34草
前回のあらすじ「いい最終回だった!(大嘘)」
―バリスリーを出発してから2日後のお昼「南の街道」―
「順調に進んでるわね」
「うん。これなら明後日にでも到着できそうだね」
昼食を取りつつ、地図を見ている二人。俺も見える位置に置かれているので、見ることが出来るのだが全行程の半分ほどまで来ていた。
「早く着ける分には越したことが無いな」
「ええ」
バリスリーを出てから2日。天気にも恵まれて、途中でモンスターと遭遇することも無く、旅は順調に進んでいるといえるだろう。
「それで、今日はこの先の宿場町で宿泊か?」
地図には、今いる所から少し先に宿場町があることを示す黒い点がある。
「そうね。この宿場町から先は山道になるから、今日はここで休んだ方がいいわ」
「……しかし、ちょうどいいところに宿場町があるな」
昨日も宿場町に泊ってるのだが、この地図を見ると、この街道……いや、国には結構な数の宿場町があることが分かった。この様子だと馬車さえ使えれば、毎日宿場町に泊れるようになっている気がする。
「それはそうよ」
地図を折り畳み、自分のポシェットに仕舞い、休ませていたストラティオに乗るココリス。それを見たドルチェも、俺が入っている麻袋を再び腰のベルトに結び直して、別のストラティオに乗る。
そして、ドルチェの準備が整った所で、再びストラティオが走り始める。
「この宿場町は元々は商隊の人々が夜、野宿する場所だったの。それを見た商人がそこで商売を始める。さらにそれを見た商人が商売を始めて競争になる。すると、競争相手と差をつけるために、野宿ではなく屋根のある宿屋を始める……で、その宿屋で働く人達に対して商売する人が出て来て……」
「そして宿場町が出来る……か。都合のいい場所に宿場町があるように見えるのは、荷馬車に載っている商品が傷つかないようにするために、商人達が余裕を持って到着出来る距離だったからってことか」
「そういう事よ。だからストラティオに乗っている私達なら、宿場町を一つ飛ばしで進んでもいいし、無理なく行くなら商人達のように一つ一つで泊ればいい。それだから、嵐のような天気じゃなければ、基本的にはどこかの宿場町に泊れるはずよ」
「高速道路のパーキングエリアみたいだな……」
「それってどんな物なの?」
「ああ説明してやるよ。どうせ移動中は暇だしな」
移動時はストラティオに街道を走ってもらうので、多少は気を張ってはいるが俺達は暇だったりする。それだから、長時間の運転でラジオや音楽を聴くみたいに、俺が住んでいた元の世界について話をしている。それは二人に取って、お伽噺みたいで面白いらしいのだ。
「……って感じだな」
「私、車に乗ってみたいな……」
「それなら私はバイクかしら。このストラティオみたいに早く走れるのは面白そうだわ」
「というより……この世界なら、もっと凄いのが作れそうだがな」
「どんなの?」
「タイヤ無しの、少しだけ宙に浮いた状態のバイクとか、移動と戦闘をこれ一つで解決!武器搭載の戦闘車両!とかかな……」
「……ちなみに、どうやって作るの?」
「この世界は魔法があるからな……機械の部分をそれらに変えれば……」
流石に、オートロックとかエンジンスターターとかは無理かもしれないが、簡単な構造だったら、今のこの世界でも車は作れると思う。そもそも汽車があるのだから、それぐらいは出来ていてもおかしくは無いと思うんだが。
「だったら、今度、王都に行く商業ギルドとかで案を出してみたら?情報料をもらえるかもしれないわよ?」
「その前に王様に根掘り葉掘り聞き出されそうだがな……」
この世界には時折、転生者が来ることは話の中で分かっている。恐らくは国のトップである王様は必ずその事は知っているだろうし、どんな技術力、そして生活をしているか訊いてくるだろう。そして……。
「この国を軍事大国にするのも夢ではない!」
「何、変な情報を伝えようとしてるの!?」
「いや、俺の情報を伝えたらそんな事になりかねないなって……どんなにオブラートに包んでも、軍事利用するのはいるからな」
「まあ……それは分かるわ。モンスターとの戦いの時に、たまたま持っていた生活用品を武器に使う時があったりするし……」
「そうかも……しれないね。常に臨機応変が必要だもんね」
「だろう?だから……うん?」
あれ?今、気付いたのだが……。
「どうしたの?」
「……オブラートの意味が分かるのか?」
「分かるわよ?子供が薬を飲むときに使用する薄いアレよね?」
「それのおかげで、子供に薬を飲ませやすくなったって……これって結構最近だよね?」
「私達の感覚ならね……実際は数十年前かしら」
「そうか……」
この前のランデル侯爵との会話でカプセルは無かったはず、それなのにオブラートがある……。
「どうかしたの?」
「なあ。俺の前にいた転生者の情報って分かるか?」
二人に訊いてみるが、その首は横に振られた。
「そうか……」
「どうかしたの?」
「薬を飲むためのオブラート……それを作ったの俺と同じ異世界のやつかな?と思っただけだ。そして、そいつが俺の前の転生者だったら……カプセルの作り方も知っていたかもしれない……と思ってな」
「それがどうかしたの?」
「なるほど……」
ココリスは俺の言いたいことが分かったようだ。
「え?何?何なの!?私にも教えてよ!?」
「もし、この前の毒殺にそのカプセルが使われていたとしたら、それはオブラートが初めて作られた土地が関わってるんじゃないかって言いたいのよ」
「ああ……なるほど……」
「まあ、あくまで、かもしれない。だ。可能性は低いだろう」
「そうしたら、今度、それを訊いてみてもいいかもしれないわね」
「だな……うん?」
走っていると、馬車らしき物がある。二人もそれに気付いていて、それに注視している。
「明らかに……襲われていないかしら?」
「だね」
「ああ。テンプレのような盗賊達に襲われてるな」
俺達がどんどん近づくと、壊れた場所の周りにガラの悪い、いかにも盗賊です!みたいな格好をした奴らが壊れた馬車の扉を開けようとしていた。
「おい!またカモが来たぞ!」
あちらも気付いたようで、道を塞ぐようにして立ちはだかってきた。ストラティオで強行突破……せずに、その前に止まってしまった。
「突破しないのか?」
「恐らくダメ。あんな風に立ちはだかる以上は何かしらの策があるんだと思うよ」
「なるほどな……で、こういう時はどうすればいい?」
「既に人を殺めるような奴らなら、手加減しなくてもいいわよ……」
盗賊共の足元には、既に死んでいるのが分かる位に損傷の酷い人のような物が転がっていた。
「おい!お前達!」
盗賊の一人が大声で叫ぶと、後ろから武器を持った数人の男女が現れる。前後合わせて、20人……か。
「さてと……大人しく俺達に捕まってもらおうか?さもないと……」
「私達を殺す?」
「そういうこと!ということで……」
(やっていいか?)
「ええ。いいわよ」
「ははっ!話が分かるな!」
先ほどのココリスの返事は俺の念話に対してなのだが、どうやら勘違いしているようだ。
(じゃあ、二人がストラティオから下りたら、攻撃を仕掛けるからな?)
「それじゃあ……下りるよ」
「へへっ!」
気持ち悪い笑顔を浮かべる盗賊達……。そうしたらその出鼻をくじいてやるか……。ちょうどいい魔法があるしな。
「さあ!楽しい実験の時間だ!ポイズン・ハザード!」
満を持して新しい魔法であるポイズン・ハザードを発動させる。すると、盗賊達の上に紫色の雲が発生して、そこから雨が降り、盗賊達を濡らしていく。
「な、何をしたテメェ!」
「何もしてないわよ?」
「ふざけるな!さっき声が……!?」
すると大声を上げていた男が喉を押さえ始める。その後ろで控えていた男は肌を掻きむしり始める。さらにその横にいた女はその場に倒れて、その体を痙攣させる。他の盗賊達も何らかしらの症状を発症させて苦しみだしている。
「何が……?」
「よそ見は厳禁よ?マッド・プール」
後ろにいた盗賊共が、ココリスの使う魔法でぬかるみにハマる。
「ダウン・バースト!」
そして、ドルチェがトドメに下に叩きつける風で盗賊共をぬかるみに倒して、さらにぬかるみの底へと沈めていく。そして元の地面に戻り……盗賊共を生き埋めにした。
「うわ……エグい」
「「ウィードには言われたくない!」」
「そうか?俺の攻撃は良心的だと思うぞ?生きるか死ぬかは当人次第だしな」
「何で、そんなギャンブル要素のある攻撃なのよ?」
「知らん。そもそも毒魔法の使い手なんて、あまりいないらしいからな」
毒魔法は存在することはするのだが、ただ、それを覚えるのはモンスターがほとんどで普通の人では習得するのは難しいらしい。一応、習得方法としては毒を自ら摂取して……という、結構命がけだったりする。
話を戻すが、このポイズン・ハザードは前方に毒の雨を発生させて、それを浴びた者は様々な状態異常を引き起こす物である。この魔法の長所としては、様々な状態異常を引き起こすので万能薬wwwのように何でも治してくれる物じゃないと解毒するのに時間がかかるということ、短所は雨なのでうっかり味方が浴びる可能性がある事、また、かかる状態異常がランダムなので……。
「あ!アッ……かっ!?」
すると、先ほど俺達に命令していた男が悶えながら息を引き取った。また、別の所で倒れてる男は全身が腫れ上がり、それが破裂した際の出血多量で死んでいる。その近くで倒れてる男は痙攣だけで済んでいたりして、確実性が無いのがネックである。
「これは酷いわね……」
「うん……」
「……フロー・ウォーター」
俺は毒の魔法で侵されている周辺を水で洗い流す。うっかり馬車の中にいた人達が毒に侵されないようにしないとな。そして周囲の洗浄が終わると、ココリスが馬車の中にいる人へと声をかけようと近づく。
「誰かいるかしら?」
「ここは開けません!だから……」
「もう盗賊は倒し終わりましたよ?」
「え……?」
窓からこっそりと外を覗く女の子……紫色の髪を持つ少女……しかも美女か……。なんて俺得な……。流石、異世界……ドルチェのピンク色やらこの子のように紫色とか、髪の色が豊富である。
「大丈夫かしら?」
「え……はい」
ゆっくりと、恐る恐る扉を開く女の子。周囲を見渡して、身の安全を確認するとその場に座り込んでしまった。
この少女、ヴィヨレとの出会いが、この後の、エポメノの崩壊した塔のダンジョン探索に影響を及ぼすとは、思いもよらなかったのだった。