198草
前回のあらすじ「ティミッド爆砕!」
―グングニルが着弾して数分後「帝都まで続く街道・草原地帯」―
「うわ……」
何かが落ちる音が止んだ所で、俺はストラティオと一緒に立ち上がり、ティミッドがいた方へと振り向く。砂埃で視界はまだ悪いが、先ほどまでティミッドがいた場所を中心に、巨大なクレーターらしきものが出来ているように見えた。
「いやいや……ある程度、粉々どころか木端微塵になったんだけど?」
(万象一切灰燼と為しましたね……)
「どこぞのおじいちゃんのセリフを使ってボケないでよ……ってか、これ個人に与えちゃいけないアビリティだよね……?」
あまりの威力に俺は言葉を失う。この威力ならお城1つ、小さな村なら跡形もなく消滅するだろう。それを数分の溜め時間があれば放てるというのはやり過ぎである。
「倒したよね……ってあれ?」
俺はさらに前に1歩踏み出そうとするが、その場で膝が折れてしまった。
(生命力をある程度吸われましたからね……)
「それで動けなくなるデメリットがあってもダメだと思うけど……」
動けなくなった自分の心配よりもこの破壊力はどうなのかと訴える俺。こんなのお偉いさんに知られたら、どんな目で見られる事やら……。それに、もっと恐ろしいことに……『オーディン』のアビリティはまだ1つ解放されていない。
「どうするのこれ……『オーディン』のまだ解放されていないアビリティが1つあるんだけど、一体何を渡されるのか想像つかないんだけど?」
(それは私の管轄外なので……あの方は一体何を与える気なのでしょうね……)
「……今度、あった時に直訴しておくから」
(……お願いします)
「ヘルバサ~ン!!」
フリーズスキャールヴさんとの話が終わったタイミングで、砂埃の立ち込める向こうからつい先ほど聞いたことのある声で呼びかけられる。すると、それは砂埃の中から現れ、その巨体を露にする。
「あ、システィナ……足止めお疲れ様」
一瞬、その姿にギョッとするのだが、努めて冷静に何事も無かったように振舞う。今だけ『淑女の嗜みwww』に感謝である。
「お疲レ様デス……って、それより何をしたんですか? 物凄い威力で吹き飛びそうになりましたよ」
そう言いつつ、元の姿に戻ろうとするので、俺は慌てて替えの衣服を投げ渡して、視線を逸らしておく。
「色々、誤算があっただけ……それで、ドルチェ達は?」
「私の体に隠れていたので無事ですよ……ほら」
衣服を着ながら、システィナが指を差す。すると、その方向から、ストラティオに乗ったドルチェ達が現れた。
「凄い爆発だったけど……大丈夫?」
「平気……いや、ゴメン。反動で立てないや」
「あれだけの馬鹿げた高火力のアビリティを放ったんだから当然だよ……」
ドルチェがストラティオから下りて、すぐさま俺に肩を貸して、自分の乗っていたストラティオに乗せてくれた。それに感謝しつつ肝心な話をする。
「この後、どうしたらいいかな? 流石にこのまま放置はヤバいよね?」
俺はクレーターと抉れた地面に指を差す。街道から離れてはいるので、吹き飛んだ地面によって街道が封鎖している状況は無いと思うのだが、このまま放置しておくと何かしらの迷惑になりそうである。
「そんなことは気にしなくていいわよ。後のことはあちらに任せましょう」
「……そう言えば、あっちのお二人は無事なんでしょうか?」
着替え終わったシスティナが、別に動いていたノートンとハルートさんの2人を心配する。距離はあったと思うが、抉れた地面の下敷きになっていないか心配である。
「おーい! 嬢ちゃん達、生きてるか!!」
そんな心配をしていると、ノートンの声が遠くから聞こえたので大声を出して無事と位置を知らせる。すると、ハルートさんと一緒にこちらへと集まってくれた。
「いやー……助かった。砂埃が舞ってて視界が悪くてな」
「ごめんなさい。予想外の威力で……2人は大丈夫だった?」
「抉れた地面が吹き飛んできたのは肝が冷えましたが……何とか。それより、ヘルバさんの方こそ大丈夫ですか? 何か疲れているように見えるんですが……」
「デメリットで上手く力が入らなくて……少しだけ休憩を取らないと」
「まあ……当然ですね」と言いつつ、俺が無事なのことに安堵するハルートさん。ノートンもこれだけの威力なのだから、その位のデメリットはあってもおかしくないような話をしており、それに対して他の皆も同じような意見のようだった。しかし……この火力に対して、このデメリットは優し過ぎると俺は思うは変わらない。
「嬢ちゃん……それで、奴は倒せたのか?」
「それは……」
(アフロディーテ様のお墨付きで討伐完了です)
「倒せたみたい」
俺のその言葉を聞いて、皆から歓喜の声が上がる。何せいまだに砂埃が凄くて、『グングニル』が着弾しただろう中心地はよく見えないのである。威力から考えれば確実に葬ったと思えるのだが、アレだけイレギュラーな存在となれば、やはり何かしらの確証が欲しいのはしょうがないだろう。
すると、ノートンがスクロールを展開して、何か魔法を発動させた。
「領主様に連絡した。すぐさま救援部隊が来ると思うから、それまで待機だな」
「じゃあ、ヘルバは休んでもらって、私達で警戒しましょう。システィナはヘルバを介護してあげて」
ココリスのその案に俺も含めた全員が賛成する。そして、俺はお言葉に甘えてそのまま休ませてもらうのであった。
その後、無事に応援部隊が到着、応援部隊にその場を託して、俺達は近くの宿場町でしっかりと休息を取った。それから数日間、ティミッドに関する調査、研究所から入手した資料の確認、ティミッド達が起こしたこれらの後始末などをこなしていくのであった。
そして、およそ半月後……シュマーレン皇帝から帝都のお城へと招集された。そして現在、シュマーレン皇帝と謁見しているのだが、その直前にミラ様だけが呼ばれて教会へといってしまい。残った俺達でシュマーレン皇帝と会っている状態である。
「ご苦労だった諸君。おかげでこの国に潜む膿を取り除くことが出来た……この国の皇として礼を言う。ヘルマも領主の務めとしてよくやった」
「いえ。元はと言えば領主として見落としていたのも一因なので……もし、処罰となれば甘んじてお受けいたします」
「今回の件に関してはダンジョンの適切な管理、それと研究所の跡地周辺の調査し報告することで不問とする。甘いと思うが……何せ今回の件で多くの貴族が貴族位を剥奪されたからな。これ以上、貴族位を減らすと国権に関わる。それに、優秀な配下を失うのは惜しいしな」
「寛大なご配慮……感謝します」
ヘルマが深々と頭を下げる。本来なら長期に及ぶ管理不足の責任として重たい罰が与えられるのだろうが、ヘルマが領主として後を継いだのが3年前であり、そのすぐ後に、今回の件に関しての調査を開始していたというのを考慮しての軽い処罰となったのだろう。そもそも、一領主がどうにか出来るような案件でもないのも理由かもしれない。
「それと……今回の件でお前達にも多大な迷惑を掛けた。それで報酬だが……今なら貴族位をやるぞ?」
「私達には不要です。けど、システィナに関しては寛大なご配慮を願いたいのですが……」
「分かっている。今回の犠牲者であり、後ろ盾のない者を放り出す気は無い。それに……だ。その能力を我は高く買っている。貴殿には我から職を与えよう。特にハルートから是非とも自身の部隊にと話が来てるのでな。出来れば兵士として雇用したいところだが……まあ、なるべく貴殿が望む職を与えよう」
「あ、ありがとうございます!」
そう言って、シュマーレン皇帝にお礼を述べるシスティナ。俺達と一緒に冒険者として生活しないかと提案もしたのだが、1つの場所に留まらずにあっちこっちへと移動するのは自分は向いていないとのことだった。恐らくだが、皇帝の要請次第では遠征もありえる兵士としての職には就かないだろう。システィナがこれからどんな人生を歩むのか……もし、必要なら相談にも乗るつもりである。
「あ、システィナ……これ持ってて」
俺は用意していたあるレシピの書かれた紙を手渡す。
「石化解除薬のレシピ。調合にはシスティナの頭の蛇達の唾液が必要だから、システィナが唾液を採取して、それを薬師に渡してあげてね。それと唾液のいらない薬の作成方法が見つかったら、後で教えるからね」
「ありがとうございます。何かお礼が出来ればいいのですが……」
「気にしなくていいよ。私もモカレートもテラム・メデューサの素材を使った調合をたくさんできて満足だしね」
「そうですね……まあ、私としましてはまだまだ調べたいところですが……ホルツ王国での薬師としての仕事に戻らないといけませんから。後のことはこちらにお任せするとしましょう」
「ってことだから、お礼は不要だよ」
システィナのお礼をやんわりと断る俺達。これからが大変なのだから自分のことを優先して欲しいという俺達の総意でもある。
「ホルツ王国に遊びに来る際は連絡してね? 歓迎するからさ」
「はい!」
「ふっ……全く欲の無い奴だな。まあ、予定通り代金にて支払うとしよう……それと、事件解決を祝いささやかなパーティーを開かせてもらう。是非とも出席してくれ」
「分かりました」
そこでシュマーレン皇帝の話が終わり、この後のパーティーまでお城に用意されている客室でゆっくりする予定……と思っていたのだが、そこにシュマーレン皇帝の傍で控えていた側近の人が俺の方にやって来る。
「それとヘルバ。教会で神託があったようでな……そいつと一緒に教会へと向かってくれ。「パーティーの時間までには話を終わらせる」とのことだそうだ」
「……分かりました」
俺はシュマーレン皇帝の側近の人と一緒にその場を後にして教会へと向かうための馬車へと向かう。こちらから後で出向くつもりだったのだが……何かあったのだろうか。そんな少しばかりの不安を抱きつつ、俺は馬車の窓から帝都の景色を眺めるのであった。




