197草
前回のあらすじ「『グングニル』ゲット!」
―「帝都まで続く街道・草原地帯」ノートン視点―
「それで、次の足止めですが……先ほどの爆発物ですか?」
「ああ。とは言ってもこちらに注意を向ける使い方は無意味だからな……少しだけ工夫が必要だな」
ヘルバの嬢ちゃんが持つ『グングニル』というアビリティを放つための時間稼ぎを頼まれた俺達。二手に分かれ、俺とハルートという名の隊長さんで後ろからやって来るティミッドをどう止めるか話し合う。
「片足狙いですかね……今の位置なら左足が狙いかと」
「ああ。それで隊長さんは何か大技を持ってるのか?」
「1つだけ……これを犠牲にしないといけないですが」
そう言って、隊長さんが自身の剣に視線を向ける。武器が壊れるのと引き換えに大ダメージを与えるアビリティを使うということか。
「これを失うと、私の使えるアビリティが大分減ってしまって、何も出来なくなってしまうんですよね……」
「それは、俺も同じだ。この持っているお手製の爆薬を使ったら攻撃手段が全く無くなる。全く厄介だな」
「全くです……」
隊長さんはそう言って攻撃手段の乏しさに溜息を吐く姿に、俺も釣られて溜息を吐いてしまう。ティミッドと戦う前なら、他にも手段があったのだが、その硬さ故に生半可な攻撃手段は無力であり、妨害にもならないと分からされてしまう。そして、一番の有効打となるはずの爆薬も想像以上に消費してしまった。
「これでダメだったら、これで一足先に領主様に連絡させてもらうぞ」
俺はそう言って、1枚のスクロールを見せる。
「それは?」
「極秘の連絡手段……ってところだ。「生半可な爆薬では無理です」ってな」
「それに皇帝へ向けての連絡とか入れて貰えないでしょうか? 攻城兵器が必須と」
「構わないぞ……って、そうえいばそうなるのか……」
これから、あのヘルバの嬢ちゃんが『グングニル』とかいう、後ろのアレを倒せるかもしれないアビリティを発動させるのだが……。
「あの嬢ちゃんから、攻城兵器並みの何かが放たれるって事か……?」
「……」
俺のその言葉に、隊長さんは厳しい表情を浮かべ黙り込んでしまう。強力な攻撃手段とされるアビリティはいくつもある。特にここ最近では各属性の魔法となれば中隊規模の相手をどうにか出来る強力なものがあり、それ以外のアビリティも極めれば、それに引けを取らない強力な技などもあるのは知っている。だが、後ろのアレをどうにか出来るかと言われたら、その極めた連中を搔き集めて、かつ戦略を立ててどうにかなる相手だろう。
「……もし、これで嬢ちゃんが始末したらどうするんだ?」
「私は起きた事を素直に報告するだけですよ……」
そう言って、隊長さんが剣を手に構え、迫りくるティミッドの左足に攻撃する準備を整える。それを見た俺も無駄話は止め、爆薬を遠くへと飛ばすために作られた専用の矢と弓の準備を始めるのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―同時刻・システィナ視点―
「……でいくから」
「分かったわ。じゃあ、槍で楔を打ってあげるから、そこを狙ってちょうだい」
追って来るティミッドの姿を確認しながら、私達と合流したドルチェさんがストラティオの手綱を操作しつつ、杖を手に構えました。そして、私が乗せてもらっているココリスさんも槍を構えようとするのですが、私が邪魔で上手く握れなそうです。
「私、下りますね」
「え? ちょっと……!」
私はストラティオから飛び降りると同時に、『%>+P*$#』と何と発音すればいいのか分からないアビリティを選択します。すると、すぐさま私の体が変化を起こし、衣服を破り捨て、両足が1つとなって長くなっていき、それに合わせてポチャっとした体が巨大化……走っているストラティオから飛び降りて地面に着地する僅かな時間で、私は再び化け物へと姿を変えます。そして、蛇のそれになった足を上手く動かして、前にいる2人を追いかけます。
「コレナラ邪魔ニナラナイデスヨネ?」
「う、うん……」
「そう……ね」
私の姿を見て驚く2人。乗っているストラティオも私を見て捕食者だと思ったのか、慌てるのですが、2人は上手くなだめてくれたことで、ストラティオ達と並走する形で移動を続けます。
「ヤッパリ……気持チ悪イデスカ?」
「そういう気持ちは無いから安心して。ただ……ビックリするかな」
「そうね……冒険者歴が長い私達でもこんな共闘は初めてなのよ。気分を悪くさせたようなら謝るわ」
「イエ。大丈夫デス……ソレニ私達ハニコウスルベキダト思ッテイタノデ」
「私達……って上の蛇達のこと?」
「合ッテイルカ分カラナインデスケド……多分、テラム・メデューサ本人ガ望ンデイル気ガスルンデス」
私がテラム・メデューサに異形化した後、私とは別の感情が流れている気がしていた。ただし、それが私を支配とかするとかではなく、アレに対する恨みや怨念みたいな負の感情……自分の手で手を下さないと気が済まないという感情である。
「テラム・メデューサ自身、特ニ私ヲドウニカシヨウトスルツモリハナサソウデス……タダ、コノママデ終ワレナイ」
「そんな気がするってことね」
「ハイ……変デショウカ?」
頭の中にテラム・メデューサの思いが流れているという滑稽な話をして、2人から冷ややかに見られるかと思ったら、意外にも2人はすんなりと受け止めてくれて、むしろ私のことを心配してくれました。あまりにもすんなりと話を信じてくれたので、どうしてなのかと思っていると……。
「もっと変なのがうちにいるからね……」
「ア、ハイ……ソレデ、私ニモ提案ガ……」
すんなりと信じてもらえたきっかけとなったヘルバさんに心の中で感謝しつつ、私はこのテラム・メデューサの能力を使った妨害方法を2人に話すのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―それから数分後・ヘルバ視点―
「……グングニル」
ストラティオから下りた俺はすぐさま『グングニル』を発動させる。投げ槍のポージングで構え続けるのかと思ったが、アビリティ発動と同時に現れた白く神々しい槍を手に取る。それに力を込めるだけでいいということなので早速……。
「力を込めるって何!?」
(イメージするだけでいいですよ。ほら、ゲームや漫画のようなアレです)
「抽象的過ぎるんだけど……」
フリーズスキャールヴさんの説明に口に出してツッコミしつつ、それならと槍を抱きしめて、それに私の中からそれへと何かが流れるようなイメージをする。すると、俺の何かから槍へとゆっくりと何かが流れるような感じが起きる。
(これ……何が流れてるの?)
(生命力や魔力……ヘルバさんなら大地の力も込められてますね)
(生命力ってヤバい気がするんだけど?)
(大丈夫ですよ。その人が死ぬまで吸い込むことは無いですから。ただ……ヘルバさんの場合は、大地からの供給があるので……槍の容量限界まで込められます)
(ちなみにどこまで込めるの?)
(もちろん! 最大までです!)
声のトーンからして爽やかな笑顔で言ってるんだろうなと思いつつ、俺は槍に力を込めていく。足元から俺というバイパスを通り槍へと力が流れ込んでいく。俺はなるべく早く力が込め終わるように、目を閉じて集中する。
ドゴーーン!!
しばらくして、大きな爆発音が聞こえたので目を開けると、少し離れた場所にいるティミッドの左足から煙が立ち込めていた。ほんの少しだけ動きが遅くなるが、すぐさま走って移動を再開する。
バゴーン! ガゴーン!!
すると、またしても爆音が響く。先ほどと同じように左足から煙が発生するのだが、そこから左足が割れ、ティミッドの体勢が崩れその場で片膝を付いた。すぐさま足を治し立ち上がろうとしているのだが、ティミッドの体が何故か激しく揺れており、立てないままである。
(システィナさんがテラム・メデューサのアビリティである『崩振』を使用して、局所的な揺れを起こしてますね)
(ああ……なるほど)
フリーズスキャールヴさんからの報告を聞いてティミッドの周辺だけ大地震が起きているようなものかと理解する。俺は再び力を込めることに集中し、一刻も早く力が満タンになるように祈る。
(エネルギー充填率85%……86)
フリーズスキャールヴさんがこの世界に似つかわしくないカウントを取り始める。それとほぼ同じくらいに、倒れていたティミッドがその場で両腕を広げて、腕を地面に擦り付けるながら薙ぎ払い攻撃を仕掛けている。すると、その攻撃によって味方がどうなったのかは分からないが、少なくとも『崩振』を解除させることに成功したティミッドが立ち上がり、こちらへと視線を向けて来た。
「見つけたぞー!!!!」
そう言って、こちらへと移動を開始しようとするティミッド。どうやら他の皆より俺を始末したいらしく、物凄い殺気がこちらへと向けられている。
(まだなの!?)
(99……充填率100%。ヘルバさん、槍を上に投げて下さい!)
フリーズスキャールヴさんから発射許可が下りたので、俺は槍を投げる体勢を取る。そして……。
「絶対なる神の力の元に平伏せ!! グングニル!!」
そう言って、渾身の力でグングニルを上へと放つ。子供の力で投げれば普通ならちょっとだけ上に飛んで、すぐさま落ちるはずなのだが、放たれた槍はそのまま上空へと物凄い勢いで上へと飛んでいき、ちょうど上にあった大きな雲に大きな円形状の穴を開けた。それを見た俺はすぐさま立ったまま後ろで待機していたストラティオをその場に急いで座らせ、俺もストラティオの体に寄りかかる形で、その場で体を小さく……この後、発生する脅威に恐怖しつつ構える。
「観念した……が!?」
俺とストラティオがその場にうずくまった姿を見て、先ほどの攻撃が失敗して逃げるのを諦めたと判断したティミッド。それに対して何か言いかけたようだが、爆音と共に掻き消され、直後に地響きと砂埃、それと周囲に何か重い物が落ちていく。俺は風の結界を小さく、かつ高密度にして、その重たい物……『グングニル』によって抉れて吹き飛んだ地面がぶつからないように防御をする。
(ね……ねえ? これやり過ぎじゃ無いかな? というか……これ本当ににいいの?)
(大丈夫です。ヘルバさんだからこそ放てる一撃ですから。通常は衛星上から金属の棒を打ち込むような威力は出ませんよ?)
(『神の杖』って呼ばれる空想上の軍事兵器じゃん!?)
(そうですそうです。アレのイイところだけを詰め込んだような攻撃ですね。流石、ヘルバさん博識ですね……)
(フリーズスキャールヴさんもこれやり過ぎだって思ってるでしょ!? お願い現実逃避しないで!!)
(……想定外でした)
(でしょうね!?)
俺は落ちてくる地面の塊が風の結界にごつごつと当たる音に恐怖しつつ、この馬鹿過ぎる威力を放った『グングニル』に異議を唱えるのであった。




