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230草

前回のあらすじ「着ぐるみを着た熊さんに出会った!」

―「ホルツ湖畔・巣内部下層」―


「うわ~!? こっちに来ましたよ~!!」


 そう言って、何かから走って逃げるフレッサ。姿の見えない『コルジセプス・ベアー』に近距離で挑むのはかなり危険である。


「ヘルバ! 合わせて!」


「分かった!」


 ドルチェが魔法を放とうとするので、俺も杖を構えて魔法を放つ構えを取る。そしてタイミングを合わせてドルチェは『エアロ・カノン』を放ち、俺は『サウンド・バースト』を放って姿なき『コルジセプス・ベアー』を吹き飛ばそうとする。その直後、フレッサがいる場所から少し奥側の床がいきなり大きくへこんだので、どうやら俺達の攻撃は当たったようである。


「た、助かりました~!」


 フレッサがそこで俺達の横にやって来て休憩を始めた。太ももに手を当てて、しかも息が大分荒かったので必死に逃げていたのが分かる。


「こんな床でよく走れるね」


「まあ、私の職業『ローグ』ですからね~……この位は当然ですよ~……」


「その歳で『シーフ』の上級職……」


「……悪いことはしてませんよ~?」


 昔からやんちゃでもしていたのかと思っていたら、息を整えている最中のフレッサにばっさりと否定されてしまった。これ以上は体力回復の邪魔になりそうなので、俺は視線を先ほどの床がへこんだ辺りに向ける。その辺りをココリスとロドニーさんの2人が囲んでおり、各々アビリティを使用した状態で武器による攻撃を仕掛けているのだが……。その武器が何かに弾かれているように見える。すると、その場から2人が走って離れ、フレッサと同様にこちらへと合流してきた。


「かたっ……ああ、手が痛いわ」


「あれは何か邪魔が入っているみたいだな」


「それなんだけど……」


 ちょうどよく、『コルジセプス・ベアー』の対処をしている皆が集まったので、フリーズスキャールヴさんからもたらされた情報を皆に伝える。


「なるほど、道理でただのキノコと熊の組み合わせなのに硬い訳だ」


「そうなると、先にルックスを倒さないといけないのか。だけど……見当たらないよね?」


「うん。恐らくだけどテネブリスの魔法で姿を消しているのかも」


「それは厄介だね……」


 『ルックス』と『テネブリス』がいなければ、恐らく既に討伐していただろう『コルジセプス・ベアー』にどう立ち向かうか考える俺達。今、こいつが俺達に意識が向いているタイミングでどうにかしたいところである。


「向こうでクリーパーの群れを対処している奴らに行く前に倒したいところだな」


「おじいちゃんの意見に賛成だけど……どうすればいいんですか~!!」


「強力過ぎる魔法を使ったらこの巣が沈みそうだし、炎魔法系もあまり使い過ぎるのはよろしくないわね」


「……ってことでヘルバ。何かいい種無いかな?」


「そんなどこぞの眼鏡少年みたいなセリフを言わないでよ……まあ、あるけどさ」


 皆が周囲を警戒している中、俺は『種子生成』からいつものごとく種を生み出す。そして、俺は例の青タヌキの声真似しながら、今出した種の名前を叫ぶ。


「キラーアイビーの種~!!」


「何、変な声を出してるのよ?」


「そういうお決まりだからさ……。ってことでそれ!」


 俺は生み出した種を辺りにばら撒く。


「それで、私達はどうすればいい?」


「何もしなくて……あ、いや何があってもすぐ逃げれるように構えておいて。この種を私の……」


 俺が種の効果を説明していると、俺の左前の床に熊の足跡が付いた。すかさず俺は『植物操作』で『キラーアイビー』の種を発芽、成長させると『キラーアイビー』の蔦が目に見えない何かに絡みついていく。


「うわっ!?」


 俺が杖を前に出しながら『キラーアイビー』の種を成長させていると、ココリスが俺を抱えてその場から避難する。すると『キラーアイビー』に巻き付かれた見えない何か大きい物が床を削りながら滑っていく。


「皆! チャンスだよ!!」


「頭を狙って!」


 ココリスが俺を素早くその場に置いて、すぐさま倒れた『コルジセプス・ベアー』へと向かって行く。


「頭から倒れたおかげで丸分かりだな!! おりゃ!!」


「一点牙突!!」


「微力ながら頑張りますよ~!!」


「エアロ・ブレード!!」


 そのまま怒涛の攻撃を繰り出す4人。『コルジセプス』の確保はもはや二の次であり、倒れた痕から頭の位置を判断しつつそこを重点的に攻撃を仕掛けていく。


(ねえ。ここで『グングニル』を使ったらコルジセプス・ベアーの急所を狙える?)


(『グングニル』は必中の攻撃魔法であって、急所狙いじゃないのではっきりとしたことは言えませんね。それにここまで来れば、普通の攻撃魔法を喰らわせた方がいいかと)


(りょーかい)


 俺は杖を前に構え、皆が攻撃を仕掛けている箇所を目掛けて『ウォーター・ホイール』をバンバン放っていく。すると『キラーアイビー』の蔦が少しずつ切れ始める。


「くっそ……手ごたえはあるはずなんだが!!」


「ヘルバ! 肥満薬をちょうだい!! 一番強いの!!」


「え? う、うん……!」


 俺はココリスに言われた通りに肥満薬を投げて手渡す。すると、ココリスはそれを一気に飲み干すと、その体がムクムクと太り始める。


「漏脯充飢!!」


 ココリスがそう唱えると太り始めた体はすぐさま元の体型に戻る。すると、ココリスはすかさず槍を構え、先ほどの『一点牙突』を繰り出した。


「ぐぉ!?」


 その瞬間、『コルジセプス・ベアー』が倒れた痕を一直線にココリスが通過し、それと同時に『コルジセプス・ベアー』の短い悲鳴が辺りに木霊し、そして、斬り落とされたキノコの傘を被った首が姿を現した。


「……倒した?」


「そのようだな」


 そう言って、武器の剣を収めるロドニーさん。そして、解体用のナイフを取り出した。


「おじいちゃん。それどうするの?」


「解体する。ヘルバの嬢ちゃんも手伝ってくれ」


「私? 解体なんてあまりしたことないけど、どうすればいいの?」


「心配しなくていい。解体は俺がやる。嬢ちゃんには解体した物を『収納』に入れて欲しいのと、水魔法で水を出してもらいたい」


「それなら出来るけど……」


「それなら2人にこいつは任せるわ。私達は残っているクリーパーを始末してくるから」


「終わったら手伝うからね!」


 ココリスとドルチェはそう言って、クリーパー退治をしているグループの方に向かってしまった。


「私はこっちを手伝いますね~! では、早速……あて!?」


 フレッサが『コルジセプス・ベアー』の解体に意気込んでいると、初めて『コルジセプス・ベアー』と対面した時に見た光の玉がフレッサの頭にぶつかって来た。そして、そのままフレッサの周りを飛び始めて、頭を小突いていく。


「あ、この……ちょっと!?」


 フレッサは自分を襲うそれを捕まえようとして、両腕をあっちこっちへと伸ばすのだが、光の玉も負けじと華麗に躱していく。


「……スキャン」


 どうやら襲われても大したことが無さそうなので。俺はちょこまかと飛び回るそれに対して『フリーズス・キャールヴ』からの『スキャン』で鑑定を始める。


(『ルックス』で間違いありませんね。このモンスター自体には戦う力はありませんが、味方を強化したり、ちょっとした回復魔法やバリアを張れたりします)


(それは分かったけど……どうしてフレッサを襲ってるの?)

 

(恐らく相方である『テネブリス』を守るためかと……)


(ちなみにだけど……その『テネブリス』は戦えるの?)


(同じく戦闘力は無いですね)


 フリーズスキャールヴさんからその話を聞いた俺はとりあえず髪をその光の玉を覆うように操作して、その光の玉を捕らえる。すると、光の玉を解除されルックス本体が露になる。


「へえ……これがルックスか」


 捕まえたそれを近くまで持ってくると、それは今の俺と同じ緑色の髪を持った可愛らしい女の子の妖精だった。それは必死に俺の髪の拘束から逃げようとして、必死に自信を縛り付けている髪を叩いたり、嚙みついたりするのだが、最後には疲れ果てて、ぐったりしてしまった。


「嬢ちゃん。それどうするんだ?」


「うーーん」


 捕まえたそれを見たロドニーさんがどうするのかと訊いてくる。モンスターとはいえ、小さいながらも人型のそれを殺すのは少々抵抗がある。毒で安楽死というのも出来るのだが……それもちょっと嫌だなと思ってしまった。


「ねえ。あなたの相方はどこにいるのか分かる?」


 俺が疲れ果てているルックスに訊いてみると、こちらを向いてキョトンとした表情を見せる。こちらの言葉を理解したことに驚きつつも、それならと話を続ける。


「あなたの相方が解体されたくなかったら、どこにいるのか教えてくれる?」


 ルックスはその場で少し考えると、指を差してどこにいるのか教えてくれた。俺はルックスの指示の元、『コルジセプス・ベアー』の未だに見えない胴体部分へやって来る。すると、今度は上斜めを指差すので、そこから胴体の上へと登る。


「大丈夫ですか~?」


「平気だよ……えーとそこ?」


 俺が指差すと、ルックスは首を縦に振って合ってることを教えてくれた。そして、目当ての場所に来た所で、俺はそこに解体ナイフを突き刺して、少しずつ『コルジセプス』の柄を削っていく。それを続けると、俺の髪をルックスがいきなり両手でバシバシと叩くので、ナイフで削るのを止めて、そこから削った場所に手を伸ばすと、キノコの柄とは違う感触に触れた。そして、それを丁寧にキノコから掘り出し、それを取り出す。


「おお!」


「見えました~!!」


 すると『コルジセプス・ベアー』の胴体が姿を現す。それと同時に、俺の両手の中に黒髪の凛々しい男の子型の妖精が姿を現した。それは大分衰弱しているらしく、非常に血色も悪そうだった。ふと、捕まえているルックスに視線を向けると、心配そうな目でその男の子を見ていた。そして、俺に何かを訴えかけるような目でこちらを見つめて来る。


「……分かったから。そんなつぶらな目で見ないでよ」


 困った子猫のような目で見つめられ続けることに参った俺は『コルジセプス・ベアー』の解体を2人に任せて、テネブリスの介抱を始めるのであった。

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