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189草

前回のあらすじ「結局、テラム・メデューサと戦うことになる」

―「研究所・実験場」―


「おや? 仲間に手を上げるつもりで?」


「……」


 俺が難しい表情のまま無言を貫く様子を見て、俺に余裕が無いと察したティミッドがニタニタと憎たらしい笑顔を見せてくる。心の中で「システィナをどうにかしたら、その横っ面をぶん殴ってやる!」と思いつつ、俺はテラム・メデューサになったシスティナと戦いを繰り広げる。


「シャア!!」


 蛇達が襲い掛かって来たので、俺は前に転がってその攻撃を避け、その懐に入る。


「エア・ホイール!」


 いつもは水魔法で私用していた回転刃を風魔法で放つ。水魔法よりも切れ味が鋭い回転刃が胴体にぶつかるのだが、少しの切り傷を作っただけであった。すると、反撃と言わんばかりに、蛇達が俺を襲い掛かって来るので、『ヴァーラスキャールヴ』に『火魔法』を組み合わせ、俺とテラム・メデューサの間に炎の壁を発生させる。一瞬にして展開された炎が蛇達の視界を防ぎ、その熱が蛇達の攻撃を躊躇させることに期待しつつ、俺は素早くその場から離れる。


「シャア!」


 すると、1匹の蛇達が炎の壁を突入して、そのまま俺へと突撃してきた。そして、そのまま先ほどまで俺がいた場所に体当たりをする。床に強くぶつかったことで金属で出来た床は大きくへこむが、蛇はすぐさま床から顔を話して、こちらを睨み付けて来た。


「シャア!!」


 すると、2匹目の蛇が炎の壁を抜け、俺を探すような素振りもせず、すぐさま襲い掛かってくる。俺は用意していた種をその蛇に投げる。それが襲い掛かってきた蛇にぶつかると「ボフン!」と音を立てて破裂する。この種は強い衝撃を受けると破裂し種をばら撒くのだが、その際に刺激性のある粉を巻き散らす。そして、それをまともに喰らった蛇がその場で苦しみ始める。


「次は……」


 今の攻撃を見て、恐らくこの蛇達は視界を共通しており、1匹目の蛇の目を頼りに俺を襲って来ている可能性がある。その証拠に3匹目と4匹目が炎の壁を抜けて、俺を挟み撃ちしてきた。その大きな口を広げているので、俺を飲み込み気なのかもしれない。


「私、美味しくないからね?」


 俺はまたしても『ジャイアント・キャットテイル』の種を時間差で成長するように調整して、それを巻き散らす。適当に投げた種は大きく開いた口の中にはいり、一気にそれが成長する。


「「シャボ!?」」


 襲い掛かって来た2匹の蛇は口内を『ジャイアント・キャットテイル』のフワフワとした毛で一杯になり、口が閉じれずに動揺する。その一瞬の隙を付いて、俺は後ろに下がって攻撃を避ける。そして、2匹の蛇はそのまま正面衝突して、その頭をふらつかせ始める。


「……当然、あなたが来るよね」


 俺はすぐさま最初に攻撃を仕掛けて来た蛇へと視線を向けると、すぐさま体当たりを仕掛けようとする。俺はそれに気を付けつつ、もう1つの攻撃から逃れるために風魔法で自信を思いっきり吹き飛ばす。


「きゃっ!?」


 上手く着地を決めらずに倒れる俺。ちょっとだけかすり傷を負ってしまったが、先程までいた場所にテラム・メデューサ本体の両腕から繰り出された攻撃に当たるぐらいなら安い物である。


「ヘルバさん!」


「大丈夫! かすり傷だよ!」


 俺は炎の壁を解除しつつ、テラム・メデューサへと視線を向ける。炎の壁に手を突っ込んだ本体に火傷の痕は無く、その頭にいる4匹の蛇も当然だが火傷していない。ただし、1匹は刺激性のある粉の影響で苦しんでおり、残り2匹は口の中のフワフワとした毛が口内の水分を吸い取って張り付き、なかなか吐き出せずにいた。


(……まさか。そんな訳無いよね?)


 俺はここで1つ。あるとんでもない予想をしてしまう。本当にまさかとは思うのだが……。


「シャア!!」


「グルル……!」


 鋭く蛇のような目でこちらを睨み付けるテラム・メデューサ。そして、4匹の内、俺の攻撃を受けていない1匹の蛇だけがこちらを睨み付ける。そう……睨み付けるだけである。


(あ、いや……まさか。そんな訳無いよね……)


 いつ襲い掛かって来てもおかしくない状況なのだが、どうしても気になる。このテラム・メデューサ……まさかだが。


(遠距離攻撃が無い……というか出来ない?)


 『テラム』と名前が付いている以上、地にちなんだ攻撃を仕掛けてくると思っていたのだが、石化の魔眼とも言える攻撃以外の遠距離攻撃を仕掛けてこない。そこで、よくよく考えてみると、今いるこの場所は四方八方を金属で囲まれており、土も石も何も無い。それ故に、それらのアビリティが発動できないのかもしれない。もしくは防御不可で必中であるはずの石化能力がそれを表している可能性もあるのだが……。


「グルァア!!」


 睨み付けていたテラム・メデューサが物凄い勢いで、こちらへと迫って来る。何かしらのアビリティによる牽制もなく、そのまま真正面から襲って来る。俺は『白炎』を放つ。やり過ぎかと思ったが、それに臆することなく、『白炎』を掻き消しながら、そのまま真っすぐこちらへと迫って来る。再び、俺は風魔法による緊急離脱をする。


(これではっきりした。炎魔法は無効、その他はそこそこ……防御力が圧倒的に高いかな)


 成長させた植物は石化によって無効化され、その他の攻撃は効かないし、状態異常も効かない。何とも相性が悪すぎる……。いや、そもそも石化状態をどうにかしなければ、戦うことさえ許されないのも考えると、かなり畜生な相手である。これを討伐したことのある奴らは一体どんな手段を使って討伐したのだろうか。


(まあ……いいか)


 俺は立ち上がって、髪を操作して擦り合わせて音を溜めていく。『白炎』と同等の威力かそれ以上のこの魔法……。それをテラム・メデューサの方に向けて放つ構えをする。そしてテラム・メデューサがこちらに襲って来るタイミングでアビリティ名を唱える。


「ドレットノートボイス!!」


 俺はそう言って、ターゲットをテラム・メデューサから、別方向にいたティミッドへと変更して放つ。


「なっ!?」


 突如、ターゲットが自分に変わったことに驚きの表情をするティミッド。このタイミングではテラム・メデューサを壁にすることは不可能であり、先ほどの壁を作ってもそれを突破できるはずである。


(これで倒せなくても、先ほどの意味不明な瞬間移動は分かるはず……)


 俺は『ヴァーラスキャールヴ』を使って風の結界を作り出しつつ、ティミッドの行動を観察する。すると、ティミッドが突然消えた。いや、床に飲み込まれていった。そこで、ティミッドのこの後の行動を察した俺は、テラム・メデューサの体当たりを避けつつ、ミラ様の方へと走り出す。


「ウォーター・ホイール!!」


 俺はすかさず数枚の水の回転刃を時間差でミラ様に向かって放つ。ミラ様は少しだけ驚きの表情を浮かべるが、その場から動かずに今の姿勢を維持し続けようとする。そして、水の回転刃が2枚ほどミラ様の横を通り過ぎたぐらいのタイミングでティミッドがミラ様の近くの床から浮かび上がり、ミラ様に危害を加えようとするが、その後に放った水の回転刃が体に直撃してミラ様から離れるような形で吹き飛んでいった。


「ミラ様、大丈夫?」


 すかさず、ミラ様の近くに来る。テラム・メデューサが俺の後を追って襲い掛かって来たのだが、ミラ様の結界に阻まれて、こちらへと近付くことが出来ず、そのまま何度も結界に攻撃をし続けるようになったので、とりあえずそちらは無視してティミッドの方へと視線を向ける。


「大丈夫です! でも、一体何が?」


「あいつ……床から出て来た。そして……あれ」


 俺はティミッドに視線を向けるようにミラ様に促す。その時、ちょうど倒れていたティミッドが起き上がるタイミングだったのだが、その体から血は流れていなかった。その代わりに、その破けた衣服の下から見えた傷口は冷たい光沢を放つ金属だった。


「人を越えた……つまり、金属と同一化した金属人間ってことみたい」


「その通りだ!!」


 ティミッドはそう言って、『ウォーター・ホイール』によってへこんだ自身の体を修復し、元の肌色の状態へと戻した。


「どうだ? 脆弱な人の体を捨て、飢えず、より強靭で不老不死となったこの体……すばらしいだろう!」


 そう言って、両手を上に挙げその体を見せつけるようなポーズを取るティミッド。それを見た俺とミラ様だが……。


「別に……ミラ様はどう?」


「私もですね……」


「だよね。それと、強靭といってるけど狂人の間違いだと思うんだよね……」


 ティミッドの正体を知った俺とミラ様はその姿を見て、遠回しに気持ち悪いと主張する。


「あんな体じゃ食事も取れなそうだしね……」


「ああ……分かります。というより……ヘルバさんの肥満化シチューの影響を受けなかった理由って食べていないからですかね?」


「だと思うよ……。そもそも食事もいらないなら、睡眠とかも取れないんじゃないかな……」


「人の視点で考えると、かなりきついですよね……」


「うんうん……」


 ティミッドの言う通りで、無敵の肉体という素晴らしい体なのかもしれないだろうが、食事も睡眠も取れない肉体というのは……。俺だったら頭がおかしくなるかもしれない。というよりウィードの時に体験済みである。


「私……あのまま草だったら、ああなってたのかな……」


「いえ、あれは元々ああだったのかと……」


「き、きさまら……!!!!」


 すると、先ほどまで素晴らしい肉体だろうと言って悪い笑顔をしていたティミッドが、いつの間にか激昂しており、こちらに殺意を向けていた。


「この素晴らしい肉体を愚弄するとは……!!」


「愚弄……してた?」


「私達は遠慮しますという話しかしてないかと……」


「それを愚弄しているというのだ!!」


 そう言って、テラム・メデューサにミラ様の結界を破壊するようにと指示する。だが、ミラ様の結界にはヒビ1つ入っていない。


「あれで愚弄しているとなると……大勢の人が日々愚弄していることになりそうだよね……」


「そうですね……って、ヘルバさん。何か策があるんですか?」


「……考え中。あ、そろそろ状態異常予防薬を飲んでね」


 束の間の拮抗状態、この短い時間で俺はこの後、自分が取るべき行動を考えるのであった。

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