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187草

前回のあらすじ「ティミッドが現れた!」

―「研究所・実験場」―


「オジサン……自首するなら今の内だよ? もうそこまでオジサンを捕まえにきた部隊が来てるよ?」


「このまま捕まれば死罪……運良くても一生牢獄の中なのに自首しろと?」


「そうそう。痛い目に合わなくて済むかもよ?」


「ふはは!! 冗談はよしてくれお嬢ちゃん。それとも……仲間が来るまでの時間稼ぎかな?」


「素直に忠告してるだけだよ」


 実験場という無機質金属で出来た空間内、俺はとぼけたふりして、なるべく時間稼ぎをしている。ティミッドの言う通りで、ドルチェ達が俺達を見つけるまでの時間を稼ぐという意味もあるのだが、もう1つは『フリーズスキャールヴ』から送られてくるティミッドの情報を確認しているからという理由もある。その情報は驚きの連発であり、俺が思っていた以上に今回の件がヤバい案件だったことを知り、今更ながらこの件に関わった事に後悔している。


「おやおや……気分でも悪いですかね?」


「ううん。全然平気だけど……まあ、オジサンのような変人と話してると、何か精神的に疲れるかな……」


「……」


 俺がそう言い返すと、鋭い目つきで黙ったまま俺を睨み付けるティミッド。このオジサンが本当に言いたいことは分かってるのだが、それに対して敢えて気付かないふりをしている。まさか、鑑定系のアビリティに対してカウンターできるアビリティを持ってるとは……しかも、それは以前に俺が喰らったことがあるアビリティであり、そのアビリティを持っている時点でこいつの正体が何なのか分かってしまった。


「どういうことですか? 何故……」


「……なんか知らないけど攻撃されていたのかな?」


「そのようですね……ヘルバさんの身に何か変化は?」


「さっきも言ったけど疲れるだけかな」


「ありえない! 貴様、一体どんな手を使った!?」


「オジサンがどんな攻撃を仕掛けて来たのか知らないけど……喰らってないものは喰らってない。それだけだよ?」


 俺は知らぬ存ぜぬで何とかゴリ押していく。わざわざ敵が有利になるような情報を伝える気は無い。一方で俺は敵の情報を見つつ、これからの対策を練っていく。


「そんなことより……オジサン。どうしてこんなことをしたの? ギルドマスターといえば高給取りでしょ? オジサンのような人なら上手く回せたんじゃないの?」


 冒険者ギルドのギルドマスターといえば、昼夜問わずかなり忙しい仕事の1つなのだが、高い給料が確約された職業である。出来高で多少の前後はあるが、1月の給料で贅沢をしなければ半年は暮らせるほどと聞いている。それなのにこんなことをするとは……それほどあの神を信仰することが優先なのか。


「矮小な思想しかできないお前などには……」


「富や名声? それとも永遠の命とか若さ? もしくは……どこぞの神様のため?」


「……アフロディーテの手先か」


「それ違う。私、聖女じゃないし……そもそも、オジサンがそうだよね。ねえ、デレルシア神の使徒さん?」


 俺がそう答えると、ティミッドはさらに険しい表情で俺を射殺すんじゃないかと思わせるような気迫で睨み付けてくる。『フリーズスキャールヴ』からの情報は、ティミッドは確かに帝国出身なのだが、3年だけボルトロス神聖国にいた事が分かった。そして、その3年間の間の情報は全く読めず、それ以外の情報はバグだらけのゲーム画面のように文字化や黒塗りのように、読めないところばっかりになっている。ただし、『デレルシア神の使徒』はしっかりと読むことが出来た。


(すいません。これ以上の情報は……)


(りょーかい。この世界の主神であるアフロディーテ様とは別の力を有しているだけでも分かったで十分だよ。ただ、すぐさまアフロディーテ様に報告してくれない?)


(もちろんです。どんな力を使うか分かりません。お気を付けて下さい)


 そこでフリーズスキャールヴさんからの連絡が途切れる。俺はそこでティミッドの状態を目視で確認する。服装に関してはギルド職員が着る制服であり、特に変わった様子は無い。さらに、その両手足も確認するが、手には何も持っておらず、足もただの革のブーツに見える。また、その背格好から前線で戦うような戦士とも見えない。


(後方で戦う術師……のように見えるんだけどな……)


 見た目の判断はそう評価する。しかし、ここは異世界。いきなり両手に光るビームサーベルが現れたり、異空間から無数の剣が出てきたり、下手すると別空間に飛ばされ、待ち構えていた13体の騎士型召喚獣による連続攻撃など、俺が欲しいと思っているようなアビリティを使用してくるかもしれない。


「その時は……ボコボコにしよう。うん」


「誰をボコボコにすると?」


 俺の思っていたことに反応するティミッド。俺はそこで後ろにいるミラ様達に「私、思っていたことを口にしてた?」と尋ねると、「口にしていた」と返ってくる。やっちゃったと思いつつも、俺ってこんな状況下なのにこんな馬鹿なことを考えられる位の余裕があるんだなと、自分の図太さに感心してしまった。


「いや〜……オジサンがカッコ良すぎるアビリティを使ったらボコボコにしようかなって思っただけだよ」


「そんな言い訳が通用すると思ってるのか?」


「思ってないよ」


 思ってはいない。そんな下らない理由でボコボコにしようと本気で考えていたなんて、信じてもらえるとは思ってはいない。


「どこまでも馬鹿にしやがって……このガキが」


「そんなガキにガチギレするなんて……デレルシア神の教育はなっていないね」


 デレルシア神を馬鹿にする発言を聞いたティミッドがブチギレ、なんとも人前では見せてはいけないほどの恐ろしい顔で「殺す! 殺す……!」と連呼してくる。


「ヘルバさん……煽り過ぎでは?」


「これ以上、情報を引き出せないし。恐らくだけど、ここまで仲間が来るのにはまだ時間が掛かりそうだし……いや、来れないかもしれない」


「それは……どういうことですか?」


 システィナが体を震わせながら訊いてくるのだが、もはや説明をしている時間は無いだろう。


「デレルシア神を侮辱した罪は重いぞ……死ね!!」

 

 俺は素早く『ヴァーラスキャールヴ』による風の結界、それに加えて『音魔法』による幻覚を発生させる。幻覚はハッキリと分かるような幻覚ではなく、ティミッドの六感を若干狂わせる位にした。後は、どんな攻撃が来るのだろうかと思いながら、ティミッドが前に出した手を凝視し、どんな攻撃が来るかを見定めようとする。


バコッ!


 俺達のいる場所から少しずれた位置に、大きな鉄製のスパイクが数本隆起する。その見た目から実験場の床に使われている物と同じ物だろう。


「テトラ・ポイズン・ショット!!」


 俺はすぐさま毒液を飛ばし、ティミッドは避ける事無くそのまま直撃する。すかさず、俺達はそこから移動を行い、今いる場所から少しだけズレる。


「……幻覚ですか。これは厄介ですね」


 毒液を浴びたはずのティミッドは、何事も無かったかのように再び先ほどと同じ攻撃を仕掛けてくるのだが、それもこちらには当たらず、的外れな場所にスパイクが隆起する。


「ヘルバさんの毒攻撃を受けたのに平然としてませんか?」


「そうみたい。まあ、システィナの石化が利いていない時点で他の状態異常も効果が無いとは思ってたけどね……」


 単にシスティナの石化だけに対して何かしらの対策を練っており、それ以外の状態異常は利くかなとは思っていたがダメのようだ。それと……もし、あのシチューを飲んでいたとしたら、ブクブクに太っているはずなのだが、それすらも無い。


「まさか……毒が利かないなんてオジサンって人間じゃないでしょ?」


「人間? ええ……その通りですよ。デレルシア神によって人を超越した存在になったのです!」


 はい。確定である。こいつ、レザハックと同じで何かしらの手段を使って人間を辞めた奴だ。気になるのはデレルシア神によってとのことだが……アクアと融合することに成功したレザハックの手による超越者なのか、デレルシア神という謎の存在によって超越者になったのか気になる所である。


「そして……お前と一緒にいるそれもその資格を有してる者……」


 すると、ティミッドは懐から笛のような変な道具を取り出しその場で思いっきり吹いた。実験場に笛の音が響き、それによって、システィナは……。


「……ん?」


「あれ?」


 そこにティミッドとミラ様の声が実験場に響く。2人ともシスティナの方を見ているのだが、その見られているシスティナはその視線に困惑しているが、特に何か変わった様子は見られない。


「お前……何をした?」


「何も?」


「とぼけるな!」


 そう言って、ティミッドがまた床からスパイクを隆起させるのだが、こちらに当たっていない。どうやら本当に幻覚に関しては利いているようだ。俺はそれに安堵していると、ミラ様が俺の後ろへとやって来て何をしたのかを小声で訊いてきた。


「(何をしたんですか?)」


「(『ヴァーラスキャールヴ』と『音魔法』の組み合わせで、防音結界を張っただけだよ。何かに呼ばれているって言ってたから、いざという時に張ろうと思って構えてたの)」


 ゲームにおける対人戦での鉄則。それは相手が嫌がるようなことをし続けること、恐らくシスティナをあの笛でどうにか味方にしようとしたのだろうが、わざわざ相手の思惑通りにする動く必要は無い。そんなフラグをへし折り続けることは大切である。


「つくづく……やりづらい相手ですね」


「きゃはは! オジサンの策にまんまと嵌るつもりは無いからね!」


 俺は笑みを浮かべ、ティミッドを見詰める。対して、ティミッドは俺を静かに睨み付けるのであった。

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