20草
前回のあらすじ「酒は飲んでも飲まれるな」
―深夜「アルヒの洞窟・入り口付近にある宿」―
「おやおや……全員、酔いつぶれるとは……」
(ああ。まさか、音楽が流れるだけでここまでとは……)
酔い潰された連中が寝転がっている中で一人飲んでいるギリム。ただ、一人で黙って飲むのも寂しいという事で、明日こいつらが目覚めた時に必要になるだろう二日酔いに効く薬を作っている俺の近くで飲んでいる。
(ギリム。お前ってザルか?)
「ええ。私は魔族という種族なのですが、その中でも蛇に近い種族でして……ようは蟒蛇なんですよ」
(角が生えてるから獣人かと思ってた。しかも蛇かよ?)
「ええ……魔族は色々いるので……そういえば種族について話は聞いてますか?」
(うーーん。細かいのは聞いていない……のか?)
確か、宿での食事の際に訊いたことはあるのだが……。
「それでは、酒の共に付き合ってもらっている代わりにお話ししましょうか」
(ああ。頼む。それと、俺が前に住んでいた世界は人族しかいなかったからな。そこは伝えておく)
「分かりました……それでは……」
ギリムがどこからか紙とペンを取り出した。その取り出した手には指輪が嵌められていた。
(もしかして魔道具か?)
「ええ。アナタと同じ収納の効果がある指輪ですよ。容量は小さいですが……これ、私がダンジョン探索時に手に入れた物なんですよ」
(元々、冒険者だったのか?)
「それとは違います。まあ、そこはまた今度……」
そう言って、紙に何かを書き始めるギリム。少しだけ待つと書き終えた紙を俺が見やすい位置に置いてくれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―この世界の種族について―
「人族」
特筆した能力は無いが、全てに平均的な能力を持つ種族。様々なアビリティを覚えやすい。
「獣人」
体のどこかに動物の特徴を持つ種族で身体能力に特化した種族。魔法も使えなくは無いが他の種族と比べると威力が弱い。ただし、自信の身体を強化する魔法とかに関してはその類ではない。
「エルフ」
視力、聴力、脚力に特化していて、また魔法も得意な種族である。その代わりパワーと体力が人族と比べて低い。また長寿である。
「ドワーフ」
エルフと反対にパワーと体力に特化した種族。魔法もエルフと同じように得意で長寿である。
「魚人」
体のどこかに魚類の特徴を持つ種族。魔法は水魔法が得意であり、中には雷魔法や毒魔法を得意とする者もいる。身体能力は人族と同じぐらいだが、水の中ならどの種族よりも強い力を発揮できる。
「魔族」
体のどこかにモンスターの特徴を持つ種族。人族より平均的に身体能力は高いのだが、ポーションや回復魔法が効きにくいという特徴もある。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―深夜「アルヒの洞窟・入り口付近にある宿」―
「この世界に住んでいる種族は大きく分けるとこの通りですね」
(なるほど……で、俺って?)
「……モンスターか植物ですかね?」
(ですよねーwww)
まあ、分かり切ってはいたのだが。
(それで、ギリムはモンスターの特徴を持っている……頭部に生えている角がそれなのか?)
「はい。ホーンドサーペントという蛇のモンスターの特徴を持っています。それだから……」
俺から反対側に体を捻るギリム。普通の人間ならあっちを向いて終わりなのだろうが、そのままこちら側まで体を捻ってしまった。
「このように蛇の特徴を持っています。後は高位の鑑定アビリティを持ってることが多いですね」
(種族的な特徴なんだな……あれ?もしかして体を冷やされると動けなくなる?)
「……はい。全く動けないとかじゃないんですが……動きにくくなります」
(モンスターの特徴……つまり、それの弱点も引き継ぐってことか)
「ええ。ただ、どのような能力を引き継ぐのかは完全にランダムなので寒さに対して普通の者もいますよ」
(それって、獣人に魚人にも当てはまる内容だよな?)
「その通りです。それと、この世界にはアビリティがあります。本来なら火魔法が弱点である草の君が、アビリティの恩恵で炎に対して強いように、個々の研鑽や生まれによっても変わるので、必ずしもこの紙に書いたような内容に当てはまる訳でも無いので注意して下さい」
(へえ~……分かったよ。ありがとうな)
「どういたしまして」
「うーーん……しびれた……」
すると、隣で酔いつぶれていたドルチェが寝言を言いつつ、今まで枕にしていた腕とは反対の腕を今度は枕にして再び寝てしまった。
「それで……どうでしたか?初めてのダンジョン探索は?」
(……色々、あったけど楽しかったよ。不謹慎かもしれないけどな)
「それはよかったです。きっと冒険者向きな性格ですね」
(で、気になる事があるんだが?)
「何でしょうか?」
(……称号を持つ奴らがこんなに近くに集まるものなのか?)
「……」
(城壁都市バリスリーの近くにあるカロンの森、アルヒの洞窟、そして……お前が話したグリフォンのいるダンジョン。バリスリーのギルドマスターなんだから、そのグリフォンがいるダンジョンも近くなんだろう?つまりバリスリー付近に何故か3体の称号持ちのモンスターが集まっていたということだ。こんなことがあるのか?)
「……ありませんね。彼らはそれぞれ独立した存在です。そんな彼らがこんな近くに集まるなんて、そもそも異例です」
(最初は俺の称号が関係してるかと思ったんだが……もし、そうなら過去にもこんな事例がいくつもあるはずだよな?)
「ええ。その通りです。そんあ事例はありません……偶然とも片づける事も出来なくは無いのですが……」
そう言って、グラスに入った酒を飲み干すギリム。そのくもった顔からして偶然とは思っていないのだろう。
(ギリム。俺がイグニスと初めて会った時、既にボロボロだった。つまりイグニスは何者かと戦って大ケガしたことになる。そしてその相手はモンスターではなく武器を持った人だ。そして……)
「あなたが戦った場所はカロンの森……隣国はボルトロス……彼らが何かを企んでいるといいたいんですよね?」
(もしイグニスのような大型モンスターが現れたなら、冒険者ならギルドに報告するだろう?それが無いなら……的外れな考えと思うか?)
「少しだけ……でも、その考えを完全に否定できるほどの説もないですね。しかし、どうして彼らが怪しいと?」
(あの国の兵士と戦ったんだけど、あの様子なら何をしてもおかしくないというか……)
あの時……ドルチェ達と一緒にボルトロスの兵士と戦ったあの時……どこか違和感があった。最初は過激な宗教信者と思っていたのだが……。
「そうなんですよね……奴らのしたこれまでの罪状を上げると、もしかしてとか思っちゃうんですよね」
(まあそうしたら、どうやって称号持ちを集めてるのか?とか、集めて何のメリットがあるのか?なんだけど……まさかあの伝説を信じてるわけじゃないよな?)
「国を滅ぼすほどの力ですね……あれほどの妄信信者なら可能性はありますね」
先ほど飲み干して空いたグラスに、酒を淹れながら答えるギリム。そして、淹れた酒を飲み、一息付く。
「こちらで色々調べてみます。もちろんボルトロスが関わっていないかも……」
(何か分かったらすぐに教えてくれよ?)
「もちろんですよ」
(じゃあ、この話は終わりにして……お前の愚痴でも聞いてやろう。あるだろう?日頃の不満とかさ~)
「……そうですね。難しい話はここまでにして、ここから先は楽しくお酒を飲むとしましょうか」
(じゃあ、これ出しとくぞ)
俺は収納から、今回のダンジョン探索で用意していた食べ物の中からお酒に合いそうな物をギリムの前に出す。
「明日も早いのでほどほどに……」
(もちろんだ)
俺達は難しい話はここでお終いにして、あっちの世界でもあるよなごくごく平凡な会話を始める俺達。当初は早々に話を切り上げるつもりだったのだが、話は盛り上がってついつい遅くまで話し込んでしまうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―翌日「アヒルの洞窟から城壁都市バリスリーへと続く街道」―
「う~……頭が痛い……飲み過ぎた……」
「ええ……あの時は気持ちよかったけど……今は地獄ね」
二人が頭の痛みに苦しみつつも帰り道を進む。というか……ギリムを除く全員が頭を抱えている。
「ウィードの作った酔い覚めの薬を使用したのに……うう。痛い」
(すまん。音魔法の扱いには今後、気を付ける)
「やっぱりこの草は……うっ!?」
「ラテ……大人しくしなさい。痛みが酷くなるわよ」
ギギ……!!
(ウォーター・ホイール!!)
草むらから現れたゴブリンの首を切断。
(ファイヤー・ボール!!)
そして焼却する。こんな戦えない人が多い状況である。素材の剥ぎ取りは今回は諦める。
「帰り道は私とウィードで何とかするので、皆さんはモンスターを見つけたら声を上げて下さいね」
「「「「はーーい……」」」
ぐったりとした様子で、ギリムに返事をする討伐参加者達。この後、お昼過ぎにはバリスリーに帰れたのだが、報酬とかの話は聞ける状態では無かったので、俺の作った酔い覚め薬を参加者達全員に渡して、また明日となるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―夜「城壁都市バリスリー・花の宿プリムラ ドルチェ達の部屋」―
「うーーん……」
「う、う……」
解散後、そのまま宿に戻った俺達。二人は部屋に着いた途端にベッドに横になってしまった。気持ち悪そうにしている二人を心配して見に来てくれたリリーさんが水の入った水差しを置いてくれた。ちなみに俺も部屋にいて、ベット近くのサイドテーブルに置かれている。
(……)
インビジブルで二人の裸体を拝むチャンスなのだが……。
「う~~ん……」
男として弱った女性を襲う気にはなれなかったのだった。