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186草

前回のあらすじ「水路から脱出」

―一方その頃「研究所・第2実験エリア」ドルチェ視点―


「はあーー!!」


「そっち! 別の奴が来てる!!」


「こっちは任せろ!」


 研究所を調べている私達の前にモンスターの群れが襲撃してきた。3方向から襲撃を受けたため、私達は3つの班に分かれて戦闘を行っているところである。中には例のゾンビモンスターも紛れており、それに関しては速やかに魔法で討伐。火魔法による焼却が行われていく。


「ウインド・バースト!」


「ソウルドレイン!」


 そんな中、私とココリスの2人でゴブリンジェネラル率いるゴブリンの群れを相手にしており、私が魔法で突風を起こし、動きが遅くなった所に、ココリスが一気に『ソウルドレイン』でゴブリンの群れの一部を凍死させる。


「んぐ!」


 そして、『ソウル・ドレイン』のデメリットによる肥満化によってココリスの体がどんどん太っていき、オークのような立派な腹をした肥満体になるのだが、その勢いが止まる気配が無い。


漏脯充飢(ろうほじゅうき)!」


 太っていくココリスが新しいアビリティを発動させる。すると、一気に元の体型に戻り、そこから凄まじいスピードで残ったゴブリンの群に突撃する。


「はあー!!」


 ココリスがゴブリンの群の前で持っていた槍を思いっきり振り回すと、ゴブリン達が宙を舞い、そのまま天井や壁に勢いよく激突していく。そして、突きを繰り出すと、ゴブリンの上半身だけが吹き飛んでいくという神業を魅せる。


「ゴブッ!!」


 ココリスのその強さを見て、ゴブリンジェネラルが前へと出て、持っている大剣で斬りかかるが、ココリスはその大剣を槍の突きで破壊しつつ、ゴブリンジェネラルの頭部を吹き飛ばしてしまった。


「ライト・レーザー!」


 残ったゴブリンを私の光魔法で焼き貫く。ゴブリンの群れを倒しきるとココリスが汗を拭いながら、こちらへと戻ってきた。


「今のアビリティ凄かったね」


「この前の食欲増進薬がきっかけで覚えたのよ。蓄えたエネルギーを一気に消費して、一時的に身体を大幅に強化する『身体強化』の1つよ」


「『ソウルドレイン』と相性のいいアビリティだね。これなら『ソウルドレイン』からの新アビリティで、大体の敵を倒せちゃうんじゃないの?」


「そうとも言えないわよ。あれだけのエネルギーを消費して、強化されたのはほんの一瞬。多少太った程度じゃ戦う前に終わるわ。それに過度な動きをするから、多少の疲れも出るし……あまり多用は出来ないわね」


 そう言って、ココリスがその場で体を伸ばしたり揉んだりして体をほぐし始める。戦闘真っ只中で、そのような行動を取る彼女は非常に珍しく、それがどれほどの負担が掛かるアビリティなのかがよく分かる。


「こちら終わりました!」


「こちらもだ!」


 程なくして、他の部隊から戦闘終了の報告が聞こえ始め、モンスターの処理と調査、負傷した者の治療、次の襲撃に備えての警戒と各々の役割をこなしていく。そして、私達もそれらの役割をこなしつつ、これからの行動の確認を話し合う。


「やはり、モンスターは敵味方関係なく襲っているみたいです。太って動けない連中は漏れなくモンスターのエサっすね」


「そうか……孤児院の子供や働かされていた子供は無事だろうか……」


「孤児院はハルートさん達を信じるしか無いですね……。そして、この研究所内に子供がいたら速やかに保護をしていきましょう」


「そうだな」


 モカレートの言葉に同意しつつも、渋い顔をするヘルマ。今の所、この騒ぎによって子供がモンスターの餌食になっている形跡はない。だが、ここで子供が働かされていた以上、そのような事が起きてもおかしくない状況ではある。


「とにかく施設を抑えると、子供の保護は優先だ。関わった奴らの生け捕りはティミッド以外なら、後回しってところだな」


「出来れば他にも生け捕りにしたいけど……あれもこれも欲張って被害が拡大するのは避けたいわね」


「幸い資料室は抑えられたのて、あそこの資料からでも関係者を洗えるでしょう。ただ、あの大量の資料を運ばないといけないので……」


「ヘルバ達と合流しなければならないな。果たして無事だろうか……」


 資料室で見つけた『システィナの死亡』は既に部隊全員に周知させており、彼女が一体何者なのかとシスティナに不信感を抱いている者が多くいる。ヘルマもそんな者達の1人なのだが、昨日出会った彼女を信じろというのは難しい話であり、今のように彼女と一緒にいるヘルバやミラ様を心配するのは仕方の無いことだと思っている。


「大丈夫よ。ヘルバ自身、アビリティに頼らなくとも警戒や最悪の事態の予測はしっかり出来てるわ。それだから、背後から襲われるようなことは無いでしょうし、ヤバくなったら逃げるから問題無いわ」


「それもそうですね」


 ココリスとモカレートがヘルバを信頼して問題無いと告げる。私も少しばかり心配しつつも、まあ大丈夫だろうなと思ったりするのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―同時刻「研究所・モンスター飼育部屋」―


「へっくちゅ!」


「大丈夫ですか?」


「大丈夫。どうせドルチェ達が私の噂をしてるだけだろうから……」


 体調を崩したんじゃないかと心配してくれたミラ様に俺はそう答え、今進んでいる通路の警戒を続ける。左右に鉄製の扉があり『スキャン』の鑑定結果から、どの扉からもモンスターが出入りした形跡があると出ている。


「綺麗な通路ですね」


「はい」


 あまりにも綺麗過ぎる通路にシスティナが怯えている。俺達もその綺麗な通路に不気味さを感じており、さらに定期的にあったモンスターの襲撃が収まっているのが余計にその不気味さを際立たせている。


「もうこちらにモンスターを送る必要がなくなった……ということでしょうか?」


「それかドルチェ達が研究所で暴れていて、そちらの対応にモンスターを回しているか……かな。まあ、今の段階じゃどっちが合ってるのかは分からないね」


「出来ればヘルバさんの言う通りになってたら嬉しいですね」


「そうですね……つまり、それだけ余裕が無いということですもんね」


「理想としてはこのままドルチェ達と合流できればいいんだけどね……」


 このまま何事もなく、ドルチェ達と合流できればいいのだが、システィナの様子からしても、このままタダで済むとは思えない。何かしらの一悶着はあるのだろう。


「さて……システィナ。この先って何があるか覚えてる?」


「はい。この先には準備室があるはずです」


「準備室?」


「はい。清掃道具や餌を上げるために使う道具などが置かれた広い部屋がありまして、その準備室に隣接して、モンスターの餌の貯蔵庫と実験場、それと通路に出る3つの扉があります」


「となると……私達が向かうのは通路へと出る扉ですね。そして、ドルチェさん達と合流する……」


「それが私達の第一の目標だね。システィナ。研究所内の間取りって分かる?」


「少しだけなら」


「じゃあ、通路に出たら道案内をお願いね。どちらに進めばいいか後ろから指示してくれればいいからさ」


「分かりました」


 この後の目標を決めた俺達はそこから通路内を慎重に進んでいく。すると、すぐに通路の奥にある準備室へと到着してしまった。準備室には先ほどシスティナが話した道具類が置いてあるだけじゃなく、それらの道具を片付けるための洗い場や、シャワー室のような物も設置されていた。


「あっちに行けば通路に出ます」


 システィナが指差す方向にある扉の近くまでやって来たところで、俺は扉に手を掛けようとする。


(注意!! 高圧電流が流れてます!!)


 フリーズスキャールヴさんからの忠告に、俺は咄嗟に手を下げて扉から少しだけ遠ざかる。


「ヘルバさん? 何かありましたか?」


「強力な電気が流れてるみたい。このまま触れていたら私が麻痺しちゃう」


「だとしたら……魔法で壊せませんか?」


「チョット待って……」


(この扉自体は壊せます。ただ、無理やり壊すと爆発を起こして道が塞がるように設計されているみたいです)


(フリーズスキャールヴさんの指示でそれを避けつつ扉を壊せないかな?)


(かなりややこしいです。それよりも、それらの仕掛けを管理している部屋に行って解除した方がいいかと)


(どこにあるのかもう分かってるの?)


(はい。そこから実験場へと向かってもらい、実験場にある管理室で解除できます……が)


(何が問題が?)


(その実験場に誰かいます。そして、先ほどからのシスティナさんの様子……恐らくですが、ここにヘルバさん達を招き寄せた張本人かと)


(……フリーズスキャールヴさんはそれが誰かは分かってるんだよね?)


(はい。ただ制約の都合上、これ以上は話せません)


(了解。じゃあ、その誰かに『フリーズスキャールヴ』を使用するから、すぐに情報を教えてね)


(かしこまりました)


 そこでフリーズスキャールヴさんからの連絡が切れる。俺は2人に現在の状況を話し、通路へと出る扉から、実験場へと続く扉の方へと移動する。実験場にも通路へと出る扉と同じ両開きタイプの扉があるのだが、こちらには電流は流れておらず、俺は取っ手に手を振れ静かに開けていく。


「警戒しなくても大丈夫ですよ。その扉には何も仕掛けてませんから……」


 すると、扉の向こうから男の声で声を掛けられる。俺はすぐさま扉を開けて『ヴァーラス・キャールヴ』と『風魔法』による風の結界を張り直しつつ、実験場内へと入る。


「ふむふむ……どうやら何かしらの鑑定アビリティを持っているようですね。それ以外にも何か珍しいアビリティを有しているようで……これは手強いですね」


 そう言って、実験場の中央にいるティミッドが俺を睨み付けてくる。


「そう? ただのか弱い女の子だけど?」


「ふふふふ……怖いですね。見た目はそのようにしか見えないんですからね……」


 俺への警戒を緩めないティミッド。冒険者ギルドで出会った時の頼りなさが無く、今は侮れない雰囲気を漂わせてくる。


「(皆、気を付けてね)」


 ティミッドのただならぬ気配を察した俺は、小声でミラ様とシスティナに警戒を促すのであった。

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