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191草

前回のあらすじ「ノーガード戦法でじりじりと迫って来る相手って怖くない?」

―「研究所・実験場」―


「私から離れないでね」


 俺は『スキャン』と『ヴァーラスキャールヴ』を利用した解析結界を展開したまま、光が収まるのをその場で待つ。このまま何事も無く光が収まるまで待ってくれるとありがたいのだが、そう易々と静かに待たせてくれないだろう。相手にとってもこの視界が塞がれた状況は絶好のチャンスなのだから。


「私、周囲の情報を集めるのに集中するから、防御はミラ様にお任せしてもいい?」


「もちろんです。ただ『浄化』を使用した際に結界を解除してしまったので、私達を覆う程度の結界を張り直すのに少しだけお時間を下さい」


「了解……」


 杖を構え、どんな攻撃が来ても対応できるように気を引き締める。テラム・メデューサがいた方から蛇腹と床が擦れるような音や声などが聞こえない。そして、ティミッドがいるはずの方向からも何も聞えない。本来だったらかなり不気味な状況なのだが、テラム・メデューサはフリーズスキャールヴさんのおかげで情報が入り、無事にティミッドの持っていた『厄災鎮めし天の笛』による洗脳が解除されたとのことだった。


(この強力な『浄化』の影響で笛の効果をしばらくの間、受けないのですぐさま洗脳というのは無さそうです。まあ、強力な洗脳から解放された反動で気絶しているので、『浄化』の効果関係なく操るのは無理ですが……)


(分かった。それで姿は……?)


(戻ってません。また、テラム・メデューサとシスティナのどちらの意識で起きるのかも不明です。だから、先に言っておきますが……)


(……それはまだ言わなくていい。その話の続きはティミッドを倒してからかな)


(分かりました。ちなみにですが……倒す手段は?)


(とりあえず手当たり次第試してみるかな。これが効かなかったら別の何か考えないと……水銀とか無いかな)


(研究所ですから探せばあるかと……ってどうして水銀を?)


(動画でアルミニウムと反応して……って、ごめん。来たからまた後で)


 俺はフリーズスキャールヴさんとの話を切り上げ、ティミッドに先ほどぶっつけようとした特製の液体が入った瓶を『収納』から取り出してすぐさま投げれるように服のポケットに入れておく。そして、また凝りもせずにミラ様の後ろから現れようとしているので、すぐさまミラ様の前に出る。


「よくも……死ね!!」


 ティミッドが床から現れる。そして、その腕を鋭い金属性の爪にして襲い掛かって来た。俺はそれを杖で受けようとする。


「そんなので防げるか小娘が!!」


 ティミッドがそう言って、俺を杖ごと切り裂こうと勢いよくその手を振り下ろした。


「くっ……!」


 俺のそのか細い腕に、ティミッドがの攻撃による衝撃が走る。だが、杖は切断されることも無く、ティミッドの爪を受け切る。流石、称号持ちであるイグニス・ドラゴンの骨を使った特注の杖である。


「何!?」


「……こ、の!」


 大の男の攻撃を完全に受け切るような筋力は無いので、すぐさまその攻撃を逸らし、ティミッドの姿勢が崩れたと同時に俺はすぐさま震える腕でポケットから例の薬が入った瓶を取り出し投げつける。それはティミッドの顔に当たると同時に割れて、中に入っていた液体がティミッドを濡らす。


「ヘルバさん!?」


 すぐにミラ様をティミッドから離れるように移動させる。それと同時に水魔法を使って自分の頭から水をぶっかける。その奇行を見たミラ様が驚きの声を上げているが、俺は説明をする暇も無く、すぐさまティミッドの様子を確認する。


「こんな……ぐぅうう!!」


 明らかに苦しみだすティミッド。それが演技では無いことは、その顔が変に溶けだしているのが証明している。どうやら、この薬は効果的のようだ。


「き、しゃ…ま!! 何…を……!!」


「ただのお薬を処方しただけだよ? 悪い成分がドロドロになるようにね……」


 溶けた口で喋るのが難しくなったティミッドの質問に答えはせず、俺はそこから素早く同じく薬をウィードの時にやったように放つ体勢を取り、『ヴァーラスキャールヴ』と『風魔法』も使って一気にトドメを差す構えをする。


「おじさんの負けた理由……あの世で考えるといいよ」


 俺はそう言って風でティミッドの全身を覆い、そこに薬を大量に放出する。


「ぐぁ……あああ!!!!」


 ティミッドが悲鳴を上げる中、その薬でティミッドの全身を洗浄するかのように風を操る。それは悲鳴が聞こえなくなった後も、念入りに……その薬の成分が中和されるまで行った。


(ティミッドの反応が消えました)


 そのフリーズスキャールヴさんの声を聞いた俺はアビリティを全て解除する。そこに残ったドロドロに溶けて固まった金属を見て勝利の余韻に……。


(……ねえ。本当に倒した?)


(一応反応は無いんですけど……まあ、イレギュラーな存在なので少しだけ不安です)


 ティミッドが金属に潜り込めたり出来る金属人間のため、この溶けて固まった金属状態になって死んだフリをしているんじゃないかと不安になる。


「た、倒せたんですか?」


「多分……一応、反応は無いらしいんだけど……」


「何とも困った相手ですね……」


「レザハックのように核を破壊とかだったら分かりやすかったんだけどね……へくしゅ!」


 まだまだ油断ならない状態なのに、俺のびしょ濡れの体は正直であり、寒さでくしゃみが出てしまった。それに気にすることなく、俺は再び水魔法で腕に水を掛け続ける。


「何をしてるんですか!? 早く体を……」


「分かってる。ただ、あいつに薬をぶつけた時に腕に少しかかっちゃんだよね……それだから水でじゃんじゃん洗い流さないと……」


「もしかして……ティミッドが私の背後に現れると分かってたのに、この薬の入った瓶を投げなかったのはそれが理由ですか?」


「そうそう。これ王水って言って、普通の酸では溶けない金さえも溶かせる非常に危険な薬なの。うっかり肌に付いた時はたっぷりの流水で長時間患部を流さないといけなくて……元々はガラスの洗浄用に作ったんだけどね。それと強力な酸だから攻撃にも使えるかなと思って『収納』に大量にストックしてたの」


「ガラスの洗浄……そんな危険な物を利用しないといけないんですか?」


「それが以外にも結構な頻度で使ってるんだよね……万能薬wwwとか特に。私ならアビリティ内で作れるんだけど、人の手で作るとなると使う器具がどれほど綺麗なのかも要求されちゃって、ガラスはこれで綺麗にしているの」


 当初は金さえも溶かすことが出来る液体という男心をくすぐる薬という理由で作った王水。その後、万能薬wwwを作るに当たって、必要になったので大量に生成したのが功を奏した。


「くしゅん!」


「このままだと、また体調を崩されちゃいますよ……。とりあえず何か拭く物を出してくれませんか?」


「じゃあ……」


 俺は『収納』からタオルを取り出して、ミラ様に顔や髪などを拭いてもらう。その間、俺はしっかり洗い流す作業を続ける。この間、何も起こらないのでティミッドはどうやら倒せたようだ。


「ぐぅ……」


「ヘルバさん! テラム・メデューサが……!」


 すると、倒れていたテラム・メデューサがゆったりと体を起こし、こちらへと視線を向ける。そして、その体を一度確認するように眺め、それからゆったりとこちらへと向かって来る。その動きのせいで、今のテラム・メデューサの心境が読めず、すぐに反撃する必要があるのか悩んでしまう。


「システィナさん! こちらの声が理解できるなら、一旦そこで止まって貰えますか!」


「ハ、ハイ」


 片言の返事をして、テラム・メデューサ……いや、システィナがその場に止まった。どうやら、意識を取り戻したようだ。だが……自分の体がああなってしまって、非常にショックを受けているのではないかと心配になる。


「システィナさん……のようですね。気分はどうですか?」


「エート、ヨクナイデス。化ケ物ニナッテマスシ……」


「まあ、それがまともな思考だと思うよ……人の姿に戻れそう?」


「少シオ待チヲ……」


 そう言って、システィナが自分のアビリティを確認し始める。しばらくすると、謎の光がシスティナの全身を覆い、その姿が徐々に小さくなっていく。俺はそこで目線を外し、この後のラッキースケベを回避する。


「無事に戻れましたね」


「そう。それは良かった……」


「えーと……ご迷惑をおかけしました」


「それはいいから……とりあえずこれ」


 きっと、素っ裸でこちらに謝罪をしているであろうシスティナから目線を逸らしつつ『収納』から、彼女用の衣服を取り出し、そちらを見ないように手渡す。


「あ、ヘルバさん! システィナさんが!!」


「え!? 何……あっ」


 ミラ様の声に反応して、俺はシスティナの方へ振り向く。そこに映ったのは衣服を受け取っただけのシスティナが立っており、その体は生まれたままの姿である。ブルーカウのミルクを適度に摂取し、いい具合に脂肪が付いた体はとても柔らかそうであり、そのプニッとしたお腹や張りのある胸、その柔らかそうなお尻はとてもそそるものがある。


「……!!」


 顔を真っ赤にして俺は再び視線を逸らす。背後からクスクスとミラ様の笑い声が聞こえ、何があったのか分からないシスティナからは疑問の声が漏れている。


「ミラ様……?」


「すいません。それでシスティナさんの今の容体は見れましたか?」


「見えません!!」


 そんな風にからかってくるミラ様に、俺は目線を床に向けたままそう答えるのであった。

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