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204草

前回のあらすじ「高級なお店ってこんな形式もあるよね?」

―「レッシュ帝国・城下町」―


「~~♪」


「上機嫌ですね」


「えへへ……似合ってますかお義姉さま?」


「ええ。とても似合ってますよ」


 俺がそう褒めると、手を繋いで歩いていたシャオル姫が満面の笑顔を見せる。先ほどのお店で買った髪飾りを早速付けており、それに合わせて髪形もカンナさんに変えてもらっている。


「そういえば……お義姉さまは買わなくて良かったのですか?」


「うん。私、冒険者だからさ。あそこにある品々だと仕事で壊しちゃいそうだし……後はサイズも少し合わないかな……」


「ああ……お母さまよりも大きいですもんね」


 シャオル姫がそう言って、俺の胸を見る。確かにそこもそうなのだが、私の方がお姉ちゃんであり他の部位も大きい。さらに、あの店で売られていたのはシャオル姫のために合わせて作れられた品々である。そのせいで、俺が身に着けるには小さいし可愛すぎてしまう。


(子供っぽい……っていうのは野暮だよね……)


 と、いう訳で先ほどのお店で何も買わなかったのある。なお、全て高額な品々ではあったがいくつか購入する程度なら問題無かったりする。


「しかし、思った通り面白い物は見れたかな……」


 俺はそう言って、システィナの方を振り向く。俺の視線に気付いたシスティナが一瞬ポカンとした顔をしていたが、そこで俺が先ほど何を考えていたのか察したらしく、みるみるうちにその表情が険しくなる。


「私があたふたする様子を見て楽しもうとしてたんですね!」


「大正解。皇族の買い物がそんな安い値段な訳ないからね……きっとビックリするって思ってたよ」


 「にしし……」と俺はいたずらな笑顔を見せる。マールン皇子達の買い物に付き合う理由の1つが無事に叶って何よりである。


「酷いです!」


「ふふ……私の性格を考えたら思い付いたはずだよ?」


「いくらなんでも酷いですよ!! こうなったら……」


 そう言って、ニット帽を脱ごうとするシスティナ。俺には石化は効かないが、ここにいるマールン皇子達も含めた他の人々には効いてしまう。そして、システィナの背後にいるモールドが必死にそれを止めさせるようにジェスチャーをこちらに送ってくる。俺も流石にからかい過ぎたと反省して、システィナのご機嫌を取る。


「ごめんごめん。お詫びに何か1つ奢るよ?」


「……先ほどのお店でも?」


 そう言って、悪い顔をするシスティナ。あんな高額な品々を買わせるぞと脅迫してくるところからして、俺へのお返しのつもりなのだろう。だが……。


「いいけど……システィナには可愛すぎるから、もう少し大人びた品がいいと思うんだよね。マールン皇子。皇女様の御用達のお店って近くにあるかな?」


「ああ、あるぞ。俺も一緒にいるから入店拒否されることは無いだろう」


 そう言って、マールン皇子がシスティナに見られないようにしつつ不敵な笑みを浮かべる。どうやら、システィナがからかってきたことに対して、からかい返す俺に協力してくれるようだ。もしくは、やられたら同じ方法でやり返す貴族の流儀に乗っ取っているだけかもしれない。


「それじゃあ、そこへ。システィナもそれでいい?」


「いやいや!? 待って下さい!! それってかなり高額な品々ですよね? しかも、皇女様と同じものを身に着けたとしたら……不敬なんじゃ」


「大丈夫。どうせ流行り廃りがあるから、今の流行の品を買ったとしても皇女様と被ることは無いと思うよ。まあ……システィナが貴族の男性と結婚して、パーティーとかに出るなら話は別だけど……」


「出ませんから! そもそも私がそんな場所に行く事はありません!」


「……私もついさっきまでそう思ってたけど、それは難しいと思うよ? シュマーレン皇帝の思惑を想像すると……ね」


「ヘルバもそう思うか。父上のことだ……既に動いているだろうな」


 俺に話を振られて、マールン皇子がそう答える。シュマーレン皇帝としては一番は俺を皇族に取り込みたいのだろう。だが、俺のは冒険者として自由を求めていることを知っているのと、俺の機嫌を損ねてしまうのを避けたいという理由から、無理矢理、帝国内に縛り付けることはせず、今はただ様子見で機会を伺っている状況だ。


 一方、システィナはあの称号持ちのテラム・メデューサの力を有しており、俺と違って帝国内に留まる女性。貴族としての後ろ盾は存在しないが、その希少な力をどこぞの分からない奴に取られるような事は避けたい。頭の蛇達もあって、なかなか見合う男性を見繕うのは難しいと思うが、そんな労力を差し引いても、それに相応しい能力を彼女は有している。


 そこまで考えた所で、先ほどまで冗談で話していた俺はマールン皇子の話もあって、かなり真剣に考え始める。


「え? 動いている? それどういう意味ですか?」


「気にしないで。とりあえず、素敵な殿方と付き合えるといいね……と、そのためにも少しは装飾品を持っていた方がいいよね」


「そうだな……カンナにも協力してもらって、自身に似合う装飾品を持っていてもいいだろう」


「ちょっと待って下さい!? 何か冗談抜きで、かなり真面目な話になってませんか?」


「「気にしない(するな)」」


 俺とマールン皇子の意見が被る。システィナは今は気にしなくていい。これから先、かなりの高確率で貴族とのお見合いが来るだろうから、その時、自分がどうすればいいのか考えてくれればいい。


「今度はお姉ちゃんの買い物に行くって事だよね?」


「ええ。そうですよ……シャオル姫みたいに可愛い女の子にしましょうね」


「うん!」


 そして、カンナさんがシャオル姫の気持ちを上手く誘導する。これで次のお店で、システィナが着せ替え人形にされる事は決定である。


「あれ? これどうなってるんです……? あのモールドさん?」


「……」


 システィナに見られて、モールドが静かに顔を背ける。自分は関係無いという意味なのか、それとも事情を知っているが、口には出せないという意味なのか……しっかりと尋ねてみたいところだが、これはこれで帝国の内情に深く関わりそうなので止めとくとしよう。それに……面倒そうだし。


「不幸になるかもしれないなら真剣に考えるけど……そうはならなそうだし、面倒事は勘弁だし……」


「私の身が大変なんですけど!?」


「大丈夫大丈夫。着せ替え人形になるだけ……まあ、高価なドレスや装飾品を見て泡を吹くかもしれないけど……気にしないで」


「いや!? それは勘弁……うっ!?」


 システィナが倒れそうになり、モールドが抱き留めて地面に倒れるのを防ぐ。


「……寝てますけど、何したんですか?」


「眠らせた。そのまま連れて来て。お店に強制連行するから」


 俺はこっそりと『ポイズン・パフューム』を用いて、システィナを睡眠薬で眠らせる。今回ばかりは、無理にでも来てもらう。システィナの将来のため、そして俺自身、こんな面白そうなことを目の前にして逃がしたくない。


「ちゃんと奢ってあげないとね……」


 そして、モールドがシスティナを抱きかかえた状態で移動し、皇女様御用達のやって来たところで気付け薬を使ってシスティナを無理やり起こす。


「酷いです! 睡眠薬を使って眠らせるなんて!!」


「まあまあ……全部は無理だけどちゃんと奢ってあげるからさ」


「ヘルバさんがこう言ってるんですし、しっかりおめかししましょうね……」


「うふふ♪ 頭に蛇さんがいる女性のコーディネートなんて、実に面白そうじゃないの……やりがいがあるわ……!!」


「ひぃー!!?」


 俺とカンナさん、それとこのお店の店長でシスティナを取り囲む。なお、状態異常防止薬を既に服用済みなので、石化される心配は無用である。


「楽しみ!」


「皇子。私達は邪魔になりそうですし……少し席を離しませんか?」


「そうだな。シャオル、お前はカンナと一緒にここにいること。いいか?」


「はーい!」


 そう言って、マールン皇子とモールドが部屋を後にする。俺はその様子が気になって、お店の窓からこっそり外を確認すると、ガラの悪い男共がこのお店を見張るように隠れて立っていた。そして、そいつらが、店から出て来たマールン皇子とモールドへと近付いていく。


「ヘルバさん! ヘルバさんはこれどう思いますか?」


「ん? あ、ごめん……少し外を気にしてたから見てなかったよ。ちょっと見せて……」


 俺はそこで外を眺めるのを止め、システィナの着せ替えに精を出す。それからしばらくして、俺達が満足するような、システィナの全身のコーディネートが出来上がったタイミングで、マールン皇子とモールドが帰って来た。


「モールドさん! 今のシスティナの姿はどうですか?」


「おおこれは……どこぞの貴族の令嬢と言われてもおかしくない位お綺麗ですね。しかし……どうやって蛇達をヘッドドレスナ内に隠したんですか?」


「それはですね……」


 そこで、カンナさんがモールドに今回のコーディネートの特徴を話していく。モールドが真剣に話を聴いているところで、俺はマールン皇子の横へとやって来て、小声で会話を始める。


「(お疲れ様でした。あのゴロツキ共って何者ですか?)」


「(見ていたか……一応、奴らから聞いた話では雇われただけとのことだった。恐らく奴らに依頼を掛けたのは、現皇帝の治世に不満を持つ貴族だろうな)」


「(ゴロツキ共はどうしたんですか?)」


「(衛兵に任せた。後のことは他の奴に任せるとする。今日はシャオルと……遊ぶことに専念したいからな)」


 マールン皇子はそう言って顔を赤くさせる。先ほど、言い淀んでいたが、俺とシャオルの2人と遊ぶことに専念したいと言いたかったのだろう。だが、男心を知っている俺はそこから深く言及することなく、俺とマールン皇子は、着せ替え人形とされているシスティナの様子を少し離れたところから見守るのであった。

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