17草
前回のあらすじ「なお、特殊な性癖のダンジョンが複数ある模様」
―「アルヒの洞窟・14階層」―
「…………」
「ル、ルチェ……?大丈夫?」
第六感薬を飲んだ後から、ずっと黙り込んでしまったドルチェ……それを心配してココリスが声をかけるが反応しない。
「どうやら……ついに本性を現したようですね……」
ブンブンとモーニングスターをその場で回し始めるラテさん……。
(待て待て!!それ投げたらドルチェに当たるからな!!グサッーー!!といっちゃうからな!?)
「くっ!?人質を取るなんて……」
(違うから!?)
必死に弁解して、振り回しているモーニングスターを下ろしてもらおうとする。
「…………見つけた?」
「「(え!?)」」
先ほどから黙り込んでいたドルチェの最初の一言。
「えーと……ちょっと待って……何か変な反応が一つ……14階層から15階層へと下りる階段近くにいるみたい」
「それ以外には?」
「うーーん……分からない。いつもはモンスターの反応って赤い点で表示されるんだけど……それが強さによって点が大きく点滅するみたいなんだ……」
「……大丈夫?何か喋り方が間の伸びた感じなんだけど……」
「えーーと……その……情報量が多くて……すごく…………気持ち悪い……」
顔を青ざめ、口元に手を当てながらなんとか喋るドルチェ。
「ちょ!だ、大丈夫ですか!?」
「他の階の情報も流れて来て……もう……無理」
目をクルクルさせてドルチェが倒れてしまう。そしてドルチェのベルトに括り付けられた俺も一緒に倒れて……横向きに倒れたために、俺はドルチェの体に押しつぶされる。まあ、草のせいで重いとかは特に感じないな……って。
(大丈夫か?)
「少し休ませて……」
「き・さ・まーー!!!!」
あ、ラテさんが怒ってらっしゃる。今、ドルチェの体に潰されているから、見えないけど、きっとモーニングスターを振り回して……。
「落ち着いて!!爆弾を使わないで!!」
(おーーい!!死ぬから!!ドルチェも死んじゃうからーー!!)
まさかラテさんの攻撃手段に爆弾があるとは!!どんな形をしてるのか見てみたいのだが……。
「落ち着いて!!」
「離してーー!!」
……俺がこれ以上喋ると、火に油を注ぎかねないので俺は黙って、ココリスに全てを任せるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―およそ30分後―
「よし!もう大丈夫だよ!」
(おお……よかったな)
「……何か刈られていないかな?」
(うん?気にするな……)
気にしてはいけない。ラテさんの怒りが納まらなかっただけだ。ドルチェを休ませるためにココリスが俺をドルチェのベルトから外して地面に置き、そのままドルチェの方を向いたことによって、少しだけ目が離れた瞬間に、ラテさんのモーニングスターが俺の体の一部を粉砕しただけだ……そう。それだけだ。ちなみにHPは全く減っていなかった。
「……」
それと…まだ俺を刈ろうとして、ラテさんがモーニングスターを手に持ちつつ、冷めた目でこちらを見ている。
「さてと、ルチェのナビゲーションによって得られた情報だと……この層の一番奥。そこに異質な存在がいると」
「うん。間違いないと思うよ。それでどうしようか?何か作戦とかあるかな?」
「これといってないわね……ラテは何かあるかしら?」
「特には……」
(何か姿が見えないらしいから、こんなのを用意したけど……)
「次はどんな毒薬を用意かしら……?」
ブンブンと音を立てながら、トゲトゲがある球体の付いた鎖を持って回している。
「大丈夫ですから!そ、それでウィード?何の薬を使うの?」
(これは俺がいた世界にある武器……というよりかは追跡用のアイテムだな)
俺は透明な液体の入った瓶を取り出す。
「これは?」
(ふふふw……これはな)
俺はこの薬の効果を皆に説明するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
―さらに数時間後「アルヒの洞窟・14階層 15階へ下りる階段近く」―
「この辺りから反応があるのね……」
「うん……でも、ここ怪しいね」
「そうですね」
3人が今の状況を怪しく感じている。あの後、俺達はここまで昨日と同じように戦闘を繰り返しながらここまでやって来た。しかし……この近くまで来たところで雰囲気が変わる。先ほどまで大量にいたモンスター達が全くいないのだ。ただただ静寂が漂っている。
「これは明らかに、異変ですよ。って言ってますね」
そう言って、ラテさんがモーニングスターを構える。
「そうね……」
ココリスも槍を、ドルチェも杖を構えて、恐らく来るであろう相手の攻撃に備える。
「それで……そのラーナ・ボンゴってどんな攻撃をするのか分からないの?」
「1つだけ……」
「何かしら?」
ギャアアアーーーー!!!!
声のする方を振り向くと、何もない空間で波が発生している。そして……宙に浮いた両手らしき物。
ボン、ボボン♪
その両手が動くと、タイコを叩く音が聞こえる。すると、何もない空間の波が激しくなっていき……そこからついにモンスター達が現れた。
「モンスターが急に大量に現れると……」
「遅いから……!葬刃旋風!!」
ココリスが現れたモンスター達に対して槍を回転させて薙ぎ払っていく。それでもタイコの音は止まず、休む暇も無くモンスターが現れる。
「援護します!!」
ラテさんがモーニングスターを投げつけて直線状に敵を潰していく。女性なのに鉄球を野球選手が投げるようなボールの速さで投げられる所からして、何かしらのアビリティを持っているのだろう。
「ウィード!私達も!!」
(おう!)
そう言って、ドルチェが先制攻撃であるライトニング・アローを発射。さらに、俺もウォーター・ホイールで敵を横に真っ二つにして、大量のモンスターを葬っていくが、それでもタイコの音とモンスターの出現が止まらない。
「どうしよう!これじゃあ手が、今どこにあるか探せないよ!?」
「キリが無い……!」
次から次へと現れるモンスター……これに限度があるのか分からない以上、早めに本体を見つけなければならない。
(ラテさん!あれを!!爆弾!!)
「分かってますよ!!」
ラテさんがロングスカートを捲って、赤の大人の……いや、太ももに装着しているホルダーから爆弾……いや、手榴弾を複数個を手に取って、それらのピンを一気に抜いて、モンスターの群れに投げる。
「アース・シールド!!」
(フレイム・シールド!!)
俺とココリスの二人で投げた方向に対して防御魔法を張る。その途端に爆発が起きて、モンスター達の断末魔が響く……あれ?もしかしてラーナ・ボンゴを何で倒せたか分からないって話……こんな風に周囲を吹き飛ばしたからか?
「うう~……少し遅れた……」
「すいません。皆さんの状況を確認する暇も無かったので……」
「大丈夫よ。ルチェもそんな気にしてないみたいだし……」
ココリスの言う通りで、そこまで深刻な状況では無いようで、ああ~~……。と言いながら両耳を抑えたり離したりを、ふにゃけた表情のままで繰り返している。
「それより!さっさと手を捜して!!」
「了解です」
(どこだ……!?)
ドルチェをそのままにして、俺達はシールドを解除してすぐにラーナ・ボンゴの両手を捜す。そこらにモンスターの死骸がバラバラになって転がっていて……さらに爆発による砂埃が発生していて、視界が悪い……。
ボン!
「……そこよ!!」
ココリスが音のした方へ俺が用意していた液体の入った瓶を投げつけた。そこに両手は無く、見えるのは砂埃……。
ギョオオ!?
変な声がしたと同時に、タイコの音も止んだ。
「ウィンド・バースト!!」
ドルチェがココリスが瓶を投げた方向に、風の塊を発射して砂埃を払う。
「ギョオオ!!」
そして……ついにラーナ・ボンゴの姿が見えた。
「これがラーナ・ボンゴ……ゴースト系のモンスターかな?」
「そうね……」
「気を付けて下さい……あれはイグニスと同レベルの危険なモンスターですから……」
その姿を見て、冷静に観察する3人。その姿は大分、独特なシルエットで、宙に浮いた両手は聞いた通りだが、それは手袋みたいなものが浮いているように見える。
「ウィードの薬って便利よね……これで、はっきり姿が見るのだから」
(異世界風カラーボール……ちゃんと効果を発揮してるな)
俺が作ったのはコンビニとかに防犯グッズとして置かれているあのカラーボールだ。ただ、中に入った液体の色に染まるのではなく、相手の姿が見えるようになっている。ちなみにこれの元々の薬は暗闇薬。少し癖のある状態異常薬で、相手の目の近くに当てる事で視界を一定時間奪うという薬で、他の箇所だと効果が発生しないのが欠点である。そんな薬も調合のアビリティのおかげで変化して、見えない相手の姿が見えるようにするという反対の能力を持った薬、名付けて彩色薬である。ちなみに、第六感薬は混乱薬が元になっている。
「ギョオオーー!!」
宙に浮いた両手で、同じく宙に浮いたタイコを強く叩いて怒りを表すラーナ・ボンゴ。彩色薬によって、その姿がハッキリと見えるのだが、宙に浮いたマントに二つの角が付いた一つ目の仮面も見える。これらが合わさったのがラーナ・ボンゴのというモンスターなのだろう。
ボン!ボ……!
ラーナ・ボンゴがタイコを叩いてモンスターを再び呼び出さそうとするところを、トゲトゲ鉄球でその左手を吹き飛ばすラテさん。
「させません!!」
手をぶらぶらとさせて、痛かった!!とアピールしつつ左手を戻すラーナ・ボンゴ。すると、今度は右手を握りこぶしにして上下させて、もう怒ったぞ!とアピールしている。
(アイツ……表現豊かだな……)
「呑気な事を言っていないの!!いくわよ!!」
そう言って、ラーナ・ボンゴに突撃するココリス。それを見た俺達もラーナ・ボンゴに攻撃する準備を始めるのだった。