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22草

前回のあらすじ「エルフ+獣化のフラグが発生中!」

―次の日の朝「城壁都市バリスリー・花の宿プリムラ 食堂」―


「次の仕事の相談です!」


 翌朝、食堂に集まった俺達が各々頼んだ飲み物を飲んでいるとドルチェが突然、声を上げる。ちなみに俺が飲み物を飲んでいるという表現はどういうこと?と感じている奴もいると思うが、俺は水の入ったコップに葉っぱを入れる事で水を飲めるというより、吸水できることを発見した。ただし……水限定である。コーヒーやジュースは吸水しようしたが不可能だった。


「そうね……」


(その前に今日はどうするんだ?)


「今日もお休みよ。まとまった収入もあったし、それに何をするか決めて無いしね」


(ギルドの依頼を見てから決めるというのはしないのか?例えば軽い仕事とか……)


「それもアリだけど……そんな気にならないかな」


「そうね……軽い仕事をやりたいわ」


「あら?仕事の相談かしら?」


 今日の仕事を休む雰囲気でいた俺達に朝食を持ってリリーさんがやってきた。 


「ええ。今日は明日の相談をして、ゆっくり一日を過ごそうかと……」


「うーーん。そうか……」


 困った顔をするリリーさん。今の様子だと何か頼みたいことがあるようだ。


「何か私達に頼みたいことがあるんですか?」


「うーーん……実は……」


「チョット待てリリー。いくら何でもそれは無茶な話だ」


 すると、フランキーさんがやって来てリリーさんの依頼が話そうとするのを止める。無理とはどういう事だろう?


「あの~……無理かどうかは話を聞かないと分からないので、一度話してもらってもいいですか?」


「いや~……嬢ちゃん達でもきつい……というか無理だ」


「無理とは?」


「時間が無いんだよ。頼みたい事ってのがクラリルの捕獲で、期限が明後日までなんだよ」


「え?それって無理じゃないですか?」


「そもそもアレがいるミスック湖は片道3日、往復で6日かかる距離よ?それに……」


 するとリリーさんだけではなく、今度は皆が頭を悩ませ始める。そんな中、俺はどうしても訊きたいことがある。


(なあ……そのクラリルって何なんだ?)


「ああ。ウィードには分からないわよね。説明するわ」


 ここでクラリルの説明を受ける俺。その話を要約すると、ここから3日程かかる場所にあるミスック山の山頂付近にあるミスック湖だけに生息する魚。そしてその味はこの地域では文句なしで一番美味いと言われる魚である。ただし……新鮮な状態での話だが。


(その魚って3日ももつのか?)


「もたないわよ……冷蔵状態で1日ってところかしら」


「ああ。そんなところだ」


(無理じゃん!期限は明後日までなのに往復6日もかかって、さらにその魚の消費期限は1日ってどんなムリゲーだよ!)


「だろう?だから無理って話なんだよ」


「そうなのよね……」


「そもそも誰がそんな話を持ち掛けて来たんですか?」


「領主様だ。何でも明後日に王都から上級貴族の方が来るらしくてな……その方がグルメらしいんだよ。領主としては無理とは分かってはいるんだが、何とか出来ないかってことであっちこっちに訊いているらしいんだよ」


「グルメな上級貴族……?ランデル侯爵かしら」


「そうそう!そんな名前だ……知ってるのか?」


「優秀な視察官らしいわ。なるほど……今回ここを視察するのね」


「ここの領主様は市民思いだからな。それで不備があって何かあったとしたら俺達も落ち着かないんだよ」


(領主様がこれからもここを治めてくれるためにも、何としてもその魚が欲しいって訳か)


「ああ。と、言ってもだ。新鮮じゃないクラリルを持ってきてもしょうがないんだよな……」


「そうなのよね……山を2つ越えないといけないからどうしてもかかるのよね」


(空を自由に飛べないと無理ってところか?)


「ええ。一応、飛行船は存在するんだけど国の管理する物だけなのよね」


「アレは大き過ぎますよ」


(ないのか?鳥のように飛べる魔道具とか……)


「そんな気軽に飛べるアイテムがあったら皆が使用してるよ」


「ルチェの言う通りよ。冒険者だったら空を飛んで目的地まで最短で移動。帰りもそれを使って最速で依頼達成が出来るし、戦闘時だって……」


「あったら絶対、利用頻度の高い魔道具になるよね」


「アハハ!!そうしたら俺もそれを使って、気軽に港まで買い出しに行けるな」


「全くね!」


 皆がそんな夢物語がおかしくて笑い合う。元の世界なら交通手段がしっかりしてるので、山2つくらいの距離ならあっという間に移動できるのにと思ってしまう。


「ウィードの世界だったら解決策があったのかしら?」


(あるぞ。そのミスック湖近くに平らで開けた場所を作って、そこにヘリコプターって言う空飛ぶ機械で往復すれば半日でいけるんじゃないのかな?)


「それは羨ましいわね……私もそんな機械が欲しいわ」


 ココリスが空を飛べたらと、目を瞑って想像している。きっと頭の中では両手を広げて空を飛んでいる事だろう。


「それで出来ないかな~?って相談しようとしたんだけど……無理よね?」


「ですね」


「うんうん。流石に空を飛ぶなんて……」


(一応、あるぞ?空を飛べるか分からないけどな)


 俺の意外な一言を受けて、皆が黙ったままこちらを見る。


「え?ウィードどういうこと!?」


(昨日、動物変身薬を見ただろう?アレって痩身薬を調合で変異させることで出来たんだが……実はその逆も試しにやったんだ)


「逆って……肥満薬?」


(ああ。瘦身薬で動物変身薬が出来るなら、肥満薬はどうなんだろうって……試しにやってたんだ。それが……)


 俺は収納から瓶に入った一つの薬をテーブルの上に出す。


(この鳥獣変身薬だ)


「鳥獣……つまり、鳥になれるってこと?」


(ああ。これって飲んだら空を飛べるのかな……って思って今日にでも皆に話そうと思ってたんだ)


「飛べるの!?空を自由に飛べるの!?」


(今も言ったように分からない。誰か実際に飲んで効果を確かめてくれるなら別だが)


「ウィードって調合の効果で薬の効果が分かるんだよね?」


(調合で分かるこの薬の効果なんだが、動物変身薬とほぼ同じ効果で違うのは変身する種類が鳥に変わっただけなんだ。そして、これを飲んだから飛べるっていう表記は無かったんだよな)


「だから、飲んでみないと分からないってことね」


(どうだ?誰か試しに飲んでみないか?効果は1時間、飲む量に気を付けないと……あの窓の所にいる鳥さんみたいになってしまう可能性もあるんだが)


 俺は葉っぱ先端を窓の方へと差す。窓の向こう側には雀に似た鳥がいて、ちゅんちゅんと鳴いていた。


「アレになるのはチョット怖いな」


「襲われたら一溜りも無いものね~……」


「私、飲んでもいいかな?」


 ドルチェが進んで飲むと志願した。失敗すると雀みたいになってしまうかもしれない話をした後なのに度胸があるな。


「一度だけでもいいから空を飛んでみたい!!」


 両手を前に出して、飛ぶ気満々のドルチェ。空を飛ぶ好奇心が勝ったために、ここまで積極的だったってことか。


「大丈夫かしら……?」


(少しずつ飲めば問題無いと思うけどな……それなら朝食後に試してみるか?)


「うん!」


 満面の笑みでドルチェは実験に参加することに同意するのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数時間後「城壁都市バリスリー・花の宿プリムラ プライベートガーデン」―


「では……いきます!!」


 ドルチェが靴を脱ぎ、トレーニングウェアを着た姿で薬を少しずつ飲み始める。俺は置かれた台の上でそれをココリスと一緒に見守る。朝食後、鳥獣変身薬を試す前に、ラメルさんの店に頼まれていた動物変身薬の搬入を済ませ、少しだけ買い物をしてからここへやってきた。


「……うん!?」


 飲んでいたドルチェが飲むのを止めて、自分の手足を確認し始めるドルチェ。その手足から光の粒子が現れて包んでいく。


(体には光の粒子が出ていないから、完全に鳥になる事は無いだろうな……)


 俺がそう言うと、その両手の光の粒子が着物の振袖みたいに下へと広がっていく。


「う~ううん~~……!!」


 艶めかしい声を上げているドルチェ。感じているのだろうか……。男としては実に興奮する……いや、深くは追及しないでおこう。


 そんなドルチェに対して失礼な事を考えていると光の粒子が一気に晴れる。


「お?……おお!!凄い!手と足が鳥さんみたいになってる!!」


 その場で両手を動かして、羽ばたく真似をするドルチェ。


「おっと!?」


「ルチェ!」


 歩きなれていない鳥の脚のためにこけそうになるドルチェ。すかさず、ココリスが両手で受け止めてどうにか転ぶのを避けた。


「ありがとう!」


「全く……気を付けなさいよ……それでどうなの?」


「待って……」


 再び、その場に立って羽ばたく真似をするドルチェ。改めてその姿を確認するが……まるで、お伽噺のハーピィのような姿をしている。


「うーーん……こうかな?」


 ドルチェが下に向かって羽を思いっきり羽ばたかせる。すると、体が少しだけ浮いた。


「おお!!いけるかも♪」


「気を付けて!いきなり高く飛ばないでよ!?」


「分かってる!」


 先ほどの浮くことが出来たのをきっかけに、そこからドルチェは黙々と楽しそうにその場で両手を羽ばたかせる練習を始めるのだった。


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