31草
前回のあらすじ「万能薬のお味=お酢+唐辛子+コーヒー+にんにく+木酢液」
―「城壁都市バリスリー・領主邸・ダンスホール」―
「まさか、招かれるなんてね」
「そうだね」
片手に山盛りの料理を持ったドルチェと、こちらは片手に中身の入ったワイングラスを持ったココリスが会場の隅で立ったまま、お喋りしている。
あの後、アラルド男爵から予定を聞いた俺達はパーティーが始まる少し前に予定を済ませて、今はパーティーに出席している。二人の衣装もパーティーに相応しい姿になっていて、ドルチェはピンクと白を基調としたドルチェの可愛らしさをより強調させるようなドレス。ココリスは紫を基調として、そこにスパンコールをあしらえた大人の魅力を引き出すドレスを着ている。アラルド男爵邸にあるドレスを借りたのに、それを完璧に着こなす美人エルフである二人は当然ながら注目の的となり、周りの招待客は遠くから眺めている。
「視線が痛いわね……」
(しょうが無いだろう。二人はそれだけ魅力があるしな……でも、何か二人とも慣れていないか?何か所作というか……)
ココリスは完璧に慣れてる感じがある。ドルチェも片手に山盛りの料理を持っているが、その動きはしっかりとしていて気品を感じる物がある。そもそもだが、お偉いさんがたくさんいる中でこの二人から緊張という物を感じられないのが一番の理由だったりする。
「それは冒険者家業で、たまに今回みたいに出席するからだよ?それは置いといて……ウィードはいいよね。目立たなくて」
(ああ。しっかりこの会場のインテリア……というか生け花に溶け込めてるしな)
そう。今の俺はパーティー会場の隅に設置されている生け花の中に紛れ込んでいる。そのため、二人も隅っこに来てたりする。
(しかし……音楽隊が来てダンスを踊ったりするかと思ったが……そんなのは無いんだな)
「その時によって色々よ。今回のランデル侯爵は美食家だから、こんな風にビュッフェスタイルがいいと思っただけだと思うわよ」
そう答えるココリス。俺は今回のパーティーの主役であるランデル侯爵に目を向けると、先ほどの豪快な雰囲気はなく、パーティーに来たどこかの商人とワインを片手に談話している。
「やあ。お嬢さん達。僕とお話しないかい?」
近くで声が聞こえたので、そちらを向くとドルチェとココリスが若い貴族風の男に口説かれていた。
「あら?恐らく私達二人、あなたより年上だと思うのだけど?」
「見た目的には僕と同じくらいにしか見えませんって。むしろ、僕より若く感じますよ」
「あら。お世辞が上手いわね……」
悪い男特有の下心で近寄ってくるのかと疑うココリス。俺も最初はそう思っていたが……こいつは違うと思う。こいつの視線を見ると、常に二人の目線を見て話をしていて、二人の体をいやらしく見るような素振りを見せていない。
「有名ですからね。イグニスを冒険者ギルドに持ち込んだエルフの冒険者で伝わってますよ……それで、そんなあなた達だからこそ、カロンの森の事を訊きたくて」
「カロンの森を?」
「はい。そういえば自己紹介が遅れましたね。僕はニトリル・ダーフリーと言います。アラルド男爵には魔道具の製作の受注なんかでお世話になっています。それでお二人に話しかけたのは、ついこの前、カロンの森の素材が大量に入って、新しい商品の開発が出来るようになったのでそのお礼を言いたくて……」
「そうだったんですね」
「後は今後、カロンの森の素材が安定して入手できるのか。とか、もしそれが無理なら指名依頼で頼んでもいいのか……と、商談関係でお話したくて」
「最初の決まり文句で口説いているのかと思ったのだけど……」
「はははは!遊び人のような顔しているせいで、女性に声を掛けるとよく言われてるんで気にしてませんよ!それで、どうですか?」
「いいですよ。私も暇してましたし、二人もいいよね?」
「二人?」
「ここに従魔がいるのよ」
ココリスが俺に指を差す。しかし、ニトリルはどれかが分かっていないようだ。そこで俺は草葉の先端に炎を出す。
「おおっ!?びっくりした!こんな従魔がいるなんて……」
「植物の従魔なんていないですもんね」
「あ、いや?いるよ。確か……マンドレイクを使役する魔女が……」
「へえ~……そんな方がいるんですね」
「ああ……彼女の使うマンドレイク達は凄くてね。インパクトボイスって音魔法で大型のモンスターも簡単に倒しちゃうからね」
「インパクトボイスって初めて聞く魔法ね」
「それにマンドレイク達でしょ?複数の魔獣を扱ってるってことだよね……」
「インパクトボイスは魔女が作った新しい魔法らしいよ?気になるなら王都に行ってみるといいよ。運が良ければ冒険者ギルドで会えると思うよ」
「機会があったらね。それで、あなたの頼みたい仕事って?」
「そうだったね……それで……」
この後、カロンの森での素材について話をしたところ、俺も知っているモンスターで、俺が最初にあったあのウサギだった。ちなみに使いたい素材は毛皮とのこと。
「どうかな?しっかりギルドを通して依頼を出すつもりなんだが……まず素材の買取は2倍の額で買い取る。そして出来た魔道具も君達に進呈するよ」
「気前がいいわね?」
「実は今度の魔道具は冒険者受けが良さそうな道具でね。皆さんのように目立つ方が使って頂けると助かるんだよ」
「宣伝ですか……」
「そう言う事だね。無理にしなくていいんだ。ただ商品を使ってくれればそれだけでいいからね?」
「私はいいと思うけど……どう?」
「いいんじゃない。あのウサギなら問題無いでしょ」
(だな。素材も一回行けば、必要量集まるだろうしな)
「でしたら……また、今度正式にご依頼しますので、その時はよろしくお願い致します。それでは……他の方の迷惑になるので、僕はここらへんで……」
「迷惑?」
「皆さんと話をしたい方々はここには大勢いるんですよ。ただタイミングが分からずに遠くから見ていたようですが……では」
そう言って、俺達から離れるニトリル。すると、待ってましたといわんばかりに他の方々も近づいてくる。それからは挨拶だけだったり、商談の話だったりと多くの人と話すことになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから1時間ほど―
「疲れた……」
そう言って、近くの椅子に座るドルチェ。喉が渇いたという事で、今はグラスに入ったワイン……ではなく水を飲んでいる。
「そうね……」
ココリスはワインを飲みながら何か考えている……いや。先ほど得た情報を頭の中で整理中なのだろう。
「はははは!お疲れのようだな!!」
すると、ランデル侯爵とアラルド男爵夫妻がやってきた。
「すまなかった。お礼も兼ねているのに……疲れるような事をさせてしまったな」
「構わないわよ。お陰でいい情報を仕入れられたから」
(ログでメモしておいたから、分からなくなったら聞いてくれよ)
「二人共……仕事し過ぎだよ」
「招いたかいがあったな……確かここの料理に出ているクラリルもお前さん達が捕まえたんだったな?」
(ああ。昨日、俺達が捕獲したぞ。ただ、大量に捕獲したからこの町の人々にお裾分けしたがな)
「本当に昨日だったんだな……どうやったか訊いてもいいかな?」
(別に構わないが……いいのか?)
「いいわよ?それ売るつもりなんでしょ?」
「どうせバレちゃうしね……」
二人に訊いてオッケーが出たので、俺の作った鳥獣変身薬について説明する。
「何と!空を飛べるようになる薬とな!?」
「ええ。それだから途中の山々を無視して移動が出来るから、日帰りで捕獲しに出掛けられたって訳よ」
「うーーむ……そうか……」
顎を擦りながら何かを考えるランデル侯爵。
「何か問題でも?」
「お前さん達は何か急な仕事とかあるか?もしくは長期の仕事は無理とか……」
「どうしてですか?」
「お前さん達に……王様と謁見してもらいたい」
「……は?」
「え……!?」
(……王様。それは王を敬愛する呼び方。王自体の意味は君主、権力の……)
「何、王様の意味を話してるのよ?」
(驚いたから……つい……しかし、どうしてだ?鳥獣変身薬がそんなに珍しいのか?)
「それもある。その薬が一般に広がれば、流通の革命になるしな。しかし、それだけではなくお前さん達がここ最近かかわった依頼も関わってる。心当たりがあるだろう?」
「それってギルドマスターのギリムから聞いたんですか?」
「そうだ。イグニスにラーナ……それとボルトロス神聖軍の動き……何か嫌な感じがしてな……さらに、転生者であるウィードが来たタイミングも気になってな」
「そこで私達から話を聞きたいと?」
「そういうことだ。どうかな?」
どうするって……すると、ドルチェとココリスがこちらに振り向き……念話で話してくる。
(どうする?)
(うーん……ウィードは?)
(俺はいいぞ?むしろ、俺は行くべきかもしれないしな……もし、俺がここに来たことに意味があるなら、それは何か?無いなら無いでハッキリさせときたいしな)
(そうだよね……私も少し気なるし……)
どうするか話し合う俺達。それを見たランデル侯爵が声を掛けてくる。
「すぐに決められないなら、都合のいい日をアラルド男爵に伝えてくれればいいぞ。儂も急な話だったしな」
「うーーん……分かりました。そうします」
「そうだね」
とりあえず、話は保留という形になった。それと王様に会うためにも、あちらでも準備があるのでそんな急ぎで決めなくていいとの事なので、とりあえず一か月の間に決めてくれとのことになったのだった。
そんなこんなでパーティーもお開きになって、アラルド男爵夫妻に見送られながら帰る俺達に、アラルド男爵夫妻と一緒にいたランデル侯爵がある事を訊いてくる。
「ところで、帰る前にそのウィードに訊きたいんだが……」
(何だ?)
「お前さん……音魔法が使えるのだろう?何でそれで喋らないんだ?」
(……あ!?)
俺はランデル侯爵に言われて始めて、自分が音魔法を使って喋れることに気付くのであった。




