231草
前回のあらすじ「着ぐるみ熊を討伐!」
―「ホルツ湖畔・巣内部下層」―
(どうかな?)
(大丈夫ですね。しばらくすれば起きると思いますよ?)
「ありがとう。それで……処置終わったよ」
フリーズスキャルブさんのお墨付きをもらったので、俺は髪の拘束を解放すると、ルックスはそのまま寝かせているテネブリスところまでやって来た。倒すべきのモンスターを助けるとはどうかと思ったが……いや、本当にどうしよう。助けたのはいいけど、これどうすればいいのかな……そのまま野山に放ってしまっていいものだろうか?
「嬢ちゃん! 水を頼む!」
「はーい!」
近くで『コルジセプス・ベアー』を解体をしていたロドニーさんから血を洗い流すための水を所望されたので、水魔法を使って指定された箇所を流していく。
「この熊肉……食えるのかな?」
「喰えたらいいんだがな……ここにいるなら食事は全てハチミツ。生臭さも少ないかもしれないしな」
「おじいちゃん。このキノコだけどこんなんでいいの?」
そう言って、フレッサがコルジセプスの切り分けたキノコの傘を見せて来る。綺麗な真四角に切り分けられたそれをキノコだと気付く人は少ないかもしれない。
「それでいい。なんせデカすぎるからな……こうやって切り分けるしかないだろうって。そもそも10年物のおかげで、こんな風に切り分けたとしても値崩れはしないだろう」
「食用としても変わりない?」
「ああ! 料理人としてはそれが1番大事だしな! これで美味しい料理を作れるぞ!!」
物凄くごきげんな笑顔を見せるロドニーさんはそのウキウキ状態で再び熊の解体を進めていく。
「ここまで上機嫌なのは珍しいですね~」
「まあ、お宝を手に入れたのと一緒なんだと思うよ……フレッサだって、金銀財宝を手に入ったら嬉しいでしょ?」
「もちろんですよ~!! 欲しかったあれもこれも……ってそんな感じですね~。まあ、それならあの気持ちも分かりますね~」
フレッサはそこで「さて頑張りますか~」と言って、再びキノコの解体を進めていく。すると、クリーパーの群れを退治しに行っていた今ドルチェ達がこちらへと戻って来た。
「そっちはどうかしら?」
「私は終わったから、これから解体のお手伝いするつもり。そっちは?」
「数が多くて面倒だけど、ヘルバが用意した薬のおかげでどうにかなりそうだよ。まあ、そもそも本調子じゃないみたいだし……」
「虫だからね……」
現在、戦っているこの場所は湖面より下であり冬という事もあってとても寒い。また、寄生体である『コルジセプス・ベアー』は既に討伐されてバラバラに解体中である。そのせいもあってクリーパー達はより動きが鈍くなっているのだろう。
「問題無く討伐は終わりそうで何より……」
「で、そいつらはどうするの?」
ココリスが座っている『ルックス』と『テネブリス』の2体に指を差す。それに気付いた『ルックス』が休ませている『テネブリス』を庇うかのように体の上に覆いながら、こちらを睨み付けていた。
「野生に逃がしちゃ……まずいかな? 戦闘力は無いからいいかなって思ってるんだけど……」
「称号持ちのモンスターを逃がす訳にはいかないでしょ? しかも、こいつらのせいで『コルジセプス・ベアー』が強かったわけだし……」
「それはそうだけど……」
野生のモンスターに余計な優しさは不要。本当ならこう助けるなんてことはせずに慈悲も無く始末するのが一番なのだろう。
「……私が始末してもいいわよ?」
ココリスはそう言って手を前に出す。それを見た『ルックス』が必死に『テネブリス』を庇う体勢を取る。お伽噺の妖精のような姿で美男美女の2体のそんな姿を見てしまうと、こっちが悪者のように見えてしまう。だが、そんなことより言いたいことがあるのだが……。
「ねえ。あなたってもしかして私達の会話を理解している?」
『ルックス』に目線を合わせて問いかけてみる。すると『ルックス』はすぐに頷いてくれた。
「この怖いお姉さんがこんな事を言ってるけど……」
「ルックス」はそこで腕を組んで真剣に考え始める。すると、何かいい案が出たらしく俺にこちらへと来るようにと手招きする。
「危ないんじゃないの?」
「大丈夫、大丈夫……」
何か状態異常を掛けるようなら俺はそれを無効化出来るので特に問題無い。一応、警戒を緩めずに俺は『ルックス』の近くに寄る。すると『ルックス』が俺の手に触れると同時に謎の魔法陣が俺の真下で展開する。
「ちょ……!?」
「ヘルバ!?」
俺も含めた全員が驚きの声を上げる。だが、魔法陣は光っただけですぐに収まって消えてしまった。
「えーと……」
「……!!」
すると『ルックス』が俺に喋り始める。どこの言語を話しているのか、いやそもそも言語なのか分からないそれは何を言ってるのか分からないのだが、彼女が何を伝えたいのかは分かってしまった。
「ヘルバ……?」
「「あなたに付いて行きます! お役に立つのでお傍に置いて下さい!」のような事を言ってるみたい……」
「それって……」
ドルチェが何かを言おうとしたところ、『ルックス』が俺の髪を引っ張るので、そちらを振り向くと
寝ていた『テネブリス』が目を覚ましていた。すると『ルックス』が今度は腕を引っ張るのでそちらへと手を向けると、『テネブリス』が体を横にしたまま俺の手に自分の手を当てる。
「……あ」
そしてまた同じ魔法陣が展開されて、その光に包まれる。『テネブリス』はそれが終わると再び寝てしまった。
「……!!」
「えーと……」
「ヘルバ?」
「テネブリスも一緒によろしく……だって」
「契約じゃないのよ。それ……」
「嬢ちゃんはモンスターや動物を使役するアビリティを持っているのか?」
ロドニーさんが解体の手を止めて、こちらを覗き込みながら訊いてくる。
「いや、そんなの持っていないし。そもそも契約って何?」
『契約』について知っている皆にそれが何なのかを尋ねてみる。すると、代表してココリスが説明するということになって、他の皆はそれぞれの作業に戻って行った。
「『契約』だけど……本来ならロドニーさんの言うようにモンスターや動物を使役するアビリティを持っている人が出来るもので、『契約』をすることで、今のあなたのように対象のモンスターや動物と意思疎通が出来るようになるの。さらに『召喚』を使えばそのモンスターや動物を遠い場所から呼べるわ」
「へえ……召喚魔法みたいでカッコイイかも」
「あなたのようにそんな理由で一部の人間から人気のあるアビリティなんだけど……そうはいかないのよね。飼っていた動物の聞きたくない話を聞くこともあるし、あくまでお願いだから命令をおとなしく聞いてくれるかも分からない。強いモンスターとなれば我が強すぎて命令を聞かないし……で、それなりに苦労するアビリティなのよ」
「そうなんだ……あれ? でもさ」
俺は自分のステータス画面を開いて、自身のアビリティを確認するが新しく手に入ったアビリティは1つも無かった。
「そんなアビリティ持ってないよ?」
「……!!」
俺とココリスが話をしていると、『ルックス』が俺の服を引っ張りながら俺を呼ぶのでそちらに顔を向けると、またまた訳の分からない言葉で話し掛けて来る。
「何だって?」
「「私達の持つアビリティで契約を結んだの」だって。ココリスの言うようなアビリティを私に付与してくれたみたい」
「そんなのがあるのね……で、こいつらはあなたに付き従うから命は見逃してくれってこと?」
俺は『ルックス』にそれを聞いみると、その通りだと答えてくれた。
「本当に連れて行く気……?」
「私は良いと思ってるけど。外付けの光魔法と闇魔法を手に入れたようなものでしょ?」
「寝首を駆られるわよ?」
「それなら……」
俺は『収納』から俺がこっそり作っておいたお菓子を『ルックス』に見せる。
「食べていいよ?」
それを聞いて『ルックス』がゆっくりと俺が出したお菓子に手を伸ばし、それを一口食べる。すると、お気に召したのか、また一口と食べ進めていく。
「ってことで……私と契約したメリットとしてこんな食事にありつけるよ。それに、まあ色々面白い物も見れるかも……ってことでいいかな?」
『ルックス』はお菓子を頬張りながら、こちらの出せる条件に同意してくれた。
「餌付けって……というよりあっちが勝手に契約したんじゃないのかしら?」
「それはそうだけど。ココリスの言う寝首を掻かれないようにするには、こちらもしっかりとしたメリットを掲示してあげないと。そもそも、私を殺したい理由なんてこの子達に無いだろうし……」
「はあ……何があっても知らないわよ?」
「ココリス……」
「何? 何か言いたい事があるのかしら?」
「……そういうココリスが一番お世話になると思うよ?」
「何を言ってるのよ」とココリスは言うのだが、『ルックス』の強力な身体強化のアビリティを有効に使えるのは前衛であるココリスだろうし、『テネブリス』の闇魔法なら相手を邪魔することで奇襲を掛けやすくしたりと……色々、前衛にはありがたい2人だと思う。
「という訳で……よろしくね」
俺がそう言うと『ルックス』が俺の周りを飛び回る。色々、利点が何なのかと考えていたが、一番は光と闇の精霊と契約というのがなかなか男心をくすぐる展開だったからというのが理由の大半を占めていたりする。
「ってことで……ルックスはその子の面倒を見てあげてね。私はあっちのお手伝いするから」
俺がそう指示を出すと『ルックス』は『テネブリス』の横で看病を始めた。それを見た俺は再びロドニーさんの解体を手伝い始めるのであった。
その時の俺は気付かなかったのだが、この2人と契約したことが討伐と同意儀であり、それによって称号持ちのモンスター全討伐が完了したこと、それとこの2人を使役したことで、『オーディン』の最後のアビリティが解放されていたのだが、俺がそれに気付くのは、もう少し後の話になるのであった。




