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173草

前回のあらすじ「少女移動中……」

―「レッシュ帝国・帝都に続く街道」―


「どうやら満足したみたいです」


 ニット帽を被って頭の蛇達を隠すシスティナ。お昼時になってやっと満足したらしくおとなしくニット帽の中に納まってくれた。移動の間、蛇達はシスティナの頭の上で寝たり、体を起こして移り変わっていく景色を眺めていたりしていた。


「そういえば……蛇達はお腹が空かないのですかね?」


「そこはシスティナが食べればしっかりと食べればいいんじゃないかな……」


 そんな、やり取りをしつつ昨日と同じように昼食の準備をする俺とミラ様。いつ追手が迫って来るのか分からないので、昨日と同じサンドイッチを作る。ただ、それでは飽きてしまうと思うので、中身の具材をお手製マヨネーズと卵を混ぜた卵サンドと、マヨネーズとマスタードを塗ったパンにハムとレタス、きゅうりを挟んだハムサンドにしてみた。


「コンビニならここにツナサンドも用意したかったな……」


「それってどんな食べ物なんですか?」


「うーーん……マグロとか鰹っていう海の魚を油で煮た保存がきく料理で、作るのに少し手間が掛かるから野外で食べるなら、事前に準備しないといけないかな」


「へえー……」


 ミラ様とそんな話をしつつ、出来たサンドイッチを運び皆と一緒に昼食を取る。皆が食事を取りながらお喋りに華を咲かせている中、俺は静かに昨日のアレについて考える。


(……やっぱり。おかしい)


 昨日の件で気付いたことがある。前世は冴えない中年のおじさんだったはずの俺、独身だったのと釣りが趣味もあって料理はそこそこ得意であった。それだから蒲焼も作ったし、たこ焼きも釣り仲間に振舞ったこともある。だが……昨日のワイン煮込みに関してはその記憶が無い。そして、昨日の夜から時折、前世のことを振り返ってみたが妙な食い違いがあったり、思い出せないことがあったりする。その中でも特におかしかったことが1つ。今更だが、母親のことは思い出せるくせに父親はどうだったのかが全く思い出せなかった。


(もっと早く気付くべきだった……前世の父親がどうしようもないダメ男だったから思い出したくもないとかだと思ったが、そんな記憶さえも無かった。いや……どうして俺の前世の父親がそんな奴だと思っていたのだろうか? そもそも、あの子供の頃の記憶だが……果たして本当に俺の記憶なのだろうか)


 子供の俺と大人の俺の姿……顔つきやら髪のボリュームやら変わるのはしょうがない。だが、特徴的だった目元のほくろが子供の頃の俺には無かった。


(どうして……今まで気づかなかったんだろう。他にもおかしな点がいくらでもあったじゃないか……)


 ウィードからヘルバになった時にもおかしなところがあった。俺が初めて女性ものの衣服を着た際に、ブラジャーを何の労もせずに着用することが出来た。髪だってすぐに自分で編むことが出来たし、他にも女性特有の当たり前が多く出来ていた。それは『淑女の嗜みwww』のせいかもしれないが、果たしてそれだけなのだろうか。


(一体、俺は……私は何なのだろう? どこの誰で……私はどんな人生を歩んでたのだろう……)


「ヘルバ!」


 一際大きな声で名前を呼ばれた俺は慌てて名前を呼んだドルチェの方へと慌てて顔を向ける。すると、他の皆も心配そうな表情を浮かべていた。


「大丈夫ですか……? 顔が青ざめてますよ?」


「少し考え事をしていただけ……心配しないで」


「体調が悪いなら、すぐに言わないとダメですよ? 例えばあの日とか……」


「それは大丈夫。まだ来てないし……初めてならアレがあるから……」


 そこで、俺は言い淀んでしまう。前世が男だった俺がそんな話をするのが恥ずかしかったからではない。その時の記憶が……頭の中に蘇ったのだ。初めて……月のものが来た日を。


「どうして……」


 俺は男のはずだ……そんな記憶があるはずが無い。そのありえない記憶に俺は酷く混乱してしまう。だから、自分の周囲の人間がどんな風に見えているのかを気にする暇も無かった。


「……今日はここで泊った方がいいわね」


「うん……」


「大丈夫だよ! 本当に……体は本当に大丈夫なの! だから……帝都へ向かっていいよ。それに……立ち止まったら何か変なことばっかり考えちゃうから……ねえ?」


 俺はそう言って、帝都へ向かう事を懇願する。今ここで立ち止まってはダメだ。もしここで立ち止まってしまったら……頭の中がパンクしてしまう。


「……本当に大丈夫なのね?」


「うん。そこは嘘を吐いて無いから安心して」


「分かったわ。だからそんな泣きそうな顔をしないの」


「私……そんな顔をしてる?」


「してるわよ。それで、ご飯食べ終わったら、出発の時まであなたは休んでいること……いいわね?」


「……うん。少し横にさせてもらうね」


 出来れば、片付けとかしてきを紛らわせたいところではある。しかし、そんなのは今の皆がやらせてはくれないだろう。仕方が無いので、俺は『ラボトリー』の自動生成中の物の出来具合いを確認したり、足止めようの種をこっそり作って気を紛らわすのであった。


 それから、ほどなくして出発した俺達。あまり自身の過去の事を思い出したくないので『スキャン』で先ほど手に入れた襲ってきた連中の石化した髪とストラティオの羽毛を調べてみる。両方とも『石化した~』と表示され、それが石化解除薬に使えないか調べるために、アビリティ内で石化した素材とポーションや状態異常を引き起こす薬に状態異常を治す薬などを少量ずつ混ぜて経過を調べる。


(万能薬はただ状態を解除しただけ……他は特に反応なしか……)


 持っている薬と反応が無いなら、今度は様々な物と組み合わせていく。だが……どれもいい結果は出なかった。


(となると……)


 俺はニット帽に隠れたシスティナの蛇達を見る。あの蛇達なら何か成果を得られるかもしれない……システィナのことを配慮して控えていたが、そろそろ頼み込んでもいいかもしれない。しかし……そうなると、石化解除薬はシスティナの蛇達が必須になってしまう。そして、そのシスティナの蛇達は元はテラム・メデューサのものであって……これでは採取自体が難し過ぎて安価な薬に落とし込むのは難しい。それなら万能薬を飲ませた方がいいだろう。


(ただ……薬を一度作ってしまえば、ドリアードの能力で土の養分から作れるから、とりあえずで作ってみてもいいかもしれない……)


「ヘルバ! ちょっといい?」


「うわ!? な、なに……!?」


 石化解除薬の作成に夢中になっていた俺は、ドルチェの突然の呼びかけに動揺して変な声な返事をしてしまう。それを見た皆からやっぱり体調が悪いのではないかと心配されてしまった。


「ごめん! さっき手に入れた素材で石化解除薬の実験をしてて夢中になってた……それでどうしたの?」


「進行方向に多数の反応があって……ただ敵意があったり無かったりして反応が変なんだよね」


「進行方向……」


 現在、俺達がいる場所は街道の両脇が林になっており、その先が緩やかなカーブを描いているため、この先がどうなっているのかが分からない状態である。


「『スキャン』には特に変な物は反応して無いかな……」


 どうしようかと相談していると、ドルチェが前方から1人、街道沿いをこちらに向かって進んでいるという報告が来る。敵意は感知していないようだが、どうなるのか分からないのでここで迎え撃とうとして俺達は武器を構えると、ちょうどよくその何かがストラティオに乗ってやって来た。相手は女性であり、その顔はどこかで見たことがある……。


「あ……ハルートさんじゃない?」


「良かった! 入れ違いになってしまったかと……」


 レッシュ帝国の兵士であるハルートさんがそう言って、こちらへとやって来た。この前は暗殺者による『マインドコントロール』のせいで俺達を襲ってきたが、今回は大丈夫そうである……。


「念のために麻痺にしとこうか?」


「それはいいかもしれないわね……」


「操られてないですから!! 止めて下さいね……!?」


 俺とココリスの話を聞いたハルートさんが慌てて敵では無いとアピールする。それを見た俺達は失礼だがクスッと笑ってしまった。


「からかうなんて酷いですよ……まあ、仕方のないことですが」


「ごめんなさい。つい……それでどうしてここに?」


「ガンドラにいる諜報員から皆さんがそこにいるお嬢さんを参考人として連れて帝都へと向かうと聞いたので、すぐさまお迎えに来たのですが……あってますか?」


「ああ~……少し違うかな。ねえ?」


 俺はそう答えて皆にどうしようか尋ねようとする。すると、システィナも含めた全員が素直に返事をしていいということだった。


「……石化事件の原因は彼女でした。それに付随してガンドラの領主が非合法な実験を行っているという情報を得られました。大至急、領主の身柄を確保するように進言します」


「了解しました。この先にある宿場町で情報を整理しつつ冒険者ギルドが持つ通信魔道具を使って皇帝へと速やかに報告します。明朝には出撃命令が出ると思われますので、出来れば皆さんにも領主を捕らえるお手伝いをしていただければ……」


「依頼の中には含まれていないけど?」


「そこは……報告の内容次第ですね。今、ここにいる部隊で対処できる内容なら問題無いですが、不可能なら増援として皆さんにも協力を頼むことになると思います」


「なるほど……じゃあ、とりあえずシュマーレン皇帝と話し合ってからにしましょうか。それと……出来れば疲れてるからゆっくり休みたいのだけど……いいかしら?」


「もちろんです。とにかくこのままだと危険ですので早速最寄りの宿場町へ行きましょう。私が先頭を行きますので、皆さん付いて来て下さい。それと、怪しい連中を捕らえているのでそいつらの連行も行いますのでよろしくお願いします」


 こうして、ハルートが率いる部隊と合流した俺達は最寄りの宿場町へと出発するのであった。

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