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203草

前回のあらすじ「皇子様達とエンカウント」

―「レッシュ帝国・城下町」―


「すでに顔を拝見してると思ってたけど……そうじゃ無かったんだね」


「ヘルバさんとは立場が違いますから。そもそも皇族の方々が、立場を明らかにして平民とお会いするなんて、なかなか無いですよ」


「それは……そうかも。わざわざ威張って言う事でもないし、身の安全を考えたら当然か」


 写真の無いこの世界。それ故に、自分達から身分を明かさないければ、皇族という理由で襲われる可能性はかなり低くなる。顔を知られないというのは、どちらの世界でも有効な防衛手段のようだ。


「まあ……ヘルバさんと私は言わなくてもバレそうですけどね」


 そう言って、システィナは自分のニット帽に触れる。それを脱いだら4匹の蛇がこんにちはするのは、システィナだけだろう。で、システィナの視線は、俺の身バレの原因となるこの身長に不釣り合いな2つの双丘に目を向けていた。


「変態……他の皆もだよ?」


 俺がそう言うと、マールン皇子を除く一行がこちらから目を逸らした。男女の知識を持っているので、この不釣り合いな胸に男女関係なく視線を向けてくるのは仕方ないと思っている。これをサラシなどで小さく見せるのもアリなのだが、あまり締め付け過ぎると胸が圧迫されて生活だけではなく、冒険者としての活動に支障をきたしてしまう。どちらを取るにしても、結局のところ俺に負担が掛かってしまうのだ。それなら、多少の視線は気にしないことにした。


 そんな事を俺が考えていると、唯一視線を逸らさなかったマールン皇子が口を開いた。


「確かに目立つかもしれないが……そもそもヘルバは綺麗だからな。しっかりとした変装でもしなければ、大勢の視線を逸らすことは出来ないと思うぞ」


「そ、そうかな……」


 真っすぐ俺の顔を見て綺麗だと答えるマールン皇子。そして、俺に近付いて「例えばこの吸い込まれそうな青い瞳とかがな……」と言いつつ、俺の顎をくいっと上げる。そのせいで、マールン皇子にかなり近い距離で見つめられ、顎を上げるために沿えた指からその子供特有の肌の柔らかさと温もり、そしてその吐息を感じ取れてしまう。


 俺は「ごめん。恥ずかしいから少し離れて」と言って、やんわりとマールン皇子を突き放す。相手はまだ幼い子供……なのに俺の顔が熱くなってしまう。


「脈あり……か。この短い間に何があったかは知らないが、俺への関心が少し変わったようだな」


 マールン皇子が微笑みつつ、俺を赤面することに成功した事を喜ぶ。そして、それを見ていた周りの皆がこのやり取りを微笑ましく見ている。


「……で、遊びに行くんだよね? どこへ行くの?」


「お義姉さまと一緒にお店にいきたい!」


「という訳らしい。俺達が良く使う店に案内しようと思うのだが……構わないか?」


「……いいよ」


 シャオル姫は俺のことを「お姉さん」と呼んでいたはずだが、いつの間にか「お姉さま」に格上げされていた。ただ、気のせいだろうか……何か余計な1文字が付いている気がした。それに俺に向けられている視線が少しばかり粘り気のあって、純粋無垢な女の子が向けるものじゃない気が……。


「何か間があったのだが……他に用事でもあったか?」


「ううん。別の事を考えていただけだから気にしないで。ちなみにシスティナも一緒でいいよね?」


「もちろんだ。俺達より先に約束してた相手なのに、こちらの都合で譲れなど厚かましいしな」


「良かった。じゃあ、システィナも一緒に……ね」


「……ヘルバさん? 何か変な事を考えてませんか?」


「気のせい気のせい……じゃあ、案内をお願いしてもよろしいでしょうかお姫様?」


「はーい!」


 すると、シャオル姫がいつもの調子に戻ったので、単なる俺の気のせいだったみたいだ。とりあえず、話がまとまったところで、早速皇子達が贔屓にしているお店へと向かうことになった。そして、大通りにあるお店が何を売っているのかと談笑しつつ目的地へと歩を進める。


「馬車を使わないんですね?」


 俺はシャオル姫がカンナさんとシスティナの2人と話しているところで、マールン皇子に思っていたことを訊いてみる。


「護衛という面では悪手だが、やはり実際の暮らしというのを感じるには、こうやって出歩くのが一番だからな。馬車ではこんな風にゆっくり眺められず、こうやって人々の不満が聞けないからな」


 マールン皇子がある方向に視線を向ける。そこには婦人達が日頃の不満を漏らしており、中には先日あった大勢の貴族達が処分された件で、この国が大丈夫なのかと漏らしていた。


「それで……大丈夫なの?」


 婦人の心配の件で、マールン皇子ではなく後ろで護衛を務めているモールドへと尋ねる。それに関してマールン皇子も異論は無いらしく、後ろのモールドへと顔を向けていた。


「実行犯の元締めであるティミッドがヘルバ様のおかげでいなくなりましたし、集めて頂いた資料から残った連中への立件準備も進めているので、もうしばらくは荒れてしまうでしょうね」


「後処理大変そうだけど……何か私達に依頼とかある?」


「今のところは聞いていないです。恐らくですが、そのような案件に関してはこちらで処理することになるかと……こちらの国の内情に深く関わることですから」


「そこそこ関わっている気がするんだけど?」


「帝国内の貴族でヘルバ様を知ってるのは極少数……これ以上、知られると余計な横槍が入ってしまうかと」


「横槍か……ただの冒険者としていたい身だから、確かにここが引き際かもしれないな……」


「ええ。これ以上はヘルバ様と他の方々の身の安全を考慮して、この後は私共におまかせを」


 俺は頷いて、この件から引くことを示す。流石に、貴族の面倒ごとに再び巻き込まれるのは勘弁だ。俺は自由に楽しく生きていたいのだから、ここから先は帝国の方々に任せるとしよう。だが……モールドの理由は大分濁したなと思っている。


「お兄さま! お義姉さま! あそこで何か面白いことをしてますよ!」


 すると、シャオル姫が指を差して、そちらへと一緒にいる2人を連れて向かってしまった。残った俺達は何をやってるのかと視線を向けると、大道芸人がパフォーマンスをしている最中であった。ジャグリング、パペットを使った芸、後はディアボロという紐で繋がれた2本の棒を使ってコマを回す芸が人々が多く集まる噴水広場で行われていた。


「すまないな」


「ううん。ああいうのを見るのは嫌いじゃ無いから」


 私の知識にあるたくさんの娯楽。映画にゲーム、スポーツなど……けど、この世界では大分先の物ばかりである。必然と本や演劇、そして大道芸などを楽しむようになってしまった。


「そうか……」


 すると、マールン皇子が俺に手を差し出す。その手を取らないのは失礼だと思った俺はその手を取り、手を繋いで一緒にシャオル姫達と合流するのであった。後ろにいるモールドがニンマリとした笑顔をしていたが……まあ、何も言わないでおこう。


 そこで、しばらく大道芸の観賞した俺達。大人びた雰囲気をしていたマールン皇子だったが、それを見ている時の顔は年相応のものであり、パフォーマンスを見て目をキラキラとさせていた。そして、それはシャオル姫も同じであり、この時だけは純粋無垢な子供であった……。


「ヘルバさんも楽しんでますね。「おおー!」とか言っていい笑顔ですよ」


 カンナさんがクスクスと笑いながら、大道芸を見ている俺の様子を教えてくれた。それを聞いて「人のことは言えないな」と思いながら、少しばかり恥ずかしくなるのであった。

 

 その後、俺達は最初の目的地である皇家御用達のお店にやって来た。ホルツ王国のダーフリー商会のような大型の店舗に案内されるのかと思ったが、2階建ての小規模なお店だった。そして、中に入るとセレクトショップのように綺麗に陳列された品々が並んでいた。


「お待ちしておりました」


 そこに従業員がやって来て、深々と頭を下げる。そして、俺とシスティナをチラッと横目で見るのだが、マールン皇子が自分達の連れである事を伝えると、すぐさまこちらにも挨拶をしてくれて、皇子様と一緒に店内へと案内をしてくれた。恐らくここは会員制のお店であり、事前に予約が必要なお店なのかもしれない。


「かわいい……!」


「姫様にお似合いだと思いますよ」


 俺はシャオル姫とカンナさんの会話を聞いて、何を見てるのかと思ってそちらを覗くと、子供向けの装飾品を眺めていた。そこで、一度店舗を軽く見渡すと、大人向けの商品らしき物が見当たら無かった。そして2人ともこれらの品々に興味津々であり、まるでここにいる2人のためのようなお店である。


「(ねえ……ここって、来店するお客様に合わせて商品を陳列してるの?)」


「(自分もそこまで詳しくないですが……護衛として来るたびに、商品が違うのは覚えてます)」


「(うわ……)」


 モールドの返事に俺は小声で驚きの声を上げる。恐らく、このお店は他に店舗を有しており、ここは予約必須の上客専用のお店なのだろう。陳列の仕方や内装から考えると、1日1組様限定の営業なのかもしれない。


「これどうかな?」


「い、いいと……思いますよ?」


 すると、苦笑いをしつつシャオル姫が身に着けている装飾品が似合っていると伝えるシスティナ。シャオル姫が身に着けた鮮やかな花の髪飾りはとても似合っている。そうなると、システィナが苦笑いをしている理由は別のところ……恐らくあの髪飾りのお値段がとてつもなく高いのだろう。


「……」


 俺は近くの品を見ると、そこには値札らしき物が無かった。他の商品も同じだったので、気になった俺はカンナさんにこっそりと髪飾りのことを訊いてみると……。


「(システィナさんにも話したんですけど、アレは大人気のクラフターが作った新作でして……詳しい値段は分からないですけど、まあ……いつも通りなら金貨10枚でしょうか)」


 金貨10枚……庶民なら数年は遊んで暮らせる額である。それを聞いてしまったら、一般市民であるシスティナがああなってしまうのはしょうがないと思いつつ、小刻みに振るえている彼女の背中を眺めるのであった。

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