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219草

前回のあらすじ「蠍のような昆虫を蜂と呼ぶのは……」

―「ホルツ湖畔・宿舎前」―


「それでは行ってきます!」


「いってらっしゃーい」


 騎士団の1人がこちらに手を振りながらストラティオに乗って王都へと出発した。今日中には手紙は渡されるので、早ければ今日中に返事が来る可能性もある。


「それでは我々はいつも通りの見回りへ向かいます」


「いってらっしゃーい」


 そして、通常の見回りを行うグループが出発する。こちらも俺に手を振りながら出発した。


「皆さん。いい笑顔でしたね……」


 一緒に見送りしてくれたビスコッティが、出発した騎士団のあまりの上機嫌さにクスクスと笑いながら話し掛けてくる。俺もそれに釣られて苦笑いしてしまった。


「やっぱり、美少女であるヘルバさんの料理を食べられると思うと、皆気合が入っちゃいますよね」


「うーーん……朝ごはんのアレで味を占めちゃったか」


 今日の朝、ロドニーさんと当番の騎士の人達が朝食と昼食用のお弁当を作っていたので、俺も手伝いながら、自分が食べたい物を作っていた。


「あのフワフワなパンケーキ……初めてでした」


「似たような物はあったんだけど、フワフワした物は無かったもんね。地球での記憶を見て食べたくなってたし、ちょうどいい植物も見つけていたことだし……初めてにしては満足のいく味だったかな」


 『種子生成』によってベーキングパウダーの代用になりそうな物を見つけていた俺は試しにそれを使って、専門店で見るようなフワフワのパンケーキを作り、バターとメープルシロップというシンプルな組み合わせに、フルーツを添えた物を用意した。さて、作った事だし食べようとしたら、「それは何だ?」、「俺にも食わせろ」と催促されてしまい、フワフワのパンケーキを大量に作る羽目になってしまった。


「別の人が食べていた目玉焼きとベーコンとお野菜のパターンも美味しそうでしたね……」


「食べたいなら自分で作ってね」


「もちろん! しっかり作り方を覚えましたから!」


 そう言って、自分の胸を叩くビスコッティ。ビスコッティも朝食作りを手伝っており、その際に他の人達と一緒に作り方を覚えて、実際に作ってもいる。


「流石、フォービスケッツの料理担当だね」


「いや、先生の教え方が上手かったからですよ!」


 互いに褒め合う俺達。料理をするのは好きではあるが、それが毎日となると話は別である。日々、献立を考える主夫(主婦)の大変さをあいつらにも分かって欲しいものである。


「おーい! 2人とも準備終わったかー!!」


 すると、アマレッテイが見送りに出ていた俺達に捜索の準備が出来たのかと宿舎の2階から呼びかけてきた。


「……いきましょうか」


「だね」


 俺とビスコッティは顔を合わせ、トリニティヘッド・クリーパー・ビー捜索の準備のため宿舎へと戻るのであった。


 それから、すぐに残った面々でトリニティヘッド・クリーパー・ビーの捜索のための打ち合わせが始まる。


「トリニティヘッド・クリーパー・ビー……長いのでクリーパーと呼ばせてもらいますが、このモンスターの蜜がこの湖に流れ込んでいる可能性があります」


 カスタリネがそう言って、机の上に湖畔の地図を広げる。そこには湖に浮かぶ島々もしっかり載っており、大小合わせて12島あった。


「ここにいるヘルバさんのおかげで対象はこの湖畔周辺、もしくは湖内の12島のどこかにいることが予測できました。皆さんには数人のチームで別れて捜索していただきます。その前に、ヘルバさんとロドニーさんにクリーパーの気になる情報があれば教えていただきたいのですが……」


「私、クリーパーについてはそこまで詳しくない」


「なら、ヘルバの嬢ちゃんに変わって、俺が話そう。まず基本的なおさらいだが……」


 ロドニーさんがクリーパーの特徴について説明していく。昨日、教えてもらった見た目を話した後、クリーパーの習性の話になった。


「クリーパーは普通の蜂のようにたくさんいる訳じゃねえ。女王バチの元に数十匹……俺が知る限りじゃ、30匹が最大だな」


 その話を聞いて「当然だよな」と心の中で呟く。狼サイズの蜂がよく知る蜂の大群のようにいたら、あっという間に食料が尽きてしまうだろう……。


「そして、今は冬だからな。女王バチと数匹の働き蜂、それと蜂の子だけしかいないはずだ。動きも鈍っているから夏と比べたら、倒しやすいぞ」


「質問なんだけど、クリーパーって何を食べてるの?」


「肉食だからな。そこら辺のモンスターや動物を捕らえて、単独では食べず、群れの連中と一緒に食べる習性がある。越冬期間はハチミツで腹を満たしているぞ」


「へえー」


 クリーパーの習性を聞いて、俺は相槌を打つ。ふと、そこで恐ろしい想像が働く……。


「ねえ。ハチミツって花の蜜だよ……ね?」


 俺がロドニーにそう訊くと、顔を背けられる。それを見た他の皆が驚きの表情や、顔を引き攣らせたりしている。


「……ハチミツは体内で食べた物を濾過・凝縮した物は知っているよな? それと、生で食べても安心なのは間違いないからな……言いふらすなよ?」


 クリーパーのハチミツ……それが何で出来ているのか想像してしまった俺達は、しばらくは口にしたくないと思うのであった。


 その後、俺達は2組に別れて調査を始める。現状、1番怪しい小島への調査は『トリニティハーブ』とカスタリネ、それとロドニーさんとフレッサの6人となり、『フォービスケッツ』を含むそれ以外は湖の周りとなった。怪しいのに少ないように思われるが、それには理由があって……。


「すいません。船は2艘しか無いものでして……」


「まあ……管理するのも大変だもんね」


 4人乗りの船が2艘しか無いのが理由である。なお、最大人数まで乗せない理由だが、もしかしたら船に何かを載せるかもしれないという事を考慮したものになる。


「じゃあ……リーダーと私は別の方がいいかな。船を漕ぐのに力のある人がやった方がいいだろうし……」


「え~? そんな風には見えないんですけど~……」


「これでも?」


 俺は髪を操って、船のオールを持ち上げる。


「……わーお」


 髪でオールを持ち上げる俺を見て言葉を失うフレッサ。この見た目でこんな事が出来ることが予想外だったらしい。


「私、人に見えるけどドリアードっていう種族。ドリアードの女性はこんな事が出来る……みたい」


「何で疑問形なんですか~!?」


「ドリアードは今の所、私だけの専用種族みたなものだから……」


「へえ~……」


 フレッサが言葉を失い、ただ驚くだけになってしまった。こんな風に驚かれるとは俺も思っていなかったので、今後自己紹介する時は気を付けないといけないな。


「それなら私とヘルバさんは別の方がいいですね」


「それじゃあ、俺とフレッサが嬢ちゃんの船でいいか? 男が片方に固まるのは変だしな……」


 その意見に特に反対する者はいなかったので、俺とロドニーさんとフレッサが一緒に船に乗ることになった。


「それじゃあ……しゅっぱーつ!」


 俺はオールを髪で勢いよく漕ぎ始める。先頭はカスタリネが乗る船が務めるので、俺はその後を付いていくように漕いでいく。


「湖上は冷えますね~……」


 吹き付ける寒風が俺達を襲う。しっかり防寒しているのだが、王都より高い場所というのもあって、王都にいた時より非常に冷える。さらに湖上という場所も合わさって、寒風は刺すような寒さになっている。


「あ、ごめん……忘れてた」


 俺は『ヴァーラス・キャールヴ』と『火魔法』の組み合わせで、船上の気温を少しだけ上げる。


「私のアビリティで少しだけ温度を上げたよ。あまり暖かすぎると寒暖差で動きが鈍るから少し寒いのは我慢してね」


「さっきの寒さと比べたら全然いいですよ~! マジ神~!!」


「こりゃ驚いた……! 俺も歳だからな。あの寒さは体に応えていたところだ! ありがとうな!」


「どういたしまして」


 俺はアビリティを発動させながら、髪でオールを動かし船を漕ぐ。寒さが和らいだことでフレッサとロドニーさんが周囲の警戒に集中している。時折、雑談もしつつ前へ前へと進んでいくと、時間としては15分ほどで最初の島に着く。


「そんなに大きくない島だね」


 船上で最初の島がどんなものか確認する俺達。宿舎のある場所からも見えるこの細長い島。湖畔から見ると大きく見えたが……意外にもそこまで奥行きは無さそうである。すると、カスタリネがこっちの船にも聞こえるような声で説明を始める。


「この島は12ある島の中で9番目ぐらいの大きさを持つ島です! 多少、木々はありますが、ここに住むモンスターは確認されていません!」


「ドルチェ、ヘルバ。あなた達のアビリティに反応はあるかしら?」


「私はないよ。ヘルバは?」


「同じく。『スキャン』でも調べているけど……それらしい痕跡は見つかっていないかな」


 島の木々や剥き出しの地面の情報は表示されているのだが、クリーパーに関わる情報は1つも出なかった。9番目の大きさという島だが、陸地面積は一般的なビジネスホテルのツインルームぐらいの広さしかないと、俺にとって非常に分かりやすい情報が流れる。


「ねえ! これより小さいのは後回しでいいんじゃないかな!? 狼サイズの蜂が住むには小さすぎると思うんだよね!」


「嬢ちゃんの意見に俺も同意だ! クリーパーが住むなら、もっと大きな島がいい!」


「でしたら……一番大きい島から調べますか?」


 その言葉に俺達は頷く。そして、9番目に広い島を離れ、ここから少し距離のある1番大きい島へと船首を向けるのであった。

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