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212草

前回のあらすじ「調査のついでに関係各所に挨拶回り」

―夜「王城・来賓室」―


「ただいま……」


 王家の秘密の通路を使って城へと戻った俺は太った体のまま来賓室へと入る。室内ではテーブルの上に何やら書類を広げて、それらと睨めっこしていたドルチェとココリス、それとフォービスケッツの4人がいた。


「あ、おかえり! どうだった?」


「ロドニー食堂はシロ。けれど、原因となる食材の情報は聞けたよ……っと」


 俺はアビリティで肥満化の効果を無効にし、ぶかぶかになった衣服を『収納』から取り出した飾り紐で固定する。


「着替えればいいのに」


「面倒だからいいよ。それでこっちは何か進展あった?」


「一応、被害に遭った人達に共通点が無いか再度調べていたんですけど……特には」


「そう……」


「それで、そっちはどうだったのかしら? 原因が分かったにしては、スッキリした表情じゃないわね」


「実は……」


 俺はここにいる皆に今日1日で得られた情報を伝える。今まで分からなかった今回の事件の要因となりえる食材が候補に挙がり、流れが好転したかのように見えたかのように思えたが、それがこの時期には出回っていない食材だった事を話す。そして、それを聴いていた間の皆の表情は忙しく変化し続けていた。


「トリニティヘッド・クリーパー・ビーのハチミツ……それが今回の事件に関わっている可能性が高いって事ね」


「そうみたい……でさ。ロドニー食堂の店長さんって何者なのか知ってる? 名前を訊くのを忘れちゃったんだけど……」


「ああ……それ多分、ロドニー・クロッカスさんだよ。元B級冒険者で野営とかでお世話になったな……」


 ドルチェの言葉に横にいたココリスが頷いて同意している。その際に、2人共薄っすらと涎を垂らしていたのが目に入ったので、その野営に出された料理というのは大変美味だったのが伺える。


「冒険者として有名だったんですね」


「ええ。冒険者というより、食材ハンターってところかしら。あの人のおかげで色々新しい食材が見つかったから、食材を扱う職業の人からしたら有名な人物よ」


「ちなみに人柄も私が保証するよ」


 ドルチェが胸を叩きながら自信満々に話す。王家の関係者である彼女が言うなら、あのコックさんは今回の件とは関係ないのだろう。


「しかし……トリニティヘッド・クリーパー・ビーのハチミツなんて、この時期どこで取れるんだい?」


「まずはそこなんだよね……」


 アマレッテイが問題点を上げる。この時期に採取することは不可能なハチミツ。それを一体どうやって手に入れたのだろうか?


「王都中が大騒ぎになるくらいですから、かなりの量が必要ですよね?」


「胃を何百回もパンパンになるくらいの量が必要だって……その前に普通に太りそうだけどね」


「それはそう……そもそも、そんなにハチミツが大量に持ち込まれたら、門番が止めるはず」


「確かに……賄賂を掴まされない限りは、そのまま素通りというのは不可能ね」


「それよりも、どうやってそれを大量に摂取させたのかが問題よ? そもそも私達、トリニティヘッド・クリーパー・ビーのハチミツなんて口にした覚えが無いわよ」


「クロッカの言う通りそこなんだよな……ハチミツなんてうちの鼻で直ぐに分かる物、それを食した覚えなんて無いんだよな」


 そう。もう1つの問題点はそこである。そんな大量のハチミツをどうやって摂取させたのだろうか? 『濃縮』を利用すれば少量でも……待てよ?


(フリーズスキャールヴさん? フォービスケッツの4人をあそこまで太らせるにはどの位の量が必要になるか分かる?)


(そうですね……ざっと2トンは必要ですね。ちなみにトリニティヘッド・クリーパー・ビーのハチミツは1つの巣で数キロぐらいですから、普通に考えれば……)


「いや、大丈夫。それだけ知れれば問題無いから……」


「フリーズスキャールヴに何か確認したの?」


「あ、うん。ごめん……また、口に出ちゃってた」


「気にしないわよ……それで、どんな情報が手に入ったのかしら?」


「フォービスケッツの4人が太るのに必要なトリニティヘッド・クリーパー・ビーのハチミツの量を確認してた。それで……分かったことなんだけど、かなりの量のハチミツが必要になる。4人の体重の合計のおよそ100倍ぐらいかな」


「ちょっと!? そんな量を食べた覚えが無いですよ!?」


「もちろん。で……ここまで来たら、そもそもこれが人災なのかも怪しくなってきたかな。最初は私を嵌めるつもりとか、己の欲望……つまり誰かを太らせることに強い興奮を持つフィーダーの仕業だと思ってた。けれど……いくらなんでも割に合わないし、そもそもそんな量を集めて大勢の人に摂取させること自体が不可能に近い……そこから察するに何かしらの偶然が重なった天災かもしれない」


「天才と名乗るあの変態が……」


「ビスコッティ……違う。天災違い」


 しかめっ面をしたビスコッティ。確かにこれが人災ならあれぐらいの化け物じゃないと難しい……。そう言えば、レッシュ帝国の事件にアレが関わっていたと言ったら、彼女はどんな表情をするだろうか……。


「そうか……レザハックか!」


 アマレッテイが手を叩き、何か閃いた様子を見せる。


「え? まさか本当に……」


「違う違う! ほらレザハックが使ったキングミストの魔道具! アレならハチミツを気化させて大勢の人を太らせられないかい?」


「無理じゃないかしら。言ったでしょ……とんでもない量が必要だって。それにアレを使用すると霧という目に見える形で分かるけど、そんな天候になった事が無いでしょ?」


「それに、アマレッテイのような鼻が利く獣人だったら即バレすると思うし。アレは今は王家が管理してるから無理だと思うわよ」


「それはそうだけどさ……その位しないと、大勢の人を太らせるなんて不可能だろう?」


「アマレッテイの言う通り、そこなんだよね……」


 大勢の人を如何に太らせたのか。アマレッテイの言う通り、気化させたハチミツを体内に取り込ませたぐらいの方法じゃないと、ここまでの被害者を生み出すのは不可能である。


「……ん?」


 ふと、テーブルの上に置かれた書類が気になりそれを手に取る。そこには被害者の詳細な情報が載っていた。


「カーター・リンブルム。1週間前に急激に太った。その前後の食事……」


 俺は被害者の情報を特に何の考えも無く見ていく。確かに共通点は全く無い。強いて言えば……。


「王都に住んでいるぐらい……か」


 そう。ただ、それだけ。長く王都に住んでいるだけであって……。


「あれ?」


 俺は再度、置いてある書類を確認する。老若男女関係なく太ったと聞いていたが、それは少し違うようだった。


「どうしたの?」


「子供の被害が圧倒的に少ない?」


「いや、ほら。これには10歳の子が……」


「それ以下の子供の被害が無い。食事に気を付ける乳幼児とかはともかく、その後の2〜9歳の子達には全く影響が出ないのはありえないと思う」


 書類の中には子持ちの母親もいる。当然、その子供が食べる物はほとんど一緒になるはずであるなのだが、子供には被害が出ていない。


「そんなの旦那が前に薬や毒の説明をしてくれた時に話した蓄積が関係するんじゃないかい? それこそ10年……」


「つまり、最低でも10年前からハチミツを気付かれないように飲まされたってことだよ?」


「「「「あ!」」」」


 これを人や組織が行ったというなら、何と壮大や計画だろうか。もしそうなら、敵ながら天晴と、むしろ感心してしまう。


「私、明日モカレートと一緒に診療所を巡って再度確認してみる。単に情報不足の可能性もあるかも」


「分かった。私達は城内にいる被害に遭った人や関係者から話を聞いてみるね」


「うん」


 明日の方針が決まり、後はゆっくり休むだけ……。


「ってことで……ヘルバ。夕食の準備お願いね!」


「……へ?」


 俺が間抜けな声を上げたと同時に、ドルチェが俺の両手をガシッと掴む。その目はマジであり、よく見ると他の皆も目がイッてしまっている。


「ねえ……どうしたの? 何か変な薬でも飲んだの……?」


「何も飲食して無いよ? そう……お昼から何もね……」


「……それなら何か食べなよ?」


「「「「……」」」」


 皆が無言でこちらを睨み付ける。「食べたら身動きが取れない程に太る食材が紛れ込んでいるこの状況が起きたこの城の料理を食べろというのか?」と言いたいのだろうか? しかし、朝食は普通に食べていたし……そもそも、王家の秘密の通路を使って外に食材調達でもすればいいのではと思うのだが……。


「一番安全な食材を持つのはヘルバだからね?」


 そう言って、外に買い出しに行かない理由を教えてくれたドルチェ。しかし、仮に太ったとしても、どうにかする方法があるのを知っているはず……。


「状態異常ならまだしも、ガチで太るのは嫌だからね?」


 ドルチェの握る手が強くなる。「つべこべ言わず早く作れ」と言いたいのだろう。周りの目もさらに険しい物となっていて、まるで猛獣の檻の中に放り込まれた餌の気分になる。


「でも厨房なんて……」


「おお! 来たか!!」


 そこにランデル侯爵が乱暴に扉を開けて部屋に入って来て、そのまま俺の脇に腕を入れ持ち上げる。


「王様達も腹を空かせてるからな! 早速、作って貰うぞ!! 安心しろ! 厨房には誰もいないからな!! ガハハ!!」


「王宮の料理人達の食材への目利きを信じなよ!!?」


 という訳で、俺はそのまま厨房に拉致され夕食を作らせられる。ちなみに、どうしてこうなったのかと言うと、今日だけでお城から20人の被害者が出ており、そのため王宮の食材が信じられない状況らしい。そして原因究明のため、王宮の料理人達を中心に調査がされており、今日の昼食と夕食は王様達も含む各自で取る事になったらしい。


「だからと言って! 昼食を我慢して私の帰りを待つって馬鹿だよね!?」


 俺はフライパンを振るいながら、そこにいるランデル侯爵に文句を言う。


「王様達を馬鹿とは不敬だぞ?」


「馬鹿は馬鹿だからね!?」


 その後、俺は愚痴りながらも、しっかりと生姜焼き定食を人数分作り、お風呂上がりに飲むドリンクなども用意するのであった。腹が満たされ正気に戻った皆から「いいお嫁さんになる」とご機嫌どりされるのだが、「こんな事をする亭主なんて『グングニル』で消し飛ばすけど?」と怒りを露にするのであった。 

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