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178草

前回のあらすじ「領主邸の探索終了」

―その日の夜「温泉街ガンドラ・穴場の宿」―


 調査を終えた俺達は先日お世話になった宿へとやって来た。ちなみにハルートさんの部隊はこことは別に宿を取っており、そこにハルートさんも泊る予定なのだが、話があるということでこちらに来てもらっている。


「え? 領主が黒幕じゃないかも?」


「うん」


 一足早く宿に戻っていたココリスとモカレートからの冒険者ギルドでの調査結果と、俺達の領主邸の調査結果を踏まえて、領主の黒幕説が間違いかもしれないとハルートさんに伝える。


「でも……ヘルバさんには鑑定系のアビリティがあるんですよね?」


「うん。システィナの鑑定結果を見ると領主がその研究所の代表となっていたから黒幕だと思ってたんだけど……その肝心の領主がそれを別の施設と勘違いしてたら話が変わるんだよね」


「勘違い?」


「執事さんに訊いたら、領民思いの領主で孤児院にも出資していたんだって……そして、その孤児院を運営していたのは別の人だったんだよね」


「うん? 代表は領主であるヘルマですよね?」


「代表であって運営は別の人に任せているみたい。それで、運営していた人物を調べてみたら……ティミッドの親族だったんだよね」


「何ですって!?」


「研究所は表向きは孤児院を騙って運営し、その裏では違法な研究を行っている。で、孤児院を運営するに当たって変な奴が寄り付かないように領主に代表になってもらっていたとしたら? しかも、領主邸にあった帳簿を確認したんだけど、ティミッドと頻繁に金銭を渡していたのはここ2年ぐらいで、それまでは一年に1度……だけど、システィナが攫われたのは……」


「私が攫われたのは5年前……領主が頻繁に資金を出したのはここ2年……」


「そう。少しだけ時期がズレるんだよね……2年前に事情を知った領主がそれに興味を持って、金銭的な援助を増やしたとも考えられるけど、それにしては領主邸に金品が残り過ぎな気がするんだよね。逃亡となれば、身を隠すために色々必要な物があるだろうし、そもそも大規模な組織を運営するとしたら資金はいくらあっても困らないだろうし……」


「皆さんの報告では領内の運営資金も宝物庫も手つかずのまま……確かに逃げるにしては不自然ですね」


「それと……領主達が持って行った物も詳しく調べたんですが、野営用の道具と武器……食料は量的に見て4,5日程度でしょうか」


「それと連れて行った人達は全員武芸者。そのうちの1人は斥候として非常に優秀だそうです」


「それってつまり……」


「領主は逃げたんじゃなくて、ティミッドを追いかけてるのかもしれない。もしかしたら、領主は独自に調べていたのかもしれないね」


「でも……それなら報告があっても」


「真の黒幕がそれだけの権力を持ってるとしたら?」


「陛下を疑っていると?」


 ハルートさんが怪訝そうな表情になるが、そうとは限らないだろう。


「ギルドのグランドマスター……だとしたら? そもそも、ティミッドをギルドマスターとして任命する権利があるのはその人でしょ? そして今回のような状況になれば、必ずどこからか情報が手に入る……今回みたいにね」


 俺としてはグランドマスターは怪しいと睨んでいる。ダンジョンであるエピオン大地のあの杜撰な柵……かなりボロボロな状態もあり、それを果たしてそれをグランドマスターは認識していなかったのだろうか? グランドマスターともなれば独自の情報網を持っていてもおかしくはない。実際にホルツ王国のグランドマスターは独自に情報を手に入れる手段を持っているとドルチェ達から聞いている。


「でも……捜査に協力してくれましたよ?」


「それも分かってる。ただ、その可能性はあるよねって話。領主が黒幕の可能性だって十分にあるしね」


 実際に言えば、どいつもこいつも怪しいというところである。まあ、ティミッドは確実に黒なのは間違い無いだろう。


「失礼します。御用がありまして参りました。中に入ってもよろしいでしょうか?」


 ドアを叩きながら仲居さんが声を掛けて来たので、中に入って来てもらう。


「皆さん、お疲れ様です。ご夕食の準備が出来たのでこちらにお運びしていよろしいかそのお伺いと、ギルドマスターと領主が今どこにいるかお知らせに参りました」


「え? この人って一体……?」


「あれ?」


 ハルートさんが仲居さんからのその言葉を聞いて、一体何者かと警戒する。てっきり諜報員がどこにいるのか知っていると思っていたが、そうでは無かったようだ。


「ガンドラの諜報員の1人です。今回、シュマーレン皇帝から身分をハルート様に明かすようにとご命令がありました。なお、この件は秘匿であり、存在を知らない者達にバラした場合は厳罰が下されるのでお気を付けください……。それで、見張っていた仲間達が今朝方、ガンドラから離れるギルドマスターと領主達を見かけ追跡を行っていたのですが、つい先ほど連絡がありまして……」


「ギルドマスターは孤児院。領主はそこから距離を取って見張っている……ってところかな?」


「ご明察の通りです。それと……領主は恐らく我々が見張っているのを把握しております」


「何か対策を取っている様子は?」


「表立った動きはありません。ですが……ギルドマスターと比べたら、領主の方が手強そうな様子でした」


「……仲居さんの直感でいいんだけど、今回の件に領主は噛んでると思う?」


「その可能性は低いかと。見張っていた仲間が言うには一定の距離を取りつつ、ギルドマスターの後を追跡するような行動を取っていたそうです。孤児院に到着後もすぐに中へと入らずに、周囲の様子を伺っているみたいですし……」


「孤児院にいる子供の無事の確認……もしくはヘルバが睨んでいる黒幕の到着を待っているか……ってところね。ここから孤児院兼研究所の距離ってどのくらいかしら?」


 そこで静かに話を聞いていたココリスが仲居さんにその孤児院がどのくらいの距離なのか尋ねる。すると、仲居さんは考える素振りを見せつつ口にした。


「ストラティオなら昼頃に到着しますね」


「昼頃……そのまま突入というのは難しいですよね」


「皆さんだけなら、それも可能ですが……部隊となると少し難しいですね」


 モカレートの質問にハルートさんはすぐ返答し、そこからすぐさま部隊の配置と休息などを踏まえて当日の夕方ぐらいを予定していたそうだ。


「となれば……夜に突撃かしら」


「まあ、それが普通かな……そもそも真昼間に突撃なんて普通はしないもんね」


 ココリスとドルチェの話を聞いた皆がそれに同意する中、俺は黙ったまま本当に夜襲でいいのか考える。迎撃するにしても逃げるにしても、相手にはそんな時間を与えず電光石火の勢いで仕留めるのが一番だろう。しかも、証言はシスティナから取れている以上、事前の調査もいらず、施設を押さえる理由も十分である。しかし……。


「ヘルバは反対かしら?」


 すると、1人だけ黙って思慮にふけっていた俺にココリスが夜襲に賛成かどうか訊いてきたので、俺はとりあえず思っていることを話す。


「領主……ヘルマの動きが気になる。何か色々知ってそうだし、思惑もありそうなんだよね」


「思惑……ですか」


「うん……それと今回の件にレザハックが関わっている可能性があるからさ、突撃するにしても慎重に行った方がいいかなって」


「「「ああ……」」」


 レザハックの名前を出すと、そいつと戦ったドルチェ達が心底嫌そうな表情をする。それを見た事情を知らない他の皆にとりあえずレザハックが何者なのかを俺が説明する。


「そ、そんな化け物がいたんですね……というか皮って……」


「何か……今の私とレザハックって似ている気が……」


 話し終えると、皆が思ったことを思い思い口にしていく。特に状態異常である皮化というものがあるのには衝撃を受けたようだ。


「レザハックがアクアを取り込んでモンスターになった件と、システィナの今の姿……これから襲撃する研究所には人とモンスターが融合した奴らが待ち受けているかもしれない。そうなると、少し様子を見るのもありかなって……それにゾンビモンスターの件なんて何も分かってないしね」


 それとゾンビモンスターと言われるモンスターと一度も遭遇していないのは心配である。そこら辺の冒険者でも始末できるのなら、恐れる心配は無いかもしれないが、未知の相手にそのような態度で挑むのは危険すぎる。


「ヘルバさんの言う通りですね……それなら現地に到着したら、すぐに一度偵察を行いましょう。少しでも怪しい点があれば夜襲は取り止め、万全を期して乗り込みましょう」


「それがいいかもね」


 ハルートさんのその意見に俺が同意すると、他の皆も明日の動きはそれでいいと賛成する。


「じゃあ皆さん。明日はガンドラの城門前に集合でお願いします……それでは!」


 そう言って、ハルートさんは部屋を後にする。この後、部隊に指示を出して、連れて行く兵の選抜を再度考えるのだろう。


「それでは食事をお持ちしますね」


 仲居さんも食事を持ってくるということで部屋を後にした。俺はそこでベットに寝転がって休憩を取る。


「夕食がきたら起こすから寝てていいよ?」


「大丈夫。それにすぐに持って来てくれると思うから」


 俺のその言葉通りに、夕食はすぐに運ばれて来た。俺は夕食を取り終えた後、皆がお風呂に向かっている間、ベットで1人仮眠を取る事になった。皆と俺が一緒にお風呂に入ると、病み上がりの俺の気が休まらないだろうという配慮である。


「(男だったら理想郷のはずなんだけどな……)」


 そう小声で呟きながら、この前のお風呂の時を思い返す。ナイスなプロポーションばっかりの皆の裸はそそるものがある……が、今のシスティナの少しポチャった体型もなかなか……。


「(やっぱり、体調不良だったのかも……)」


 俺は戻って来た自身の性欲で、体調が戻って来たことを実感するのであった。

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