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223草

前回のあらすじ「最後の『オーディン』のアビリティのモチーフは『北欧神話の終わり』かも?」

―探索を始めて1時間ほど「ホルツ湖畔・湖上」―


「やっぱりというか、何というか……」


「見つかりませんでしたね~……」


 残りの島を調べ終わった俺達は、最後に調べた島の近くの湖上で次の行き先をどうするか話し合っている。


「一旦戻るのも手かしら……」


「そうだね……」


 成果無いまま終わってしまった島探索に落胆する皆。そんな中、俺は1人今まで得た情報を一度整理していく。


(恐らくだけど、この湖内にあるのは間違いない……。サイズはフリーズスキャールヴさんからの情報では小島サイズって話。それなのにここにいる兵士さん達は誰一人として目撃していない……)


 確実にクリーパー以外の何かが関わっているのは間違いない。俺の『インビジブル』のような不可視のアビリティを持つ者かもしれない。


(小島サイズを隠せるなんて相当の高レベルなアビリティを有しているよね……)


 最低でも10年前からここにあるクリーパーの巣。その間、様々な騎士や冒険者がここにやって来たはずである。中には鑑定系のアビリティを持つ者もいたはずなのに、誰1人として見破れなかった事を考えれば相手の力量がそう捉えて問題無いだろう。


「嬢ちゃん? 何か名案でもあるか?」


 考えに耽っているとロドニーさんから声を掛けれられる。俺はそこで一旦考えを止めて、皆の話し合いに混ざる。


「残念だけど案は無いかな……。ただ、今までの情報から考えても湖上にいるのは間違いないと思うんだよね。前にも話に出てたけど小島サイズの巣となると維持しようと思ったら、かなりの数のクリーパー達が必要になるはず……だけど、それらしい痕跡を陸上では1つも見つけられなかったというのは難しいと思うんだ」


「そこは間違いないわね」


「私も。だけどそうしたら巣はどこにあるんだろう……?」


「……それが分かったら苦労しないかな」


 考えが思い付かない俺はその場で空を見上げる。空は曇天であり、いつ雪が降ってもおかしくない天気である。


「みなさ~ん! とりあえず、一回温かい物でも飲んで休憩しませんか~? お疲れ状態じゃ、いい案なんて思いつかないでしょうから~!」


 フレッサがそう言って、自身の鞄から革で覆われた水筒を取り出そうとする。ならばと、俺は『収納』からカップを取り出し、それをフレッサに渡す。


「嬢ちゃんに預ければ良かったんじゃ無いか?」


「湯たんぽ代わりに利用してたの~!」


 祖父であるロドニーさんにそう言って、フレッサはカップにお茶を注いでいく。ちなみにだが地球のように2重構造をした水筒は無い。だから、フレッサの水筒のように革で覆われているが本体が金属で出来ているものは湯たんぽ代わりに出来たりする。


「寒かった? それならもうちょっと温度を上げるけど……」


「大丈夫ですよ~! 流石に冒険者として厳しい環境に慣れておくのは必要ですから~!」


 そう言って、やんわりと断るフレッサ。いい心がけだと思いながら、彼女がお茶を淹れたカップを、隣の舟に乗っているココリスに手渡そうとする。


「あっ!?」


 すると、手に持っていたカップを滑らせ湖に落としてしまった。すかさず、俺は髪の毛を操作して、落としたカップを回収不可能になる前に掬い上げる。


「ありがとうございます~! って!? 髪の毛濡れちゃってますよ~!! 風邪を引いちゃいますから、すぐに乾かさないと~……」


 そう言って、フレッサが俺の濡れた箇所の髪を、自身の鞄から取り出したタオルで拭いてくれた。「全く……締まりがつかないな」とロドニーさんに軽口を言われてしまう。それに対して、フレッサは反論して、それを見た他の皆は苦笑するのであった。俺はそんな皆の様子を伺いながら、静かに髪を拭かれていると、さっきのカップが落ちた時の光景を思い返し何かもやもやとした気持ちになる。


(何か……忘れている気が……)


 どうしてもやもやした気持ちになっているのか考えていると、とある事に気付いた。


「もしかしたら……」


「何かいい案が思い付いたの?」


「うん。いや、けど本当にそんなことが……」


「いいから説明してちょうだい」


「う、うん。それじゃあ早速……」


 俺は立ち上がり、水面へと顔を向ける。


「エコーロケーション……」


 そう呟いて、口を開いて声を発する。すると、声が当たった場所から波紋が広がっていく。そして、それは水中にも広がり、俺に水中の情報も教えてくれた。


「それって『音魔法』のアビリティの1つよね? 音のはんきょうとかだったかしら、まさか……それで巣を見つけるつもり?」


「うん」


「流石にそれは厳しいんじゃないの?」


「私がこのまま声を発すると大変だから……よっと」


 俺は両手を合わせて『種子生成』で種を1つ作る。


「オトダシ草。喉のお薬に使われるポピュラーな植物なんだけど……これを成長させると特定の音を出し続ける花を咲かすの。」


 俺はそれを横髪に植えて、そのまま『成長促進』で俺の髪に根を張り付かせて白い鉄砲百合のような花を咲かせる。


「後はこうやって振ると……」


 すると、白い花から鈴のような音が周囲に響く。仕組みとしては、魔力を含む普通の花で言うなら雌しべや雄しべから鳴っており、それがラッパ型の形状である花びら部分で増幅されて鈴のような音として周囲に響き渡っている。


「綺麗な音が出ますけど~……それがどう役立つんですか~?」


「これをこうやって……」


 俺はオトダシ草が根を張っている横髪を伸ばしそのまま花を水中に入れる。そして振ると水中に花があるのに周囲に鈴の音が響き渡る。


「こうやって音を鳴らすの。これを『エコーロケーション』で反響音を拾ってあげて、この湖の周囲を調べるって訳」


「え? でも……こんな極寒の中で花なんて……」


「私のアビリティで花をしっかり守ってるから安心して。って事で……私は探索に専念するから、漕ぐ係を変わって欲しいんだけど」


「任せろ! 嬢ちゃんに任せっきりだったしな。この位はお安い御用だ。なあ!」


「私もですか~!! まあ周囲の警戒をヘルバさんがやってくれるなら必要ありませんもんね~……」


 同じ舟に乗っている2人が同意してくれたので、舟の操舵を2人に任せて、俺は探索に専念する。


「それじゃあ……出発!」


 ロドニーさんがゆっくりと舟を漕ぎ始める。そして俺は横髪を揺らし『エコーロケーション』でその反響音を回収して水中を調べていく。


「あの……ヘルバさん。質問してもよろしいですか?」


「返事が遅くてもいいならどうぞ……」


「それでは……ヘルバさんはクリーパーの巣が水中にあると思ってるんですか?」


「それは無いと思ってるよ……私が調べているのはむしろ水上に何か無いか調べてる感じかな……」


「水上ですか……?」


「そうだよ……」


 俺は探索に専念したまま、ゆっくりと説明していく。


「小島サイズの巣となれば……どうやったとしても目立つはず。だけど……この巣はどうしても見つけられない……となると、そもそも痕跡が残りにくい場所にあるんじゃないかと思うんだ……」


「なるほど……水上にあるなら水がその痕跡を全て流してしまいますからね」


「そういうこと……。そして、巣を視認出来ていない以上、クリーパーとは違う何者かが巣を隠しているんじゃないかと思うんだ……例えばこんな風に」


 俺は自身に対して『インビジブル』を発動させる。すると、俺のアビリティを知らなかったリーダー達から驚きの声が漏れ、どこにいるのかと俺を探し始めたのだが、すぐにフレッサが見破ってしまった。


「同じ場所にいますよ~! ほら、水中に不自然な射線が出来ちゃってますよ~!」


「正解……」


 俺は『インビジブル』を解除して姿を現す。


「おお……本当に目の前にいたな。嬢ちゃんって何でもアリだな……」


「ロドニーさんの意見は最もだよ。高火力、高い防御性能、高隠密性、高ランクの回復薬を自分で作って、それらを『収納』という容量無限で悪くならないアビリティもあって……」


「毒なども使えるから搦め手も得意だし、水中でもある程度なら戦えるみたいだし……後は空を飛べれば完璧ね」


「……化け物ですね~」


「その発言は……酷くない……? まあ、自分でも時折思ってるんだけどさ……」


「まあ『聖女』ってアフロディーテ様に認められてるんだ。むしろ、それだけのアビリティを有しているから選ばれたっていうなら、俺としては納得だがな」


「まあ……少し事情があってそうでは無いんだけどね……あ、でもいくつかのアビリティがアフロディーテ様の調整ミスだから、その関係で『聖女』の称号を貰った節はあるかな……」


「……これ聞いても大丈夫な話ですかね?」


「他言無用がいいかと……」


「天罰を貰いたくないならね……」


 ドルチェとココリスの話を聞いて、他の3人は目を見合わせ、アフロディーテ様の失態について誰にも言わないことを決めるのであった。それから、さらに数時間……途中で休憩を挟みつつ、探索を進める俺達。すると、近くで変わった反応が出た。


「あ……これって」


「まさか見つけたんですか!?」


「あ、ヘルバさーん!」


 その変わった反応がした方向からビスコッティの声が聞こえる。そして『フォービスケッツ』の4人も乗せた船団の人達がこちらに手を振っている。


「何ださっきから見えてたアレに反応したのね……」


「違う……」


 俺はすぐさま『音魔法』のアビリティ1つである『収音』というのを使って、遠くにいる皆に警戒を促す。


「船団後方に謎の巨大な物体反応あり!! 全員直ちに警戒せよ! 繰り返す! 後方に謎の物体あり!! 警戒態勢を取れ!!」


 俺はそう叫ぶと、あちらの舟にいた全員が警戒態勢を取り始める。そして聞いていたこちらの舟にいる皆もすぐさま警戒態勢を取るのであった。

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