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188草

前回のあらすじ「お約束はへし折るもの」

―「研究所・実験場」―


「位置が掴めないなら……こうするまでだ!!」


 すると、ティミッドが両手を前に出して何か大技を仕掛けようとしてくる。


「ヘルバさん! こちらへ!」


 ミラ様に呼ばれ、俺は大急ぎでシスティナの横にいたミラ様の元へと走り寄る。俺が来たタイミングでミラ様が祈り始め、俺達を覆うように光のドームが現れた。そして、俺達の周りにだけスパイクが隆起する。


「このバリア凄い……」


 光のドームは俺達を覆うように現れているのだが、どうやら効果は床も範囲内のようであり、俺達が串刺しになるのを防いでくれている。


「しかし……これでバレてしまいました」


 一面がスパイクだらけの中、俺達のいる場所だけ普通の床であり、ティミッドも視認出来たらしくこちらへと顔を向けていた。


「そこか……」


「バレちゃったか……」


 俺は幻覚だけを解除し次の手を考える。もう少しだけ距離が近ければ『白炎』による攻撃も可能なのだが、周りにあるスパイクのせいで距離を詰めるのは難しそうである。


「ボイス・キャノン!!」


 そこで、音魔法による攻撃を繰り出すのだが、ティミッドは自身の目の前に金属製の壁を作り出して攻撃を防いでしまった。そこから察するに、アビリティは錬金術や錬成術といったところだろう。その証拠にティミッドは床の金属の形を変えて、攻撃や防御を繰り出してくる……が、自称人間を辞めた存在である。これだけということはないだろう。


 そもそも、この場所まで俺達を呼び寄せているのだ。先ほどの笛以外にも何かしら特別な手段を有していると考えた方がいいだろう。


「なら……これはどうかな」


 俺は『種子生成』で再び『ジャイアント・キャットテイル』の種子を大量に作り、それを風魔法も使ってティミッドへ向けて投げる。飛んでいった種は俺のアビリティで一気に成長し、穂の中にある白い毛がティミッドの周囲を埋め尽くそうとする。


「先ほどの植物ですか……言っておきますが、植物程度の毒は効きませんよ?」


「『ジャイアント・キャットテイル』は無毒だよ。その白い毛はクッションやお布団の材料になったりする良素材……腹黒で何の取り柄もないオジサンと違ってね」


「貴様……!!」


「それとね……」


 俺はそこで『白炎』を発動させる。


「白い炎……。だが、それが当たるとも……」


 何か言いたげなティミッドを差し置いて、俺は『白炎』を白い毛に向けて放つ。すると、一瞬にして着火し、ものすごい勢いで他の白い毛にも燃え広がっていく。それはあまりにも一瞬だったため、ティミッドがどんな表情をしていたのかを見ることも無く、ティミッドの周囲は白い炎で大炎上する。


「それ着火剤としても使えるんだよね……残念でしたオジサン」


 状態異常には強いかもしれないが、無敵という訳では無いのは先ほどの『ボイス・キャノン』を防いだ時点で証明済みである。そして、油断という名の大人の余裕をかましている今のうちにやっつけてしまった方がいい。


「ヘルバさん……生け捕りにしなくてもいいんですか?」


「……あっ!」


 システィナに言われて、そこで自分がやらかした事に気付く。討伐では無いと頭の中では分かっていたが、『デレルシア神の使徒』という情報に思った以上に警戒していたようだ。


「どうしよう……あまりにも不気味だったから手加減するのを忘れてた」


 俺は2人にそう伝えておく。俺がティミッドに手加減できなかったのは、あいつが信者ではなく使徒だったからだ。使徒ということは、つまり神の弟子ともいえる立場であり、ひいてはデレルシア神の直近ということだ。ただでさえ信者で変なアビリティを持っているのだ。使徒となればよりヤバいアビリティを有していてもおかしくは無いだろう。


「お気になさらず。この私がヘルバさんの行動に間違いはなかったと証言します。アフロディーテ様に誓いを立てた上での証言なので安心して下さい」


「神様がいるこの世界では最高位の証言だね……」


 俺は後ろにいるミラ様へと振り向かないまま返事をする。まだ火は消えずに炎上し続けている。そんな中で、何かが動く気配は無い。だが……これで終わったとは思えなかった。


「きゃあーー!?」


 突如、システィナの悲鳴が背後から聞こえる。そちらへ振り向くと、そこにはシスティナの首を背後から羽交い絞めにするティミッドの姿があった。しかも、あれだけの炎の中に包まれたはずなのに、身に付けている衣服さえ焦げていない。俺達に気付かれずに背後へと回り込むアビリティがあるとは予想外だった。すると、ティミッドはすぐさまシスティナの近くで口にあらかじめ加えていた先ほどの笛を鳴らす。俺のアビリティでは、あれだけの近い距離で鳴らされてしまえば防ぐことは出来ない。


「あ……」


 そう一言だけ言って、システィナの表情が無表情になる。俺は『スキャン』でシスティナの今の状態を確認すると、名前がテラム・メデューサの名前に完全に書き換わっていた。


「ミラ様! こっちに来て!」


 俺の言葉を受けて、ミラ様はすぐさま俺と合流する。事前にシスティナの状態を伝えていたことがここで功を奏して何よりである。そこで、俺はミラ様にあることを訊く。


「ミラ様。この結界内にティミッドって入ることができるの?」


「いいえ。今回の敵はティミッドですから、それに対応した結界となっています。だから、入る事は不可能なはずなんですが……」


 ミラ様は結界を張り直しつつ、今の結界がどのような性質なのかを説明てくれた。そうなると、ティミッドはこの結界を自力で侵入したことになる。


「どちらから侵入したか分かる?」


「いえ」


「そうか……」


 ティミッドのアビリティがどんな物か分からない以上、手に入る情報は何でも得たい。そして今、ティミッドがミラ様の結界のどこから侵入したかという情報も知りたかったところである。


「ふふ……あはははは! さて……これで2対2になったな」


 不敵な笑みを浮かべるティミッド。そして、その前に立つ無表情なシスティナの肩に手を当て、その耳元に再度、顔を近付ける。


「始末しろ」


「了解」


 システィナはそう言って、その体を変化させていく。徐々に着ていた衣服を破りながら体が大きくなっていき、その両足はくっつきながら蛇のそれとなり、上半身はシスティナの姿を保ちつつ鱗が生えていく。そして、システィナの頭にいた4匹蛇達は大蛇となって俺達を睨み付ける。


「シャアアアアーー!!!!」


 雄叫びを上げるテラム・メデューサ。メデューサと名は付いているが、その見た目からしてラミアやナーガというモンスターにも見える。


「さあ……やれ!」


 そう命令したティミッドが床のスパイクを沈降していき、初めて実験場に入った時と同じ状態に戻した。その様子に少しだけ違和感を覚えつつ、目の前にいるテラム・メデューサに気を向ける。


「シャア!!」


 先ほどまで両足で歩いていシスティナが、蛇腹を擦り付けながらこちらへと襲い掛かって来る。


「ミラ様は常に結界を張り続けていて! それと、これを適宜飲んで!」


 俺は状態異常予防薬3本を『収納』から取り出してミラ様に乱暴に渡し、テラム・メデューサと対峙するために前へと出る。


「えい!」


 俺は早速、『種子生成』で蔦でモンスターを絞め殺すという食獣植物の種を生み出し、それを一気に成長させてテラム・メデューサへ襲わせる。


「シャアアアア――――!!!!」


 すると、テラム・メデューサの頭にいる4匹の蛇の目が光ったと同時に蔦が全て石化してしまった。


「ミラ様! 無事!?」


「あ、はい! 大丈夫です!」


 先ほどのアレがどの位の効果で、どれほどの範囲に影響を及ぼすのか分からないので、後ろにいるミラ様に声を掛け、無事なのかを確認する。その間、前から目を逸らさず、前にいる2人の姿を視界に入れておく。


「……」


 テラム・メデューサの後ろで静かにこちらを観察するティミッド。しかも、腕を組んだままであり、テラム・メデューサの援護をする気配が無い。スパイクによる攻撃や妨害を仕掛けてくると思っていたのだが……。


(本当に嫌だな……あんな風にこっちを観察するなんて)


 テラム・メデューサの尾による攻撃を避けつつ、攻撃を仕掛けてこないティミッドの不自然な姿に警戒を続ける俺。


「どうですかね……味方だと思った女に攻撃される気分は?」


「それに答えている余裕は無いんだけど?」


 答える余裕が無いと言いつつ、ティミッドの言葉に返事する。ティミッドから「生意気な……」と言われてしまったが、ただ思ったことを素直に伝えただけである。怒らせてしまったのは失敗だったかなと思ったのだが、やっぱり手を出してこない。


(……フリーズスキャールヴさん。今のシスティナってどんな状態なの?)


 テラム・メデューサに大ケガさせないように、水魔法による攻撃で距離を取りつつ、連絡を切っていたフリーズスキャールヴさんにシスティナの今の様子について尋ねる。すると、すぐさまフリーズスキャールヴさんが返事をしてくれた。


(ヘルバさんが思っている通りです。現在、彼女は洗脳状態に陥ってます)


(解除方法だけど……倒す以外にある?)


(あります。先ほどの笛を壊せば洗脳状態が解除されます。)


 俺はそれを聞いてティミッドを確認すると、手に先ほどの笛を持っているのが確認できた。それに対して『スキャン』を掛けると、『厄災鎮めし天の笛』という何とも仰々しい名前が表示される。


(称号持ちの7体に抵抗するために作られた専用の笛です。アレを使えば称号持ちの7体の能力を頬幅に下げることができ、通常より楽に戦えるようになります)


(先日のアビリティのアップデート前に作られたレアアイテムってとこ?)


(その通りです。前までのアビリティだと少々手こずる相手なので、それの救済措置みたいなものです。ただ……)


(従える能力は無いってことだよね?)


(そうです。恐らく自身のアビリティで元の効果を歪めたとか、そんなところかと……だからこそですかね。相手のアビリティが多少制限を受けているみたいなんです。先ほどよりも相手の情報が若干ですが見やすくなってますし……)


(なるほど……だから、襲ってこないのね)


 上手く情報を取り出せない相手であるため、そのような弱体化が理由じゃないかもしれない。だが、もしそうだとしたら……。


(なら……そのまま情報収集して。手に入れた情報はすぐにアフロディーテ様に報告)


(しかし……それではシスティナさんの方の情報が……)


(もっとも警戒しないと相手はあっち。恐らくだけど……このまま戦えば私が負ける。勝ったとしても誰かしら犠牲になる。だから、それを回避するためにもお願い)


(分かりました。必要ならすぐに呼んでください)


 そこで再度、フリーズスキャールヴさんからの連絡が切れた。そこで今度は火魔法を放ち、先程よりも攻めの姿勢に入る。


「色々……手順が面倒だけどやるしかないか」


 ミラ様が戦えない以上、この場を俺1人でどうやって切り抜けるか、今度はそちらに考えを巡らせるのであった。

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