200草
前回のあらすじ ヘルバ:「何で私達を太らせた?」
作者:「4月7日がお腹の日だったから!」
―「帝都・教会」―
「あなたの正体……それはデミゴッド。前の神様が作った異端の半神よ」
「素材は地球の人間の魂か記憶……それを合成して1つにした存在。それだけではなく、アフロディーテ様も素材の一部に利用されているんじゃないの?」
俺はアフロディーテ様の話に、更に自分が考えていたことを付け足し、どうなのかと訊いてみる。すると、アフロディーテ様は一度溜息を吐きながら、それを肯定した。
「そうよ。あの神様は私の血と髪を利用して強靭で美しい肉体を、そして日本で亡くなった人々の魂の一部を拝借し1つにまとめ……それをあなたの魂として作り上げた。私そっくりでそれでいて自身より劣っている存在。それがあなたの正体よ。そして……前身の神が犯した本当の罪でもあるわ。神を素材に偽神を創る……しかも、性欲目的なのだから本当に救いが無いわね」
「そう」
それを聞いた俺は特に感情を込めずに返事をする。その態度にアフロディーテ様とミラ様が少しだけ驚きの表情を見せていた。
「意外ね。もっと感情的になるかと思ってたわ」
「これまでの事を考えたら、私は様々な人々が混ざり合った歪な存在っていうのは想像できていたから……。むしろ、そう考えると、私がカロンの森で草として生まれた理由も納得のいく説明が出来るからね……アフロディーテ様。本当は私をあそこに封印ならぬ廃棄処分……精神的に追い込んで、私の精神が崩壊するのを狙ってたでしょ?」
「そうよ」
「ええ!?」
俺の質問に間髪入れずに肯定するアフロディーテ様。俺を精神的に殺そうとしていた事実にミラ様は思わず、驚きの声が漏れている。
「まあ……今はこんなノリで話してるけど、それより前は赤の他人だしね。そうなると……最初の頃に手に入ったアビリティって、アフロディーテ様の力ではなく前の神様が仕組んだ力によるものだよね?」
「その通りよ。貴女が念じると都合良くアビリティが手に入るようになっていたの……まあ、前神より強くなっては困るから色々制限があるし、アレに押し込んだ関係でそこまで強力なアビリティを手に入れることは無かったけど」
「人を一撃で溶かす劇薬が強力じゃないの?」
「それは……まあ」
アフロディーテ様が俺から目線を逸らした。となると、俺を草に閉じ込めた後、これで安心と思ってしばらくの間ほったらかしにしていたら、何か大変な事になっていたからどこかのタイミングで監視を始めた……ってとこか。もしかして……。
「まさか、最初のダンジョンで現れた称号持ちのモンスターって……」
「違うわよ。アレは本当に偶然……じゃない部分もあるのだけど、私は無関係よ。あなたのせいでこの世界の仕組みを少しばかりいじりつつ、見守っていただけに留めているわ。前にも言ったけど、こっちに干渉する事は極力したくないの。まあ……それを貫いていたから、今回の件でも出遅れたのよね……」
「あ、もしかして……今回、アフロディーテ様が私とヘルバさんの前に顕現したのは、この件に関して先手を打つためですか?」
「ええ。一定の条件下でのみ私を現世に顕現できるっていう仕組みのテストとか、悪戯目的だけではないってことよ。ちなみに、今回は教会と聖女であるミラとヘルバの2人がいるのが条件ね」
「へえー……ん?」
アフロディーテ様が何かとんでもないことを言ったような気がする。俺が……聖女?
「私が聖女?」
「あなたとは頻繁に話をしてるし……聖女の称号を渡しても問題無いわ。あ、アビリティじゃないから『聖女』のアビリティは使えないわよ? というか……色々なアビリティがあってこれ以上はいらないと思うし」
「それはそうかも。何か似通ったアビリティもあるし……って、いやいや。ちょっと待って……聖女って? そもそも、私を始末する気満々だったんでしょ? それなのに……」
「そんな睨み付けないでよ。そのお詫びに今はサポートしてあげているでしょ? それに、生まれる前に存在も消せたのに情状酌量も兼ねて封印で済ませたのよ? ちゃんと、あなたが問題なさそうなら自由にするつもりだったし……」
「ああ……確かに。生まれ落ちる前に、存在を無かったことにするのも出来たのか。てっきり、前神の最後の抵抗で産み落とされてしまったから仕方なく……と思ったんだけど」
「性的に犯したいのに前神が手放す訳無いでしょ。むしろ……アレの最後の抵抗と言うなら、今起きている事件の方よ」
そう言って、苦虫を噛むような表情をするアフロディーテ様。どうやらティミッドから得られた情報から前神との繋がりが確定し、それがとんでもない内容だったに違いないのだろう。
「それで……ヘルバさんへの今後の対応はどうされるのですか?」
「節度され守れば自由にしてもらっていいわよ? 色々な性癖を開放してくれたおかげで、いい具合に人口が増えているし、見てるこちらも楽しめるし……」
「……それをフリーズスキャールヴさんに試してるの?」
「さあ~……そこはご想像に任せるわ。ふふ♪」
アフロディーテ様はそう言って、先ほどの表情から一転して満面の笑みを浮かべる。その笑顔を見て、フリーズスキャールヴさんがどんな目にあっているのかが容易に想像できてしまう。俺の開放した性癖という名の状態異常とアフロディーテ様の今の反応を考えると……まあ、体がとんでもなく変化して大変そうだなとは思う。
「今更だけど、あなたを歓迎するわ。あなたの人生が幸多からんことを祈るわ」
「何か話を終わらせようとしてるけど、こき使われだし、色々納得いかないんだけど……」
俺はそこで目を瞑り溜息を吐く。そして渋々「分かった」と口にする。仮に作られた命と分かっても、俺はそれに対して何をすればいいのか分からない。それが分かって世界に絶望して自殺する気はない。この世界を恨み壊したいとも思ていない。恨みを晴らそうにも作った前神はいない。現神であるアフロディーテ様に対して何か仕返しするつもりもない。考えて考えて……考えた結果、俺はただ事実を知りたかっただけだったと、ここで初めて気づいたのであった。
「……まあ、愚痴りたいことが出来たなら、教会にやって来なさい。聴いてあげるわよ」
「その時は付き添いとして他の聖女と一緒じゃないとダメ?」
「その時は貢物でも持ってきなさい。それで現れてあげるわ……頻繁には会いにこないでよ? あなたのためにもならないのだから」
「もちろん。自分の人生だもの……自分で歩くつもりだよ」
「それならいいわ」
そこで、この話が終わろうとする。ミラ様から本当に訊きたいことがないのか尋ねられたが、事実を知った時点ですでに満足している。だから、俺はこれで十分だと返事をし、次の話題に移ってもらうために、俺の方から話を振らせてもらう。
「それで話を変えるけど……ティミッドから何が分かったの?」
「それだけど……まず、あなた達が持ち帰って来た資料を精査し、死んだティミッドの魂がこちらに来たところで先に来ていたレザハックと一緒にごう……話を聞いて、後は前神の追放後の足取りの調査の結果をまとめた物になるわ」
話の途中で、ティミッドとレザハックの2人に対して拷問と言いかけていたが、あの世なら地獄へと送って苦行でも行ったのだろうと解釈し、そのまま話の腰を折らずに静かに聴いていく。むしろ、あの変態どもにきついお仕置きしてくれたなら大歓迎なのだから。
「それで今回の件だけど……前神が残した物を利用したボルトロス神聖国の教皇の仕業と確定したわ。教皇が何者なのかは不明だけど、教皇がアビリティを付与しているのは間違いないわ」
「アフロディーテ様のお力でも、教皇の正体を暴けないのですか?」
「ええ。ティミッドから教皇について調べようとしたら、調べた奴に強力な呪いを掛ける仕掛けがあったわ。ヘルバでは防げず、この私でも危険なレベルのね。ティミッドの戦闘中にうっかり教皇について調べていたら、その時点で死んでたわよ」
「うわ……やらなくて良かった」
前にガルシアでボルトロス神聖国の関係者の素性を調べるために鑑定系のアビリティを使用して酷い目にあったが、もしかしてその時も教皇について調べていたら大変な目にあっていたのだろうか? そう考えると、ボルトロス神聖国の連中に対して、鑑定系のアビリティは多様しない方がいいのかもしれない。
「あの子も戦闘中だからってことで、教皇については後回しにしてたみたいだから問題は無かったみたいね……しかし、これほど調べられたくないなんて、教皇にはどんな秘密があるのやら……」
「アフロディーテ様。これに関してはヘルバさん以外の方々にも注意した方がよろしいのでは? うっかり被害に遭われそうですし」
「そうね……念のために注意喚起した方がいいかもしれないわ。中級の鑑定系以下のアビリティなら偽の情報を掴まされる程度で済むってことも付け加えて説明しておいて頂戴」
「畏まりました。けど……何で上級鑑定にだけ?」
「目を付けられないようにするためだと思うよ。鑑定系のアビリティで情報を得られれば、それで満足するだろうし……もしくは制約があってそうせざるを得ないのか」
「色々、気になる点があるようだけど……話を戻すわよ。まず、今回の件に前神は関わってないわ。ただ、間接的に関わってるってところかしら」
「間接的?」
「前神が管理していた時の話になるのだけど、転生者の1人にあるアビリティを与えたの。そのアビリティが今回の問題を引き起こしている。アビリティ名は『錬金術』」
「『錬金術』ですか? でも、そのアビリティは普通に聞いたことがありますよ? クラフターの方に多く見られますし」
「それは私が新たに用意した物であって、話している物とは別物よ。そうね……紛らわしいから『イリーガル』にしておきましょうか。『イリーガル』のアビリティはかなりヤバい物ばっかりでね……」
そこで大きな溜息を吐くアフロディーテ様。俺とミラ様はそのアフロディーテ様の姿を見て、これからどんな情報が出るのかと身構えるのであった。




