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194草

前回のあらすじ「イン〇ィージ〇ーンズ並みの脱出劇をした」

―「孤児院・玄関付近」―


「出れた……!!」


「このまま遠くへ!!」


 孤児院の外へと脱出した俺達。ただし、地面が振動しており、孤児院の近くにいると危ないと判断してもっと遠くへと逃げる。


「何が起こってる?」


 ある程度、距離が取れたところで冷静に周囲を見渡そうとするヘルマ。しかし、俺の『スキャン』にとんでもない情報が表示されたので、俺は大声でヘルマに呼びかけた。


「立ち止まらないで!! この周囲の地面に亀裂が入ってる!!」


 ヘルマはそれを聞いて、すぐさま走り出す。そのタイミングでヘルマのいたところの地面が割れ始め、徐々に大きな亀裂を作っていく。そのまま孤児院へと向かって行き、孤児院は崩壊してしまった。


「走れ!!」


 さらに遠くへと逃げる俺達。ふと、遠くに無数の人影とストラティオの姿が見えており、先頭のハルートさんはそっちに向かっているのが分かった。


「緊急退避!! 急げ!!」


 俺達ではなく、その人影に対して放たれた言葉。人影はすぐさま行動を起こし移動を始める。それが先に外に避難していたハルートさんの部隊だとはっきりと分かった。


「あ!」


 システィナがその声と同時に、すぐさま帽子を被って頭の蛇達を隠す。うっかりしていたが、このまま避難していた部隊と合流してたら、避難していた連中全員が石像になってしまっていただろう。


「ごめん。忘れてたわ」


「いえ。気にしないで下さい……」


 システィナとココリスがそんなやり取りする場面もありつつ、俺達は安全な場所まで逃げてきたのだが……。


「……あれ、どうする?」


 地面から現れたのは形の悪い人型の巨人。その姿はどこかティミッドに似ている。そして、形の崩れた顔をゆっくりと動かして何かを探し始める。


「(皆、声を出さないで!)」


 俺はティミッドに気が付かれず、かつここにいる全員に聞こえるかどうかの声で静かにするように促す。俺のその呼びかけを聞いて、察した皆がハルートさんやヘルマの部下、避難した子供達に声を出さないようにすぐさま行動してくれた。


「(インビジブル……)」


 そして、『ヴァーラス・キャールヴ』と『インビジブル』の2つを使って、俺達の姿を消す。巨人は変わらずにキョロキョロと周囲を見渡すだけで、そこから動く気配が無い。すると、『スキャン』の表示に巨人の情報が公開された。


(巨人の正体ですが、ティミッドが自身の能力で研究所を丸ごと取り込んだ姿です。いえ……そもそも、あの研究所自体がティミッドの体でしょうか)


(はあ……理解した。あの規模の研究所をどうしてすぐに修復できたのか、あれがティミッドの体として作られていたなら、ティミッドがやりやすいように作られていてもおかしくないもんね)


 すぐに傷が付きそうな箇所だったり、そんなところ誰も見ないのにわざわざ直してたりと、どうしてそんなことをしたのだろうかと思っていたのだが……これが自分の秘密兵器であり体としたら、全てを綺麗にしておくという考えは分からなくもない。


(で、弱点ってあるの?)


(今はまだ……ヘルバさんはどう思われますか?)


(全身金属で出来たスライムと考えた場合、アレに核があるのかで変わるかな。他には弱点とは言えないけど策なら1つだけ)


(分かりました。とりあえず、調べられるだけ調べてみます。そこでヘルバさんにお願いしたい事があるのですが……アレに先程の解析結界を使用していただけませんか。先ほどは何とも無い研究所でしたが、今ならまた別の結果が出るかもしれません)


(……アレに?)


 俺はフリーズスキャルブのそのお願いがどれほど無茶なのかという意味を含ませつつ返事をする。怪獣映画なら決戦兵器、巨人なら宙を自由に翔け巡る装置が欲しくなるような相手に近付けと言うのは酷な話だと思うのだが。


「またか……」


 のっそりとしていて重々しい声で喋る巨人のティミッド。恐らく、俺が『インビジブル』によって姿を消していることに気付いているのだろう。そうなると、この辺りで大暴れをするのかと思った……が。


「アイツ……移動を始めたぞ」


 走ることは出来ないらしく1歩……また1歩と大地を鳴らしながら前へと進む。しかし、その1歩がとんでもない距離なので、走って移動するのと変わらない速さになってしまっている。


「マズい……!?」


 ハルートさんがとても慌てた様子で、すぐさまストラティオに乗って巨人の後を付いて行こうとする。それをヘルマが前に出てそれを停止させる。


「待て!! 何の策も無く向かうのは危険だ!!」


「分かってるはずだ! あの先に何があるのか!!」


「もちろんだ……すぐさま近くの冒険者ギルドに連絡を取り対策を取ってもらおう」


「……だが!」


「ティミッドが向かう方向には何が……?」


 モカレートがハルートさんとヘルマの話を聞いて、ティミッドがどこへ向かおうとしているのかを尋ねる。それに対して2人は少しだけ沈黙しつつも、その行き先を口にする。


「帝都だ……」


 その行き先に皆が頭を抱える中、あれほど慌ててるのだからまあそうだろうなとは思いつつ、俺は静かに聴いていた。


「た、大変……!! ど、どうしよう……?」


 ドルチェが慌てながら、俺達がどうするべきか訊いてくる。これほどの巨体となれば一部隊ではどうでもならないのは誰にでも理解できるし、こんな状況を目の当たりにすれば、訓練を積んでいる軍人であっても、イレギュラーが日常茶飯事な冒険者であっても混乱するのは変わらないだろう。そのため、この場にいる皆が、この後どうするべきか分からずにその場であたふたしている。


「ココリス……何か案は?」


「あなたは?」


「案は無いけど……どうするべきかは分かってるかな」


 俺はそこで思いっきり両手を叩いて、その場にいる全員を静かにさせる。


「2手に分かれます! 私と一緒にあいつの足止めするグループ! それと子供達と一緒に最寄りの街に行って、帝都に緊急報告するグループ! さっさと決めて下さい!!」


「嬢ちゃん。策はあるのか?」


「あいつに近付いて、私の鑑定アビリティで調べてみる! 最悪、足止めする方法ならいくらでもあるから、帝都の準備が整うまで時間を稼ぐ!」


「了解だ。領主様……俺はティミッドの後を追おうと思います」


 そこで、ノートンが追跡組に志願し、ヘルマにその許可を取り始めた。


「分かった。俺では役に立たなそうだしな……帝都への報告は任せろ。何かあればいつもの手段で」


「畏まりました」


「私も行く! すまないが陛下への報告を頼む!」


「お任せ下さい!」


 ハルートさんは連絡を部下に任せ、自身は追いかけることを選ぶ。


「ヘルバ、私、ドルチェの3人で行くわよ! 他の皆は……」


「あ、あの私も行きます……!」


 そこにシスティナが追跡組に手を上げる。それに皆が驚く中、システィナが口を開いた。


「今なら何となくですけど……アレを扱えると思うので。石化は無理でも移動なら……」


「え、でも……」


「決まりだね。ミラ様は教会、モカレートは冒険者ギルドへの報告をお願いね」


「ご武運を」


「気をつけてくださいね」


 ドルチェの言葉を遮り、俺はすぐさま待機組になる2人に指示を出す。そして、ストラティオの背中に乗り始める。


「システィナ! 乗りなさい!」


「はい!」


「え? 本当に連れて行くの!?」


「実際に手合わせした私が保証するから! さっさと行くよ!!」


 戸惑うドルチェにさっさと出発の準備をするように呼びかける。ドルチェとしては納得いかない様子だったが、すぐさまストラティオの背に乗ってくれた。俺達は既にここから大分先に進んでしまったティミッドの背中を追いかけ始める。


「本当にシスティナを連れてきて良かったの!?」


「ヘルバが何も言わないなら必要なんでしょ?」


「もちろん! むしろシスティナの協力が無いと厳しいから!」


「それで嬢ちゃん! 策はどうするんだ!?」


「私にも聞かせて欲しい! あの場を鎮めるためのハッタリでは無いんだろう?」


 ストラティオで移動しつつ、この後の策を俺に訊いてくる皆。そこで、先ほどのフリーズスキャールヴさんからの連絡とティミッドの異常な体のことを伝え、そこから作戦を説明する。


「ティミッドを物理的に倒すのは不可能だと思う。でも……転ばすならいくらでも方法があるよ」


 俺はそう言って『種子生成』で先ほど使用した蔦の種を生み出す。


「それで全身を拘束するのか?」


「ううん。そんなのは不可能だよ……私がやるのは足。しかも、片方だけだよ」


「片方だけか?」


「アイツが両足で地面に立っている以上、片足さえやれば転倒する。アレに重力に抵抗する力があるとは思えないし……」


「なるほど……片足だけを執拗に狙い。何度もダウンさせる作戦か」


「その通り。で、倒れて起き上がろうとするタイミングで『スキャン』でティミッドの体を調べる。もし、弱点があるなら……」


「そこを皆で叩くだね!」


「うん。ただ、この蔦で上手く転ばせるかは分からないけどね」


「そこはここにいる6人で何とかするとしよう。俺もいい案が思い付いた……嬢ちゃんの能力頼みだがな」


「ふふ……こんな幼女に頼るなんて恥ずかしくない?」


「帝都を守れるなら、その位の恥はかいてやるさ……それに巨人殺しなんて実に男心をくすぐらないか?」


「あ、分かる」


「ヘルバさん女性ですよね……」


「心は一部男だからね……ノートンの言い分は分かる」


「分かってくれるか。竜退治とか憧れるよな……」


「私、一応イグニス・ドラゴンっていうドラゴンを退治しているよ。で、この杖はその竜の骨から作った特注品」


 俺はそう言って、ノートンに自分の杖を見せびらかす。激レア素材で出来た杖を見たノートンは少しだけキョトンとした顔をしたが、すぐさま大笑いする。


「いいね……だったら、あの巨人を倒したら、俺もアレを使った武器を所望するか」


「口利きしてあげる。シュマーレン皇帝とはいいお付き合いしてるから」


「その言葉……忘れなるなよ?」


 そう言って、ノートンが腕を俺の方に付き出すので、俺もそれに答えるように腕を前に伸ばす。久しぶりに男性らしい会話をして調子に乗りすぎかもしれない。かと言って、士気を上げるという意味ではこれ以上の約束は無いだろう。


「なら……私も新しい剣を打ってもらうか。いい記念になりそうだ」


「それじゃあ……あの巨人に一泡吹かせてあげようか」


 俺のその言葉に「おー!!」と力強く皆が返事をする。俺はそんな皆の姿を見つつ、先ほどより近付いたティミッドの背中を見つめるのであった。

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