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215草

前回のあらすじ「原因判明!」

―診療所を出てから1時間後「王城・執務室」―


「王都の水源が汚染されているだとーー!?」


 デスクを強く叩き立ち上がるアレスター王。そばにいる宰相らしき人物やランデル侯爵も驚きの表情を見せている。俺はあの後、王城に戻りそのままアレスター王がいる執務室にこの事に気付いた暗部の方と一緒に説明をした。


「それは本当なのか?」


「情報に間違いがなければ……こちらを」


 そう言って、暗部の方が診療所で作った地図を机の上に広げる。オリジナルは今も診療所にあるはずなので、これは暗部の方が急ぎ作った物になるのだろうが……。


「いつの間に作ったの?」


「暗部の仕事をしてますからね。このくらいは……それでヘルバさん」


「あ、うん……。それでこの地図なんだけど……」


 暗部の方に催促されて、俺は地図に記された3色の点が10年間の間にハチミツの誤飲によって診察を受けた人の数を人数の多さに合わせて色付けした物だと説明する。そして、被害にバラつきがあることも伝える。


「なるほど……この王城と北東の地域は被害が少ないと」


「そう。それで、暗部の人に何か思いつかないか訊いてみたら……」


「この王都は北東だけ水の取水方法が他の地区と違ってまして……そして、王城で使用される水もこの北東から水を引いています」


「って訳で、水が汚染されているかもって結論が出たって訳」


「何てことだ……」


 アレスター王が頭を抱え、事態の深刻さに悩む。食材だったらその流通を止めれば良かったのだが、原因が人間の生活に必須であり、止めることも出来ない水となれば話は違う。


「すでに口外しているのか?」


「はい。とは言っても、冒険者ギルドと商業ギルドのギルドマスター、後はリアンセル教会の聖女達ですね」


「そうか……すぐに他の者を使いに送れ。ただちに調査団を結成する意思があることを伝えろ」


「畏まりました。すぐに……」


 そう言って、暗部の方は部屋を後にした。すると入れ替わりに、ドルチェが部屋にやって来た。


「ヘルバが帰って来て、そのままこっちに来たって話を聞いたんだけど……」


「ああ、ここにいるぞ……」


「ただいま」


 俺は手を上げて、ドルチェに帰った報告をする。ドルチェはそれに返事をしつつ、俺とアレスター王のそばにやって来る。そして、机の上に置いてあった地図に気付く。


「これ……もしかして水源に異常が?」


「分かるの?」


「私、この国の王族だよ? この位はね」


「え? アレスター王……?」


 ドルチェの返答を聞いて、俺は蔑んだ目でアレスター王を見てしまった。言われてみれば、水という生きるのに大切な物に関する情報を王家が知っていないというのは、確かにどうかと思う。


「いやいや!? そこはだな……」


「アレスターちゃん。王家の水源ぐらいすぐに思いつかなくちゃダメだよ?」


「申し訳ありません……。それですぐにでも調査を始めるつもりです」


「なら、私も行くよ。王家として民の水源を守らないといけないからね」


「助かります。それでヘルバ。至急、確認したいのだが……お前のアビリティで水を調べられないか?」


「現物があれば」


「至急、手配する」


 アレスター王が宰相に顔を向ける。目が合った宰相は一礼して部屋を後した。


「そうしたら、先にこのお城で使用される水を調べるね……」


「1人じゃ大変だろう。他の鑑定系アビリティを持つ者にも声を掛けて手分けして調べさせよう」


「分かった。とりあえず私は……」


「ってことでアレスターちゃん。このまま厨房に連行するね!」


 俺の脇に腕を潜り込ませ、そのまま持ち上げるドルチェ。足が地面に付かず、宙づりにしなってしまった。


「ちょ、ちょっと!?」


「私達の分の昼食も忘れないで欲しいのだが……」


「もちろん! しっかり作って貰うから!」


「私に拒否権は!?」


「「「ない!」」」


「断言しないでよ!!? っていうより……ここまで無言を貫いていたランデル様はどうしていきなり口を挟むのかな!?」


 そんな俺の訴えも虚しく、そのまま厨房に連れて行かれ、水質のチェック後、昼食を作らされるのであった。


「これだけコックさんがいるんだから、私じゃなくでもいいよね!?」


 俺は周りにいるコックさんがいるのに対し、何故料理をしなければならないかをドルチェに尋ねる。すると、その理由をドルチェではなく、コックの1人が答える。


「すいません……ヘルバ様のような味だけではなく、見た目や香りで料理を楽しめる料理を見せられてしまったら……」


「コックさん達も十分に美味しい料理を作っていると思うけど……?」


「ヘルバさんのあのハーブの使い方……1、2種類ぐらいなら私も使いますが、ヘルバさんのように複数使ってあれだけの風味を作り出すのは……それに味を沁み込ませるために具材に切れ込みを入れたり、包丁を使って野菜を綺麗な花にしたり……」


「飾り包丁か……あれは慣れというか想像してやる物というか……」


 俺は自身の持つ記憶から引っ張っているが、実際にこれを習得した料理人は先輩料理人の腕を真似たり、飾り包丁で作られた物を観察したりして身に着けていた。後は紙に自分でオリジナルの飾り包丁の図案を書いたりもしていた。


「それなら私の作った物をしっかり観察。後は閃いたらメモに残す事……私からのアドバイスはそこかな。後、ハーブの組み合わせはいくつか教えてあげる」


「いや、そこまでは……」


「安心して。教えるのは基礎的な事だから、そこからは個々への宿題……いいね?」


「ありがとうございます!」


 とりあえず、俺はここにいるコックさん達に今作っている料理に使っているハーブや技法を教えながら昼食を作っていく。


「……ってことで、自分が教えられるのはこの位かな」


「「「「ありがとうございました!!」」」」


「それじゃあ……」


 俺は作った料理を持って厨房を後にする。そして、何故かそのまま王家の方々といつの間にか厨房からいなくなっていたドルチェの5人と一緒に食事をすることになった……。


(色々、訊きたい事があるんだけど……)


 どうして俺は王家の方々に囲まれて食事を取らなければならないのか、具体的な説明を求めて欲しいところなのだが、リコット王子はともかく幼いロマミ姫がいるのでここは静かに食事を取る事にした。


「ヘルバの料理……流石の腕だな」


「ありがとうございます。だけど、それとは別にここで働くコックさんに頼んで欲しいんですが?」


「分かってる。こうやってお前に料理を頼んだのは、ただ料理が食べたいという理由だけでは無くてな……忘れているようだが、今のヘルバは大怪我をして、寝たきりという設定だからな。それを解禁するという意味もある」


「裏でコソコソするのはこれでお終いと……」


「そういうことだ」


「あらあら、2人共……お仕事の話は別にして頂戴。それよりも、レッシュ帝国での出来事を話してもらいたいのだけれど……? ねえ、ロマミ?」


「うん!」


 母親であるマルガリータ様の問いかけに笑顔で答えるロマミ姫。そのように話を振られてしまったら、話さないわけにはいかないだろう。


「それじゃあ……」


 俺は昼食を楽しみつつ、レッシュ帝国で体験した事や自分達の活躍を話していく。昼食を食べ終えても、メイドさん達によって食後の紅茶を出されてしまう。


「それでそれで!?」


「そこでですね……」


 ロマミ姫が目を輝かせながら巨人をどう倒したのかを訊いてくる。俺はそこで自分のアビリティで吹き飛ばしたことを話すと、「すごーい!!」と目をさらに輝かせて、俺に熱烈な視線を向けてくる。


「そんな強力なアビリティ……初めて聞きましたね」


「長い間、生きている私でさえも初めてだからね……だから、2人共。ヘルバのお姉ちゃんが困っちゃうから他の人には言っちゃダメだよ?」


 言いふらさないようにとドルチェが2人にお願いすると、2人は快い返事をする。すると、マルガリータ様がメイドの1人を呼び、ロマミ姫と一緒に席を離れようとする。


「そろそろ、私共は失礼しますね。いつまでも忙しいヘルバを私達が独占するのは困ってしまうでしょうから」


 マルガリータ様はそう言ってロマミ姫に別れの挨拶をさせて、メイドさんと一緒に一足先に食堂を後にさせる。


「ヘルバ。何か無茶ぶりをされたら、私に相談して下さいね。ちゃんと注意してあげますから」


 そう言って、笑顔を見せるマルガリータ様。心なしかアレスター王とドルチェの表情が強張っているのは気のせいだろうか? 俺がそんな事を考えている間に、マルガリータ様も食堂を後にしてしまった。


「……父上。ヘルバさんをあまり困らせる用でしたら、母上から雷を落とされますよ?」


「分かってる……」


「こってり絞られたんだ……」


「ええ。ドルチェ叔母様とランデル侯爵と一緒に……言葉通りですね」


 そう言って、ニコニコした笑顔を見せるリコット王子。言葉通り……って。


「次は黒焦げになっちゃうかもしれないね……」


「ああ、恐ろしかった……あんな顔を見るのは久しぶりだった……」


 そう言って、2人が体を震わせる。なるほど……ドルチェがいつの間にか厨房からいなくなっていたのは、マルガリータ様からお叱りを受けていたからか……。


「今度から積極的にマルガリータ様に告げ口しようかな……」

 

「「勘弁して(くれ)!!」」


 俺はリコット王子がいる中で2人を揶揄うのであった。すると、そのタイミングでランデル侯爵が食堂に入って来た……。


「顔が真っ青だけど大丈夫……?」


「ああ、大丈夫だ……もう、お前さんに無理やり料理を作らせない。約束する……」


「……うん」


 まるで、この世の物とは思えない物を見たかのような表情をしたランデル侯爵を少し哀れに思いつつ、絶対、マルガリータ様を怒らせないようにしようと誓うのであった。

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