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185草

前回のあらすじ「システィナは死んでる……?」


*今年の投稿はこれが最後になります。次回の更新は1月5日の予定ですが、作者の都合で投稿が遅れるかもしれないのであらかじめご了承ください。それでは皆様、良いお年を。

―「地下研究所・水路」―


「ポイズン・ショット!!」


 俺は襲ってきたスライムの群れに『ポイズン・ショット』で攻撃を仕掛ける。『ポイズン・ショット』がスライムに当たると、全身が水で出来ているスライムの体と混ざり合い、毒々しい濃い紫色となって消滅した。


「お見事です」


「あっという間でしたね……」


 スライムの群れを片手間に倒してしまった俺を2人が尊敬の眼差しで見てくる。そのことに少し照れ臭くなるのだが、それを悟られないように、俺は倒したスライムの群れから魔石を回収していく。


「でも……驚きました。システィナさんの蛇達の石化が効かないなんて」


「私もです。どうして利かなかったんでしょうか?」


「素直に考えるなら……石化出来る体じゃなかったからかな……」


 システィナの石化を潜り抜け、俺達を襲ってきたスライム達。それが可能だったのは全身が水で出来ているからだと俺は推測する。他にも目が無い……つまり視力が無いのも関係するかもとは思っているのだが、これに関しては暗闇や遠距離で相手がこちらを視認出来ない状態でも石化が出来ていたので、あまり関係ないかもと思っている。


「なるほど……この子達の石化も万能じゃないんですね」


「そうだね。けれど、それを差し引いても強力なアビリティだとは思ってるから、あまり気にしない方がいいと思うよ」


「そうですね。そもそも、私は戦えないですし……」


「私もです。それと比べたらシスティナさんは頑張ってるのですから自信を持って下さい」


 ミラ様がシスティナを励ますと、システィナは少しだけ元気を取り戻し薄っすらと笑みを浮かべる。確かにシスティナのアビリティに戦いに向いた物は無い。しかし、その辺りの情報も書き換わっており、スライム程度ならあっという間に葬れるほどのアビリティも確認できる。ただし……それを本人は認識できていないような気がする。


「……さて」


 俺はそんなシスティナの様子を伺いつつ、スライムの群れが来た方向へと視線を向ける。すると、薄っすらだが、水路の上から光が漏れているのが見える。『スキャン』で確認すると、そこからモンスター達が送り込まれていたと表示される。


「どうやら目的地に着いたみたいだよ」


 そう言って俺が指を差すと、2人がそちらへと視線を向ける。ミラ様はその先に何が待ち受けているのかを思ったのだろう。その表情が少し険しくなったのだが、システィナの方は先ほど何かに呼ばれた時と同じ表情をしている。


「システィナ? もしかして呼ばれてる?」


「……え? あ、はい」


 少しだけ間を空けながらも、しっかりと返事をするシスティナ。ただ、その様子はどこか虚ろ気に見える。その証拠に、すぐに穴の方を呆然と眺め始めた。


「システィナさん。行きましょう」


 すると、ミラ様がシスティナの肩に手を当てながら、先に進むことを促す。システィナははっとした表情を浮かべながら、すぐさまミラ様に返事をし、光が漏れている場所へと歩き始める。


(ヘルバさん。聞こえてますか?)


(うん。ミラ様……念話使えたんだ……)


(悩みを抱えた方々を相手にしますからね。思いっきり口に出すことも出来ない時もありますので……それでシスティナさんですが……)


(……表情を変えないように注意してね)


 ミラ様が『念話』を使えることに驚きつつ、俺はさっそく『スキャン』で確認できたこと、フリーズスキャールヴさんの話を伝えていく。その間、ミラ様はシスティナと笑顔で話をしつつも、念話内では驚きの声を上げていた。


(システィナさんの名前がテラム・メデューサに入れ替わる……どういうことでしょうか?)


(いくつか予想は立ててるんだけど……)


 前世のアニメオタク知識を元に立てられた予想だが、だからと言ってそれらが全て外れるような事態は無いだろう。ただし、数ある予想の中でもし最悪のパターンを引いてしまったら……。


(ヘルバさん。その……)


 俺の様子を察して、何かを言いたげなミラ様。だが、掛ける言葉が見つからないのか「えーと」と言葉が念話に漏れている。


(……大丈夫。その時は私が何とかする……仮に最悪の場合でも……)


(ヘルバさん……)


(念話はここまで。とりあえず、あの穴の先に行ってみようよ。予想を裏切られるかもしれないしさ)


(分かりました。何か必要なら言って下さいね)


 そこでミラ様の念話が切れる。俺は最悪の事態を想定しつつも、システィナにその不安が悟られないようにするために、水路内に怪しいものが無いか、襲って来るモンスターがいないかと調査に専念する。


 そんな俺の心境の中、例の穴に到着する。その穴から薄っすらと水路内に光が差し込んでおり、上を見ると天井に設置されている蛍光灯のような形の光源を確認できた。


「穴の大きさは水路内とほぼ同じか……これならモンスター達を余裕に送り込めるね」


「あの~……下りるための階段とかが無いんですけど?」


「普通に飛び降りて着地したんだと思いますよ。私達なら大ケガでしょうが……って、ヘルバさんなら着地出来ますね」


「いやいや!? フィジカルで下りられるほどの能力は無いからね?」


「ふふ……冗談です♪」


 そう言ってからかうミラ様。もしかしたら、俺の事を思ってこんな冗談を言ったのかもしれない。そう考えると怒る気にもなれず、再び穴の確認を始める。


「登れる場所は無さそうだね……」


 もし、システィナを呼んでいる奴がいるとしたなら、ご丁寧に縄梯子とかを掛けておいてくれるとありがたかったのだが……。


「無いものは無いでしょうがないから……っと」


 俺は『種子生成』で大量の蔦植物の種を生み出し、『植物操作』を使って穴の周囲に蔦を生やしていく。蔦をロープのようによじ登るのは無理なので、たくさん生やしてそれを足場によじ登れるように操作する。


「どうかな? 私的にはこれなら登れると思うんだけど……」


 俺は蔦で出来たもはや壁と言える物に、実際に俺が手と足を引っ掛ける姿を2人に見せつつ、登れるかどうかを尋ねる。すると、2人からも問題無いという返事が返って来たので、俺が一番最初に登って上の安全を確認する。敵がいないのを確認した俺は下にいる2人に合図を送り、システィナ、ミラ様の順番で登って来てもらう。


 そこで早速、2人が蔦で出来た壁を登るのだが、ところどころ足を広げないといけない箇所があり、そこで大きく足を開いたミラ様の姿を上から見るのだが、大きなスリットに入った修道服のため、足を大きく広げた瞬間に、ミラ様の生足がスリットからさらけ出され、下着がギリギリ見えない程度まで拝むことになった。この時、俺は「ミラ様がこの壁をよじ登る姿を下でも覗きたかったな……」と何とも変態チックな考えが脳裏に走ったのは秘密である。


(あの……秘密になっていないんですが?)


(フリーズスキャールヴさん……人の思考を覗かないで下さい)


 そんなやり取りがありつつも、水路から抜け出した俺達。そして、早速今いる場所がどんなところなのかを確認し始める。


「あれ……ここの操作盤でしょうか?」


 ミラ様が指差す方向を見るとレバーが設置されており、試しに俺が操作すると金属の蓋がゆっくりとスライドしながら水路へと続く穴を封鎖する。


「……どうやらここを操作した人物がいるようですね」


「うん。次は……ここの通路を真っすぐ進めってところかな?」


 この場所から唯一続いている通路へと視線を向けると、通路にたくさんの金属の扉が設置されており、そのどれもが硬く閉じられている。『スキャン』で確認すると、そこを無数のモンスターが行き来しているのが確認できた。


「金属の扉……恐らくモンスターの飼育部屋だと思う。さっきのモンスター達はここから現れたんだと思うよ」


「じゃあ……この通路は?」


「モンスターを移動させるための通路かな……そして、あの水路は巨大なゴミ箱。モンスターを育てる以上、色々出るだろうしね」


「じゃあ……あそこは排水路だったんですね。それにしては不快な臭いがしなかったような……」


「あの……少しだけ奇妙な点があるんですが……」


「どうしたのシスティナ?」


「ここ……知ってます。私、ここで仕事したことがあるんです……でも、こんなに綺麗じゃなかったはずです。その……」


「思い出したくないなら言わなくていいよ」


「いえ……ここもっと赤かったり肉がこびりついていたんです……それが全く無いんです。それとモンスターによって付けられた壁の傷とか……」


「こことそっくりの場所とかは?」


「可能性はあるんですけど……でも、この床を見て下さい。これ真新しいと思いませんか?」


 システィナの見つけた床の傷を見ると、そこには確かに何かの生物によって傷付けられた爪跡が付いていた。それを『スキャン』で調べると俺達を最初に襲ってきた狼達のものと一致した。


「最初の狼……そいつらと一致したよ。なるほど……こんな簡単にも痕跡が残るはずなのに、これ以外の痕跡が全く見られないのは不自然だね」


「はい。ここにはモンスターがいたという形跡が全く無さすぎるんです……それが少し妙というか、それを通り越して怖いというか……」


 先ほどまでどこか虚ろだったシスティナがはっきりとした恐怖を抱いている。それを裏付けるかのように、先ほどまで起きていた名前の入れ替わりが止まっており、名前がシスティナで固定されている。


「どうやら……ここにはモンスターやゾンビなんかよりも、もっと恐ろしい何かが起きているみたいだね」


 俺は『スキャン』で調べても特に異常の無い壁と床を見ながら、この先に何が待ち受けるのか懸念するのであった。

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