27草
前回のあらすじ「クラリルを一網打尽」
―「ミスック湖・ほとり」―
「一体、何が……?」
「俺はクラリルの解体してるからよろしくなーー!!」
遠い所からこちらを見ないように叫ぶフランキーさん。ドルチェやココリスから、見るな!と言われる前に離脱するとは、素早い状況判断である。
「何よこれ……?」
俺が出した布で隠した自分の大きく膨らんだ胸を観察するココリス。
ぶちん!
すると今度は、何かが外れる音がしたと同時にココリスが装備していたコルセットのような皮鎧が地面に落ち、さらに服を引き破ってココリスのたるんだお腹が顕わになる。
「まさか……太ってる?」
「ど、どうなってるの……!?」
目をクルクルさせて困った顔をするドルチェ。当の本人であるココリスより慌てている。その間もココリスは太っていき、今は手足に付いた脂肪を揺らしたり触ったりしている。
「ウィード……何か分かるかしら?」
冷静に訊いてくるココリス。俺は思ついたことを説明する。
(もしかしたら、ガチで吸収したのかもしれない)
「吸収……?うん……!?」
そう言って、顔に贅肉が付くココリス。少しだけ目が細くなり2重顎になってしまった。
(闇属性の魔法は、あの黒い靄が何かを吸収するっていう魔法なんだろうな)
「そう……うん……」
立っていたココリスがその場に足を放り出して座り込んでしまう。お腹の肉が脚の間に収まり、その足は痩せてた時のココリスの腰より大きく今でも大きくなっている。また、お尻の方へ視線を向けると、そのお尻が二つの大きなクッションに見えてしまう。着ている服が頑張って隠しているが……限界は近いだろうな……。
(今回は熱を吸収……その吸収した熱がココリスに流れ込んで、脂肪という形で付いた……なのかな?)
「ウィードはどうしてそう冷静なの!?」
(ココリスが冷静だからな。それに釣られて冷静になっているだけだ。ただ……)
「ふう~……」
呼吸を整えるココリス。変化は完全に終わったみたいで、服は何とか大切な所を隠している……これはこれでエロい……痩せてればの話だが……。流石に俺は体重100kgを超える女性は範囲外だ。何故そんな量ってもいないのに分かるかだが、脂肪が付いて首が無くなり体と顔がくっついていて、バスケットボールより大きい胸にそれより前に大きく突き出たお腹、クッション性バツグンであろうお尻、振ったら絶対に揺れるであろう手足の脂肪!……俺、何か変な事を言ってる気がするけど……とにかく!手を真下に下ろせないほどに横にも大きくなったここまでの体なら、体重はそこまでいっていてもおかしくないだろう。
「大丈夫?」
ドルチェがタオルと飲み物を要求したので、俺は収納から取り出す。
「はい。これ……」
「ありがとう……」
それを受け取って、汗を拭き、水分補給するココリス。間近でその体を見ると実に柔らかそうな脂肪がついている……あれ?俺って変な性癖が目覚めようとしている?
「これ戻るのかな……?」
ココリスの脂肪を触りながら疑問を口にするドルチェ。
「どう……かしら……?ウィード……?」
息が切れ切れのココリスが訊いてきたので俺は現時点での考えを話す。
(分からない……もし、戻らない場合は痩身薬を使って、一時的に元の体型に戻してから町まで戻って……)
「戻っ……て……?」
(ダイエットに効果的な薬を作るか……何となく作れそうだし)
「そんなすぐに作れるの?」
(……多分)
要は脂肪を減らせばいいのだから、カプサイシンを大量に詰め込んだ薬とか、もしくは爆発的な力を得る代わりに大量のエネルギーを消費するとか……調合で何となく作れそうである。
「分かった……わ。とりあえずこのまま放置してて……いいから、解体の……」
(分かった分かった!!話すのが辛そうだし任せとけ!)
「辛そうだったら、すぐに合図してね?」
「りょーかい……」
行動不能なココリスをその場に放置して、俺達はフランキーさんの解体作業を手伝うために倒したクラリルの近くまでやって来た。
「おう。二人共……ココリスちゃんは大丈夫か?」
(とりあえず体重の増加は止まったけど……戻れるかが分からん)
「そうか……」
「とりあえずは時間経過で戻れないか確認してるので、その間は解体を進めておいてって」
「そうだな。ここでこいつらを腐らせたら台無しだもんな」
パンパンとクラリルの頭を叩くフランキーさん。確かにココリスが心配だが、今は何が最善の策なのかが分からない。とりあえず俺達は太ってしまったココリスの心配をしつつ、フランキーさんの指示の元でクラリルの解体を始める。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―そこから1時間経過―
ここでクラリルの解体方法を話すが、鱗を落として、腹を切り裂いて内臓を取り出し、頭を切断、そして骨に沿って三枚に下ろす……。
(普通の魚の下ろし方なんだよな……)
「うん?そりゃあ……魚だからな」
俺は魔法を大量に使用するために地面に植えられていて、ドルチェとも離れていたので独り言を言ったつもりだったが、近くで捌いていたフランキーさんに聞こえていたようだ。
(そうか……)
俺は適当に返事をする。こんなシャチサイズのアリゲーターガーを普通の魚と同じにして欲しくないと思う。
「ウィード!水をお願い!」
(あいよ)
俺は水を使って、ドルチェによって指定された箇所の油や血の汚れを落としていく。
「これなら始末した6匹の解体を終わらせられるな。まさにウィードさまさまだな」
(倒した後に水魔法が有効なら、やり方はいくらでもあるからな)
その巨体の解体に時間が掛かって1~2匹が限界だろうとフランキーさんは判断していたが、俺が収納で内臓を取り出し、水魔法で洗浄、さらにウォーター・カッターで頭の切断と三枚に下ろすという一連の動きを高速で出来たため、今回、仕留めた全てを捌けると大喜びをしていた。
「ウィンド・カッター!!」
また、ドルチェも風魔法で同じように切断はできるので、切断だけは俺とドルチェが交互にやっている。ちなみにフランキーさんは一人ですでに2匹を捌き終わっていた。
「ウィード!すまないが内臓を片してくれるか?」
(あいよー!)
3匹目に入っているフランキーさんのクラリルの内臓を収納する俺。その後、水を出して、お腹の中を洗浄する。ちなみに内臓の中には魔石もあるのでそれは別に収納している。
「羨ましいな……俺も水魔法を使えたらな~~……」
(覚えられないのか?)
「獣人である俺たちのアビリティは基本的には肉体の強化とかでな。魔法のようなアビリティは基本的には覚えられないんだ」
(そうか……何か使えたらいいんだけどな)
「出来なくは無いんだが、そこまで苦労してっていうのもあるな……」
(どんな苦労だ?)
「ある場所で、特定の敵が落とすスクロールが手に入るから、それを使って覚えることだな。水魔法だとイポメニの古代神殿なんだが……」
(なんだが?)
「今の私のようになるわよ……ふう」
俺達の話に布で体を巻き付けたココリスが混ざって来た。先ほどよりは痩せていて、今は人によって肥満かぽっちゃりで別れるような体型をしている。
(おーいココリス。もうちょっとお前は恥じらいというのを覚えろよ?布で体を隠しているとはいえ男性であるフランキーさんがいるんだからさ)
「まあ、冒険者だと慣れてる奴もいるからな……癖なんだろう」
(癖って……)
「よくあるんだよ。装備が壊れて素肌を晒すとかな。そんな時に恥じらってたら死ぬしな」
「それでも素っ裸は恥ずかしいけどね。ウィード。私の替えの服を出してくれる?トレーニングのやつなんだけど」
(ああ。あれか……待ってろ)
俺はそれを取り出すと、近くの岩陰で着替え始めるココリス。岩陰から出てくると、その体はさらに痩せていて今はぽっちゃりという所だろう。
「あ。ココリス!戻ったんだね!」
「ええ……あのままかと思ったら、なかなかの恐怖だったわね」
そう感想を述べるココリス。って……?
(同じ体になるってどういうこと?)
「前にルチェと挑戦したことがあったのよ。その際にあるモンスターに襲われて、ブクブクに太ったのよね……」
「ああ~……アレは思い出したくないトラウマ。第二位かな……」
どこか空虚なドルチェ。ミミックとそのモンスターにどんな事をされたのか気になる……が、それは野暮という物だろう。俺は別の事を訊く。
(……なあ)
「うん。どうしたのウィード?」
(太る状態異常って多いのか、この世界って?)
「いや。多くは無いぞ?お前さんが薬を作ったりする前だがな」
「私もあなたの薬をカウントしなければこの状態異常は久しぶりだからね?」
(そうか……)
ゲームでありきたりな毒や麻痺、混乱とかの状態異常より、何故かこの状態異常を多く感じたのはたまたまってことか……いや、俺が原因か!!!?
「私も手伝うわ」
「あ、お願い」
ここでココリスも混ざって解体作業に入る。この後、無事に全部の解体と下ごしらえを終えて、使用することの無い内臓とかはココリスの土魔法で全て埋めた後、俺達は再び鳥獣変身薬を使ってバリスリーの帰路につくのだった。




