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205草

前回のあらすじ「システィナのドレスと装飾品はヘルバとマールン皇子が折半して出した模様」

―その日の夕方「レッシュ帝国・城下町」―


 システィナの買い物を終えた後、昼食を挟みつつ城下町の散策を続けた俺達。時折、皇子様達を狙った連中にきついお仕置きをしつつも楽しむことが出来た。むしろ、皇女様に気付かれないように対処するという個人的なミッションが楽しくなって、率先して倒していたりする。


「……」


「もう誰も襲ってこないと思うぞ」


「ん!? な、何の事かな……?」


「明らかに動揺し過ぎだ。さっきからキョロキョロして、獲物を探す猫のようだったぞ。それと……先ほどから俺が何を話していたか覚えていないだろう?」


 マールン皇子に言われ、露骨に刺客を探していたこと、マールン皇子の話を聞いていなかったことに、俺は心の中で反省しつつ、しっかりとマールン皇子の方を見て会話をする。


「あはは……それで、どうして来ないって分かるの?」


「やっぱり覚えていないか……まあいい。それで先ほど連絡があってな。俺達が捕えた連中から依頼主と襲ってきた連中のボスのところまで辿り着けたそうだ。黒幕達が捕まった以上、大人しく引くだろう。そもそも、子供である俺と子供にしか見えないヘルバに護衛のモールドのたった3人に刺客がコテンパンに叩きのめされているんだぞ? それを遠くから見た他の刺客はどう思う?」


 いつの間に連絡を取ったのだろうかと思いつつ、俺はマールン皇子の質問について考える。


「私なら自信喪失かな?」


「だろうな。ここから誘拐して金を要求する可能性もあるが……連中のボスが捕まった以上、さっさと逃げるだろうしな。その可能性は限りなくゼロだろう」


「相当な馬鹿じゃなければ……ね」


「ああ」


 俺はマールン皇子と一緒に後ろにいるシャオル姫達の方へと振り向く。モールドとシスティナがいる以上、残党に攫われることは無いだろう……。


「と、思ってたんだけど……えい」


 指を「パチン!」と鳴らす。俺はさらにその後ろにいた残党に対して、あらかじめ仕掛けていた種を発芽させて催眠効果のある花粉によって、そいつらを一網打尽にする。


「やれやれ……」


 マールン皇子が手を「パンパン」と叩くと何処からか現れた兵士達によって、あっという間に連中は連れて行かれた。モールドとシスティナは気付いたみたいだが、シャオル姫とカンナさんは気付いていなようだ。


「馬鹿がいたな」


「そうだね。それでだけど……私が原因?」


「……ああ」


 隠しても意味が無いと判断したマールン皇子が素直に答える。


「私とマールン皇子がくっつくのが面白くないってところか……早とちりもいいところだね」


「俺はそれで構わないが?」


「はいはい……冗談は」


「本気だ。父上の命令とか関係ない……お前という女に惚れた」


 マールン皇子が俺に顔を近付け真剣な眼差しで、俺に告白する。その嘘偽りの無い本気の告白に『私』の胸は脈を打ち、それに合わせて顔も熱くなる。


「どうやら……脈ありだな」


「何を言ってるんですか……私の中ではマールン皇子は子供。ホルツ王国で私にヌイグルミをせがんだの忘れていませんからね」


「あの時は剣を持っていなかったからな。子供のフリをして危険を回避していただけだ」


「ふーん……本当ですかね? あの時の笑顔……大分、自然だったと思うんですが?」


「分かった分かった……これ以上は言わない。これでこの話は終わりだ」


 そう言って、この話を止めるマールン皇子。だが、悔しそうな素振りは一切見せず、むしろ微笑んで勝ち誇っている表情である。俺をときめかせた時点で、彼の中では勝利が決まっていたのだろう。そのことに、俺の心は若干の敗北感を感じてしまう。


 そこで、俺達が初めてガンドラの町に訪れた日を思い出す。その時、皆に男性の好みを聞かれて興味ないと話していたのだが、レッシュ帝国で起きた様々な出来事のせいで、どうやら心に変化が起きてしまったことに気付く。そもそも『俺』という男は俺が生み出した設定だった。それが崩れてしまった以上、俺の価値観が変わるのも仕方のない話なのだろう。


「分かった。私も……色々あったから、これ以上の追及は困るところだったかな」


「……そうか。なら今日のところはここで勘弁してやる。お前に嫌われては堪ったもんじゃないからな」


 そこで、互いに無言になる。俺はマールン皇子から顔を背け、両手を頬に当てる。その頬は未だに熱が籠っており、『私』の心が慣れない告白に対して上手く整理できていないのが分かる。マールン皇子はどうなのかと思って、横目で皇子の様子を見ると、先ほどとは変わらない凛とした表情のままであり、まだまだ子供のはずなのに、その顔がカッコよく思えてしまう。ふと、今日の城下町の散策を振り返ると、マールン皇子が俺の気を引こうとしてエスコートしてくれていたり、刺客が来た時は、俺の手を煩わせまいと、先走って対処するなどして、常に俺にも気を配ってくれていた事に気付いた。そして、その時の俺を見る表情も思い出して……。


(ココリスの思ってた通りなっちゃったのかな……)


 それが『私』の恋心だというのは分かっている。一方、『俺』はそれを否定する。その複雑な感情に、いくら大人としての知識があっても俺がただの子供なんだと気付かされてしまう。


「しかし……すまなかったな。せっかくの休日を俺達のために使わせてしまって」


「え……いや、平気だよ。私も楽しかったし。可愛い女の子を着飾って楽しかったし」


「男の感覚として……か?」


「からかうのを止めるんじゃないの?」


「そうだったな……そういえば、結局自分の物を買っていないんじゃないか?」


「まあ……そうだね。一応、薬草とか本が売っているところにも言ったけど、目ぼしいのが無かったし……」


「なら……これを」


 すると、マールン皇子が懐から小さな箱を取り出し、俺に手渡してくる。一度、断ってから小箱を開けると、そこにはサファイアが嵌め込まれたネックレスが納められていた。


「お前の瞳の色とお揃いの宝石だ。この前の建国祭の時、装飾品を1つも身に着けてなかったからな……普段使いが出来るように簡素な物したが、何かしらの催しがあった時にもこれを付けてくれると嬉しい」


「あ、ありがとう……嬉しいかな」


「そう思ってくれるなら、俺も嬉しい限りだ」


 そう言って、マールン皇子が顔を背ける。夕陽が俺達を照らしているのだが、マールン皇子の耳が赤くなっていたのは見間違いではないだろう。互いに恥ずかしがっていることを知り、俺は思わず笑みが零れるのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―数日後「レッシュ帝国・城門前」―


「淋しいものだな。もっと長居してくれてもいいのだが?」


「ミラ様の護衛もあるので……」


 そう言って、シュマーレン皇帝の提案をやんわりと断るドルチェ。まあ、そもそも帰り支度を整えたうえで城門前にいるのだから、やっぱり帰るのを止めたというのは無いだろう。


「……これから寒さが厳しくなる以上、こちらに来るのは難しいだろう。また暖かくなったら遊びに来るといい。まだまだ我が国には見どころがあるからな」


「そう言って、ヘルバを取り込む機会を設けるつもりですか?」


「はて? 何のことかな」


「……まあ、そう言う事にしておきましょう」


 ドルチェとシュマーレン皇帝が俺の方を見て笑顔を浮かべる。それだけではなく、ここにいる他の皆も同じように微笑みを向けてくる。


「……何?」


「いやいや……何でも無いよ?」


「そうよ」


「はあ~……先に行くよ」


 気味の悪い皆の顔に溜息を吐きながら、俺は城下町に向かって歩き出す。すると、他の皆も遅れて俺の後に続く。


「お義姉さま! また遊びに来て下さいね!」


「ヘルバ! 次会う時は覚悟しておけ!」


 シャオル姫とマールン皇子のその言葉に、俺は一度振り返って手を振る。そして、遅れてやって来る皆が来た所で、俺は再び城下町へと歩き出すのであった。そして、帝都の外壁を出たところでストラティオに乗り、街道をしばらく走ったところで、今まで黙っていた皆が口を開く。


「マールン皇子に先を越されちゃったわね」


「そうだね……王都に帰ったら、リコット王子から熱烈なアピールがあるかもね」


「その時はロマミ姫も加わっていそうですよね」


「そうですね……シャオル姫がヘルバさんをお姉さんと認めている以上、それに対抗するにはロマミ姫も同じ気持ちでいかないといけないでしょうね」


「何の話……?」


 俺は不貞腐れながら、何が言いたいと尋ねる。すると、4人共ニヤニヤとした笑みを浮かべて、俺の首元のサファイアのネックレスに視線を向ける。


「皇子様からのプレゼントを身に着けるなんて……これは何かあると思ってね?」


「ヘルバさんの活躍を理解していますし、皇女としてマールン皇子の横に立ってもおかしくないですしね」


 「ねえー!!」と言って、皆が互いに顔を合わせる。俺はそんな談笑する皆を相手にせず、街道を真っすぐ見つめる。女性の恋バナに口出せば余計に盛り上がるのは分かり切っている。だから、ここは嵐が過ぎ去るまで耐えるのみである。


「……」


 ふと、視線を下に向けると、俺の胸に乗っかっているサファイアが目に入った。俺はそれに手を触れて、これを貰った時の事を思い出す。


「やっぱり恋してる?」


「……違うから」


 「きゃーきゃー」と騒ぐ、皆からの質問に「違う」と沈黙で俺はこの状況を切り抜けるのであった。

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