182草
前回のあらすじ「ヘルバ:作者どうしてこんな毒を……」
「作者 :11月29日だったからry」
―突入から数分後「廃屋敷・1階」―
「うう~……」
「うご……けなぁい」
廃屋敷へと突入した俺達。無事な奴がどれだけいるかと警戒しつつ屋敷内へと入ったのだが……それは徒労に終わってしまった。廃屋敷にいた連中は1人残らず、身動きが取れなくなるほどに太ってしまい。中には1階の床を突き抜け、そのまま地面に叩きつけられて死んでいた奴もいた。
「これ……子供達は飲んでないよな?」
「……多分」
外にいた奴も大分太っていたが、廃屋敷にはそれ以上に太った連中が文字通り転がっており、戦うどころか、呼吸するのもままならない状態である。
「これ……このまま放置でいいよね?」
「そうだな。もはや、こいつらは何も出来ないだろう。そもそも……俺達がこいつらを動かすのも出来ないがな」
「そうね」
あまりにも重くなり過ぎてしまった連中を放置し、俺達はそのまま食糧庫にある地下への扉へとやって来た。
「うーーん……嬢ちゃん。鑑定結果はどうだい?」
「順調に解除出来てるみたい」
「了解了解……」
『開錠』のアビリティを持つノートンがメインで扉のロックを外していく。俺は『スキャン』を使って、そのサポートに入っている。それ以外の皆は周囲の警戒だったり、今のうちに武器や道具類の再チェックをしている。
「これで……こうだな」
カチッという音が扉から発せられた。すぐさま俺が扉を鑑定して見るとロックが安全に外れたという情報が流れてきた。
「お疲れ様。無事にロック解除だよ」
「サンキュー。いや……嬢ちゃんのアビリティのおかげで随分楽に開錠出来たよ……っと」
ノートンはそう言って、扉の正面に誰もいないことを確認しつつ、さらに俺を地下室へと続く扉の真横に移動させてから、ゆっくりとその扉を開けていく。すると、扉が開いた瞬間に、中から何かが飛び出し、そのまま食糧庫の壁へと突き刺さってしまった。
「毒が塗られた矢ですね……この匂い……麻痺毒の一種である物と似ていますね」
モカレートが壁に刺さった矢を回収しつつ、何の毒かを匂いだけで判断する。鑑定系のアビリティが無いとこのことだが、匂いで見事に麻痺毒だと言い当てているところに俺とモカレートの薬師としての実力の差を思い知らされてしまう。
「ダブル・トラップですね」
「ああ。俺や嬢ちゃんのような連中を警戒して用意される罠だな。本来は、中に待機している奴がいて、そいつが行き来の際に矢の罠を解除してたのかもしれないな……」
ノートンとドルチェがそんな会話をしながら、開かれた地下室への扉を横からこっそりと覗き、他に罠が無いかを確認していく。俺もそれに混ざって確認するのだが……他にそれらしい罠は無いように思える。
「旦那! とりあえず、大丈夫そうです」
「分かった。引き続き先頭を任せていいか?」
「もちろん。ただ、後ろも警戒しておきたいところなので……ヘルバを後ろに配置させたいんですが」
「ヘルバはそれでいい?」
「いいよ。ほら、ミラ様とシスティナを守るとしたら私が適任でしょ?」
ここまで一緒にやって来たミラ様とシスティナ。ここから先は未探索であるため、どんな脅威があるか分からず、それらを戦闘経験が無い2人は防いだり回避するのが難しいだろう。その時、俺なら『ヴァーラス・キャールヴ』と『風魔法』で攻撃などを弾くことが出来る。
「この先、システィナの情報とミラ様の『祝福』は絶対に必要になるから頼んだわよ」
「任せて」
そこにココリスがやって来て、ノートンとドルチェ、ココリス、そしてモカレートとマンドレイク達が先行して進んでいく。俺はシスティナとミラ様と一緒に集団の後ろに付き、地下室へと続く通路を進んでいく。
「どう? 見覚えがあるかな?」
「はい。ここを通ったんですが……よく罠に引っ掛からなかったですね私」
システィナは通路内の様子を確認しながら、脱出時の記憶を思い出していた。進んでいるこの通路は何も無い一本道であり、恐らく隠している頭の蛇達がいなければ、ここにいただろう見張り達に簡単に捕えられていただろう。
「見張りがどこにいたとか覚えてる?」
「いたと思いますけど、場所までは……そもそも石になったりする瞬間を見たりして、とてもじゃないですけど、あの時の私は冷静じゃなかったので……」
「それもそうだよね……」
今、通っている通路には照明が付いているのだが薄暗い。今は大勢で動いているがここを1人で、しかも周囲が敵だらけとなれば恐怖で正常に頭が働かないのもしょうがないだろう。ふと、ミラ様が静かだったのでそちらに視線を向けると、ミラ様は何かを探すかのように通路内をキョロキョロと周囲を見回していた。
「……ここ、微かに風が吹いてますね」
ミラ様に言われて『スキャン』で通路内の壁を確認すると、照明に送風機能が付いており、それが常に通路奥へと風を送っていた。
「設置されている照明に送風機能があって通路奥へと風を送っているみたい……この先にある研究所へ空気を送ってるんだろうね」
「それが大量にこの通路に設置されているなんて……ここがどれほどの規模なのかがそれだけで伺い知れますね」
「ミラ様から見ても、やっぱり大規模?」
「はい。前のグランドマスターが関わっている時点ですでに分かっていましたが……まさか、ここまでとは思っていませんでした」
そう言って、複雑そうな表情をするミラ様。心なしかシスティナを除く皆の表情が険しく感じる。考えてみれば、通信手段も交通手段も未発達なこの世界で、ここまでの立派な設備を構えた大規模な研究所を持つ組織など珍しいのかもしれない。
「システィナ。私達の側から離れないでね」
「は、はい!」
俺は『ヴァーラス・キャルヴ』と『風魔法』を発動させ、すぐにでも強力な風の結界を張って、ミラ様とシスティナの2人が守れるように構えておく。これなら何があっても……。
「……ん?」
『バン!』と音と共に突如として感じる浮遊感。しかし、その感覚もあっという間に終わり、今度は下へと落ちていく感覚へと変わる……。
「きゃ!?」
そこでミラ様とシスティナの悲鳴が聞こえたところで、自分の身に何があったのかを理解しすぐさま『ヴァーラス・キャールヴ』と『風魔法』を使って風の結界を展開する。そして、すぐさま『植物操作』のアビリティですぐさま成長する種を下へと投げて着地の準備を整える。
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
あっという間に落下が終わって、俺達は地面……じゃなくて、柔らかい何かの上へと落ちる。落ちて来た2人をすぐさま確認するが、どうやらケガはしていないようだ。
「大丈夫?」
「は、はい……何とか」
「危なかったですね……それでこれは?」
そう言って、ミラ様が自分の下にあるそれが何なのかを俺に訊いてくる。
「ジャイアント・キャットテイル……前世の知識でいうならガマっていう植物の大きいバージョン。それの穂の部分だよ。この中にフワフワとした白い毛が入ってるの。これと私のアビリティで落下の衝撃を和らげたの」
「うわ……お二人とも下を見て下さい……」
システィナに言われて、ガマの穂の下を見る。俺が種を蒔いて成長させた無数のガマの穂に埋もれているが、たくさんの大きな金属の杭があり、モンスターの骨以外に人骨らしきものも刺さっていた。
「危うく串刺しだったね……」
「ヘルバー!! 聞こえるー!?」
俺達が助かった事に安堵していると、上からドルチェの声が反響しながら聞こえる。
「聞こえるよー! そっちはー!?」
「聞こえてるよー! それで……!」
そこで何があったのかを互いに確認し合う。おおよそ予想通りだったが、俺達3人は落とし穴に嵌ったらしい。俺達の後ろに2人いたはずだが、その2人は無事とのことだった。そして、高い所から落ちても『リバウンド』で無効化出来るココリスがこちらに来る案がドルチェから提案されるのだが、俺は慌てて無数の杭があることを伝え、飛び降りるのを止めさせる。ガマの穂の上に落ちて来てくれればいいのだが、失敗すれば串刺し……流石にそんな危ないことはさせられない。
「ヘルバ! あなたの『植物操作』で蔦を伸ばせないかしら!」
「分からない! それよりもたくさんの種を……!」
ココリスとここからの脱出について話をしていると『バン!』と音が上から聞こえると同時にココリス達の声が聞こえなくなってしまった。
「あの……ヘルバさん?」
「うん。分断された……」
落とし穴の扉が閉じてしまい、上にいる皆と分断された俺達3人。脱出するにはこの落とし穴一杯になるように『ジャイアント・キャットテイル』を成長させ、この落とし穴を埋めながら上へと上る手段を考えていたのだが……不安定な足場で落とし穴の扉を壊せるのか難しいところである。
「ヘルバさん。あそこに横穴があります」
ミラ様が今いる場所から少しだけ上にある横穴に指を差す。『スキャン』で確認すると、それが通路であり、そこから不要な者を捨てていたと表示される。
「ミラ様ナイス。あそこからどこかへと繋がってるみたい」
「あそこまで行けるんですか?」
「システィナの疑問はもっともなんだけど……私、この『ジャイアント・キャットテイル』の種をたくさん作れるから……」
俺は両手一杯の『ジャイアント・キャットテイル』の種を生み出して、システィナにそれを見せる。
「これを下一杯に敷けばいけると思う。そこからは私達3人で行動することになるけど、私が攻防と索敵するから、システィナはその帽子を脱いで蛇達による状態異常攻撃を行ってもらって、ミラ様は回復と必要なら浄化を……あ、システィナは前に出なくていいからね? 私の後ろでその蛇達に前を睨み続けるようにしてくれればいいからね」
俺は手早く2人に指示を出す。先ほどは大勢の戦闘経験者がいる状態だから指示を任せていたが、ここからは俺が先頭に立つべきだろう。むしろ、俺のアビリティ的には人は少ない方が良かったりもする。何せ、これで強力な焼却魔法である『白炎』や状態異常攻撃である『ポイズン・パフューム』などの味方がいるとなかなか使いづらいアビリティも使えるようになるのだから。
「ふふ……味方がいると使いづらかったアビリティがこれで使用可能になったことだし、私に前は任せてもらっていいからね……あ、ミラ様。これ飲んでおいてね」
「予防薬ですね。分かりました」
ミラ様が状態異常防止薬を飲んだところで、俺達は早速、落とし穴から出るための行動を取るのであった。




