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206草

前回のあらすじ「レッシュ帝国編終わり!」

―帝都を離れて8日後「王都ボーデンに続く街道」―


「あと少しで王都に到着だね」


「仕事としては2ヶ月程度だったのに、何か9ヶ月もあっちにいた感じがするわ」


「何か中途半端ですね……?」


「そうだね?」


 ココリスの言葉に、俺も含めた皆が首を傾げる。半年とか1年とかもっと切りのいいアバウトな表現があると思うのだが、どうしてそんな9ヶ月という中途半端な数字が出るのか分からなかった。そういえば漫画とかなら、章が始まった日から終わった日の間をメタ発言するキャラもいた気がするが……まあ、関係無いだろう。


「暗殺事件……何か進展あったかな」


「どうでしょうか……へ、へくしゅ!」


「ミラ様大丈夫ですか? 必要ならさらに羽織ってもらった方が……」


「いえ。後少しですし……」


「まだ距離があるよ? 我慢せずに羽織りなよ……ほら」


 ストラティオをミラ様の乗っているストラティオの横に付け、『収納』からミラ様から預かっていた上着を取り出して渡す。ミラ様はそれを受け取り、すぐさま羽織る。


「必要なら温かい飲み物とか準備するけど?」


「大丈夫ですよ。ついさっき休んだばかりですし」


「あまり我慢しないで下さいね? しかし……一気に寒くなりましたね」


「そうだね」


 俺はそう言って、白い息を吐く。帝都を出発した段階では秋の陽気だったが、たった1週間で冬の陽気に様変わりしていた。


「楽しみだね……星見祭」


「そうね。今年はたくさん見れるかしら」


「ここ数年、少なかったですもんね」


「あの時はアスラ様お一人でしたから……今回は聖女の皆が頑張ってるので期待して下さい」


 俺を除いた4人で星見祭となる催しについて話を始める。4人共、非常にその催しを楽しみにしており、モカレートの使役しているマンドレイク達も短い腕を上に挙げて、その楽しみ具合を表現している。


「ねえ……星見祭って何?」


 星見祭がどんな催しなのか分からない俺は皆に訊いてみる。すると、ミラ様が「そういえば、話してませんでしたね」と言って、星見祭について話し始めてくれた。


「星見祭は年末近くに行われるお祭りでして、無数に流れる流れ星を眺めるお祭りなんです。星を綺麗に見るために、その日の灯りは一部を除いてロウソクだけにして、甘いお菓子と温かいジュースで一夜を過ごすんですよ」


「……それって年が変わる6日ほど前に行ってたりする?」


「そうですよ。星見祭のことを知らないのに、いつ行われるか分かるって事は……前世の知識に似た催しがあるのですか?」


「うん……多分、クリスマスの代わりだと思う。アレも大晦日……年が変わる6日前に行われているからね。ただ……内容は少し違うかな」


「そのクリスマスってどんなお祭りなのよ?」


「うーーん……サンタクロースって言う伝説の人物が寝ている子供にプレゼントを配って回る日。ローストチキンにケーキを食べて持って来たプレゼントを交換し合ったりする日。とある宗教の象徴の誕生日を静かに祝う日だったり……と、場所や生まれによって変わる少し特殊な祝い事かな」


「星見祭とは、かなり違っていないかしら?」


「まあ……ね。私のよく知るクリスマスだと、ただ恋人といい雰囲気になれそうとか、家族や友達とワイワイ楽しめそうとか……後、ケーキの代わりに甘いお菓子を食べたり……何か雰囲気的に似てるなって」


「なるほど……」


「まあ、こっちに無理やりクリスマスの文化を混ぜ込もうとする気は無いけど……あ、でもクリスマスにシャケを食べる文化は持ち込んだ方がいいのかな……?」


「シャケ?」


「ほら、こっちだとサモーンって呼ばれる赤い切り身が特徴的で、王都だとよく見かけるお魚がいるでしょ? あれと似た魚があっちにもいて、「クリスマスにはシャケを喰え!」って文化があったんだよね」


 ネットミームとしてクリスマスになると一部の界隈を騒がすとある怪人の有名なセリフ。彼の意志を継ぎ、この世界にも広めていくべきか悩むところである。


「ああ……あの魚ね。どこの川でも見られるモンスターで比較的に倒しやすいから、初心者冒険者のいい稼ぎになってるわ……ねえ、ヘルバ」


「何?」


「もし、あなたがサモーンを手に入れたら、美味しく調理してくれるのかしら?」


「まあ……私には地球のシェフの知識があるから、当然だけど、皆の舌を唸らせる料理は作れると思うよ」


 このサモーンが鮭なのかサーモンなのかで作れる料理は変わるだろう。星を見るのだから、持ち運びしやすい料理が好ましいだろうから……鮭だったら焼いてフレークにして、おにぎりの具材へ、サーモンだったら、サンドイッチだな。屋内で食べるんだったら、鮭と味噌の香りが食欲をそそるちゃんちゃん焼に石狩鍋、玉ねぎと甘酸っぱいソースでさっぱりと頂けるカルパッチョ……アボカトやクリームチーズを使ったカナッペ、ああ、彩りが鮮やかでパーティー料理として相応しいチラシ寿司もありかな。


「「「「じゅる……」」」」


 献立を考えるのに集中してると、何か涎を啜るような音が周りから聞こえたので、何だろうと思い、周りを見渡すと、皆からただならぬ気迫を感じた。


「アフロディーテ様からサモーンを捕らえよという啓示を頂いた気がします」


「ちゃんとした設備が整った厨房で作られるヘルバさんのサモーン料理……」


「長寿なエルフでも一生に一度、味わえるかどうか怪しいよね……」


「……確かこの先に、サモーンが捕れる狩場があったはずよ。話を聞いた以上、捕まえないと……」


「あれ? 私、口にしてた?」


 俺の質問に静かに頷く4人。どうやら献立を考えるのに夢中になり過ぎて、声が漏れていたようだ。


「ねえ、チョット一狩り行かない?」


 何か某ゲームのCMで聞いたことのあるセリフを言うココリス。その目はサモーンを取り尽くすんじゃないかと思うくらいの気迫である。


「私は良いですよ。良いお薬を作るには、まずは自分の食生活と言いますし……」


 恍惚な表情を浮かべるモカレート。そんな迷言始めて聞いたのだが。


「アフロディーテ様のお導きのままに」


 ミラ様はそう言って、狩りに同意する。あの神が本当にそんな事を言う訳が……無いとは言い切れないな。


「〜♪」


 ドルチェがご機嫌な様子で鼻歌を歌う。それだけを見るなら普通なのだが、たまたま運悪くこの場に居合わせた3匹の狼型のモンスターが3匹とも綺麗に3枚卸にされてしまったのを見ると、この子もイッちゃってるのが見て取れる。


「……行く?」


「「「「行く!」」」」


 早速、近くにあるサモーンの狩場へと向かうため、ストラティオの手綱を引っ張り進路をそちらへと変えた。


 俺は心の中で、「サモーン逃げて!! 今すぐに!!」と心の中で叫ぶ。その数時間後、俺の悲鳴も虚しく、大量のサモーン達が捕えられたのは言うまでもない。そんな出来事もあって、王都へと到着するのが遅くなり、時間は夕方になってしまった。


「すっかり遅くなっちゃったね」


「ええ……でも、閉門時間には間に合ったわね」


 目の前に見える城壁と門を見て、やっと王都に帰って来たと喜ぶドルチェとココリス。ミラ様も久しぶりに他の聖女達に会えると笑顔を浮かべている。そして、王都へと入る列の最後尾に並ぼうとしたその瞬間。


「見つけたぞ!」


「え?」


 その声と共に列にいた1人の男が俺に近付いて来る。何だと思って見ていると、その男が手に何か持っているのが見えた。それがナイフだと分かった時には、既に男のナイフを握った手が前に出され、俺の体に突き刺さった。こんな人前でそのような行為をするとは思っていなかった一瞬の気の緩みと、サモーンの捕獲の際の疲労のせいで、ここにいる皆の反応が遅れてしまったのだろうと、俺は冷静に判断する。


「くっ!?」


 抜かれるとヤバいので、俺はそのナイフを抜かれないように抵抗するが、男はナイフを強引に抜く。そのナイフの先端は真っ赤に染まっており、刺された箇所から噴き出る俺の腹部の赤い液体と同じ色だったのが、ストラティオから落ちる際に見えた。


「ヘルバ!?」


「この!」


 倒れた俺はすぐさまドルチェに抱えられる。一方、ココリスはストラティオから飛び降りて、すぐさま男を抑える。そして、騒ぎを聞いた門番もやって来て、男は完全に無力化される。それを見た俺は目を閉じる。


「ヘルバ……しっかりして!」


「離せ! この女が俺の彼女をあんな目に!!」


「何を言ってるのよ! この子は2ヶ月前から帝国で仕事をしてたのよ! そんな暇は……」


「こいつは薬師だ! あらかじめ薬をばら撒いておけば、いなくても危害を加えられるはずだ!」


「危害って……この子が何をしたって言うのよ!?」


「うるさい! お前あいつの仲間なんだろう! 知らないふりして、大勢の人が困っているのを楽しんでるんだろう!」


 男の罵声が聞こえる。大勢の人が困る薬とは一体何だろう? そのような物は卸していないし、あっても王城や王立の研究所などで厳重に保管されているはずである。


「あの子が例の子なの?」


「そうみたい……でも、本当かしら? あの様子……まるで知らないみたいよ?」


 この騒動を遠巻きに見ている人達からそんな話声が聞こえる。どうやら俺のいない間に、何か変なハプニングが起きていたようだ。


「遅かったか……」


「ランデル侯爵! 一体何が起きたんですか!」


「話は後だ! すぐにヘルバの治療を! 門番! 緊急事態のため、この子達を先に入らせる! これは王命である!」


 すると、どこからかランデル侯爵がやって来て、すぐさま俺達を王都に入れるように門番に指示をする。誰かに担がれた俺は目を瞑っているため何も見えないが、皆が慌てて荷物をまとめて、門へと移動しているのが何となく分かる。


「馬車を用意している! ひとまずそっちに……!」


 ランデル侯爵が馬車へと誘導を始める。どうやら無事に王都に入ったようだと思っていると、俺の体が柔らかい何かの上に丁寧に下ろされる。


「ヘルバ! しっかりして! 死んじゃだめだよ!」


「……もしかして馬車の中?」


「ええ、そうよ! とにかく意識を強く……」


「よいしょっと……」


 馬車の中にいると聞いて、俺は目を開けスッと体を起こす。その姿に心配していた皆が驚きの表情を浮かべていた。


「へ、ヘルバさん!? そんな無理を……」


「してない。というより……ちゃんと見てよ」


「「「「え?」」」」


 何を言っているのか分からない皆に、俺は刺された箇所を乱暴に破り、その下にある俺の体に幾重にも巻き付いている細い蔦を見せる。その蔦の数か所に刃物による傷が出来ており、そこから赤い液体が垂れていた。


「赤い液体が染色の素材になるブラッディ・ツリーの蔦を咄嗟に巻いていたの。ストラティオに乗っていた私を刺すとしたら足か体のどっちかだったから、まあこれで防げるなと思って……ってことで刺されていないよ?」


「紛らわしいわ!!」


 ココリスがそう言って、頭を平手打ちする。先ほどの男の攻撃より、この攻撃の方が何倍も痛かった。その後、心配した皆に叱られつつ、馬車に乗って王城へと俺達は向かうのであった。

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