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220草

前回のあらすじ「小島調査中……」

―「ホルツ湖畔・1番大きい島」―


「思っていた以上に広いかも……」


 ホルツ湖畔にある島々で1番の大きさを誇る島へとやって来た俺達。砂浜に船を付け島に上陸する。


「なかなか快適だったわね」


「ヘルバの『ヴァーラス・キャールヴ』の能力様々だね」


 この島に移動する際、俺が『ヴァーラス・キャールヴ』で寒さを軽減している事を知ったもう1つの船に乗っていた3人が「自分達にも!」というので、『ヴァーラス・キャールヴ』の範囲内に入ってもらうために俺達の船と並走する形で漕いでいた。


「助かりました。この歳になると寒さがきついもので……」


「分かる。若い頃はどうとでもなっていたが、今じゃ腰に響いてな……」


「後は関節の節々とかも痛くなるんだよね……」


「「そうそう」」


 俺の言葉に頷くロドニーさんとリーダーの2人。すると、それを聞いたフレッサが「ヘルバさん。まだお若いですよね~?」と疑問を口にする。


「はいはい。無駄話をしていないで、さっさと探索に入るわよ」


 そう言って、俺達の話を終わらせようとするココリス。もしかしてだが……。


「(若い……)」


「何か言ったかしら?」


「何も? とりあえず島周辺を進もうか……」


 彼女の何に触れたのかを察した俺はこれ以上は突っ込まずに、すぐさま島の探索へと気持ちを切り替える。まずは手始めに『スキャン』を使って、目に入る物から『トリニティヘッド・クリーパー・ビー』の情報が得られないか調べていく。


「一番大きい島って聞いてたけど……山もあるのね」


 ココリスが島の北東にある標高200~300mぐらいの山に注目する。季節が冬というのもあって、葉を付けていない木々が多く見える。


「平らな島だと思っていたから、あの山を調べるのは予想外だわ」


「まだ雪が降っていないのが幸いだね。ここって冬になると結構積もっちゃうからさ」


「ドルチェさんの言う通りですね。もう少ししたら、ここは雪で覆われてしまいます。だから、それよりも前にクリーパーの巣を見つけなければいけないですね」


「だな。雪に埋もれた巣なんて見つけられたもんじゃないしな」


「そういえば~、クリーパーって地面に穴を掘って巣作りするんですよね~」


「お前冒険者なんだから忘れるなって。ったく……」


 そんな会話を聞きながら、俺は周囲の鑑定を続ける。ちなみに、会話だけなら「こいつら遊んで無いか?」と思われるが、武器を携帯しつつ、しっかりと周囲を警戒してくれている。


「ヘルバの嬢ちゃん。それで、何か痕跡は見つかったか?」


「今のところは……ロドニーさんは何か分からない? クリーパーの習性とかでさ」


「何かいい情報があればいいんだが……生憎、学者じゃないからな詳しい生態は知らないな。他の連中はどうだ?」


 ロドニーさんの問いに、ここにいる全員が首を横に振る。ただし、1人だけ……ドルチェだけが何か考えている。


「ドルチェは何か知ってるの?」


「何か知っている訳じゃないけど……よくよく考えたら巣を地下に作る以上、島の沿岸にはいないんじゃないかな。あまり湖に近い場所だと水浸する可能性があるでしょ?」


「確かに一理あります。そもそも、我々騎士団も時折この島を調査しています。クリーパー達が沿岸にいた場合、我々が目撃する可能性も高くなるかと……」


「となると……島の地盤的に浸水の恐れの無い場所、島の内陸部になるってことだよね」


「そうなりますね~。あ、でも……生物である以上、水分補給も必要じゃないですか~? となれば、水分補給のために沿岸に来ている可能性もあるんじゃないですか~?」


「水分補給……ですか」


 そこでリーダーが地面に絵を描き始める。そして、地面に描いた絵を皆に見せる。


「これって……この島かしら?」


「そうです。そして、さっきの話からしてこの2ヶ所が怪しいかと……」


 そう言って、沿岸近くに丸を1つ、そして北東の山のすぐ近くに丸を1つ付けた。


「この沿岸部ですが入り江になっていまして、それ故に船からだと視認しにくい場所になります。そして、もう1ヶ所は人間が飲み水に使うには向いていませんが、モンスターや野生動物が利用する泉があります」


「なら、この近辺を調べてみてもいいかも知れないわね」


「ここを先に調べるの? 端から片っ端に調べなくていいの?」


「とりあえず、その2ヶ所を調べてからでいい。何か見つかればそれで終わりの話だしな」


「うーーん……まあ、それはそうだけど」


「ヘルバの言いたい事も分かるけど、闇雲に探すよりいいんじゃないかな。そこに痕跡が全く無いのなら、この島にいる可能性はかなり低くなるだろうし」


「……それもそうか」


 何かもっと効率のいい調べ方があってもいいように思えるのだが、かと言って、これと言った具体案も無いので、とりあえずその2ヶ所を調べる事にした。そして、ここから一番近い沿岸近くの入り江と向かう。


「どうでしょうか?」


「うーーん……見つからないね」


 寒風吹き付ける中、入り江の調査に入る。とにかく目に入った物を片っ端から『スキャン』で鑑定しまくるのだが『トリニティヘッド・クリーパー・ビー』の名前は出てこない。そこで入り江の水を掬い、加熱して水蒸気を鑑定して見るのだが、他の湖畔から採取された水と大きな違いは見られなかった。


「これと言った違いも無し……ここに来た形跡が全く無いよ」


「じゃあ……次行ってみようか」


 そこから、今度は北東の山近くにある泉へと向かう。入り江に行く時もそうだが、全く人の手が加わっていないこの島。そのため人が歩きやすい道など存在しておらず、俺達は道なき道を歩いて進んでいる。草原地帯ならまだマシなのだが、森林地帯は歩きにくく、どこからモンスターに襲われるかとヒヤヒヤものである。


「ドルチェ。こっちに敵意を向けている奴っている?」


「いないよ。『ロード・マップ』には私達以外に何の反応も無いから、安心して進んでいいよ!」


「え? 何の……反応も無いの?」


「そうだよ?」


 俺の驚きの表情を見て不思議そうな表情をするドルチェ。それを聞いた俺は逆に安心できなくなった。


「ドルチェの『ロード・マップ』って周囲の生物の感情を色で表すんだよね? その範囲って人間、モンスター、動物の3種であってる?」


「そうだよ。一応、鳥と昆虫も範囲に入るけど……数が多いから基本的には判定から外してるよ。あ、クリーパーはモンスターだからそこは安心してくれて……」


「こんな大きい島なのにモンスターと動物はいないってことだよね?」


「え。そうだけど……」


「ちなみに冬眠中だとしても反応はでるよね?」


「……うん」


 その瞬間、周囲への警戒が高まる。地球の知識より、熊や猪などの動物が泳いで遠い島へと移動する例がある。そして、この島には先ほどの入り江や俺達が上陸した砂浜という、泳いで来たモンスターや動物が上陸しやすい場所がある。また、森の木々を鑑定すると、食用に出来る木の実や野草もある。


「モンスターや動物が住める条件がこの島には整っているのに、全くいないっていうのはおかしいと思うよ? リーダーなら、この島に何かしらの生物が住んでいるのは把握してるよね?」


「はい。去年の話ですがここには熊がいたはずです。詳しい生態調査はしていないので、個体数がどれほどいたのか知りませんが、この島にモンスターや動物が全くいないという可能性はゼロかと……」


「とにかく、何か異変が起きているみたいだからな……注意して進むぞ」


 モンスターや動物がいない森を警戒しつつ前に進む俺達。『スキャン』の情報を見ていると、1本の木が一部削られており、そこから『熊の形跡がある』と表示された。しかも、その木の根元に近い場所からも熊の痕跡……小熊がいたことが分かった。


「あの切り傷……熊がやったみたい」


「……こりゃ小熊もいたな。痕からして……今年中だろうな」


「……言っておくけど反応は無いからね?」


 何かが起きていると判断した俺達は慎重に泉へと進む。そして、道中何事もなく目的の泉へと到着する。


「……怖い位に静かだね」


 冬だからというのもあるのだろうか、泉周辺は静寂に包まれていた。


「綺麗な水ですね~……」


 フレッサが泉の水に触れながら、そのような事を呟く。泉の水は透き通っており底がしっかり見える。


「……」


 その水を『スキャン』で鑑定してみたのだが……とても複雑な気分になる結果が出た。


「この水をとりあえず鑑定してみたんだけど……いい知らせと悪い知らせどっちから聞く?」


「いい知らせって何だ?」


「クリーパーの形跡なし。この水だけど飲み水に出来るぐらいに綺麗だって。後はこれでクリーパーのハチミツが出なければ飲料水として利用できるね」


「それでは……悪いニュースは?」


「……この泉で水遊びした生物の痕跡は半年以上見られない。ちなみに熊が複数体いた形跡あり」


「それは……怖いですね」


「熊がこの島を離れた可能性もあるけど……色々、奇妙な点が多いね」


 俺は泉の水を採取して蒸気を鑑定する。その結果は……。


「ハチミツ成分は出なかったよ」


「そうですか……安心しましたが、ここまで怪しいならむしろ出て欲しかったところですね」


「そうだね」


 俺の鑑定結果を聞いて、複雑な表情を浮かべるリーダー。それは他の皆も同じ気持ちだったらしく溜息を吐いたりして残念そうな仕草を見せる。


 クリーパーの痕跡がここでも見つからなかったところで、俺達はこの後の動きを決めるため、時刻がお昼時ということもあって、昼食を取りながら決めるのであった。


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