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201草

前回のあらすじ ヘルバ:「作者。私、異世界転生して無いけど? これキーワード詐欺じゃない?」

         作者:「細かいことを気にしたら負けだと思ってる」

―「帝都・教会」―


「『イリーガル』のアビリティは『能力錬成』、『人体錬成』、『人格錬成』の3つ。それに『錬金術』のアビリティも含まれてる感じよ」


「そいつ……絶対、某錬金術士の漫画を見てた奴だよね?」


「多分ね。しかし、性格が悪いことに禁術を使えるようになっているなんて、前神は何を考えているやら……」


 アフロディーテ様がそう口にしているが、人の体を獣や鳥にしたり、石や皮だけの存在にしたりとそんなアビリティや薬を創ったお前が言うのかと心の中で呟いてしまった。


「ティミッドの持っていたアビリティは、その『能力錬成』で作られた物なのですか?」


「そうよ。後は『人格錬成』によって頭の中も多少いじられているみたいね」


「ボルトロス神聖国の連中って、頭の中に花でも咲いているのかっていう位、変な奴らが多かったけど……その影響なのかな?」


「天然の狂信者もいるとは思うけど、それで人生を台無しにされた人もいたとは思うわよ」


「……私が最初に殺したボルトロス神聖国の連中も操られていただけだったのかな」


「そこまで調べてないわ。調べる気も無いし……だから、あなたもあまり深く考えない方がいいわ。あなたの未熟な心のためにもね」


「……うん」


 俺が手に掛けたボルトロス神聖国の連中。あの中にもしかしたら意識を弄られただけの被害者といえる奴がいたとしたら……アフロディーテ様が調べないと断言している以上、それを俺が知ることは無いのだが……何か複雑な気持ちである。


「それで訊きたいことがあるんだけど……どうして、そんなアビリティがこの世に残ってるの? アフロディーテ様がこの世界のアビリティを管理しているんだよね?」


「ええ。そうよ……私がこの世界の管理する際に、アビリティを一新させたわ。けど……この世界に残されたままのアビリティは回収できていなかった」


「……スクロールとして残っていたんですか?」


「推測だけどね。恐らく、前の所有者が『イリーガル』のアビリティを用いて作ったんでしょうね……どんな理由があって作ったのかは不明だけど……もしくは」


「その転生者がまだ生きているとか?」


「その通り。エルフなどの高長命種の寿命よりも遥かに長くこの世界の管理をしている以上、そんな長生きしている奴なんていないと思うんだけど……」


「何でも知っている訳では無いんだね」


「神様が全知全能な訳ないでしょ? もし、そうだったなら地球に住む全てが幸福な人生を迎えたはずじゃないかしら? あなたの中にある人々の記憶のように不幸な終わり方は無かったと思わない?」


「どうかな……ここの前神みたいな思想なら、大勢の人々が不幸のまま終わってそうだけど?」


「ふふっ……そうね。でも、私は……そうはならないわ」


 そう言って、悲しそうな笑みをふと浮かべるアフロディーテ様。すぐさま、表情を崩していつものメスガキのように偉そうな雰囲気に戻ったが、今回の自身の監督不足に対して責任感を感じているのかもしれない。


「それと、前神の足取りを掴んできたわ。やっぱり別の世界で転生して……草としての草生を歩んでいる。あなたのように能力もなく、天敵も異常気象も無いそんな場所で……永遠ともいえる寿命を持つ草生をね。これは私より上の神にも確認してもらったから、ほぼ間違いないし、前神はもうこの世界に何も干渉出来ないわ」


「それを知れたのは良かったかな。これ以上、悩みの種が増えても困るし。しかし、私と同じ草生とは……」


 まさか、前神が俺と同じ草生をしているとは……しかも俺より条件が色んな意味で厳しいかもしれない。


「それって罰なんですか?」


「草生した私の経験談だけど……とてつもなく暇。私には『調合』のアビリティによる手草があったし、天敵や気象などの外的要因という刺激があったからドルチェ達と出会うまで何とかなったけど……ただ、ひたすら何の刺激も無い草生は無間地獄と同じ」


「そこまでですか……?」


「イメージが湧かないかもしれないけど、そうだな……例えるなら馬車での移動を休憩することなく永遠に続ける自分の姿をイメージしてもらえば少しは分かってもらえるかな」


 ミラ様は俺の話を聞いて、自分のそんな姿を想像したのだろう。少しだけ考えるような仕草の後、首を横に振ってその想像を頭の中から消そうとする。


「それは……頭がおかしくなりそうですね」


「これでも大分マイルドな表現だと思ってるけど、分かってもらえたようでなにより」


 とりあえず、ここまでの話を聞いて、ボルトロス神聖国の一連の問題は教皇が黒幕であり、そいつは『イリーガル』というとんでもないチートアビリティを有していることは分かった。この教皇をどうにかしない限り、今回のような事件は何度も繰り返されるのだろう。


「さて、私からの報告は以上よ。何か質問はあるかしら?」


 そこで、ボルトロス神聖国についての話を終えたアフロディーテ様が、俺達に質問が無いか訊いてきたので、思っていた事、気になった事を訊いてみた。


「今回の件。イレギュラーなためアフロディーテ様が天罰という形で直々に処罰を下すとか出来ないの? 雷をピシャ―!とか」


「やってもいいわよ? その後の天変地異による被害で周囲に多大な被害を生んでもいいならね」


「アフロディーテ様? それってどのくらいの規模なんですか?」


「惑星規模よ!」


「止めて下さい。死んでしまいます……」


 教皇のためだけに、そんなことをされてしまったら堪ったもんじゃない。それなら、多少の手間や危険を顧みても俺達の手でどうにかするべきだろう。俺がアフロディーテ様による天罰を諦めようとすると、そのタイミングでアフロディーテ様が口を開いた。


「ただし……例外はあるわ。今回の実験はその確認でもあるわ」


 そう言って、笑みを浮かべるアフロディーテ様。それが意味することは……。


「『聖女』がいれば天罰を下せる?」


「その通り。よくある『聖女』の祈りに応え、私がこの世に顕現し罰を与える。ヘルバならゲームという形でイメージが付くと思うわ。そして……この教皇との戦いにはこれが必須よ。あなた達の手で教皇を倒せたとしても、前神の負の遺産を回収するには私の力が必要だから。だから、ヘルバ。『聖女』を称号としてあなたに渡したのよ」


「なるほど……」


 何だかんだで、ホルツ王国とレッシュ帝国の王達と親しくしなり、かつリアンセル教の聖女とも知り合い。そして……ボルトロス神聖国の連中と剣を交えたことのある女。文明の発展にも貢献しているとなると、そんな俺はボルトロス神聖国にとってはうっとうしい相手となるだろう。


「ここまでボルトロス神聖国の連中を掻き回した奴はいないと思うわ。必ず、あなたに対して何かしらの横槍が入ると思うから気を付けなさい。そして、ミラも。」


 アフロディーテ様の忠告に対して頷いて返事をする俺とミラ様。神の召喚という教皇への切り札を手に入れた以上、これまで以上に情報管理に気を付けるとしよう。


「それと……もう1ついい? 既にフリーズスキャールヴさんには伝えたんだけど……」


「『グングニル』のことね」


「そうそう。アレ……やり過ぎじゃない? というか、衛星軌道兵器をぶっ放せるアビリティってヤバいでしょ?」


「問題無いわよ。あの時の『グングニル』は大地から吸収した力が全体の9割を占めているの。他の奴ならどう頑張ったとしても必中の貫通攻撃程度よ。それも防御系のアビリティで防げたり。攻撃系のアビリティでも相殺出来たりするし……その後のデメリットも考えるとトントンだと思うわよ?」


「……そう考えるとショボくない?」


「あなた以外が使ったら、デメリットの方が高すぎる高火力遠距離攻撃程度だものね」


「後……何故かオーディンのアビリティ枠がまだ1つ空いているんだけど?」


「厳しい条件をクリアして手に入る神の名を持つアビリティよ? 今の状態だと、情報を得る・空間を形成する・デメリットの多い遠距離攻撃ができるの3つ。豊富なアビリティを持つあなたが使うから弱く見えないだけであって、他の人が使うには弱すぎるわよ。って訳で……『オーディン』の名に恥じないアビリティを用意してあるから期待してなさい」


「……ねえ。私が手に入れたらどうなっちゃうの?」


「それは……」


 そう言って、視線を逸らすアフロディーテ様。先ほどまで平然としていたが、今は少しだけ動揺している様子が伺える。


「……私。危険だからと思われて一度封印して、その危険性を確認していたのにさ。何か世界侵略が可能な魔王になりつつあるんだけど?」


「そうなのよね……私が思っている以上に、ヘルバの持つアビリティと『オーディン』の相性が良すぎて、私自身若干引いてるのよね……チートにならないように調整したはずなのにどうしてこうなったのかしら?」


「いやいや!? そっちの事情なんて知らないからね!? ねえ? 与えられる最後のアビリティって大丈夫なんだよね? バランスブレイカーとか呼ばれるような事にはならないよね?」


「……」


 俺の質問に答えず無言になるアフロディーテ様。そして……。


「あ! 私、この後用事があるんだった……じゃあね!」


 と、そう言って姿を消した。唖然としていた俺はミラ様の方に顔を向けると、そこには困った顔をしていたミラ様がいて、俺の視線に気付いたのかこちらへと顔を振り向かせる。そこで、俺は思っていたことを口にする。


「逃げたよね?」


「逃げましたね……。『オーディン』の現状のアビリティが持つ欠点を補うアビリティってことでしょうか?」


「さあ……どうだろう? 私、アフロディーテ様のせいで魔王になりそうなだけど……」


「確か『オーディン』の習得方法ってかなり特殊なんですよね?」


「うん。生物に体の一部を食い千切られ、かつ半年以上口から食事をしていない状態で上位鑑定系アビリティで『オーディン』のアビリティが込められたスクロールを看破することで会得ってやつ」


「アフロディーテ様……恐らく、悪ふざけで作ったんでしょうね」


「本人も言ってたよ。本当に……予想外だったんだろうな……」


 静かな聖堂内に残された俺とミラ様。その後、帰って来るレッシュ帝国の教会関係者達に挨拶してからお城に戻るミラ様と別れ、再び馬車に揺られつつ一足先にお城へと帰るのであった。

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