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226草

前回のあらすじ「蜂の巣の島の探索開始」

―「ホルツ湖畔・クリーパーの巣の上」―


「これはなかなか高い山ですね……」


 リーダーが山を見上げながら、その高さに驚く。その高さはホルツ湖畔にある島の山と比べたらかなり低く、50mほどの高さしかなく、富士山のような凄い高い山という訳では無いが、これをクリーパー達が長い年月を掛けて作ったと考えると驚きの高さではある。


(熊本城の天守の高さが30mほどなので……この巣はそれより少し大きいぐらいでしょうか)


(湖に浮かぶ巣の上にお城を建設したって考えると、やっぱり凄いかも……)


 フリーズスキャールヴさんの具体的な例えのおかげで、これがどれほどのものなのか改めて感心する。しかし、お城というのは言い例えだと思ってしまった。今は冬の季節だが、これが他の季節だった場合、この蜂の巣の陸地には大勢のクリーパー達と哀れにも餌食となった動物やモンスターの死骸で溢れかえっていただろう。この山がお城なら目の前に広がる陸地は城下町であり、湖畔はお堀、そしてテネブリスという妖術遣いが『アメンチア』によって、このお城を消している。まさにクリーパー達にとってはここは難攻不落のお城で間違いないだろう。


(それに、もっと最悪な事態が起こってるかもしれないな……)


 先ほどから気になっていた件を訊くため、『ロード・マップ』を使用しているドルチェに話し掛ける。


「ドルチェ。反応出てる?」


「出てるよ。かなりの数の反応があるんだけど……20以上はあるかな? 何か反応が朧げなのは変わらないんだけど……」


「その中で強敵になりそうな反応とか分かる?」


「ごめん。それは分からないかな……」


「それは残念」


「何ですかヘルバさん~。さっきの話からして黒幕はクリーパー達のボス……つまり女王蜂じゃないんですか~?」


「そう思ってたんだけど……」


「何よ。早く言いなさいよ。どうせやらないといけないんだから……」


 言い淀んでいた俺にココリスが早く話すように促してくる。そこで、俺は意を決して話す。


「恐らくだけど……クリーパーの女王蜂、テネブリスの2体は確定でここにいる。そして、もしかしたらテネブリスと一緒にいるルックスもいるかもしれない」


「テネブリスとルックスがペアでいる可能性は高いですね。この2体の数少ない話を思い返すと、いつも一緒に出てきますし。称号持ちのモンスター2体同時に相手となるときつそうですね……」


「そこは想定済みなんだけどね。それよりもヤバいのは……謎のモンスターがここにいる可能性が高い。この巣を今も動かしている謎のモンスターがね。どう考えても、これほどの規模の巣を動かしているのが、その3体じゃない気がするんだよね……」


「テネブリスが闇属性でルックスは光属性の魔法を使用する話は聞いた事があるな。確かにその2属性に物を動かすような魔法は無かったと思うが……。それとクリーパー達にはこの巣を動かす力や、ここまでの企みを企てる知恵も無いはずだ」


「……つまり?」


「いるんだろうね。その3体と同格のヤバい奴が1体……」


 そこで俺は再び山の方を見る。これから激しい戦いを繰り広げないといけないかもしれないと思うと非常に憂鬱である。さらに……。


「そんなヤバい状況かもしれないのに、この巣を壊さないように戦わないといけないんだよね……」


 この巣を壊すのは決定なのだが、この湖上で破壊してしまうと、この巣に積まれたハチミツが全て湖へと流れ出てしまう。そのため、湖畔に接岸して、少しずつ解体することになる。


「入り口は?」


「見つけたよ。あっち側に横穴があったんだ」


 俺はそう言って、指を差す。そして、全員でその横穴へと近付く。横穴を覗くと山へと続いてはいるのだが、その向きは少し下向きである。


「反応は?」


「……ここまで来たから分かるけど、見張りはいないみたい」


「じゃあ~……斥候の私が先に潜入しますね~!」


「私も一緒に行く。私のアビリティなら不測の事態にも対応できるから」


「しかし……嬢ちゃんのその花は……」


「大丈夫」


 俺は『ヴァーラス・キャールヴ』と『風魔法』でいつもの風の結界を作り出す。ただし……いつもとは違って今回は外へと殺虫菊の匂いが漏れないように、するための特殊な結界となっている。


「さっきまでの殺虫菊の匂いが……消えた?」


「単に漏れないようにしただけだよ。クリーパー達に襲われるようなら、効果を反転させて怯ませるからよろしくね」


「嬢ちゃん……本当に何でもありなんだな……」


「器用貧乏なだけだよ。それじゃあ行くね」


 俺はフレッサと一緒に横穴へと侵入する。下へと続く道をまっすぐ歩くと、すぐに広い空洞へと出る。そして、上を見上げるとハニカム構造の巣が広がっていた。

 

(巣の中央へ到着したよ。途中に障害物は無いから下りてきてもらっていいよ)


 『念話』で外にいるドルチェ達に連絡し、そのまま周囲の様子を確認する。


「(あそこに上へと上がるためのスロープ状の道がありますね~)」


 小声で話すフレッサが指差す方向には上に見えた蜂の巣へと続くスロープがあり、もう1つ、これより下へと続く道を見つけただけで、それ以外は特にこれといった物は見当たらなかった。俺は『念話』で先にスロープで上に上がることをドルチェ達に伝えて、フレッサと一緒に上の層へと上がった。


「(下じゃなくていいんですか~?)」


「(あの下は水面より下の区域になるからね。いつ浸水してもおかしくないし、周りが水ってこともあって温度は低いしで、そんなところに好き好んでいるのはこの蜂の巣を移動させている何者かだけだと思うよ。それと、先に上にいるモンスター達を黙らせて、下での戦闘を極力減らしたいっていうのも理由かな)」


「(ほう~……確かにその通りですね~)」


 小声でそんな話をしつつ上の層へと到着する。そこには一面に広がるハニカム構造の巣と、そこで眠るたくさんの巨大な幼虫がいた。


「(お世話役は……いなそうですね)」


「(そうみたい)」


 俺達は巨大な幼虫を起こさないように、静かにその層を通り抜け、また上へと続くスロープを使ってさらに上へと登っていく。


「(ストップ!)」


 次の層へと到着する直前、フレッサが腕を出して止まるように指示を出すので、俺はフレッサの真横まできて、次の層の様子を確認する。


「(見張り……いえ、お世話係ですかね~?)」


「(そうじゃないかな)」


 そこにいたのは2匹のトリニティヘッド・クリーパー・ビー。蠍のような尾に頭のように見える触手2本を本当に有しており、これを本当に蜂と呼んでいいのか疑いたくなる大型犬サイズの昆虫だった。


「(あそこまで大きな虫って始めて見たかも……)」


「(私もです~。中々、昆虫型のモンスターって少なくて、多くはただの虫だったりするんですよね~。それで、どうします~?)」


「(私に任せて)」


 俺はフリーズスキャールヴさんにも協力してもらって、殺虫菊の殺虫効果を使用した『ポイズンショット』を遠距離射撃で行う。


「ぎ!?」


 毒液が顔に直撃したクリーパー達はその場で静かになる。そして、フレッサが素早くそいつらの元へと近付き、頭を切り落として無力化する。


(クリーパー遭遇。無力化したから上へと向かうね)


 フレッサと合流して、見つけたスロープでさらに上の巣へと上がる。そして次の層にも3匹いたので、そいつらを手早く始末する。そして、さらに上の層へと向かうと同じようにクリーパー達がいたので素早く始末する。


(ヘルバ! 聞こえる?)


 クリーパー達を始末し終えた俺達がさらに上の層へと向かおうとすると、ドルチェから『念話』が入った。


(聞こえるよ。どうかしたの?)


(ロドニーさんからの連絡で「そこで動かず私達と合流するように」だって。高さ的にヘルバ達のいる階層の次の階層が天辺で女王蜂のいる階層になるかもしれないみたい)


(了解。なら、ここで待ってるよ)


 俺はそう返事をしてここで待機しようとすると、フレッサも同じ連絡をロドニーさんから受け取ったらしく、俺達は皆が来る前に待機する。それから間もなくして、リーダーを先頭に皆がやって来た。


「お二人ともお疲れ様でした」


「大したことしてませんよ~。ねえ、ヘルバさん~?」


「そうだね。それで、私としてはこのまま上にいる女王蜂とその手下を討伐しちゃうつもりなんだけど、皆はどうかな?」


「もちろんです。ロドニーさんからもここで女王蜂を仕留めておいた方がいいと助言がありましたので、一気に仕留めてしまいしょう。それでお二人も準備はいいですか?」


 リーダーにそう訊かれた俺達は頷いて、そのまま皆と合流してそのまま上の層へと上がる。


「ぎ!!」


 こっそり上の様子を伺おうとしたら、他のクリーパー達より一際大きい蜂が声を鳴らし、周りにいたクリーパー達をこちらへとけしかけて来た。


「あの大きな蜂が女王蜂だ! あいつだけは逃がすな!」


「了解! って訳で……これでも喰らえ!!」


 俺は風の結界を解除して、堪っていた殺虫菊の匂いをクリーパー達の群れに向けて放出する。その効果は抜群であり、クリーパー達はまるで麻痺したかのように、その場に立ったまま体を震わせ始めた。


「ウィンド・カッター!!」


 そこにドルチェが風魔法で先制攻撃を仕掛け、後は近接武器を使うココリス、リーダー、ロドニーさんの3人が周りを蹴散らし、身動きの取れない女王蜂をそのまま仕留めようとした。


「ぎー!!」


 薬の効果が切れたのか、突如として女王蜂が動き出し、その蠍のような尾を振り回し始めた。それに対して、3人は素早く避けるのだが、ロドニーさんはそのまま女王蜂の元へと接近する。


「おじいちゃん!? 危ない!!」


 フレッサが驚く中、ロドニーさんは女王蜂の持つ2つの触手から繰り出される毒針をギリギリの距離で避ける。そして、手早く俺の渡したお香に火を付け、そのまま女王蜂へと投げ付けて怯ませると、手にした2本の包丁で素早く節部を切って、あっという間に女王蜂をバラバラに解体してしまった。


「……仕込み完了」


 ロドニーさんはそう言って、2本の包丁を仕舞う。それを見たフレッサは「おじいちゃん。すげー……」と声を漏らすのであった。

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