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207草

前回のあらすじ「帰って来たと思ったら刺された」

―暴漢に襲われてから1時間後「王都ボーデン・王城 貴賓室」―


「おお……!? へ、ヘルバ……話は後でいいから、すぐにでも治療を……」


「刺されて大ケガをした振りをしただけ。ほら……」


 俺はそう言って、破けた箇所から俺の体が傷1つ付いていないのを見せる。そして、そのまま貴賓室へと入っていく。王城へと辿り着いた俺はドルチェとココリスと一緒に王城内へと登城し、人目が付かないようにとランデル侯爵の案内でここまでやって来た。モカレートとミラ様だが、俺が襲われた事を受けて、もしかしたら自分の家や身内に2次被害が出ていないか確認しに行くため別れている。


「お、おお……衣服に返り血が付いているからてっきり……というより淑女が異性に素肌を見せることはしてはいけないと思うぞ」


「訳わからない理由で殺されかけたのに、そんな呑気なことを言ってられないからね? それと……これはブラッディ・ツリーの樹液だよ。赤黒い色してるから、人の血と勘違いしやすいんだよね……臭いもどこか鉄のような臭いがするし……」


「私もそれで騙されたよ……」


「私もよ。だから、刺されていなかったなんて思いもしなかったわ」


 そんな話をしつつ、俺は貴賓室のソファーに座る。そして、2人も座った所で何が起きているのかを説明してもらう。


「そうだな。早速……」


「失礼します。ヘルバさんが帰って来たと聞いたのですが……」


 コンコンと扉を叩き、俺が帰って来たことを王様に訊く女性の声。この声からしてビスコッティ……のはず、何か野太い気が……。


「丁度良かった! すぐに入って来てくれ!」


 「失礼します」と言って、応接室の扉が開かれる。そして、ビスコッティが中に……。


「……え?」


「お久ぶりです! 何か前と少し様子が変わった気がするんですけど……何かありました?」


「それはこっちのセリフだけど!? ほら、ドルチェ達の様子も見てよ! 驚きのあまり言葉を失っているんだからね!?」


 ビスコッティの今の姿を見て、ポカーンと口が開いたまま静止している2人。すると、ココリスの方が先に意識を取り戻して、隣にいるドルチェの肩を揺らして、無理矢理意識を取り戻させた。そして、2人は再度ビスコッティの方へと目を移し……各々が思っていたことを口にする。


「え、ええ……それで何があったのか教えて欲しいわね。ねえ?」


「そう……だね。で、ビスコッティ……どうして」


「あはは……どうしてこんな体になっているかですよね……」


 そう言って、特大サイズの病衣を着たビスコッティが自分のお腹を軽く叩く。すると、病衣の上だというのにプルプルと脂肪が震えてそのまま全身の脂肪へと広がる。そして、室内をのっしのっしと歩くのだが、前に付き出した垂れ下がったお腹が彼女の足の動きを阻害しているせいで、少し歪な歩き方になってしまっている。そして、自分の顔と胴体がくっついてしまうほどに太り過ぎた体で、どうにかソファーのところまでやって来てどっしりとそこに座った。


「ふう~……疲れた」


「……ビスコッティ。いくらこれから寒くなるからって、そこまで脂肪を付けるのはどうかと思うよ?」


「ヘルバさん。分かっててそんな冗談を言ってますよね?」


「うん」


 ビスコッティが激太りした。いや激太りなんて表現は生温い。脂肪がたっぷり付き過ぎて、もはや元の可愛らしいビスコッティの欠片がどこにも無いほどの肥満体になっていた。俺はビスコッティの病衣から溢れている脂肪に触れつつ、何が起きているのかアレスター王も含めて尋ねる。


「で、これの原因が私だってことで王都内に広まっていたりする?」


「その通りだ」


「ちなみに私がここまで太ったのは3日前ですね。他の皆も同じです」


「そうか……で、万能薬wwwでも状態異常が治らないと?」


「それなんですけど……」


「まさか……」


 そこで俺はビスコッティの脂肪で潰れてしまった目を見る。そして、振り返ってアレスター王の様子も確認すると……手を額に当て、顔を伏せていた。


「状態異常じゃないんです。これ」


「暴飲暴食による太り過ぎは当院では扱っていません。他の医者を案内するので……」


「いやいや。さっきも言った通り、3日でここまで太るなんて出来ませんからね!?」


 そう言って、ここまで太ったのは自分達の責任じゃないと訴えるビスコッティ。まあ、ビスコッティの言う通りで、


「太った人はそう言うんです! 何だかんだ言って、これはご褒美だからってコンビニスイーツを買っちゃたり、背徳感を感じながらも夜にポテチとコーラでキメたり! 今回もきっと……!」


「違いますから! 本当に……!」


 そう言って、荒い呼吸をするビスコッティ。脂肪が付き過ぎたせいで、どうやら呼吸器系が圧迫されているようで、このような短時間の激しいやり取りでも呼吸がもたないようだ。


「ごめんごめん。少しふざけ過ぎちゃった。ちょっと覗くけどいい?」


「どうぞ」


 俺は早速、『フリーズスキャールヴ』でビスコッティの状態を確認する。すると、状態異常にはなっていなかった。


「うーーん……これは単に太り過ぎだね。適度な運動と食事で少しづつ減らすのが1番かな」


「となると……もしかして私達って……」


 そう言って、みるみるうちに暗い表情になるビスコッティ。俺ならこの異常をすぐにでも治せると思っていたのだろう。しかし、俺の鑑定結果と解決策を聞いて、冒険者として2度とやっていけないと思ったのかもしれない。


「ヘルバ……何と出来ないのか?」


 王様の問いに俺は俯きながら、真剣な表情のままその質問に返事をする。


「何事もゆっくり痩せるのが1番……2番目のわずかな時間で元通りになる方法は慣れちゃうと体型維持とか怠りそうだからお勧めしない……」


「ヘルバさん!? 揶揄ってますよね!?」


「揶揄ってないよ? あくまでこれからするのは2番目……お薬で簡単に痩せられるなんて、そんな甘い話はあってはいけない……そもそも体が慣れすぎると痩せにくくなるし……」


「緊急事態なんです!! 今回は大目に見て下さいよ!!」


「分かってるって……という訳で、先にフォービスケッツの皆の体を戻そうか。詳しい話はそれからでも良さそうだしね。あ、それと……医者を呼んでもらった方がいいかな?」


 一応、俺は暴漢に襲われて大ケガしている体である。ケガの深刻具合はともかく、王家御用達の医者に一度見てもらったふりでもしておいた方が、この話の信憑性が高まって色々都合が良くなるだろう。


「それなら、後ほどドルチェたちと一緒にそちらへと向かうとしよう。ランデル……2人に同行してくれ」


「御意。それとなんですが……」


「秘密の通路を使いたいだろう? 構わない。ヘルバなら知っておいてもらった方がいいだろうしな……」


「いやいや……それって王家の避難路みたいな物だよね? そんなのを私にあっさりと教えないでよ」


「もしものためだ。覚えておいた方が将来いざという時に役立つしな……」


「……それ、ドルチェたちがここに残る理由にもなってる?」


「さて……何の事かな? とにかくフォービスケッツの4人の処置を頼んだぞ」


 アレスター王がそう言って話を逸らす。色々、追求したいところだが、ビスコッティの様子を見てこちらの方が優先だと思った俺は、手を振って見送るアレスター王を見つつ貴賓室を後にした。


「すいません……上手く歩けなくて……」


「気にしないで……ここにいるランデル侯爵様を尋問するのにちょうどいいからさ」


 いつもの呼び名じゃないことにランデル侯爵が緊張した表情を浮かべている。太り過ぎてゆっくりとした歩みでしか前に進めないビスコッティの後をゆっくり歩きつつ、俺はランデル侯爵の横を歩く。そのランデル侯爵だが、俺にどんな質問されるかと思っているのだろう額……いや、そのつるつるな頭部全体から冷や汗を掻いていた。


「あまりしつこいと嫌われるよ?」


「あ~違う違う。この王都でお前さんはここを拠点にしてるだろう? お前さんなら窓から飛び降りた方が速いかも知れないが、やはり安全なルートを覚えておいてもらった方が安全に逃げられるからな。それとあの2人にはあっちで何があったか報告してもらわないといけないからな」


「いやいや……そんな秘密の避難路を使うような事が起きないで欲しいんですけど? それに報告だって私を除け者にしていいのかな?」


「それは……あの子達の処置後でも十分だと思ってるからだ」


 そう言って、少しだけ前に進んでいるビスコッティを見る。あまりにも付き過ぎた脂肪が分厚く垂れ下がっており、呼吸もかなり荒い、普通なら杖などの補助があっても歩けるか怪しいところなのだが、前衛の戦闘職のアビリティを有しているビスコッティだからこそ、何とか自力で歩けているのかもしれない。


「他の3人ってまさか……」


「ベットに寝たきりだ。下手すると……」


「……ねえ、もしかして今回の件で死者とか出てる?」


「……」


 俺の質問に沈黙するランデル侯爵。どうやら、俺は人殺しの薬を作った薬師として噂が広がったせいで、今回の事件が起こったようだ。


「悪質なデマだね……」


「ヘルバ?」


「ふふ……」


 ()のいない間に悪評を流すのは仕方ないと思っていた。それだけ目立つ事もしているのは自覚している。だから、その程度なら見逃すし、やり返すなら軽いもので済ませるだろう。だが……()を貶めるために、人の命を奪ったというなら……容赦しない。


「ど、どうした……?」


「ううん。何でもないよ!」


 そこで、先ほどから()を心配して声を掛けてくれているランデル侯爵に、()は綺麗な笑みを見せる。それを見たランデル侯爵が非常に恐れていたが……当事者にはこれ以上の恐怖を与え、()に怯えた表情を見せて欲しいと思うのであった。

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