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176草

前回のあらすじ「記憶がぐちゃぐちゃのヘルバさん」

―その日の夕方「ガンドラ手前の宿場町・門前」―


「ヘルバさん?」


「ん……?」


 モカレートの声に俺はゆっくりと目を開ける。目に映るのはどこかの町へと入るところであり、それの手続きをしている最中のようだ。寝ぼけ眼で空を見ると綺麗な茜色に染まっており、地平線は薄っすらと暗くなっていた。どうやら、大分長い昼寝をしてしまったようだ。


「ごめん。いくら何でも寝過ぎちゃった……」


「ヘルバさんは病み上がりなんですからいいんですよ。それで、今日の目的地である宿場町に到着しましたよ」


「ん……私が眠っている間に何かあった?」


「一度、襲撃がありましたが……こちらに数の有利がありますからね。すぐに逃げちゃいましたよ」


「偵察の可能性は?」


「ありますけど……今更ですね」


「確かに……」


 相手は俺達が帝都に向かう道中で追手を仕向けている。しかも、その襲い方はお粗末で隠す気がほぼ無い……こんなバレバレな方法で襲い掛かり、そして今日の襲撃者達はそそくさと撤退している。


「うーーん……罠かな? 私達がこれから向かうつもりのシスティナの言ってた研究所や領主邸で迎え撃つ気とか……」


「そうかもしれませんね……もしくは逃げるつもりでしょうか?」


「かもしれない……」


 モカレートとそんな話をしつつ、宿場町へと入ることが出来た俺達。そしてそのまま、先に宿場町に入ったハルートが見つけた今日の宿へと向かう。『スキャン』でその宿を鑑定してみたが、特に危険を知らせるようなことは書かれていなかったので大丈夫だろう。


 そして、その夜。ハルートさんが泊っている部屋で早速明日の動きを話し合う事になった。


「すいませんヘルバさん。体調が優れないのに……」


「気にしないで。それよりも増援っていつ到着するの?」


「今日の夜には着く予定です。そして、この後の予定なのですが……まずはガンドラ向かって領主邸を押さえようと思います」


「うーーん……なるほど。領主邸を押さえて住人の安全と拠点の確保ってところかしら」


「はい。研究所内にいるモンスターがどれほどの強さを持っているのか分からない以上、長期戦も予想されます。そこで一先ず、ガンドラと領主邸を押さえて我々の拠点にするのが一番かと」


「逃亡する可能性は?」


「あります。けど、この付近の領主と冒険者ギルドに帝命が出されていまして、ガンドラを囲うような包囲網がすでに出来ているはずです。もちろん、信頼できるこちらの関係者が目を見張っているので、その領主達や冒険者ギルドが何か変な動きをあればすぐにでも報告が来ます」


「仮にガンドラの領主との後ろ暗い関係があってもどうにか出来る訳ってことだね」


 ドルチェの言葉に頷くハルート。今回の件にどれほどの人が関わっているのか分からない以上、この包囲網が十全に働くかは分からないが逃亡対策はしてくれているようだ。


「それで私達は冒険者ギルドと領主邸……どっちに行けばいいかしら?」


「具体的には決めてません。皆さんのアビリティを考慮して決めようかと思うのですが……」


「そうしたら……私は冒険者ギルドに行こうかしら。あのギルド長を締め上げるなら、いいアビリティがあるし」


「私もこの子達と一緒に行きましょう。同じく吐かせるのにいいアビリティがありますから……」


 そう言って、2人の顔が非常に悪いものになる。音魔法なら応用すればいくらでも相手を不快にさせる方法があるのだが、ココリスのアビリティは槍術と地魔法、闇魔法……それと身体強化のはずである。一体、どれを使って拷問する気なのだろうか。


「私は領主邸かな……『スキャン』と『フリーズスキャールヴ』で色々な情報が得られそうだし」


「それなら私もそちらに行きましょう……システィナさんもいいですよね?」


「え!?」


 どっちに行くか相談している中、ミラ様が領主邸に行く方を選び、さらにシスティナも一緒に行くことを勧める。何の説明も無いまま、その提案を聞いたシスティナが非常に動揺している。


「じゃあ、私は領主邸に行くね。病み上がりのヘルバと非戦闘員のシスティナを守る人員が必要だし」


「え? あの……!?」


「今のシスティナは誘拐される可能性がある。そして、その髪のせいで石化した時の対処できる人員が近くにいたほうがいい……そうなると、私とシスティナはセット。ミラ様とドルチェがその護衛って感じかな……」


「なる……ほど……。でも、それなら私はどっか安全な場所で待ってるか、部隊の人達とまとまって行動した方が……」


「いや。私からもヘルバさんと一緒に行動するようにお願いします。誤爆されても効かないのはヘルバさんだけ。仮に他の者を付けてもその者達が石化したらシスティナさんを守ることが出来なくなってしまうので……」


「思ってたよりも危険なんですけど!?」


「安心して下さい。何だかんだ一番の安全地帯はヘルバさんの近くですから……ね?」


 そう言って、ミラ様が俺に返事を求めるので俺は少しだけ言葉を選び……そこに茶目っ気たっぷりな演出も考え実際に行動する。俺は椅子から立ち上がって、システィナの横に来て片膝立ちをする。


「姫! あなたの御身はこの私の命を賭しても守ります! どうかこの私に姫を守らせていただけませんか!?」


「あ!? え!? えーーと……は、はい!」


 俺の言葉を聞いて、恥ずかしそうにしながら返事をするシスティナ。『ポイズン・パフューム』を使って、かなり軽めな魅了の状態異常にもしているので、今の彼女は夢見心地な少女というところだろうか。とりあえず了承は得られたので『ポイズン・パフューム』を解いていつもの調子に戻ってもらう。


「はい。ってことで決まり……じゃあ、明日は私達と一緒に領主邸に殴り込みするからよろしく」


「分かりました! って……あれ? 私、何か変なことされませんでしたか?」


「気のせい、気のせい……じゃあ、後は……」


 その後、それぞれの現地での役割を決めていく。それが終わると、俺達は晩飯を食べ、明日のためにすぐさま休息を取るのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―翌朝「ガンドラ手前の宿場町・宿の一室」―


「もう飲む必要は無さそうかな?」


「そうですね……これ以上、太ると用意して頂いた服が着れなくなってしまうので……」


 そう言って、少しだけきつくなってしまったズボンを履こうとするシスティナ。ブルーカウのミルクを少しずつ飲ませて調整をしていたのだが、今のシスティナの体型を見た感じならこれ以上は不要だろう。その証として下着に薄っすらと脂肪が乗っかっている。


「少しやり過ぎたかな?」


「大丈夫ですよ。数日前の私と比べたら……むしろこの位は普通だと思いますし」


 そう話しながら上着を着るシスティナ。お腹だけでは無く胸もしっかりと脂肪がついており、その程良い形に是非とも触れてみたいと思ってしまった。


「(半分女性……同性なら……ってダメだから!)」


「何か言いました?」


「ううん。何も言って無いから気にしないで」


 俺の願望が思わず口から漏れてしまったが、システィナには聞こえていなかったので務めて冷静に答える。そして、システィナの支度が終わって一緒に宿の外に出ると、他の皆がすでに待っていた。


「待った?」


「ついさっき集まったばかりよ。忘れ物は無いかしら?」


 その言葉に皆は大丈夫だと答えるのだが……何故かマンドレイクのんーちゃんだけが何かを探すような素振りしている。


「じゃあ、しゅっぱーつ!!」


 そのんーちゃんの姿に対して、特に気にすることなく皆が歩き出すので、俺もその後に続く。そして、何かを探していたんーちゃんは、俺達が移動を始めてるのに気が付いて、転びながらも走って合流するのであった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

―正午「温泉街ガンドラ・領主邸門前」―


 その後、追加の部隊と合流して大所帯となった俺達は特に何事もなくガンドラに到着する。ガンドラへと入るための検問所にはあの2人の門番がいたのだが、すっかり委縮しておりこちらへと頭を下げたままだった。そして、ガンドラへと入った俺達は予定通り2手に分かれそれぞれの目的地へと向かう。その移動中にも妨害とかはなくすんなりと領主邸まで来れてしまい。今は領主邸の門前で様子を伺っているところである。ダンジョンがあり温泉街として発展している領主が住む屋敷ということもあって、立派な屋敷としっかりと管理されている庭園を塀の外から窺うことが出来た。


「うーーん……この門には何の仕掛けも施されていないね」


「屋敷内に人はいるみたいだけど……敵意は感じられないかな」


 そして、俺とドルチェで建物の様子をアビリティで確認するのだが、そのあまりにも無防備な姿に戸惑っている。


「お二人とも……どうでしょうか?」


「門から屋敷の玄関までの間に罠は無し。それどころか庭にも無さそうだよ」


「人はいるけど……こちらに敵意無し。むしろ戸惑っている感じかな?」


 ハルートさんは俺達のその報告を聞いて、近くにいる隊員数名に命令して領主邸へと立ち入りを開始する。数名の隊員が庭園を調べている中、俺達はハルートさんと一緒に屋敷へと入る。


「つまり……領主であるヘルマ・ガンドラは留守だと?」


「はい……昨日の夕方頃に「急遽、予定が入った。留守の間は屋敷のことは任せた」とおっしゃって、数名の兵を連れてどこかへ向かわれましたが……」


「どこへ行ったかは……?」


「存じておりません」


 隊員が執事から話を聞いており、その会話の内容からすればすでに領主はこの屋敷にはいないようだが……。


「ヘルマ・ガンドラが我らが皇帝の許可もなく、非合法な人体実験を行っているという情報を得た! その真偽を確かめるため調べさせてもらう! 何か気づいたことがあればすみやかに報告せよ! 万が一、証拠隠滅など我々の調査を邪魔するようならその場で確保させてもらう! また、今回の調査にはリアンセル教の聖女も参加されているからな! 下手な隠し事はアフロディーテ様への冒涜だからな……肝に命じよ!」


 ハルートさんが屋敷内に残っている人達に領主であるヘルマの罪状を告げ、調査への協力、それと証拠隠滅などの怪しい行動を取らないように警告する。そして、俺達は一番怪しいと思っている領主の執務室へと向かうのであった。

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ココリスの槍のアビリティ名は「槍魔法」だったでしょうか? こちらの記憶違いならすみません
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