうさま。罠の解除も終わったし……あなたはどうする?よければ次の宿場町までなら……」
「それは……」
手を口元に当てて、何かを考え始めるヴィヨレ。
「お尋ねしたいんですが……皆さんは冒険者でしょうか?」
「ええ。これでいいかしら?」
ココリスが冒険者ギルドに登録する際に受け取る冒険者カードをヴィヨレに見せた。
「Bクラス……!?」
ヴィヨレがそれを見て驚いている。そして再び考え始めて……その口を開いた。
「お願いがあります!私をエポメノのダンジョンまで連れて行ってください!」
「えっ!?ダンジョンに連れて行ってって……」
「どうやら訳アリのようね……ウィード。この馬車を収納して頂戴」
「はいよ。話は移動しながらするって事だな」
「そうよ」
俺は壊れた馬車を回収。そしてストラティオに乗り、再び次の宿場町へと向かって走らせる。
「えーと……すごいですね……その植物」
「私達より色々な魔法を覚えてるから……下手すると私達より強いわよ?」
「そうなんですか……」
「それで……どんな依頼かしら?」
「お話しますが……受けて下さいますか?」
「そこは……」
「内容次第だよね」
「だな」
流石に何でも出来る訳では無いので、何も聞かずに軽々しく受ける気は無い。何より先ほど襲われていた少女が家に帰りたいとかではなく、ダンジョンに行きたい。と言ったのだ。かなりの訳アリだと伺える。
「それでは……まず、私の名前ですがヴィヨレ・カルティアと申します」
「カルティア……」
「ご存じですか……?」
「ええ」
「……私、知らないけど?」
「俺は知ってるぞ」
「え?」
「この前のパーティーでニトリル・ダーフリーが言ってたぞ……」
「え?」
ドルチェは覚えていないようだが、ニトリルと商談している際にその名前が実は出ていた。まあ、あの後たくさんの人と挨拶をしていたのだ。覚えて無くても不思議ではない。
「オプト・カルティア……ニトリル・ダーフリーが代表を務める商会で開発を担当している風変わりな貴族……その娘さんかしら?」
「はい。その通りです」
「そして……依頼内容はそれ関係かしら?」
「いいえ。でも……違うとも言い切れません……今回の依頼はエポメノのダンジョンのボスからドロップするレアアイテムが欲しいんです」
「レアアイテム……か」
「それって……」
二人が何かを察したように、黙り込んでしまった。
「そのレアアイテムって、どんな物なんだ?」
「神緑の葉です。加工することで様々な難病に有効な薬になるんですが……」
「ああ~……なるほどな」
つまりそういう事だろう。そんな物を使わないといけない重病人がいて、そのアイテムを手に入れるためにやってきたと。
「でも……あなたの父親が商会の従業員となると、あなた王都住まいでしょ?手に入らないの?」
「それが……何故か手に入らないのです。本来ならお金さえあれば手に入れることは難しくないのですが……」
「ふーーん……それで直接取りに来たってことね……」
高価だが買えなくはないはずの薬。それなのに何故か手に入らない……。
(これってランデル侯爵の事件と関係があるのか?)
(この子の父親がランデル侯爵と贔屓にしているニトリルの従業員……もしかしたらだけどね)
(たまたまってこともあるよね……)
俺達はヴィヨレに聞かれないように、念話で会話をする。俺達が出発する前にエポメノのダンジョンで異変が起きたとかは、ギリムから聞いていない。となると、ダンジョン自体は通常運転のはずなのだ。
(レアアイテムって、そんなに出ない物なのか?)
(10回ボスと戦って1回出るかどうかだったと思うよ?)
(20回やったら確実に1個は出るわね)
(……実体験か?)
(うん)
(ちなみに、C級クラスの冒険者だったらパーティーを組んで討伐可能な強さだから。毎日数十回くらいは倒されてるんじゃないかしら)
(倒しにくい相手じゃないって事か)
(そうよ……そして神緑の葉は高額で買取されるけど、毎日数個は取引されるはずだから、市場に……しかも王都に出回らないというのはおかしな話よ)
どうやら、だいぶきな臭くなってきた。ほとぼりが冷めるまで、ダンジョンを周回する計画だったのだが……。
(どうする?断るか?)
(そうね……)
(でも……)
(余計なお節介は、私達の首を絞めるわよドルチェ……)
ドルチェが断りたくない気持ちは分からなくも無い。しかし、こちらも生活と命がかかっている。危険であると分かった以上、そう軽々しく受ける物では無い。
「あ、あの~……やっぱりダメでしょうか?」
いつまでも黙っている俺達を見て心配になったのだろう。恐る恐る訊いてくるヴィヨレ。
「そうね……私は反対よ。ドルチェは?」
「私は……報酬次第で受けてもいいと思う……」
「そう……ウィードは?」
「俺は……」
頭の中ではココリスと同意見だ。しかし……心はどうかといえば……。
「……受けてもいいと思う」
「ウィード!!」
「旅は道連れ世は情け……ここで互いに思いやっていくのが大切だろう?」
「そう……二人がそう言うなら、この依頼を受けましょうか」
「あ、あの……いいんですか?……本当に?」
「私達3人で多数決して、この依頼を引き受けると決めたのよ?問題無いわよ……ただし」
「ただし?」
「報酬は高く付くわよ?」
お金のジェスチャーをするココリス。その表情は笑顔だった。
「はい!」
いい笑顔で返事をするヴィヨレ。その後、俺達の冒険などの話をしながら、次の宿場町に到着するのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―その日の夜「宿場町・宿」―
「zzz……」
宿で夕食を取った後、すぐに眠ってしまったヴィヨレ。あんな目にあって精神的にも肉体的にも疲れていたのだろう。
「寝ちゃってるね……」
「そうだな……で、埋めた盗賊の事はここの兵士に任せといて……ヴィヨレの事を親御さんに伝えなくていいのかな?」
「冒険者ギルドを通して連絡してもらうわ。あの子の護衛に当たっていた冒険者達の報告もしないといけないから」
「あの数の盗賊相手に5人はきつかっただろうね……」
「俺達……3人だったぞ?DランクとBランクってそんなに差があるのか?」
「それもそうだけど……私達みたいに高火力の魔法使いが3人もいるパーティーって珍しいのよ?特にあなたなんてモンスターのレベルでいえばAクラスと言われてもおかしくないわ」
「あ……そうなんだ……」
「そうよ……で、あなたはどうしてこの依頼を引き受けたのかしら?」
「うん?言っただろう?旅は道づれ……ってな?」
「他にもあるでしょ?あなたってドルチェよりかは私よりなんだから」
「……分からない。もちろんドルチェのように引き受けたいという気持ちはあったんだが、それと同じ位に嫌な予感がした」
「嫌な予感って?」
「彼女がいなくなることで、父親であるオプトが精神的なショックを受ける。それはニトリルの商売にも影響を及ぼして、それが先日の商談にも悪影響を及ぼす……」
「なるほど……」
「ただ……それだけではすまなくなりそうな気がした……これは俺が会社員勤めで得た能力だな。お客様の事を考えて最善の案を提示する……」
「今回はそれだった……」
「そういうことだ」
「そう……」
「やっぱりココリス的には止めといた方が良かったか?」
「ふふ!それは無いよウィード?」
「ああ。となると……」
「どっちみち引き受けてたわよ。報酬はしっかり釣り上げるけど」
「ははは!そうか!じゃあ、俺もしっかり魔法の練習なり薬を作るなりしておくかな……二人はしっかり休んどけよ?」
「ええ……それじゃあ、明日も早いから寝ましょうか」
「うん……それじゃあ、お休み」
「ええ」
お休みの挨拶をして、眠りに就く二人。俺は何があってもいいように自分用に用意したデカいプランターの中で、明日の移動のための準備をするのであった。




