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210草

前回のあらすじ「154話ぶりにヴィヨレ再登場!」

―その日のお昼「ロドニー食堂前」―


「ここが例の飲食店ですね」


「そうだけど……」


 大通りで馬車から下りた俺達は、そこから脇道を少しだけ歩いて店の近くまでやって来た。そして、目の前に映る店の印象だが……。


「いい雰囲気のお店だね」


「ええ。それに平民の方々に紛れて貴族の方々も来られているようですね」


 お店から平民らしき家族が店から出て来たと思えば、貴族の令嬢らしき2人が仲良く店に入っていくところが見えた。


「貴族も足繁く通うお店だとすると、ここって違うのかな……? 貴族なら噂とかそう言うのに敏感だろうから、犠牲者が出ればすぐに来なくなっちゃうんじゃないかな……」


「そうとは限りませんよ。何が原因で太ってしまうのか分からないので、そのお店で大勢の人が太ったとかじゃなければ、普通に通うでしょうから」


「うーーん……そういうものなのかな……」


 ぷくぷくに太くなった腕を胸の前で交差させて考えようとする俺。だが、太り過ぎたせいで酷く肺が圧迫されるので、すぐに腕を下ろしてしまった。


「慣れないな……」


「普段とは違う体型ですからね。私も困りましたし……」


「確か……ココリスの『ソウルドレイン』で付いた脂肪を『ソウルチャージ』で付けられた時だっけ」


「そうですね。闇魔法があんな風に使えるとは思ってもいませんでしたよ」


 ほんの数か月前の出来事をまるで遠い思い出の話かのように話す。あのクエストはそれだけ印象深く、それでいて、今も続くこの国が抱える闇に初めて触れた時だった。


「お店の中でしようか。外でずっと監視するつもりも無いし」


「そうですね」


 俺達は話を一旦切り上げ、店内へと入る。店内はカウンター席とテーブル席の2つが用意されており、そこそこ広い洋食店のような食堂だった。


「お二人様ですね~! こちらをどうぞ~!」


 赤みがかったピンク色の髪をツインテールにしたウエイトレス姿の女性店員が入って来た俺達を素早く隅っこにあるテーブル座席まで案内し、メニューを手渡す。


「ただいまお冷をご用意いたしますね~」


 そう言って、店員はお冷を持ってくるために、この場から離れる。


「……あの人。戦闘職の人だよね」


「足音立ててませんね……シーフとか斥候職の方ですかね?」


 今の店員がお冷を持ってくる間、あの人が何者なのかを話題に楽しく会話する俺達。そして、その店員が水をテーブルに置いていなくなったところで、今回の目的であるロドニー食堂の調査に入る。


「私より太っていないけど……それっぽい人いるね」


 店内を見渡すと、どうも今の体型にあっていない服を無理して着ているような人が数人いる。近くにいる女性のお腹辺りを見て見ると、衣服が酷くパツパツに張っており、かなり無理して着ている様子が伺える。


「太り具合は人それぞれ……太るタイミングもバラバラというのは厄介だね」


「私の知っている話ですと、昼食を食べたその夕方に一回り太ったとか、朝食を食べて間もなく一気に肥満体になってしまったとかですかね」


「そのどちらも状態異常ではないんだよね?」


「はい。ただ、あくまで話を聞いただけであって、きちんとした調査をされているかどうかは不明ですね」


「客観的に見るなら、太り具合に差があるってことだけだね……」


 何が原因なのかは分からないので、とりあえずブルーカウのミルク基準で考えると濃度に差があるのだと思う。そして、ここまで太った人が多いことを考えると、それは日常的に使われている食材だと推測される。


「それでヘルバさん……注文はどうしますか? 好きに頼んでも大丈夫ですか?」


「それは……」


 俺はそう言って、チラッとメニューに目を通す。少し割高な気もする値段だなと思いつつ、中身を確認すると地球の洋食店のようなメニューとなっていて、特におかしな料理は無さそうである。


「……ヴィヨレは何を頼むつもりだった?」


「ドリアですね」


「じゃあ、それでいいよ。ただ、すぐには口にしないでね?」


「分かりました。それで、ヘルバさんは?」


「魚介類たっぷりのシーフードパスタかな。検証しないといけないし……」


「ご注文お決まりでしょうか~!」


 俺達が何を頼むか決めたところで、例の店員がやって来る。もしかして、俺達の会話を聞いてたのではないかと疑いつつ、それぞれ注文していく。


「それで、お飲み物はどうしますか~?」


「え? 料理だけでは……?」


「このお店はメインメニューにはサラダとスープ、それとお飲み物がセットなんです。こちらの肉料理や魚料理にはパンも付きますよ」


 メニューに指差しながら丁寧に説明する店員。割高な値段だとは思ったが、セットメニューでこのお値段なら納得である。その後、メニューに載っている飲み物からそれぞれ何にするか決めたところで、店員は再びその場から離れていった。


「話聞かれてるかな?」


「どうでしょう? 特に変わった様子は無さそうですし……」


 タイミングが良すぎる店員に(いぶか)しみつつ、再び店内を見渡す。そこそこ広い店内なのだが、あの店員以外のウェイトレスがいない。奥の厨房から料理をしている音が聞こえているので、最低でも、コックを務める店員がもう1人いるのは確定だろう。


「ここを2人で切り盛りしているなら大したもんだね」


「お褒めの言葉預かり光栄ですね~」


 すると、いつの間にか先ほどの店員が俺達のテーブルの傍にいた。となると……。


「私達の話を聞いてたの?」


「はい~……私達も困っている事件ですからね~。太ったことで食事に出かけることを自粛したり、あらぬ噂で閉業に追い込まれたり……そんな変な噂が立っていないかチェックするのも私のお仕事なんですよ~」


 間延びした口調で話を続ける店員。恐らく、相手に何を考えているのか悟られないように、あえてこのような話し方をしているのかもしれない。仮に相手を油断させるためなら、もう少し普通の店員を演じるべきだろう。


「私達に声を掛けて来たってことは、調査に協力していただけるのでしょうか?」


「もちろんですよ~。ちなみに……お二人は冒険者なんかですか~?」


「そうだよ。はい」


 俺は持っている冒険者ギルドのカードを店員に見せる。一瞬、驚きの表情を浮かべる。恐らくだが、俺のことを知っているのだろう。


「この件で私も大迷惑してるの……帝都から命懸けのクエストから帰って来たら、ナイフでグサッて酷いと思わない?」


「なるほど……これは今回の件に関して適任の方ですね……。まさか、容疑を掛けられているご本人が直接調べているとは……」


「私の活躍が気に入らない方が大勢いるらしくて、その方達が広めた噂が独り歩きしてるの。だから、こうやって、変装しつつお忍びで調査してるんだよね」


 俺はそこで自分の大きなお腹を見せつけるかのようなポーズを取る。それを見たウエイトレスは今の俺の体型が何かしらの方法で変化させたものだと気付く。


「その体型……いや、そんな噂を立てられる原因となるお薬を作った方なら、その位は朝飯前ですもんね~」


「それで、ここの食事が原因で太ったかもしれない人物がいるんだけど……」


 覚えているか分からないが、フォービスケッツの4人の特徴を伝えて、何か覚えていないか訊いてみた。


「はい〜! 覚えてますよ〜! あの方達も調査されていたようですから〜」


「声を掛けなかったの?」


「ここには純粋にお食事に来られていたので、話し掛けませんでした〜。変に口を挟むと疑われちゃいますからね〜。もしかしてですけど……」


「被害に合ったよ。ここで昼食を取った日にね」


「うわわ〜!? それは大変です〜!! その……」


「安心して。噂を広めるような事はしない。ただ、その時の料理に使った具材について、教えてくれないかな? 特殊な具材は教えなくていいからさ」


「特殊な具材は話さなくていいんですか?」


「うん。さらに言うと、その子達が食べた料理に共通した具材が無いか教えてくれればいいよ」


「……店長に話してみますね」


 「どうぞごゆっくり」と言って、店員が厨房へと戻って行った。俺達は待っている間、再び店内を観察していく。それから、しばらくして料理が運ばれて来たので、俺は素早く『スキャン』で料理を確認する。


(問題無いですね。高カロリーとかそう言う訳でもありません)


 と、フリーズスキャールヴさんがご丁寧にも教えてくれた。すると、店員さんが心配そうにこちらを見ているので問題無いことを伝えると、ホッとしたような表情で仕事に戻って行った。


 そして、俺とヴィヨレは料理を食べつつ店内でゆったりくつろいでいると、俺達以外のお客がいなくなったところで、店員がコック帽を被った初老の男性と一緒に俺達のテーブルにやって来た。どうやらこのコックがここの店長でもあるようだ。


「孫から話は聞いた……俺の料理で太った奴が出たってのは本当か?」


「可能性があるだけだよ。私の話が信じられないなら王家の方から遣いでも出してもらって……」


「分かった分かった! そもそも疑っちゃいねえよ……王家にリアンセル教、それと冒険者ギルドに商業ギルド……その4つから信頼を得ている奴がそんなつまらねえ嘘なんて吐く訳無いだろう!」


「私のことを知ってるの?」


「まあ、訳があってな……まあ、こんなポッチャリした女児とは思ってなかったがな」


「これ変装してるだけだよ……ほら」


 俺は肥満化をドリアードの能力で無力化にして、いつもの体型に戻る。その様子を見て、コックと店員はとても驚いたような表情をする。


「驚きだな……ドリアードっていうのは皆そうなのか?」


「分からない。私が初めてみたいだし」


「なるほど……色々規格外だな」


 そう言って、近くの椅子を持って来て座るコック。ふと、その立ち振る舞いを見て、思った事を言ってみる。


「もしかして……冒険者?」


「元だな。こっちは現役だがな」


 コックがそう言って、隣にいる店員に親指で指を差す。


「ここで出す料理の食材のいくつかは孫に取って来てもらっている。ウエイトレスをやってるのは、休んでいる娘夫婦の替わりだな」


「もしかして、今回の件に……?」


「ただの産休ですよ~! 私、今度お姉ちゃんになるんですよ~!!」


「それはおめでたいことですね!」


「そうだが……ここで太る病気が出てしまったのは痛い話だな」


 そう言って、両手を組んで溜息を吐くコック。ウエイトレスも頬に手を当てて困った表情をしている。


「心中お察しするよ。それで、どうかな? 協力してくれる?」


「もちろんだ。むしろ、お前さん以上に話の分かる奴はいなそうだしな」


 そう言って、コックは両手をテーブルに置き、フォービスケッツの4人が食べた料理について詳しく話し始めたのであった。

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