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32草

前回のあらすじ「王都行きのフラグ発生!」

―深夜「城壁都市バリスリー・花の宿プリムラ プライベートガーデン」―


(ふふふ……)


 そうだった。俺は音魔法を習得していたのだった。何でこんな事に気付かなかったのだろうか……そうだランデル侯爵の言う通り、俺は疑似的に喋れるんじゃないか!!


(連れて行かれて、良かったーー!!)


 気持ち的には声を張り上げる芸人並みに叫びたい。まあ、今でも問題無いと思っていたが……やっぱり喋れるというのは心身的にはありがたい。


(えーと……でも、どうすればいいんだろう)


 魔法を使えば喋れるはずなのだが、やり方に困る。


(どうしようかな……あ、コピー・サウンドを利用すれば……)


 俺はコピー・サウンドでコピーした音を出す。これを一言葉づつ切り抜いて合成して……


「ワレわレはうチューじンだッ!」


 我々は宇宙人だ。と言おうとしたら変な発音になってしまった。


「とナリの客ハガキ食うきゃクだあ」


 隣の客はよく柿食う客だ。こんな早口言葉をゆっくり喋ったのだがこれまた変な感じになる。しかも、音声ソフトみたいに機械音みたいな感じだったりもする。


「ムずかシイな……」


 独り言を言ってみたが、これまた変である。


「ナンカイも調セイしなイとイケないナ」


 そんな風に何度も調整を加える。それにもしかしたら途中で新しい音魔法が派生するかもしれない。そうしたら、それで練習をすればいい。


 俺は空を見上げる。月は今は空の天辺にあるから、皆が目を覚ますにはまだ時間がある。風もなく寒くも無い絶好の練習日よりだ。


「これハ、かんがエ方ヲかえれバちートだナ」


 今は草なので寝る必要は無いが、人間だった頃の感覚があるので、寝れないというのは寂しくはあったりする。


 しかし、眠る必要が無いなら栄養さえしっかり取れれば、人より多くの魔法の練習時間を取れるというのはチョットしたチートだと考えることも出来る。寝る間も惜しんで……ってことを平然と出来るのは人によっては羨ましい能力かもしれない。


「でモ……」


 俺には合わない。草の身で過ごす以上、慣れないといけないのだが……食欲、睡眠、性欲……男として元々、あったその全てを取り除かれた草としての生活。


「少シ……こマるな……」


 一人でカロンの森にいた時は生き残ることに必死で、こんな風に深く考えて無かったが……ここ最近はヤバイと思っている。他の皆が出来ることが羨ましい……というより、妬みともいえるような感情を時々持ち始めている。


「やっぱリ、しッカりいきぬキ出来ル、何カを見つけナイトな……」


 薬を作ったり、魔法を練習したりと自分に取って息抜きになっていると思っていたが……草にとっての息抜きとは何なのか良く分からないが、早めに見つけなければ。


「へンにやみオチしたクないしナ……」


 そんな事を思いつつ、俺は音魔法の練習をするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―朝「城壁都市バリスリー・花の宿プリムラ 食堂」―


「……ということで、何とかここまで落とし込めたぞ」


「そう……なの……」


「うん?」


 ドルチェとココリス、そして近くにいたフランキーさんも困った表情を見せる。


「発音とかは多少違和感があると思うが……聞き取りづらいか?」


「いえ!?問題無いわよ……?」


「うんうん……でも……」


 皆が、何が言いたいかは分かる。あの後、コピー・サウンドを使用し続けて必死に練習をし続けた所、ついに話すためのアビリティを手に入れることが出来た。しかし、そのアビリティには少し疑問点があってこれは音魔法でない。アビリティの一つである念話が無くなって、代わりに意思疎通という物になっていた。それを使用して練習をした所、かなり滑らかに喋れるようになったと思う。しかし、そこである問題が起きる。そしてそれが皆を戸惑わせる理由にもなっている。


「何で女性の声なの?しかも……子供?」


「そうだよな……お前さんてっきり男だと思っていたんだが」


「そうなんだが……やっぱり女児だよな?」


 意思疎通で発声した言葉はどう聞いても、女の子の声にしか聞こえない。一応、多少は声を変えれるのだが……あくまでこの女児ボイスを基に高い声だったり低い声を出せるようになっている。コピーサウンドを使えば男性声も出せる事は出せるが、ここまで滑らかに話すことは出来ない。


「念話では男性……音にすると女の子……何か意味があるのかしら?」


「俺って体は女子、頭脳は男……その名はウィード!みたいなノリなのか……?」


「何それ?」


 首を傾げたドルチェに素で訊かれてしまった。元ネタを知らないのは分かっていたが……何か淋しい!!


「気にしないでくれ……とにかく転生したこの草は女性の体ってことなのか?」


「性別……あるの?」


「……どうだろう?」


 ドルチェの疑問に俺はつい疑問で返してしまう。自分の体なのに何も知らないので、こう答えるしかない。


「どうする?今までのように念話の方がいいか?今までそれでも疎通は取れていたから問題無いと思うのだが……」


「うーーん……どうする?」


「そうね……ケースバイケース……いいえ。やっぱり喋ってもらった方がいいかしら」


「そうか?」


「ええ。冒険者として行動していくと、他の人たちと意思疎通するのに会話の方が良かったり、あなたの容姿なら敵の誘導にも役立ちそうだしね」


「確かにそうだな」


 まさか、草が声を発していると一番に思いつくことはないだろう。そして、その隙が相手に取って命取りになる。


「草だからこそできる戦法だな……というか、そんな事が起きるのか?」


「盗賊とかいるのよ……そして人質を取ってたりすることもあるから、そんな戦法もあるって訳」


「なるほどな……」


「それに……王様と謁見する際に念話はチョット……ね」


「確かに……」


 王様に対して、まさか念話で直接話しかけるなんて、とても失礼な気がする。


「そうしたら、このまま会話するぞ……で、今日はどうするんだ?」


「そうね……」


 そう言って、テーブルの上に置いていたコーヒーを飲むココリス。


「二人は何か案があるかしら?」


「俺は冒険者として、普通に掲示板の依頼を引き受けるだな」


「私も……かな。それに今後の予定を話をするのに、移動中でも出来るし」


 ドルチェの言う通りで、じっくり話すのもいいが何か仕事をしつつ予定について話すのもいいと思っている。


「そうね……それでいいか」


「うん?何か問題があるか?」


「チョットね……まあ、それでも移動しながら話せる内容だからいいのだけれど」


 何かを考えてるココリスはコーヒーを飲み干し、ごちそうさま。と言って食堂を後にする。


「……私も準備してくるね」


 ドルチェは先ほどのココリスの様子を見て何かを悟ったみたいで、ニコッと笑みをこちらに見せてからココリスの後を追って食堂を後にした。


「何かあるな……パーティーの今後を決める大事な話になりそうだから気を付けろよ」


「やっぱりそうなるのか?」


「ああ。俺も冒険者だったしな……それに、ここは冒険者も泊まる宿屋だぞ?先ほどみたいな光景は見慣れている」


「そうか……なら、俺も俺でしっかり聞いてやらないとな」


「ああ。しっかり聞いてやれよ」


 そう言って、厨房へと戻るフランキーさん。この後、どんな話があっても答えられるように、しっかりと気を引き締めるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―お昼頃「城壁都市バリスリー・東の森 川沿い」―


「それで……どんな話だ」


 冒険者ギルドで依頼を引き受けた後、俺達はそのまま東の森に川に住むストーンタートルの討伐をしている。とは言っても既定の数量は討伐し終わっているので後は帰るだけ。それなら、ここら辺でゆっくり話すのもいいだろう。


「そうだね……どんな案があるの?」


「……それなんだけど、エポメノの崩壊した塔に行ってみない?」


「急にどうして?あそこって、一応稼ぎはいいけど、こことあまり……」


「昨日の暗殺の件か?」


「ええ」


「なるほどな……確かに、一理あるな」


「二人共?どういうこと?」


「俺達にも危険が及ぶかもしれない。暗殺の実行犯からしたら、俺達は暗殺の邪魔をした憎い相手だからな」


「ああ……なるほど」


「それだから、しばらくバリスリーから離れて、エポメノの崩壊した塔……つまりダンジョン探索してもいいんじゃないかなって思った訳よ」


「私はいいけど。それ大丈夫かな?ウィードはいいの?」


「少し準備がいるから数日は欲しいな。出発はどのくらいを予定している?」


「3日……」


「うーーん……まあ、何とかなるか……」


 ラメルさんへ卸している薬……3日あれば何とか多めに用意できるだろう。


「それじゃあ……次はエポメノの崩壊した塔があるニビ村。それでいいかしら?」


「いいぞ。それはそれで面白そうだしな」


「私も賛成!」


 次の予定が決まった所で、俺達は町に戻った。そして、それから2日間は俺はひたすら薬を作り、ドルチェとココリスは冒険者ギルドへの報告や買い物などを済ませ、移動するための準備を終わらせるのであった。

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