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209草

前回のあらすじ「クロッカはリバウンドする!(ネタばれ)」

―「王都ボーデン・王城 貴賓室」―


「……ってことで、これなら鑑定を擦り抜けて大勢を肥満化させることも出来るよ」


「そうか……ちなみにヘルバの持つ現物は?」


「悪い大人達にプレゼントしちゃってないよ。そのプレゼントした連中が全て平らげてくれたから現物も本人達もいないから安心していいよ」


「そうか……それはよかった。もっていたなら、密かに処理しないといけなかったからな」


 アレスター王がホッとした表情を浮かべる。今回の件には関わっていないが、効果としては同等の濃縮されたブルーカウのミルクが俺の手元にあるのは確かに不味いだろう。あの時に悪人共の無力化ついでに処理しておいて正解だったようだ。


「そうなると……その高過ぎる栄養価を持つブルーカウのミルクと同じような栄養価を持つ食材、そして『濃縮』というアビリティを持つ人物……それが儂らの追う物ってことか」


「そうなりますね……危険な薬物出回っていないかとか、特殊なアビリティ使いが関与していないかとか調査していましたが、方向性としては大分間違っていたようですね」


「怪しいアビリティ使いっていうのは間違っていないような気もするけどね……」


 『濃縮』というアビリティを使って、人を一瞬にしてデブにする食材をばら撒いているのだ。そんな奴が怪しいはずが無い。


「……そうなると、何が原因なのかここで搾れるんじゃないかしら?」


 そう言って、ココリスが『フォービスケッツ』の4人を見る。


「そっか。フォービスケッツの4人があそこまで太ったってことは、それを口にしたってことだもんね。しかも3日前だから覚えてるよね?」


「3日前……」


 そこで『フォービスケッツ』の4人が3日前の事を振り返り始める。


「確か、朝食はここで取ったよな?」


「はい。パンと卵にサラダ……それとスープですかね」


「昼食は途中で見つけた食堂で食事をした」


「で、その日の夜はまたここで食事をしたから……」


「決まりね……明日の朝、乗り込んでやりましょう」


 そこで、俺とランデル侯爵以外の全員が事件解決の足掛かりとなりそうなお店が分かり喜んでいる。すると、静観しているランデル侯爵と目が合う。


「恐らく同じことを考えていると思うんだが……」


「だろうね……ねえ、4人共」


 そこで、フォービスケッツの4人を呼び、あることを尋ねる。


「皆、何を食べたの?」


「私はスパゲッティですね……ここでは珍しい魚介類たっぷりの」


「うちはドリアだな」


「私はピラフを……」


「アクアパッツアを食べた」


「見事にバラバラだな」


「やっぱりそうだよね……飲食店にもよるけど、4人全員が同じ物を食べているとは限らないと思ったかな。そもそも、そこの飲食店が原因ならもっと早い段階で皆が気付いただろうしね」


「それもそうか」という声が室内に響く。そもそも、その飲食店のみで起きているなら、被害に遭った方々から話を聞いただけですぐに分かったはずだろう。


「とりあえず……明日、そこがどんな食堂か調べる必要があるかな」


「調べるって……ヘルバが行くの?」


「もちろん。私の『フリーズスキャールヴ』の鑑定能力は必要でしょ? 何せ……毒じゃない毒を調べる必要があるんだからさ。それにダーフリー商会にも顔出してあげないといけなさそうだし……」


 もし、俺のせいでダーフリー商会に風評被害が起きているなら一度会って謝っておかなければ……。もしかしたら商会長のニトリルは気にしていないかもしれないが。


「でも、危なくないかしら?」


「大丈夫。完璧な変装があるから……」


「完璧って……どんな変装よ?」


「それは……明日のお楽しみ。それよりも、もう1つ、4人に確認したい事があるんだけど……」


「何を訊きたいんですか?」


「太った時の状況。どんな風に太ったの?」


 一番、確認しなければならない事。太ったと一言で片付けるにしても、どのようなタイミングで、どんな太り方をしたのか……役立つかは分からないが、知っておいて損は無いはずだろう。


「それなら夜……ほぼ同時でしたね」


「寝ていたら寝間着がきつく感じて……起きたら、すでに全身パンパンに太ってて、そのまま徐々に寝間着を引き千切りつつあそこまで太った」


「恐怖だったわ……悲鳴を上げた自分の声が、あそこまで野太くなったのは地味にショックだったし」


「時折、肥満薬を飲んで太った体で寝たりするけどさ。何が起きたか分からないまま、肉の塊になって圧死しかけたのはトラウマだよな……」


「なるほど……後は太る前に4人同時に間食したとかある?」


「それは無いですね」


 ほぼ同時……となると、4人が同時に何か共通した物を摂取し、その何かによって一気に太ったという線が濃厚だろう。


「王様。3日前のフォービスケッツの4人と同じ朝食か夕食を食べて太った人っているかな?」


「数名いる。ただ、他にも同じ物を口にして平気だった者達がいるから、それが原因かは分からない。しかも……被害に遭った者達はフォービスケッツの4人のように酷い太り方はしていなかったしな……」


「それは確かに違う気がするね……」


「王城の調査はランデルに任せる。ヘルバでは上手く調査できないだろうしな」


「そう。それじゃあ……太った人達が共通して食べていた物を調べて欲しいかな。手に入れられるようなら現物の確保も」


「まかせておけ」


 ランデル侯爵は美食家とは聞いている。だから、他の誰よりも食材の違和感には気付きやすいはずである。ここの調査はランデル侯爵に任せるとして……。


「それとその飲食店の調査は私1人でやるね」


 その俺の発言に皆から驚きや承知できないという声が出る。しかし、今回ばかりはこっちの方がいいだろう。


「フォービスケッツの4人はまだ太ったままというフリをしていて欲しいし、ドルチェ達と一緒にいると変装していても私が無事だって事がバレそうだし……原因の食材が分かるまでは、この肥満化には抜本的な解決方法は無く、容疑者である私はベッドで静養中だってことにしておかないと。これ以上、他からの横槍は勘弁して欲しいし……」


 俺の容姿を知っている人が多いこの王都で、変装した俺が自分と関係ある人物と一緒に行動すれば、変装していても直ぐにバレてしまうだろう。迅速な原因究明、かつ自分の身の安全を守るためにも今回ばかりは1人がいい。どうせ、いつもの見張りの方々が遠くから見守ってくれるだろうし。


「うーーん……それなら、いいんじゃないかな?」


「ドルチェ? それは……」


「ただし……1人。ヘルバもよく知る子と一緒に行動をすること」


「え? それ誰?」


「それは……」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌朝「王都ボーデン・噴水広場」―


 翌朝、王家の秘密の通路から王城からほど近いこの噴水広場までやって来た。今はベンチに座り、今回の捜査の協力者を待っている最中である。待っている間、俺の前を通る人達を観察をしているのだが、今回の事件の犠牲者らしきふくよかな体をした人達が少しでも脂肪を減らそうとして運動している姿を見る事ができた。


「お待たせして申し訳ありません!」


 すると、そこに1人の少女がこちらに近付いて来る。お嬢様らしき服装とその雰囲気に一瞬誰かと思ってしまったが、その特徴的な紫色の髪のおかげで、すぐに今回の待ち合わせ相手である少女だと気付く。


「ううん、全然待っていないよ。むしろ、こっちが迷惑かけてゴメンねヴィヨレ。ご両親の調子はどう?」


「おかげさまで元気に過ごされてますよ。新ダンジョンの件や建国祭で大忙しだったので、今は本業である領地の運営に励んでいるところですね」


 そう言って、笑顔を見せるヴィヨレ。一緒にエポメノを冒険した時は冒険者としての服装ばっかりだったので、今のオシャレなお嬢様風な服装は新鮮だと思いつつ、俺はベンチからゆっくり立ち上がり、目的の飲食店へと向かうためヴィヨレと一緒に歩き始める。


「それは何より……しかし、よく分かったね?」


「どんな姿なのかは聞いてましたからね。自身も太って、被害に遭った人達に紛れるというのはいい考えだと思いますよ」


 俺はそれを聞いて、脂肪によって俺の巨乳と同じくらい前に突き出たお腹に触れる。肥満薬を飲んで肥満児体型になり、髪もアビリティを使用していつものミドルヘアーからショートヘアーに変えている。後は、相手が貴族の令嬢であるヴィヨレなので、服装もそれに合わせて貴族の女の子が着るような服装をすれば、変装としては十分だろう。


「それと建国祭でもお姿を拝見していたので、太っていても分かりましたよ」


「そうなの? それなら声を掛けてくれても良かったのに……」


「私より高位の方々が囲ってましたからね。子爵令嬢としてあまり目立つようなことは避けたかったんです」


「はあ~……貴族の世界って大変だね」


「慣れですよ。それに……ヘルバさんも遠からずこちらへと来そうですし」


「平民から貴族なんて聞いた事が……いや、あったわ」


「ヘルバさんのご活躍なら、子爵程度の爵位を賜ってもおかしくはないですからね……帝国に滞在している間も色々言い寄られたんじゃないですか?」


「皇子とデートさせられたけど?」


「あらあら……モテモテですね」


「女性として喜ぶべきか、今後の人生が波乱万丈なのを憂えるべきか……」


「ふふ……! もし、何か悩み事があったらいつでも相談に乗りますよ。男性じゃなくて同年代の女の子としてですが」


「同年代……言われればそうかも」


 見た目なら、今の俺とヴィヨレはほぼ同年代の女の子である。そう考えると、周りが俺より年上の中、同年代として色々相談に乗ってもらうことが多くなるかもしれない。


「……そうしたら頼らせてもらうね」


「はい!」


 そんな会話をしつつ、噴水広場近くに待たせていたヴィヨレの馬車に乗り込んで、例の食堂へと向かう。その間、馬車の座席に座った事で、より強調された俺の大きなお腹が気になったヴィヨレによって、俺のお腹は目的地に到着するまで撫でたり揉まれたりするのであった。

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