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33草

前回のあらすじ「次の町へ行こう!!」

―早朝「城壁都市バリスリー・花の宿プリムラ 玄関前」―


「宿賃の件は有効だからな?戻ってきたらここにまた泊ってくれよ?」


「そうよ?特に3人の話は面白いのだから、また聞かせて欲しいわ」


「もちろんですよ!」


 ドルチェとリリーさんが泣きながら手を握り合って、また戻ってくることを約束している。


「いくらんなんでも大げさよ?離れるのも2ヶ月程なのだから……」


「これが今生の別れでは無いしな……」


 それを見た俺とココリスは冷静に、そして静かにツッコむ。俺達は当初の予定である1ヶ月ではなく、念のために、その倍の2ヶ月で周囲に話をしている。これなら、ゆっくりダンジョン探索を出来るということと、暗殺未遂の事件についても解決してるんじゃないか?もしくは調査が進んでいるのではないか?という少々楽観的な考えもあったりする。


「それはそうかもしれないけど淋しいでしょ?というより二人は寂しくないの!?」


「寂しいが……」


「そこまでのリアクションじゃないわね……」


 俺としては、チョットした長期の出張感覚である。だから、そこまでのリアクションではないし、むしろ……。


「面白そうなお土産があったら買ってくるからな?何か買ってきて欲しい物とかあるか?」


「あ~……そうだな……確か、あそこはトウモロコシが名産でな。それを使った珍しいパンみたいな物があるんだが、それを買って来て欲しいかな。お前さんのアイテムボックスなら腐らずに済むしな」


 トウモロコシを使った珍しいパンみたいな物……?


「それって薄くて平べったいものか?」


「そうだ……そこに具材を乗せて食べるらしくてな。って、知ってるのか?」


「俺達の世界にも似たような物があるからな……名前はトルティーヤだったと思うんだが」


「そうだそれだ!お前さん作り方は分かるのか?」


「知らん!って事で買ってくるぞ」


「ああ。頼んだよ。これでまた珍しい料理が出せるしな」


「タコスか……草じゃ無ければ是非とも食いたかった……」


 レタスとタコスミート。そこにアボカドディップとトマトソースをかけて、さらにお好みでチーズを……。社畜時代に移動販売店で食べたあのタコス……美味かったな……あの店は今でも元気に販売しているだろうか……。草じゃ無ければ、きっと今頃は、腹が…減った……。とポカーンとした表情を浮かべていたに違いない。いかん。幻覚でコーンの香りがしてきた気がする。そろそろ話を切り上げなければ。


「レシピ本があったら頼むぞ」


「任せろ。それに挟む具材も買ってきてやる。俺の知るタコスなら食べてもらいたいしな」


「ああ。頼んだぞ」


「じゃあ、出発するわよ?」


「それじゃあ……いってきます!」


「元気でね!また来てね!」


「はい!」


 すると、ドルチェとリリーさんは抱き合って、再開の約束をする。


「はいはい……」


 見かねたココリスがドルチェの袖を掴み、ズルズルと引きずり始める。それでもドルチェは引きずられながらも手を軽く振ってバイバイと言っている。


「頑張れよー……」


「おう!」


 こうして、俺達はエポメノの塔のある町へと出発するのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―「城壁都市バリスリー・南門」―


「あれ?ギルドマスターだよね?」


「ああ。ギリムだな」


 南門へ行くと、そこにはギリムが待っていた。


「お待ちしてました。皆さん」


 こちらへと歩みを寄せてくるギリム。手には何か持っていた。


「これを」


 そう言って、手にもってる何かを手渡すギリム。


「これは……紹介状ね」


「紹介状?ささやきの水晶で伝えればいいんじゃないのか?」


「やはり大事な事は紙面で伝えないといけないので……って!?」


 話しているギリムが突如、話を止めて俺を見る。


「今の声って、ウィードですか?」


「そうだ……って、これが初めての会話だったな」


「ええ……てっきり男性だと思ってたんですが……」


「中身はな。どうもこの体は女性……なのかもしれない」


「そうですか……幼女ボイスとは……」


「ああ……複雑だ……」


 俺としては死んだ時の年齢的に渋い男性の声をイメージしていた。それだから実際に出せる声が幼女ボイスとなると……。


「……まあ、頑張ってください」


「ああ……」


 俺は幼女ボイスで返事をするのであった。


「それでは話を戻しますが、それをあちらのギルドマスターに渡して下さい。皆さんの推薦状と後はこちらの状況を伝えるための手紙になっています」


「手紙じゃないといけない訳?」


「まあ……そこはね」


「何か……あるんですか?」


「まあ……そこは」


 手紙の内容を伝えないギリム。まあ、俺達が関わっている称号持ちのモンスターの事や侯爵の暗殺、隣国問題とかそんなとこだと思うが……。


「そう……じゃあ行きましょうか」


「え!?いいの?」


「問題無いだろう」


「皆さん。いってらっしゃい……ウィード。どうぞ楽しんできてください」


「おう!」


 そう言って、ギリムに見送られながら俺達は城壁の外に出る。


「そういえば……ここからどうやって移動するんだ?俺の作った鳥獣変身薬で飛ぶのか?」


「違うよ。外で待っていると思うんだけど……あ」


 ドルチェが何かを見つけて指を差す。一人の男性がこちらに手を振っていて、その隣にはダチョウのように首と足が長く、人より少し大きな白い羽を持つ鳥が二匹いて、馬とかが付ける鞍などを装着している。


「あれで移動するの!」


「鳥……?」


「モンスターの一種でストラティオっていう鳥なの。飛べないけど走る速度が速くて、しかも力持ち。それでいて人懐っこいから、こうやって移動用の家畜として飼われていたりするの」


「へえ……でも、これって二人が飼ってるんじゃないよな?」


「ええ。もちろんレンタルよ?」


 男からストラティオの手綱を受け取りつつ答えるココリス。すると、一匹のストラティオがその頭をココリスの頬に擦り付けている。それを見たドルチェがその頭を撫でると、キュウゥゥ~。と気持ちよさそうな鳴き声を出しながら、かわいらしい仕草を見せる。何か犬や猫みたいな生物だな……見た目もかわいいしモフモフだし……触りたかったな……って。


「レンタル……あれ?返す際にはどうすればいいんだ?この町で飼ってるんだよな?」


「この子を飼ってるのは冒険者ギルドなの。返すのは着いた先の冒険者ギルドでオッケーよ」


「なるほど……あれ?でも、馬もいるよな?」


「馬は商業ギルドだね。この子が荷馬車を引くと、その速度のせいで荷馬車の中がぐちゃぐちゃになるから……」


「ほうほう……それぞれ、役割分担が出来てるんだな……よく出来ているな」


パク!


 うん?頭に何か感触が……って!?


「食べちゃダメーー!!?」


 俺の大切な髪……じゃなくて草を食べないで!?


「ちょっと。ダメよ?この子は私達の連れなの」


 ココリスが優しく、俺を噛んでいるストラティオをなだめる。ストラティオもそれを聞いて、すぐに噛むのを止めてくれた……が。


「ねえ?これって大丈夫?」


「安心しろ。多少なら問題無い」


 草の先端が噛まれて短くなり、そして鳥のくちばしの跡が付いてしまった。しかし俺のHP1は変わっていない。


「まあ、前にラテさんのモーニングスターで刈られても問題無かったものね……」


「だな……俺ってどこが本体なのかな?」


「「うーーん?」」


 俺って根っこが切られたり、草が切られたりとされてるのだが……HP1から0にはなることが無い。


「草を全て狩り取る?」


「それより根っこを全て狩り取れば……」


「何か俺を殺す方法になってきたな……それ」


「「……」」


「いや?黙るなよ?」


「安心して……あなたが人の道を外した場合は……しっかり狩り取ってあげるから」


 そう言って、笑顔を見せるココリス。


「止めて!俺の大切な髪!……じゃなくて草を!」


「じゃあ、根っこを!」


 ドルチェが笑顔で、持っている杖を風切り音を立てて振っている。


「そちらはガチで効きそうだな!?」


 根っこがかなりのダメージを受ければ死ぬはず……だと思う。草は……また生えてくると信じたい。うん……生える…そう生える……きっと。


「冗談よ?どうしたの?」


「いや。やっぱり髪……草が無くなっても精神的に痛いってことが分かっただけだ」


「あなた……まさか……」


「言うな!それ以上は言うなよ!?」


 俺の生前の悩みを……傷口をこれ以上は抉らないでいただきたい。


「……じゃあ、行こうか」


「ああ。行こう」


 俺達はストラティオの背中に乗る。そして街道を走り始める。


「凄い速度だな……!」


 アスファルトで舗装された道では無いのに、バイクのように凄い速度を出している。


「それで……どの位かかるんだ?」


「4、5日よ。途中でこの子達を休めないといけないから」


「中々の長旅になりそうだな……」


 俺は遠くなっていく城壁都市バリスリーに視線を移す。短い時間だが色々な人と知り合うことが出来た。次に町ではどんな出会いがあるのか楽しみである。


「俺の旅は……これからだ!」


「どうしたのいきなり?」


「うん?漫画の最終回のようなセリフを言いたかっただけだ」


 ……という事でまだまだ冒険は続くのである。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―ウィードが出発してから少しして「城壁都市バリスリー・冒険者ギルド 所長室」ギリム視点―


「何で!何で誘ってくれなかったんですか!?私だって!!」


「いや?あの3人は戻ってくるからね?」


「2ヶ月ですよ!2ヶ月も会えないなんて!!」


 そう言って、恨めしそうに睨みつけるラテ。これは呼ぶべきだったかな……。


「しかし……エポメノの崩壊した塔ですか……」


 あの3人のレベルなら問題無いと思うが……あそこもなかなかの癖のあるダンジョンだし……大丈夫かな?


「大丈夫じゃないですよ!あそこは変態ダンジョンじゃないですか!」


「人の心を読まないで下さいラテ。それに問題無いですよ。あそこはドルチェとココリスは踏破してますから」


「せっかくなら……私も行きたかったのに~~!!」


 ああ。変態がここにいましたか……まあ、人によってはあのダンジョンはそのように見えてもしょうがないのでしょうが……。

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