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30草

前回のあらすじ「星3=www」

―「城壁都市バリスリー・領主邸」―


「……」


 薬を飲んだアラルド男爵。飲んだが、反応は無い。


(ダメか……?)


「くっ!」


 荒い息を立てつつ寝たままのアラルド男爵……うん?何か呼吸の間が短くなってるような……?


「な……なにか主人の顔色が悪くなってるような?」


「そ、そうですね……」


 奥さんとギリムの言う通りで、アラルド男爵の顔色がみるみるうちに青くなっていく。


「ウィード?」


(いや?聞かれても分からないからな?)


「そんな!主人が……!」


バサッ!!


 すると、今まで寝ていたアラルド男爵が目をこれでもかという位に目を見開き、勢いよくベットから起き上がる。


「あなた!だいじょ……」


ダッ!タタタタタタ……!!


 すると、具合が悪い病人のはずなのにそのままベットから飛び降りて、どこかへと駆け足で部屋を飛び出していった。しばらくの間、誰もが予想だにしなかったアラルド男爵の行動に驚いて突っ立ったままだったが、一早く、正気を取り戻した執事さんが後を追っていった。


「口を押えてましたね……トイレでしょうか?」


(だろうな)


「しゅ……主人は助かった……のでしょうか?」


「恐らくはな……?」


 予想外の出来事に、何を話せばいいか分からなくなる俺達。その後、執事さんだけが帰って来て、俺とギリム、そしてランデル侯爵に客室で待っててもらうようにということで、一度、客室に移動するのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―それから30分ほど―


「ぷはーー!!……ひ、酷い目に遭った……」


 メイドさんが持ってきた紅茶を、勢いよく飲み干すアラルド男爵。トイレで毒を吐き出し悶絶していたらしい。今は身支度を整えて反対側の席に座っている。


「はは……一度、あの世にいる祖父の姿が見えたよ……」


「すいませんでした……私が飲んだ時は別に何ともなく、味が無味だったので安全と思って飲ませました……」


(あんな万能薬という毒薬を作ってしまった製作者として謝罪します……)


 お偉いさんに大変失礼な事をしてしまった気がするので、しっかり謝罪をする。


「いや。気にしないでくれ。あのままだと俺が死んでたからな。あんな思いをしたが助かったのなら儲けものだ。それよりも助けてくれたその草……ウィードだったな。何か報酬を渡さないとな」


(うーーん……貰いにくいな。ちゃんとチェックを入れた後の薬を服用させたならともかく、あれは未完成状態の薬だったしな……変な話。被検体になってもらった時点で報酬な気もする……)


 そう。アラルド男爵が体を張って、この万能薬wwwの効果を立証してくれた。恐らく万能薬wwwは効果の説明通りに状態異常を全て治す薬なのだろう。しかし……。


「そういえば、あの時、君に何があったんだ?いきなり起き上がったと思ったら、トイレに駆け込むから驚いたのだが?」


「失礼な態度を取ってしまって失礼しましたランデル侯爵。何せ起きた瞬間に猛烈な吐き気と痛みと苦み……酸っぱさだったり辛味だったり……もはや口にするのもおぞましいほどの状態になりまして……」


 良薬は口に苦し。という諺があるが、これはそれだけでは飽き足らずに、人を徹底的に不快にするような効果があり、飲んだ直後は行動不能になるというデメリット効果といえるだろう。もし、デメリットが無ければ高値で取引できる薬になっていたのだろうが……これでは、それも難しいだろう。


「そうだったか……このウィードの作った薬。万能薬wwwは大変すばらしい効果だが、飲んだ相手がそのような状態になるなら、普通なら既存の薬を飲んだ方がいいということだな」


(それが無ければ冒険者御用達の薬になってたかもな……持ち運べる荷物を減らせるし)


「だが!これは貴族共に売れるぞ!何せ毒殺なんぞ日常茶飯事の世界だからな!訳の分からない毒も完治するならいい薬だ!ダハハハハ!!!!」 


 男らしい笑い方で大笑いするランデル侯爵。毒殺が日常茶飯事とは恐ろしい世界である。


「そうですね……私も念のために欲しいと思います。あの感じを何度も味わいたくないですが、命と比べたら安い物ですから」


 対照的に、苦渋の決断をしてるかのように辛い表情で、あった方がいい。と感想を述べるアラルド男爵。欲しいという言葉も、本当に欲しいのかな?と思う位に弱々しい発言だった。


「アラルド男爵がそこまでですか……これ、拷問用にも使えますね……」


(さらりと、怖い事を言うなよギリム?というより苦しんだアラルド男爵に失礼じゃね?)


「ギリム……確かにそれは使えると思うぞ……死にはしない毒の付いたナイフで痛めつけた後、その薬で猛烈な不快感を与えるを繰り返せば、どんな奴も吐く。俺が断言する」


「……ウィード?」


(待て待て!!そんな理由で売れるかーー!!)


「まあ、冗談ですよ。流石にアラルド男爵の様子を見て、からかいたくなっただけです」


「お前なあ!?俺が毒殺されかけたんだぞ!?全く……涼しい顔して……」


「ふふふ……」


(……お前ら仲がいいんだな)


「アラルドとは長い付き合いですから。いつもならこの位の冗談は言い合えますよ」


「これは冗談じゃ済まないからな!?」


「ダハハハ!まあ、とにかく助かったんだ。良しとしようじゃないか。ギリム殿も助かったと素直に言えないような性格みたいだしな!」


「そうですわね」


 そう言って、笑い合う大人達。まあ、一先ず無事に終わって良かったが……。


「後は犯人が捕まればな……」


「ですね」


コンコン!


「失礼します旦那様」


 扉を叩いた後、メイドさんが部屋の中へと入って来た。


「どうした?」


「先ほど旦那様に危害を加えた男が捕まったようです」


なんとまあ……タイミングよく犯人が捕まったものだ。


「そうか!それで犯人は?」


「エントランスにいます。今は捕まえた冒険者二人組と衛兵達が見張ってますが……いかがいたしますか?」


「ギリム」


「お仕事をしますか……あ、ウィードも一緒に来て下さいね」


「なら、儂もいかないとな。何せ犯人の狙いは儂だっただろうしな」


 そうして、奥さんを安全なこの部屋に置いて、俺達はエントランスに向かった。エントランスに行くと数人の衛兵達に囲まれている左頬を大きく腫らした男が体を縛られていた。それと冒険者である女性二人も……。


「あれ?ウィードじゃない?」


「あ、本当だ」


(ドルチェにココリスか。なるほど、捕まえた冒険者はお前達か。どうやって捕まえたんだ?)


「買い物中に騒がしい声がして、その方向に行ってみたら武器を振り回して逃げるその男がいたのよ」


「それで迷惑だったから、私が風魔法で動きを止めてからココリスが左頬をグーパンしただけだよ。ウィードこそどうしてここに?」


(アラルド男爵がそいつのナイフの毒で倒れたから、その治療で連れて来られた)


「お前……何で儂を命を狙った?答えろ……」


 男に近づき、威厳をまとい問いかけるランデル侯爵。男はその迫力に負けて、下を向いて目を合わせないようにする。


「ここまで来て、往生際が悪いと思うが?」


「それは……」


 これだけの状態で、話そうとしない男。その顔は冷や汗をかいている。恐らくだがランデル侯爵の迫力に負け、表情を隠せない事を考慮すると、プロの暗殺者とかではなく、ごろつき程度だと判断できる。


「さっさと話した方がいいですよ?今回使用された毒は解毒が難しく、ほぼ確実に切られた相手を殺せる程の毒でした……そんな物をあなたのような、ごろつきが用意できるとは思えないのですが?」


「それは……ぐぅ!?」


 突如、男はその場に倒れ込んで体を悶えさせる。そして、目と口から血を吹き出して動かなくなってしまった。


(おい!薬を……!)


「……ダメね。死んでるわ」


 ココリスが倒れた男の首筋を触り、男の死亡を確認をする。


「何が起こった?」


「魔法……か?」


 俺達も近づいて、男の死体を確認する。先ほどまで男の周りを衛兵が囲っていた。それだから、もし魔法を使ったならその近くにいた衛兵が怪しいのだが……。


「それは無いと思われます。ここにいる衛兵達の素性もしっかりしてますし、それに……こんな魔法があるというのは聞いたことがありません」


「だな……恐らく、こいつに暗殺依頼した奴の仕業というところだろうか」


(毒を使うんだから……まあ、遅延性の毒についても知ってるだろうしな)


「そうだな……ちなみに、お前さんは作れるか?」


 そう言ってランデル侯爵がこちらを見るので、少しだけ考えて答える。


(直接は無理だ。今の俺だと接種後に直ぐに効果が出る物しか作れない……間接的なら作れると思う)


「その方法は?」


(毒をカプセルに入れる方法だ。ただ……そのカプセルの材料が分からないから実験とか試行錯誤が必要だけどな)


「ウィード……変な事を話してない?」


(いや。聞かれたから正直に答えただけだが?)


「犯人と勘違いされてるんじゃいかな……?」


 あ。それは考えて無かった。かといって、ドルチェの言う通り嘘を付くのは危険だと思う。人では無いとはいえ、会話などでその人が怪しいかどうかを見破れるような人間だっている。それこそアビリティ無しでだ。だから、ここでは素直に答えた方が正しいと思う。


「ダハハハ!!それは無いから安心しろ!ただ、今後の毒物対策に聞いておきたくてな!ちなみにどうしてそれで遅延性の毒に出来るんだ?」


(カプセルは体内に入ると時間を掛けて溶けていくんだ。だから、その中に毒を入れてから数時間後に溶けるようにすれば……)


「なるほど……毒の効果が表れるという訳か……」


「この従魔……かなり賢いですね」


「うん?まあ、そうだろう。こことは違う世界から来たみたいだからな!」


「え?」


「という訳で、今日のパーティーは変わらずにやるのだろう?その際にこの3人も呼んでくれ!面白そうだしな!!」


 ダハハハ!と笑って、その場を後にして客室に戻ろうとするランデル侯爵。


「……君、異世界から来たの?」


 アラルド男爵が驚いた顔で訊いてくる。


(ああ。しかし……よく見破られるな俺)


「当たり前ですよ。いきなり草であるはずのあなたがそんな案を出すなんて不自然なんですから。ちょっとした異世界の人々の知識があれば、あっという間ですよ……まあ、ランデル侯爵にバレる程度なら問題ありませんね。むしろ、いい指名依頼を受けられますよ」


「あら。それはありがたいわね」


「それはいいけど……私達はどうすればいいのかな?」


「あ、そうしたら……」


 男の遺体がギリムの指示の元、ギルドに運ばれる準備が整うまで、俺達はアラルド男爵からこの後の予定を聞くのであった。

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