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222草

前回のあらすじ「小島サイズの蜂の巣って現実なら大騒ぎ……」

―「ホルツ湖畔・宿舎」―


「……ルックスとテネブリスか」


 自室で今回相手するかもしれない称号持ちのモンスターの名前を何の考えも無しに口にする。お風呂を済ませ、既に自分の体はベットで横になっている。後は目を閉じ眠るだけなのだが、明日の事を考えていたらそのモンスターのことが気になった。そして、俺は自分のステータス画面を開き持っている称号を確認する。


「私の持つ5つ称号……もし今回の件にこの2体が関わっていて、戦うことになったら……」


 俺はこの世界にいる称号持ちのモンスターを全て倒したことになる。そして、ドルチェや城壁都市バリスリーのギルマスであるギリムの話の通りなら特殊なアビリティなり称号なりを得られるはずである。


「果たして得てもいい物なのか……不安になるな」


 『一つの国が一夜にして滅んだ』という謂れのある不安しかない称号。一応、俺以外にも手にした者がいて、その人達は何も起こせなかったと聞いているが……。


「私の場合……そうも言ってられないんだよね」


 俺は一抹の不安を抱きながら、夢の世界へと沈むのであった。そして翌朝……。


「ふぁ~……」


 中々、眠れなかった俺は欠伸が出てしまった。


「嬢ちゃん。寝不足か?」


「うん……ちょっと考え事をしていたら寝付けなくなっちゃった」


「このメンツの中で一番幼いんだから、あまり根を詰めないようにな。若年寄のような子供だとしても無理強いさせる訳にはいかないしな……」


「あはは……」


 胸を除けば見た目は小中学生である俺。ロドニーさんもそんな姿の俺を見てそう言ってくれたのだろう。だが……実際には生後1年ちょっとと知ったらどんな顔をするだろうか。


「何か気に障る事を言っちまったか?」


「心配してくれて嬉しかっただけだから気にしないで。それより……私が作ったパンケーキを食べたいって話だけど素人料理でいいの?」


「あんな面白そうなものを見たからな。お前さんが良ければ、うちのメニューとして出したいところなんだが?」


「いいよ。私も他の人から得た知識だし……。世に広まった方が私も嬉しいかな」


「それなら、他の料理人には俺が教えてやる。この料理をここだけに留めるのはもったいないしな」


「そうだね」


 皆が起きて食堂にやって来る前に料理を作り終えないといけない慌ただしい時間だが、ここにはゆったりとした雰囲気が漂っている感じがして、俺にとっては一仕事前の楽しい時間である。


(無理矢理作らされるのは嫌だけど、こういう風に作るのは好きなんだな私……)


 薬や料理と何かを作るという行為が好きなんだなと改めて実感する。薬は身動きの取れない草の姿だった俺が生きるために始めた仕事だったが、今はどんな面白い薬が作れるか楽しみだったりする。


(この件が終わったら、利益など気にせず面白そうな効果のある薬を作ってみようと……)


 そんな予定を立てたりして楽しい一仕事前の時間を過ごした後、俺は再び同じメンバーで小舟に乗って湖上へと出るのであった。


「この島は無さそうだね」


 可能性のある大きい島から調べて。


「この島もないわ」


 徐々に小さな島へとなっていく。モーターが無いので手漕ぎで小舟を動かしているのと、夜が早く来る冬というのもあって、今日も全部の島を調べきれずに終わる。そして、さらに次の日、そして次の日と……気が付けば探索を始めてから4日目が終わっていた。


「小舟がさらに4隻追加で到着したので、明日からもっと大勢の人数で調べようと思います」


「湖畔周辺の調査も手詰まりでしたもんね……」


「俺もリーダーの提案に賛成ですよ」


 隊員達から湖のより詳しい調査を求める声が上がる。2日目から湖畔周辺の土壌も調べており、そちらからは全くハチミツ成分は検出されておらず、クリーパー達が生息する形跡も見つからなかった。


「水や土を鑑定した私も同意見。クリーパー達は湖上のどこかにいるはずだと思う」


「ヘルバさんがそう言うなら、明日からは湖畔周辺の見回りは最低限にして、さらに動員して調べましょう。舟をここまで運んで護衛した冒険者の皆さんですが、明日は見回りをお願いします」


 冒険者ギルドで顔を合わせたパーティーがリーダーの指示に頷く。このパーティーは川の調査を終えて、舟の搬入の護衛も兼ねてホルツ湖畔にやって来た。俺は話した事は無いが、どうやらフォービスケッツの4人とは知り合いらしく、親し気に話をしていた。


 明日からさらに大勢の人数で調査する。調べ終えていない島は後2つだけなので、それを調べるのは初日から調べていた俺達でいいだろうとなり、追加の4隻にはどこを調べてもらうか念入りな話し合いが行われる。そして、明日は島が近くに無いために俺達が調べる事が無かった場所を念のために調べてもらうことになった。


「それでは……明日に備えて皆さんゆっくり休んで下さいね」


 こうして今日の話し合いが終わる。俺は人が少なくなった食堂で1人、2日前に懸念していたある事を憂慮していた。


「どうしたのよ。1人呆けちゃって……」


 すると、そこにココリスとドルチェが温かい飲み物とお菓子を持って反対側の席に座った。


「……夕食後のお菓子は太るよ? というより、お菓子なんてどこから持って来たの?」


「ロドニーさんがどうぞって。子供のあなたが頑張ってるから「ご褒美にでもあげないとな」って言ってたわよ」


「子供……実年齢1歳ちょっとって言ったら驚かれるかな?」


「「……!?」」


 俺がそう言ったら、2人は静かに驚愕の表情を浮かべる。


「いや!? 私と出会った時に生まれた半年って言ったよね!? そういえばそうだったとか揃いもそろってそんな事ある!?」


「そういえばそうだったな……って」


「言われると物凄い衝撃があるわね……」


 2人がその事実に溜息を吐く。「生後1歳半とは思えないわよね……」とか「普通ならやっと立ち歩きしてる歳だよね……」と俺を見ながら呟いている。


「っと……話が逸れたわね。とりあえず、お菓子を摘まみながら話をしましょうか。何か悩み事があるみたいだし……」


「悩みって訳じゃないけどね」


「ここで呆けている時点で、深刻な悩みだと思うわよ」


「それでどうしたのかお姉さん達に話してみなよ! それとも私達でも話しづらいことかな?」


「それは……」


 考えている内容を伝えてもいいのか一旦考えるが、黙っていても仕方ないので素直に話す事にした。


「今回さ。もしかしたらルックスとテネブリスと戦うかもしれないじゃん。その時……私は戦闘から外れていた方がいいのかなって」


「どうして? 何か問題でもあるかしら……」


「もしかして、私が話した全ての称号持ちのモンスターを倒したことで手に入る凄い呪文のこと?」


「うん。ギリムから聞いた話なんだけど……全て揃えたとある人物が一夜にして国を滅ぼしたって……」


「そんなの噂よ。あなた以外にも全て揃えた人物は少ないけどいることはいるのよ? それだから……」


「オーディンの最後ってどうなったか知ってる?」


 ココリスの話を遮り、俺はオーディンの最後について2人に話したか訊いてみる。


「多分……聞いてないかな。それがどうしたの……ってまさか」


「そのまさかだよ。オーディンはフェンリルに食い殺され、そして彼の世界はスルトという神の炎によって9つの世界全て滅亡しちゃったの……そして、私の『オーディン』のアビリティはまだ1つ解放されていない」


「『オーディン』のアビリティは今のところだと玉座、宮殿、武器がモチーフだったわね。そして、まだ解放されていないアビリティを習得する条件が、もしかしたら称号持ちのモンスター全てを討伐する事かもしれないってこと?」


「アフロディーテ様は解放条件に付いて何も言ってなかったけど……もしかしたらね」


 前回、アフロディーテ様に『オーディン』の最後のアビリティを尋ねた時、『フリーズス・キャールヴ』、『ヴァーラス・キャールヴ』、『グングニル』の3つの使い勝手の悪さをどうにかするアビリティだとは聞いていたけど、習得に関わる条件は何も聞いてなかった。


「フリーズスキャールヴに訊いてみないの?」


「お答え出来ませんだって。素面で答えるから、問題があるのか無いのかも分からないんだよね……まあ、もしかしたら調整中なのかもしれないけど」


「どういうこと?」


「……最後のアビリティがどんな物なのか少しだけ訊いたんだけど、『オーディン』単発だと弱すぎるから、神の名に相応しい強力なアビリティにするアビリティだって……」


「……あなたが手にしたらどうなるのかしら?」


「魔王降臨かな……」


 ココリスの質問に俺はそう答えるしかないのであった。それを聞いた2人は苦笑いをして話題を変えて来た。


「とりあえず、それはそうなったら考えた方がいいわよ。本当にそいつらが来るかも分からないし……それより明日で島を調べきるけど、あなたからして残りの島に巣があると思う?」


「……可能性は低いかな。残る2つは小さい島みたいだし」


「予測の通りなら小島サイズのはずだもんね……」


 ドルチェがそう言って、お菓子に手を付けるので俺も1ついただく。クッキーのようなそれは優しい甘さが口に広がり、何枚でも食べられる位に軽い食感だった。


「マカロン……かな?」


「そんな名前のお菓子なの? 私、初めて食べたけど美味しいね!」


「ええ。いくらでも食べれそう」


「そしてふと……うぎゅ!?」


 俺が「太る」と言おうとしたら、ココリスが席から立ち上がり、俺の口を掴んで喋れなくする。


「何か言ったかしら?」


「い、いふぇましぇん……」


 俺は凄い威圧をこちらに向けるココリスに何も言えず、渋々口を慎むのであった。その後、しばらくはクエストに関する話をしていたが、徐々に他愛ない話で盛り上がり、気付けば食堂内に人が俺達以外誰もいなくなっていた事に気付いたところでお開きになるのであった。

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